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アベノミクスが導く円安が世界にまき散らす問題
2015年6月12日(金) The Economist
日本の安倍晋三首相が改革計画「アベノミクス」を推し進めている。そして、その政策がもたらす効果が激しい議論の的となっている。安倍首相が政権に就いた2012年以降、日本の経済がそこそこ成長してインフレ率が上昇した時期はあったものの、長くは続かなかった。日本のGDP(国内総生産)の今年の成長率見込みはわずか0.8%だ。4月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比0.6%にとどまっている(生鮮食品を除いたコア指数はさらに低い0.3%)。
アベノミクスが明らかに影響を及ぼしたものといえば、日本円の為替レートだ。2012年末には87円だった対ドルレートが今年6月の第1週には125円となった。30カ月の間に30%以上下落している(図1参照)。これは日本銀行(日銀)が実施している大量の量的緩和(QE)によるものだ。日銀は資産購入のために紙幣を増刷しており、年間の増刷額は80兆円にのぼる。
*50を上回れば(下回れば)製造業が前月比で拡大(縮小)していることを示す 出所:The Economist/トムソン・ロイター、ヘイバー・アナリティクス、UBS
円安が続くと世界で2つの難題が発生する。1つ目は、日本の輸出業者の競争力が高まり、その結果、他の輸出国の立場が弱まる現象だ。現在、非常に都合の悪いタイミングでこの事態が生じている。スイスの銀行のひとつ、UBSによると、過去3カ月間、中国と香港を除く主要な新興国の輸出が2014年の同期に比べて弱含んでいる。世界全体で見ると5月には輸出量がわずかに減った。これは、約2年ぶりの減少だ。
このところ世界の貿易が停滞している一因には、中国経済の変化があるかもしれない。中国の製造業者は以前はアジアの他地域から部品を輸入し、完成品を世界に輸出していた。それが今では部品の国内生産も増えてきたようだ。その結果、アジアの国の間で輸出が減少している。
そんな説明をされてもアジアの輸出国とっては何の慰めにもならない。韓国の輸出額はドル建てで11%減少した(貿易量ベースで見ると減少率はもっと少ない)。フィリピンの輸出の伸びは、2014年の第4四半期には年率13%だったものが現在は1%に減速している。多くの新興国では購買担当者景気指数(PMI)が50を下回り、製造業が縮小していることを示している(図2参照)。
経済指標は世界経済の減速を示す
円安がもたらす2つ目の難題は、潜在的なデフレ効果だ。日本製品が安くなると、競合が値上げを実施するのが難しくなる。商品価格が下がったため世界中でCPIが低下しており、各国の中央銀行はこれを受けて金利を引き下げている。最も新しい事例はインドで、6月2日に今年3度目の利下げを行った。
消費国にとって、商品価格の下落はうれしい出来事だ。減税と同様に、需要の拡大を後押しする。欧州ではCPIとコアインフレ率が共に上向き、デフレ突入の懸念はいくらか和らいだ。だがアジア製の完成品価格の下落はさらに大きな影響をもたらす可能性がある。中国のGDPデフレーター――インフレの状況を広範囲で測定できる指標――を見ると、物価が下落していることが窺える。中国の工場で生産される商品の価格は3年以上にわたって低下している。
日銀と欧州中央銀行(ECB)がどちらもQEの継続に積極的なのは、需要の弱さとデフレを懸念し続けていることの表れだ。こうした環境では、自国通貨の価値が低下する方が中央銀行にとって都合がいい。問題は、デフレが世界中に波及してしまうことだ。
金融市場の視点からQEを見ると、政府が新たに抱える巨額の負債を中央銀行が吸収していることになる。このため、ソブリン債の値動きは最近不安定であるにもかかわらず、その利回りは低いままだ。投資家たちがリスク資産の買収を厭わず、株式市場が弱含む経済データをものともしないのもそのためだ。
第1四半期に減少した米国のGDPは、第2四半期も力強さが見られない。アトランタ地区連銀が使用する「GDPNow」と呼ばれる経済見通しモデルは、2015年の成長率を年率わずか1.1%と予測している。英国でも第1四半期の数字は思わしくない。ユーロ圏も回復してはいるものの勢いよく伸びているとは言い難い。サービス業と製造業の両方を対象とした複合PMIは5月に低下した。
ここに軟調な新興国市場のデータを加えれば、世界経済は大きく減速しているように見える。だが投資家たちはこれを一時的なものとする見方を変えていない。バンクオブアメリカ・メリルリンチが世界のファンドマネージャーを対象に5月に実施した調査では、回答者の7割が今年の経済は上向くと考えている。減速を予想するのはわずか11%にとどまった。こうした動向が続くならば、投資家たちには手痛いショックが待っているかもしれない。
©2015 The Economist Newspaper Limited.
Jun 6th 2015 All rights reserved.
