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積極的な海外M&Aで成長して来たLIXILだが…… Photo:Rs1421 2011
中国関連会社が破綻! LIXIL大損害は何が問題だったのか
http://diamond.jp/articles/-/73148
2015年6月15日 真壁昭夫 [信州大学教授] ダイヤモンド・オンライン
■企業経営者にとって対岸の火事ではない
LIXILという社名は、一般的になじみが薄いかもしれない。住宅や商業用ビルの建材や水回り設備、さらにはホームセンターや住宅関連のフランチャイズなどを幅広く展開する企業だ。傘下のブランド・子会社には、INAX、トステム、新日軽、サンウエーブなどがある、それらの名前を聞くと、恐らく、同社の具体的なイメージができるだろう。
主な業務を考えると在来型の国内企業のように思いがちだが、欧米型の経営者である藤森社長の方針もあり、米国や中国、イタリア、インドなど海外展開も積極的に行っている。
同社の発表によると、グループ企業である中国のジョウユウの破産手続きによって、662億円の損失が発生する見込みだ。それに伴い、2015年3月期の当期利益を大幅に下方修正することになる。そのインパクトは小さくはない。
ジョウユウ破綻の背景には、不正な経理処理があったことに加えて、LIXILが買収する以前から巨額の簿外債務を抱えていたことがある。積極的なM&A手法によって拡大を続けてきた同社にとって、今回の中国子会社の破綻が大きな痛手になるのは確かだ。
重要なポイントは、企業買収などによって新規の事業や地域に進出する場合、取得する企業に対するガバナンス=企業統治に関して大きなリスクを伴うということだ。
欧米企業での経験を持つ藤森社長であっても、内部管理体制などに抜け穴があると、そのリスクを未然に防ぐことが難しい。今後、わが国企業は国内外でM&Aに関与することが多くなるだろう。今回のケースは、ガバナンスの重要性を再認識させる事例だ。多くの企業経営者にとって、決して“対岸の火事”ではない。
■拡大路線をひた走り世界的企業にのし上がったLIXIL
LIXILという企業グループには、他にはない大きな特徴が二つある。一つは、住宅関連資材という在来型の業務分野にもかかわらず、積極的な拡大路線を続けてきたことだ。
2011年に現在のLIXILの形がほぼでき上がった後、中国の上海美特カーテンウォールを約30億円で、さらにイタリアの有力カーテンウォールメーカーであるペルマスティリーザを約600億円で買収した。
さらに2013年、米国の衛生陶器最大手のアメリカン・スタンダード・ブランズを約500億円で買収、ドイツの大手水栓器具メーカーであるグローエを約3800億円で買収した。今回、破綻処理を余儀なくされた中国のジョウユウは、グローエグループの子会社であり、LIXILから見ると孫会社の位置づけになる。
もう一つの特徴は、同社には藤森社長をはじめプロの経営者が多いことだ。藤森社長は大学卒業後に現在の双日に入社し、その後、ゼネラル・エレクトリックに転じ米国GEの上席副社長や日本GEの社長を経て、2011年、トステムの創業者家の潮田洋一郎氏に請われ現LIXILの社長に就任した。
その他にも、外部からヘッドハンティングによって外部の人材を積極的に集めた。そうした人材配置の背景には、「国内企業から脱して、グローバル企業へ変身したい」という潮田氏の理念があったと見られる。
藤森社長は、GEのジャック・ウエルチ氏を理想の経営者として、彼の経営手法を踏襲する部分があると言われている。社内の人材育成なども、GEの教育システムに似た手法で鍛え上げることを目指しているようだ。
そうした経営手法に基づいて、LIXILは驚くほどのスピードで、世界市場の中で相応のシェアを持つ企業へとのし上がっていった。
■積極M&Aに潜むリスク 経営陣にも責任はある
LIXILの成長戦略は順調に進んでいると見られていた。グローエの買収を通して手に入れたジョウユウは、中国国内に4000店以上の販売網を持つ、中国最大の衛生陶器メーカーだ。LIXILは、高級ゾーンをグローエ、中級ゾーンをアメリカン・スタンダードとLIXIL、ローエンドゾーンをジョウユウのブランドとして差別化する戦略だったようだ。
ところが、そのジョウユウの創業者一族は、われわれの想像を超えるしたたか者だった。多額の簿外の債務があり、しかも不正会計処理を行うことで経営の実態を取り繕っていた。
今年4月、ジョウユウに関して中国の金融機関から督促状が来たという。本社で調べてみると、充分なキャッシュがあるはずで督促が来ることなど考えられなかった。それを不審に思ったLIXIL側が本格的な調査に乗り出すと、不正会計処理が浮かび上がり、債務超過に追い込まれていることが発覚した。
今回のケースについて、主に二つの点でLIXIL経営陣に責任がある。一つは、M&A案件をまとめる際のデューデリジェンスの問題だ。通常、M&Aを実施する場合には、相手企業の財務内容に問題がないか、専門家を使って詳細に調査する。
ジョウユウがLIXILにとって子会社の子会社=孫会社になることもあり、その手続きがやや拙速になった可能性は否定できない。さらに厳密なデューデリジェンスを行っていれば、リスクの一部を軽減することができたかもしれない。
もう一つは、企業経営者のガバナンス問題だ。日本人はどうしても、“性善説”に立って人を信用してしまうことが多い。しかし、今回のように企業経営者の中にもとんでもない人材がいることがある。
それをLIXILの経営陣は見つけることができなかった。一般的にM&Aに関して、人事権などについては一定程度現地スタッフの裁量を認めても、財務など管理部門の要所はしっかり握っておかなければならない。それができなかったと批判されても仕方がないだろう。
■「日本の常識は世界の非常識」を前提に要所を押さえて統治すべし
今回のケースで、もう一つ無視できないファクターがある。それは、経営者の意識やビジネスの手法について地域的な違いがあることだ。
中国で10年以上実際のビジネスを行ってきた日本人経営者にヒアリングしてみた。彼は、「今回のような事例は、中国では日常茶飯事に起きる」と即答した。
中国の創業経営者の中には、企業と自分の個人の勘定の区別がつかない人もかなりいたと指摘していた。そのため、経理を創業者一族に任せては、ガバナンスの働く余地は限られてしまい、多額の簿外債務が、ある日突然、表面化することもあり得ると話した。
それは、中国に限ったことではない。欧米諸国などの先進国でも、わが国のビジネス慣習がいつも通用するわけではない。ビジネスに慣れていない新興国に行けば、そうした事情はもっと深刻になるかもしれない。
昔、海外赴任をする前、先輩連中から言われたことがある。それは、海外でビジネスを行う場合、日本の常識が通用すると思わない方がよいということだった。というよりも、「日本の常識は世界の非常識」と考えた方がよいかもしれない。
一方、M&Aを結実させる時点で、しっかりしたデューデリジェンスを行うことを励行すれば、リスクを限定することができるはずだ。M&A案件では多くのケースで時間との競争になるが、必要な手続きを拙速にして多額の損失を発生させるのは、M&Aの機会を逃すよりも企業のコストが大きくなることを肝に銘じるべきだ。
また、日常の業務の中で経理・財務などの要所をしっかり押さえることによって、企業内のガバナンス機能を明確に機能させるのは可能だ。逆に言えば、当たり前のことを当たり前に行うことこそ、最大のガバナンス機能の確立につながるはずだ。
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