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あの人が帰ってこなくなって早8年… 失踪した夫の借金を相続した妻、その驚くべき結末  
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投稿者 rei 日時 2015 年 6 月 12 日 08:32:04: tW6yLih8JvEfw
 

あの人が帰ってこなくなって早8年…

失踪した夫の借金を相続した妻、その驚くべき結末

2015年6月12日(金)  西原 正騎

 A子さん(現在42歳)には、競馬、パチンコのギャンブルにはまってしまい、ろくに働きもせず、借金まみれの旦那さん、B夫さんがいました。

 8年ほど前のある日、B夫さんは、ビールを買いに行って出て行ったきり、帰ってこなくなったとのこと。手紙も電話も何も連絡はなく、どこで生きているのか、あるいはもう死んでしまったのかも分からないという話です。

 ただ、いまだに消費者金融や知人などからの借金の請求書が送られてくるし、A子さんには現在、交際しているC郎さんがいて、そのC郎さんからは、「もういつ帰ってくるのか分からない人は忘れて、自分と結婚をしてほしい」とプロポーズされています。このため、できれば身辺を整理したいとのことでした。

 このようなケースの場合、A子さんは一体どうすればよいでしょうか。

生死不明が7年続くと「普通失踪」に

【失踪宣告制度】

 まず、B夫さんが帰ってこなくなって、8年経ったとしても、A子さんはB夫さんと、まだ戸籍上は夫婦である以上、重ねてC郎さんと婚姻することはできません。

 重婚は法律上認められていませんし(民法732条)、場合によっては、懲役刑となります(刑法184条)。

 民法30条に失踪宣告という制度が規定されています。この失踪宣告の審判が確定すると、従来の住所を中心とする私法上の法律関係は、その人が死亡したのと同じ扱いがなされます。

 失踪宣告には、(1)普通失踪と(2)特別失踪の2つの種類があります。

 特別失踪とは、戦争・船の沈没・ホテル火災などで、死体が確認できないときに使われる制度です。また、普通失踪は、このような事故などがなくても、生死不明が7年続くと使われる制度です。

 特別失踪の場合は、戦争や事故、その他危難が去ったのち、1年間生死不明の状態が続くと、家庭裁判所は利害関係人の請求により失踪宣告を行い(民法30条2項)、「危難の去りたる時」に死亡したものとみなされます。また普通失踪の場合は、7年の期間満了時に死亡したものとみなされます(民法31条)。

 本件の場合は、特にB夫さんに「危難」があったわけではないので、普通失踪の制度が適用され、A子さんが利害関係者として家庭裁判所に申し立てることになります。

 失踪宣告がなされると、もとの住所を中心とした私法上の法律関係は、死亡したのと同じ扱いがなされますが、その扱いは、あくまでも「もとの住所を中心とする」のであって、どこかでB夫さんが生きていて実際に生活をしている場合に、その人の権利能力が剥奪されて契約などが一切できないわけではないことには、注意が必要です。

 この失踪宣告の審判によって、再婚もできますし、相続も発生します。

【相続放棄について】

 本件では、失踪宣告により、A子さんは、C郎さんと再婚できることになりましたが、失踪宣告の効果により相続が発生したため、A子さんはマイナスの財産であるB夫さんの借金という債務を相続してしまいます。

 そこで、B夫さんの借金を相続することを避けるためには、A子さんは相続放棄の手続きをすることが必要です。

「相続を放棄します」と言っただけではダメ

 この相続放棄とは、相続人が、相続人の意思によって被相続人の権利・義務・財産などを一切引き継がないとする制度ですが、これが認められるためには、相続が開始した後に家庭裁判所に相続を放棄する旨を申し立て述べる必要があります。

 よく、親族間において相続トラブルがあった際に、「相続は放棄します」とか「相続はいたしません」という親族間の念書や、録音テープを持ち出して、「相手方は相続放棄をしているから、相続分は一切ないんだ」という類の主張をする方がいますが、あくまでも相続放棄は、相続人が亡くなって相続開始後に、家庭裁判所に申し立てをして初めて認められる制度ですので、この点もまた誤解のないよう注意が必要です。

【生命保険の存在】

 A子さんが、きちんと家庭裁判所において相続放棄をし、安心していたある日、生命保険会社から通知が来ました。なんだろうと思って中身を確認すると、B夫さんはA子さんを受取人とした生命保険に入っていて、その生命保険金がおりるとのことでした。

 A子さんは、相続放棄をしたのに、生命保険は受け取ることができるのかと不思議に思いましたが、受取人をA子さんとした生命保険は相続財産には含まれないので、A子さんはB夫さんの相続放棄をしても受け取ることができるとのことでした。

 A子さんは、この生命保険金を有り難く受け取り、C郎さんと再婚し、幸せな第二の人生をスタートさせました。

【B夫さんが生きていた】

 しかし、失踪宣告から数年経ったある日、B夫さんがなんと生きていたことが分かりました。前に述べたとおり、失踪宣告は、あくまでもとの住所を中心とした私法上の法律関係が、死亡したのと同じ扱いがなされるに過ぎないため、ほかのどこかでB夫さんは1人の権利能力のある人間として生活していたのです。

