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「飢えてもいないのに、イルカやクジラを殺す!」。今や日本は反捕鯨団体から格好の「悪者」扱いをされるようになった Photo:新華社/アフロ
イルカ漁騒動で大儲けするのは誰か?
http://diamond.jp/articles/-/73105
2015年6月12日 窪田順生 [ノンフィクションライター] ダイヤモンド・オンライン
世界動物園水族館協会(WAZA)から4月、会員資格を停止された日本動物園水族館協会(JAZA)。背景には反捕鯨団体による圧力があったと言われている。反捕鯨団体は、日本を悪者にすることで大金を稼いでいるのが実情だ。
■JAZA会員資格停止騒動の裏に反捕鯨団体の圧力が
5月27日、日本動物園水族館協会(JAZA)の会員用ホームページが国際的ハッカー集団「アノニマス」からサイバー攻撃を受け、会員の電話番号やメールアドレスが流出していたことがわかった。
JAZAといえばその少し前、4月下旬に、和歌山県太地町のイルカ追い込み漁を「残酷だ」と問題視する国際機関「世界動物園水族館協会」(WAZA)から会員資格停止を通達されたことを受け、今後は追い込み漁で捕獲したイルカの購入をしないという苦渋の決断を下したことで国内外から注目された。
WAZAという団体は、過去には北海道のクマ牧場を劣悪な環境だと改善勧告するなど動物愛護の精神に溢れている。イルカショーも基本はアウトという立場をとっているので改善を求めてくるなどは予想できたが、なんの前触れもなく「会員資格停止」という強硬手段に出た。個人的にはこれが非常に不可解だったのだが、JAZAの荒井一利会長が記者会見で述べたところによると、反捕鯨団体の影響らしい。
「WAZAの通告の裏には反捕鯨キャンペーンがあったと思う。いじめという言葉が妥当かは分からないが、圧力があったのは間違いない」
ややこしい話だが、反捕鯨団体に圧力をかけられたWAZAがJAZAに圧力をかけたという図式だというわけだ。ただ、そうだとすると別の疑問も浮ぶ。イルカ漁やらイルカショーへの抗議は年がら年中やっている。これだけでWAZAが動くとは到底思えない。
だが、この「情報流出」を聞けば合点がいく。
■サイバー攻撃でイルカ漁情報を世界に拡散 ハッカー集団と反捕鯨団体の「連携プレイ」か
JAZAの会員用ホームページには、各地で開催される会議の情報や報告のほか、加盟する施設がイルカなどを入手する方法や繁殖の記録なども保管されていた。また、流出されたと思しき情報がアップされていたのが、水族館でイルカやシャチを展示することなどに抗議をするサイトだったという。しかも、流出が判明したのは3月。WAZAから資格停止の通達があった1ヵ月ほど前のことだ。
まず、アノニマスが日本の水族館の“イルカにまつわる内部情報”をネットに漏れさせる。次に反捕鯨団体がこれを取り上げて、鬼の首をとったかのように大騒ぎをし、「こんな酷い状況を放置しておいていいんですか?」とWAZAを締め上げる。この“連携プレイ”によって、日本側にとって寝耳に水の「資格停止」となったとは考えられないか。
もちろん、すべては推測だが、近年の反捕鯨団体とアノニマスの動きを考えれば不思議ではない。
あらためて言うまでもないが、反捕鯨団体の本当の狙いはJAZAではなく、和歌山県太地町である。彼らが心底憎むイルカ追い込み漁を頑なに続けているというのはもちろん、この地が世界でも有数の「イルカ供給基地」ということが大きい。
財務省の貿易統計によると、2009年9月〜14年8月の鯨類などの生体輸出は計354頭。輸出先は中国216頭、ウクライナ36頭、韓国35頭、ロシア15頭など12ヵ国に及び、米国も1頭ある。現在、イルカ漁の生体販売は太地町以外に実績はない。つまり、これらの国の水族館のイルカ展示やイルカショーは、太地町が支えているのだ。
反捕鯨団体「シーシェパード」(以下、SS)は、日本の捕鯨船への嫌がらせを誇らしげに「クジラ戦争」と呼ぶ。そのロジックで言えば、太地町は「イルカ戦争」の最前線。ここを潰せば戦局は大きく変わる。だから、SSの活動家は太地町に潜入して、漁師たちに嫌がらせをするなど“妨害工作”を働く。
町役場や漁協に世界中から嫌がらせのファックスなど「紙爆弾」が送られるのも、戦意を喪失させるためだ。このように最前線で奮闘するSS活動家の“後方支援”に乗り出したのがアノニマスだ。13年11月に和歌山県や太地町のほか、22のサイトを名指しでサイバー攻撃すると宣言し、「我々の怒りの大きさを直視せよ」という声明を発表しているのだ。