英エコノミスト誌の記事は、日経ビジネスがライセンス契約に基づき翻訳したものです。英語の原文記事はwww.economist.comで読むことができます。
このコラムについて
The Economist
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米企業に吹くドル高の“追い風”
米多国籍企業が見据えるTPP後の世界
2015年6月12日(金) 太田 智之
「強いドルは米国にとって良いことだ」
米国で為替政策を所管するルー米財務長官は、記者団の質問に対してこのように述べ、市場で燻るドル高への不安を一蹴してみせた。クリントン政権時代の財務長官であるロバート・ルービンが提唱した「強いドル政策」が、今も為替政策の基本であることを示すエピソードだ。
揺らぐ「強いドル政策」
ただこうした見方が、政権内で必ずしも共有されているわけではない。
ファーマン米大統領経済諮問委員会委員長は、今年3月、「強いドルが輸出への逆風になっている」として、ドル高への警戒感をあらわにした。かつて輸出倍増計画をぶち上げたことからも明らかなように、輸出を1つの成長エンジンと位置づけるオバマ政権にとって、行き過ぎたドル高が不都合な面を有しているのは事実である。しかも、輸出下押しの効果は既にジワリと表れ始めている。
先日発表された5月のISM製造業指数は7カ月ぶりに改善したものの、海外からの受注動向を示す輸出受注指数はむしろ低下した。西海岸における港湾労働者ストライキの影響剥落(はくらく)が指摘されていただけに、製造業の海外受注が足元で伸び悩んでいることを示す内容といえる。回答企業の中には「ドル高でアジアでの販売が打撃を受けている」との指摘もあり、輸出企業がドル高で厳しい競争に晒されていることは間違いなさそうだ。
またドル高は、単に米国の輸出競争力を削ぐだけではない。世界各地で事業を展開する米国の多国籍企業にとっては、ドル建てで換算した海外の収益が目減りする厄介な話である。日本では円安によって輸出企業を中心に企業業績がかさ上げされたが、それとは逆の現象というわけだ。
懸念される企業業績への影響
例えば、ある新興国で現地通貨建ての収益が10%増えたとしよう。現地通貨でみた当該国の収益は増益だが、その通貨がドルに対して20%減価していたら、ドル建てでみたその国の収益は10%減ったことになる。
事実、多国籍企業の比率が高い米S&P500企業の予想収益は、今年に入って下方修正が相次いでいる。図1は、S&P500構成企業の1株当たり利益のアナリスト予測値を集計したものである。これをみると、今年前半を中心に大きく予測値が引き下げられていることがわかる。2015年通年では、昨年末時点の8%増益予想から、足元ほぼ横ばいへと大きく減速した格好だ。
このまま企業収益が伸び悩めば、設備投資や採用を先送りするところもでてこよう。そうなれば景気回復に水を差すことになりかねないだけに、企業収益の低迷を通じた波及効果には当面注意する必要がありそうだ。
図1 S&P500構成企業の予想EPS
http://business.nikkeibp.co.jp/article/money/20150609/284061/zu01.jpg
(注)破線はアナリスト予測値。
(資料)Bloomberg
ドル高が企業業績の逆風となる一方、米国の多国籍企業の中には、高くなったドルを武器に海外の企業や事業の買収に踏み切るところも増えている。ドル高で海外の土地や株式といった資産が格安となるからだ。
中には逆境を逆手にとる企業も
図2は、米国企業によるM&Aや出資、合弁企業の設立など海外直接投資の件数をみたものである。これをみると、2014年に入って大きく増加していることがわかる。2015年4〜6月期は現時点855件と過去最高水準を維持している。
国別投資先では、英国やカナダ、ドイツ、オーストラリアなどの先進国向けが6割強と過半を占めるが、足元の増勢という点では中国やインドの増加ぶりが目を引く。2014年の中国向け投資件数は前年対比で5割、インド向けもほぼ4割増と海外直接投資のけん引役を担っている。
さらに両国における投資対象の業種をみると、インターネットやソフトウェアといったIT関連のほか、通信、小売、不動産、金融など、非常に幅広い業種に及んでいるのが現状だ。
図2 米国企業による対外M&A等の件数
http://business.nikkeibp.co.jp/article/money/20150609/284061/zu02.jpg
(注)2015年4-6月期は6月2日までの値を四半期換算。
(資料)Bloomberg
米企業の関心はTPPを超えて中印へ
こうした動きは成長著しいアジア地域の需要を積極的に取り込んでいこうとする米国企業の姿勢の表れとみることができる。特に中国とインドは、人口が多く、一時に比べて勢いが鈍ったとはいえ、依然として高い成長率を維持するとみられており、ビジネスチャンスも多いと踏んでいるのだろう。
図3は、国際通貨基金(IMF)が発表した新興国地域の中期見通しだが、両国とも2019年まで年平均で6%を超える高い成長率が見込まれている。成長期待の高さは新興国の中で断トツだ。
両国は環太平洋経済連携協定(TPP)交渉に加わっていないものの、その潜在的な市場としての魅力は大きい。今、佳境を迎えているTPP交渉だが、米国多国籍企業の視線は既にその枠組みを超えた一歩先を見据えているのかもしれない。
図3 新興国地域の中期成長率見通し
http://business.nikkeibp.co.jp/article/money/20150609/284061/zu03.jpg
(資料)IMF
Money Globe- from NY
変わりゆく米国の姿を、ニューヨークから見た経済の現状と、ワシントンの政策・政治動向の両面をおさえながら描き出していく
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http://business.nikkeibp.co.jp/article/money/20150609/284061/
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