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※日経新聞連載記事
[時事解析]中国の産業政策の今
(1)揺らぐ「世界の工場」 製造業強国めざす
1990年代末から「世界の工場」と呼ばれ、圧倒的なコスト競争力を誇った中国の製造業が揺らいでいる。人件費と人民元の上昇で幅広い分野で輸出競争力が低下、成長のけん引車として限界もみえ始めた。李克強首相は3月の全国人民代表大会で「製造大国から製造強国への転換」を打ち出した。中国は産業政策の転換期を迎えている。
中国産業の世界での生産シェア(2014年)は鉄鋼49%、造船39%、自動車24%など依然として世界トップの分野が多く、受託生産が主体のパソコン、スマートフォンなどでも圧倒的なシェアを握っている。だがその大半は自動車、鉄道車両、家電のような内需依存型か、低付加価値の輸出組み立て産業にすぎない。
「大而不強(量的に大きいが強くない)」。中国工程院の朱高峰教授が数年前に発した中国産業への警告は指導部や政府にも共有されている。実際、この5〜6年、中国が雇用創出の力としてきた繊維、靴、玩具など労働集約型産業はベトナムなど後発途上国に侵食され、中国産業自らが高付加価値分野に移行しなければ衰退しかねない。
それを受け今年5月、「中国製造2025」という新産業政策を発表した。「イノベーション力の強化を通じた中国産業の高付加価値化」が根幹にあり、「中国産業の行動綱領」(朱教授)となる。
10年後の25年までに「製造強国の行列入り」を果たし、35年までにその「中等水準」、新中国建国100年の49年には「前列(トップクラス)」に立つというロードマップを描いている。
(編集委員 後藤康浩)
[日経新聞6月8日朝刊P.17]
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(2)生産技術の向上急務 「IoT」強く意識
5月に発表された「中国製造2025」は「イノベーション力」「デジタル化」「国産化」の3つのキーワードに集約できる。イノベーション力は製品開発に加え、生産技術にも目を向けている。中国製品の品質問題の改善には生産技術の向上が不可欠であり、少子高齢化で目立ち始めた若年労働力不足には自動化で対応せざるを得ないからだ。
中国は世界的な潮流となっている「IoT(モノのインターネット)」を強く意識しており、工場のデジタル化、ネットワーク化で中国産業を一気に世界の先端に近づける考え。「先進各国はハイテク産業の本国回帰を進めており、中国自らが技術基盤を築かなければ劣後する」。苗●(●はつちへんに于)・工業情報化相は5月に人民日報に寄稿した論文で危機感をあらわにした。
「中国製造2025」は重点産業として「次世代情報通信技術」「新素材」「省エネルギーと新エネルギー自動車」など10分野を提示した。これを第12次5カ年計画(2011〜15年)で打ち出された7分野の「戦略的新興産業」と比べると、重複分野もあるが、大きな違いがある。
今回は「海洋設備とハイテク船舶」「先進的鉄道と交通設備」「航空宇宙機器」「農業機器」など市場と直結し、中国が既に一定の基盤を持つ分野で競争力を高めようとしている。より現実的で、ビジネスを意識した産業政策だ。鉄道、航空機、船舶といった産業は技術、部品、素材など裾野が広く、産業全般の底上げにつながるとの狙いもあるだろう。中国の産業戦略は進化している。
(編集委員 後藤康浩)
[日経新聞6月9日朝刊P.24]
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(3)業界大手の合併相次ぐ 国際競争力を重視
高速鉄道車両などを製造する中国北車と中国南車が6月1日に合併、売上高3兆7千億円の世界最大の車両メーカーが誕生した。両社は合併前から世界の1、2位だったが、合併でカナダのボンバルディア、仏アルストムなどに圧倒的な差をつける巨大企業となった。
中国石油天然気集団(CNPC)と中国石油化工(シノペック)の二大石油会社、中国船舶工業と中国船舶重工の二大造船会社、中国電信と中国聯通の通信大手2社などの統合も検討されているという。こうした大手企業は1990年代末の朱鎔基首相時代の国有企業改革で、国内市場への競争導入のため分割・再編あるいは新規参入が断行され、今の形となった。
