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ヤマダ電機「閉店ラッシュ」が意味するもの 「量販店」が消える日 家電に続いて、スーパーも危ない
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/43716
2015年06月14日(日) 週刊現代 :現代ビジネス
量販店の巨象が苦しんでいる—一時は売上高2兆円超を誇ったヤマダ電機のことだ。人口減やネット通販の浸透で、大規模店に種々雑多な商品を陳列するビジネスモデルは曲がり角を迎えている。
■客よりも店員が多い
「店が潰れるらしいという噂が流れはじめたのは4月頃でした。はっきりわかったのは5月の中旬、閉店の2週間前です。販売員たちの士気はすっかり低下してしまって、雰囲気は最悪ですよ。とりあえずリストラはないということでしたが、遠くの店舗へ異動を命じられたら通えなくて辞める人も出てくるでしょう。私もまだ転職できる年齢のうちに資格でも取ろうと考えています」
こう話すのは、ヤマダ電機テックランドNew江東潮見店(東京都)の若手男性販売員。家電量販最大手のヤマダ電機は5月25日、同月末までに全国で約1000店舗ある直営店のうち46店を閉めることを正式発表した。江東潮見店も閉店リストに入っており、敷地の周辺には「閉店セール」とプリントされた赤いのぼりが目に付く。
だが、派手派手しいのぼりとは裏腹に、広い店内は閑散としている。売れ筋のはずの季節家電のコーナーでは扇風機の風にあおられ、大きな綿ぼこりが転がっていた。フロアによっては客よりも店員の数が上回っているほどだ。客の入りがいちばん目立ったのは、マッサージチェアの一角。といっても、年配の人たちが何を買うでもなく、マッサージ機にゆっくりと身を横たえている姿が目に付くくらいだ。日用品売り場でフライパンを物色していた女性客が語る。
「冷蔵庫もテレビも、電球や文房具も全部ヤマダで買ってきました。今回の閉店はショックです。駅前にスーパーはまだありますが、他の日用品はどこで買えばいいかわからない。陸の孤島のようになって、治安も悪くならないか心配です」
積極的に新店をオープンし続け、全国津々浦々に販売網を築いてきたヤマダ電機の売上高は、'11年3月期に達成した2兆1532億円をピークに急激に減少。'15年3月期には1兆6643億円にまで落ち込んでいる。エコポイント制度やテレビの地デジ化などによる買い換え需要が一段落し、消費増税後の反動もあって、急激な落ち込みようだ。家電流通に詳しいプリモリサーチジャパン代表の鈴木孝之氏が語る。
「都心で中国人観光客の『爆買い』を取り込むことに成功しているヨドバシカメラやビックカメラとは対照的に、ヤマダは郊外・地方を中心に成長してきたため、人口減少などで消費力が落ちている地方経済低迷のダメージをもろに受けています」
ヤマダを悩ませているのは売り上げ減だけではない。旧村上ファンドの出身者たちがシンガポールで創設したファンド、エフィッシモに、大量に株を買い占められているのだ。同ファンドはヤマダの株の13%超を保有しており、今後、筆頭株主としてさまざまな要求を突き付けてくる可能性が高い。
まさしく内憂外患の窮地に立たされているヤマダ電機。'90年代にはコジマやカトーデンキ(現ケーズホールディングス)と「YKK戦争」と呼ばれる激安競争をくり広げ、その勝利者となった。だが現在、同社を脅かしているのは他の量販店ではなく、圧倒的な品揃えと販売価格を誇るインターネット通販だ。
■安さではもう勝てない
ヤマダに限らず家電量販店では、客が店頭で品定めをして、最終的に値段の安いネットの店で買い物をするという新しい消費行動に頭を悩ませている。高い賃料や人件費を払っても量販店はただのショールームに過ぎず、一銭も入らない—このような買い物のしかたは「ショールーミング」と呼ばれている。ネットを通じた物流に詳しいイー・ロジット代表取締役の角井亮一氏が語る。
「以前は量販店を回って安い店を探したものですが、今は『カカクコム』のように値段が一覧で比較できるサイトもあり、安く買いたいならインターネットでという考え方が定着してきました。しかもアマゾンのような大手サイトは、自社開発の専門のソフトを使って戦略的商品の選定を行っており、『この商品はダントツ1位の安さにする』『この商品は高くてもかまわない』と巧みに値付けをしており、必ずしも安い買い物をしなくても、消費者は『ネット通販は便利だ』と感じるようになってきています」
■品揃えでもネットに負ける
家電はとりわけネット通販と相性のよい商品だ。メーカーと型番が決まっていれば、基本的にどこで買っても同じスペックが保証されているし、価格の比較も容易だからだ。百年コンサルティング代表の鈴木貴博氏によると、小売りにはネット通販によって侵食されやすい分野とそうでない分野がある。例えば、飛行機やコンサートのチケット、証券、本や雑誌、音楽、そして家電などはインターネットの出現で大きく流通の形態が変わった。
「逆にネットで売りにくいものに、生鮮食料品など個別差が多い商品、輸送コストが高い低価格品(例=トイレットペーパー)、売買に多くの説明が必要なもの(例=不動産や自動車)、ブランド力が高く値下げしにくい商品(例=宝石や高級ブランド品)などがあります」