 では、B夫さんが生きていると分かったら、失踪宣告の効果はどうなるでしょうか。

 B夫さんが生きているのが分かったのだから、失踪宣告の効果は当然なくなりそうですが、この場合、B夫さんが生きていることをもって直ちに失踪宣告が取り消されるわけではありません。

 失踪宣告を取り消すには、家庭裁判所に本人または利害関係人が申し立てをして失踪宣告を取り消す必要があります(民法32条1項)。そのような手続きを経ない以上、B夫さんの期間満了時に死亡したものとみなすという効果は消えません。失踪宣告により、死亡したとみなされているため、これを覆すためには宣告の取消が必要なのです。

【失踪宣告の取消】

 では、失踪宣告を取り消した場合、どうなるでしょうか。

 この場合、はじめから失踪宣告がなかったのと同一の効果が生じ、身分、財産上の変動はなかったものと取り扱われます(民法32条1項本文)。失踪宣告をする前にさかのぼって、もともと失踪宣告がなかったものとします。この効力を法律用語で「遡及効」といいます。

 ただ、このはじめからなかったものとする遡及効を貫き通してしまうと、失踪宣告を信頼した第三者が予想できない損害を受ける恐れがあります。

「善意」か「悪意」かが問題

 そこで、民法は、失踪宣告を信頼したいわゆる「善意」の第三者に対しては、この遡及効を制限するものとしています。すなわち失踪宣告の取消の効力が及ばないとしています(民法32条1項但書)。

 なお、また法律用語の説明ですが、ここで「善意」とは、良い人とか善人とかいう意味ではなく、単に「知らなかった」という意味です。また、「善意」の反対語は、「悪意」で、これも悪い人とか悪人という意味ではなく、「知っていた」という意味です。民法上よく出てくる用語ですので、覚えておくとよいかもしれません。

【C郎さんとの再婚は?】

 本件の場合、A子さんとC郎さんの双方ともに、B夫さんが生きていることは全く知らない、すなわち双方が「善意」であったため、失踪宣告が取り消されても、その取消の効力は、A子さんとC郎さんには及ばず、A子さんとB夫さんの婚姻は復活しません。

 では、A子さんか、C郎さんのどちらかが、実は、B夫さんが生きていたことを知っていた場合はどうなるでしょうか。

 この場合、失踪宣告の取消によって、原則通り遡って、B夫さんは死んでいないことになります(32条1項本文)。そうすると、A子さんはB夫さんとも離婚したわけではないので、婚姻関係が存続していたことになります(前婚が復活します)。

 よって、A子さんは、B夫さんとC郎さんの両方と婚姻関係があることになり、法律で禁止されている重婚状態となってしまいます。

 この場合は、後婚は婚姻の取消原因となってしまいますので(744条、732条)、当事者であるA子さん、C郎さん、その親族または検察官は、婚姻の取消を家庭裁判所に請求することができます。

 もっとも、長年A子さんを置いて、戻ってこなかったのはB夫さんですので、そのことはA子さんとB夫さんとの離婚原因となります(民法770条3号、5号)。

【受け取った生命保険金は?】

 本件では、A子さんは生命保険金を受け取ってしまっていました。この場合、失踪宣告を取り消した以上、A子さんは、保険会社に生命保険金を返還しなければなりません。なぜなら失踪宣告の取消により、B夫さんが死亡していなかったことになるため、生命保険を受け取る法律上の理由がなくなってしまうからです。

 失踪の宣告によって財産を得た者が、失踪宣告の取消によって返還する財産の範囲については、民法32条2項が「現に利益を受けている限度においてのみ、その財産を返還する義務を負う」と規定しています。

 そこでB夫さんの生存について、「善意」(知らなかったの意)であったA子さんは、この現存利益の範囲内で生命保険金を保険会社に返却する必要が生じます。

つつましく暮らすと損をする?!

【現存利益とは?】

 では、現存利益とは具体的にどういう範囲を示すのでしょうか。

 A子さんは、B夫さんのギャンブルで苦労していたため、生命保険を受け取っても浪費を一切せず、生活費として、生命保険金を切り崩して生活をしていました。

 このような場合は、生活費として使ったものは仕方がないとして、現に残っているお金さえ返却すれば、現存利益の返還をしたということになりそうですが、この点について判例は、生活費として金銭を使った場合は、原則として、現存利益としてお金が残っているとして、全額返却しなければならないとしています。

 では、逆にA子さんがパチンコや競馬で浪費していて、生命保険金を全部使っていた場合はどうでしょうか。

 判例は、このように浪費した利益は現存しないものとして、返却しなくてよいとしています(最高裁判決昭和50年6月27日)。

 結局、つつましく暮らしていたA子さんは、生命保険金を全額返さなければならなくなり、浪費した方が返さなくてよいという結論になり、なんだか狐につままれたような話です。

 失踪宣告で財産を得た場合は、浪費してしまうに限るかもしれません。

このコラムについて
腕利き税理士&弁護士コンビの知らないと怖い相続の話

2015年から改正された相続税。「その時」が来てから慌てて手続きすると、思わぬ落とし穴が待ち受けている場合もある。いつ、誰に、どんな相談をすればいいのか。このコラムでは、税理士と弁護士の2人が、実際にあったケースを土台にして、知らないと怖い相続税の知識を執筆する。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/skillup/20150610/284113
 

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