独占の弊害を排し、競争による効率化が狙いだった。実際、石油業界では大手2社がガソリンスタンドの出店やサービスを競い、モータリゼーションを促進する効果を生んだ。通信も3社が携帯電話で競争した結果、通話エリア拡大のための基地局設備の設置が加速、料金やサービスでも大きな改善がみられた。
今回の統合は中国産業の競争力強化を意識したもので、規模で日米欧のライバルを引き離し、グローバル市場で一気に地歩を築く戦略だ。石油2社は売上高で世界2、3位で、合計は110兆円。統合すれば、資源開発への投資体力は圧倒的になる。
こうした国内企業の統合は「中国企業の『走出去(海外進出)』に弾みをつける」(孫章・同済大教授)。だが国内競争が制限されれば、かつての国有独占時代に戻りかねないリスクもある。
(編集委員 後藤康浩)
[日経新聞6月10日朝刊P.28]
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(4)自動車、「脱・外資」めざす 業界再編の公算大
鉄鋼と自動車は中国製造業の双璧であり、ともに生産量で世界トップだが、大きな違いがある。鉄鋼は中国企業がほぼ独占しているのに対し、自動車は日米独などの外資企業主導であるからだ。産業ピラミッドの頂点にある自動車産業を中国企業主導に転換していくことは、中国の産業政策の大きなゴールとなる。
2004年に出された「自動車産業発展政策」以降、中国は外資に研究開発拠点の設置を求めてきた。中国の研究開発能力の強化や研究人材の育成が必要だったからだ。日産自動車は東風汽車との合弁である花都工場(広東省)に乗用車技術センターを開設。今では1千人規模で中国市場向けの新車開発を進めており、今年、デザインセンターもオープンさせる。
日産には現地の需要に合った車の開発ができる利点があり、中国側は開発手法や設計ノウハウ、要素技術などを習得し、独自技術の進化に生かせる。上海汽車、第一汽車など大手は同様に合弁相手の外資との共同の研究開発で力をつけ、独自ブランド車の開発力に生かそうとしている。
鉄鋼は高炉の大型化、転炉、連続鋳造など外資からの最新技術の導入をほぼ終えたが、自動車でいつ外資を「卒業」できるのか。中国政府は電気自動車など次世代自動車への移行がチャンスとみているが、ハイブリッド車すら自主開発できないのも現実だ。「中国企業同士の統合による研究開発力の集約が不可欠」(趙堅・北京交通大教授)との指摘も出ている。自動車業界再編が飛躍への一手になるかもしれない。
(編集委員 後藤康浩)
[日経新聞6月11日朝刊P.29]
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(5)研究開発力の向上課題 創造的企業家カギ
ドイツが官民あげて推進する「インダストリー4.0」、米オバマ政権の「先進製造イニシアチブ」、インドのモディ政権の「メーク・イン・インディア」――。各国が製造業の強化に一斉に動き、「世界の工場」としての中国の基盤を揺るがしかねない状況だ。
「中国製造2025」はその対応策だが、習近平政権が今、最も重視しているのは「創新」つまりイノベーション(革新)である。中国産業は模倣の印象が依然強いが、研究開発力は部分的にせよ着実に高まりつつある。
国連の世界知的所有権機関(WIPO)によると、2014年の国際特許の申請件数は中国が国別で米、日に次ぐ3位。企業別では通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)がキヤノン、パナソニックなどを抑え首位に立った。中興通訊(ZTE)も3位に入っている。
商品のデザインやアプリケーションの分野でも、設立5年で世界有数のスマートフォン(スマホ)メーカーとなった小米(シャオミ)など従来の中国にないセンスを持つ企業が台頭している。
一方で大多数の企業は研究開発費用の圧縮でコスト競争力を維持しており、研究開発型ベンチャーもわずか。一時注目された大学発の起業も失速気味だ。
「中国経済の最大の弱点は創造的企業家の不足」(張維迎・元北京大学光華管理学院院長)。「一人っ子政策」の廃止による人口増や発想の柔軟性を伸ばす教育改革など「10〜20年の取り組みになる」(同)。中国はイノベーション力で産業強化を目指そうとしている。
(編集委員 後藤康浩)
=この項おわり
[日経新聞6月12日朝刊P.29]
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