家電をネットでなく、店頭で買ってもらうためには価格競争にまきこまれるのではなく、詳しい商品説明やアフターケアなどのサービス面を強化しなければならない。だが、ヤマダはその点でも戦略を誤った。販売員の接客教育に重点を置かなかったのである。業界紙デスクが語る。
「毎年、日経ビジネスが調査・発表するアフターサービスランキングの『家電量販店部門』で、ヤマダ電機は毎回のようにワースト1位なのです。急拡大と激しい価格競争のつけが回っていて、『電話に出ない』『店員が少ない』といった評価が定着してしまった」
大量のモノを集めて安く売りさばくという量販店ビジネスのモデルが通用していた時代はよかった。拡大路線を突き進み、シェアを取ることでメーカー側に価格交渉を持ちかけ、より安い値段で仕入れることもできただろう。しかし、ネット通販の定着によって、量販店というビジネスモデルが大きな曲がり角に立たされている。
経産省が'14年8月に発表した数字によると、'13年の日本の一般消費者向けのネット販売市場は11兆1660億円で(前年比17・4%増)、EC化率(ネットでの取引が全商取引のうちに占める割合)は3・67%だった。市場は今後もますます拡大し、'20年には市場規模は20兆円を突破するとの予想もある。さらに「eコマース革命」を打ち出すヤフージャパンの試算では、日本のEC化率は20%まで成長すると見られている。つまりネット通販はさらに5倍の成長余地があるのだ。
前出の鈴木孝之氏は「家電量販店に限らず、イオンやイトーヨーカドーなどの総合量販店も次々と新規店舗を出店し、規模を拡大することで成長してきましたが、このような業態は一時代を終えた」と言い切る。
実際、イオンは'15年2月期決算での営業利益が1414億円で前期比17・5%減。イオンリテールやダイエーなどの総合スーパー部門が足を引っ張った形だ。イトーヨーカ堂も業績が冴えず、売上高営業利益率が0・1%。同グループ内のコンビニ事業(セブン-イレブン)の利益率10・1%と比べるとビジネスモデルが崩壊寸前であることがわかるだろう。
ネット先進国のアメリカでは、ショッピングモールやスーパーにまで如実に影響が出始めている。前出の角井氏は語る。
「ネットの台頭によって全米に1800店あったモールのうち約300が姿を消したと言われています。モールやスーパーも今後はデリバリーサービスが不可欠だと認識されるようになりました。
アメリカのアマゾンは都市部や近郊に小型の物流センターを設置して、生鮮食品なども扱うアマゾン・フレッシュを始めています。もはやネット通販で買えないもののほうが少ないくらいです」
■そして廃墟になる
スーパーが扱う生鮮食料品は、本来ネット通販と相性が悪い商品だ。しかし、そのようなジャンルにまでアマゾンは進出しようとしているのだ。
さらに、この波は飲食業にまで広がっており、今まで宅配営業に無関心だった企業も、ネット通販に乗り出している。スターバックスがいい例で、同社のハワード・シュルツ会長は「すべての飲食業はデリバリーを検討しないと生き残れない」と語っている。
大型量販店は町の個人商店ではとうていかなわない品揃えと価格競争力で集客してきた。しかし巨大な物流センターを備え、注文した翌日には品物が届くといった利便性を売りにするネット通販の前では、品揃えも価格競争力も見劣りがしてしまう。モールに行けば、必要なものが安く手に入るという常識はもはや通用しないのだ。
では、ネット通販では期待できないサービスを提供できるかといえば、その面では地域に密着した個人商店のようなきめ細かな対応は不可能だ。商品が多すぎて、販売員自身がその商品の特徴をわかっていないということもしょっちゅうある。だが結局、「量販店がネット店舗に対抗するためには接客力を上げるしかない」と堀田経営コンサルティング事務所代表の堀田泰希氏は語る。
「高度な接客を求めがちな高齢者が増えるにつれて、もっとアナログな顧客管理が大切になってくるでしょう。ポイントカードなどを通じて顧客情報を吸い上げるデジタルな管理は進んでいますが、その逆が大切なのです」
価格で勝負できないなら、付加価値をつけるしかない。しかし、それはかつて量販店が拡大したときに個人商店が試みてなしえなかったことだ。ネット通販の前に量販店も同じ戦いを強いられることになるだろう。郊外のモールが駅前のシャッター街のように閑散とする日も近いかもしれない。すぐ目の前に物流倉庫があって、ありとあらゆる商品が並んでいるのに、インターネットを使わないとそれも手に入らない—そんな不可解な時代がやってくる。だが、それも我々消費者が低価格と手軽さを追求し、自ら招いた結果なのだ。
冒頭の閉店が決まったヤマダ電機で呼び込みをしていた店員に「閉店セールで、本当にお買い得な商品はどれか」と尋ねてみた。すると、「それは在庫一掃処分ということで……」と口ごもり、「ちょっと失礼します」と立ち去ってしまった。床には、相変わらず綿ぼこりが扇風機の風に舞い続けていた。
「週刊現代」2015年6月13日号より
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