こういう経緯をあらためて振り返れば、WAZAによる「会員停止処分」は、実は反捕鯨団体やアノニマスによって綿密かつ周到に準備された“奇襲作戦”であった可能性は極めて高い。
■シーシェパードが仕掛ける「イルカ戦争」 動物愛護PRで大金が儲かる
追い込み猟で捕獲したイルカをJAZA加盟水族館が買わないということになれば、「日本随一のイルカ供給基地」である太地町に大きなダメージを与えることができる。だが、そんな戦果以上に、太地町を孤立させることは、反捕鯨団体にとって大きなメリットがある。
それは、「反捕鯨活動のPR」だ。
反捕鯨団体に限らず動物愛護団体というのは、一般人はもちろんのこと、環境系企業や大富豪からの「寄付」によって成り立っている。当然、メジャーな活動にはたくさんのカネが集まるし、どんなに素晴らしい活動でも、「知る人ぞ知る」というようなマイナーなものだと集まりが悪い。だから、どうしても知名度がキモになる。
これに加えて、じゃんじゃんカネが集まるためには必要不可欠な要素がある。「悪者」だ。
動物愛護団体の「正義」を際立たせるためには、なんの罪もないいたいけな動物を、自分たちの利益のために殺すという「悪者」がいなくてはならない。そういう意味では、太地町はうってつけだ。
ほとんどの日本人はイルカもクジラも食べない。ここに手をつけなくてはいけないほど、飢えているわけではない。にもかかわらず、一部の人々が自分たちの利益のためにイルカやクジラを殺しまくる。そんな野蛮な行為をやめてと訴えても、「文化」とか「調査」だと反論して耳を傾けない。
そんな“悪の漁師町”がメディアによって世界に広まれば、必然的に反捕鯨団体のプレゼンスもあがる。「こんな酷い大量虐殺がまだ行われているとは知らなかった。こりゃなんとかしないと」という“意識高い系”のセレブやら、動物愛護なんかをCSRにしている環境系企業からチャリンチャリンとカネが集まるという仕組みだ。
だから、動物愛護団体はエボラ出血熱を広めた原因でもあったブッシュミート(野生動物食)はあまり声高に批判しない。アフリカではイルカと同じく知能の高いほ乳類とされているゾウなどを殺して食料にする人々がいるが、これは貧困や食料問題のせいで明確な「悪者」がいない。南北問題なんかも複雑にからみあっていて、ヘタをすると、矛先が先進国へブーメランのように跳ね返ってくる恐れもある。その点、イルカやクジラの場合、安心して日本を「悪者」にすることができるというわけだ。
いやいや、宇宙船地球号の仲間たちを守るラブ&ピースな人たちが、そんな打算で動くわけがないだろう、とブーイングが寄せられるかもしれないが、事実として、このような「対立軸」をつくりだすことに成功した動物愛護団体には巨額のカネが舞込んでいる。
その代表がご存じ、SSだ。
■ 映像を駆使する巧みな“広報戦略”でSSの収入は8年で10倍以上に
産経新聞によれば、SSの04年の収入は120万ドル(約1億4000万円)に過ぎなかったが、8年後の12年には1365万ドル(約16億2000万円)と急成長を果たしている。ここに貢献したのが、日本という「悪者」の存在であることは言うまでもない。
捕鯨船に体当たりをして邪魔をする。イルカ漁の網を切る。この8年間で、悪の組織に対して猛然と立ち向かう反捕鯨団体という対立軸を見事に確立したのである。そこで彼らの武器になったのが「映像」だ。
SSはかねてからイルカ漁や捕鯨を行うデンマーク領フェロー諸島などで大暴れし、「エコテロリスト」なんて呼ばれて問題視されていたが、メジャーになったのは07年からスタートしたアニマルプラネットの「クジラ戦争」という番組によるところが大きい。
SSの抗議活動に密着して、彼らがいかに捕鯨船を邪魔するかを迫力満点の映像で紹介するリアリティ番組はすぐに大人気となり、シーズン2にいたってはアニマルプラネット史上2位の高視聴率を叩き出して130万人が視聴をした。SSが日本の捕鯨船に対して派手なアクションをとる時は、だいたいヘリコプターが飛ぶ。これはテレビカメラで空撮をおこなっているからだ。彼らの抗議活動は、いかに“いい画”を撮るかでもあるのだ。
こうした「映像作品」によってSS関連グッズが売れる。番組を見たハリウッドセレブから多額の寄付も寄せられる。こういう流れが一度できてしまうと、もう止まらない。
視聴者やスポンサーは「悪者」には、よりそれらしいふるまいを望むものだ。そして活動家たちは、日本を強引にそういうキャラクターにしたて上げていく。
たとえば抗議活動中、日本の捕鯨船にSSの活動家が乗り込んできたことがある。彼らは捕まる気マンマンで歯ブラシなんかのお泊りセットも持参し、「天ぷら食べたい」とか言いたい放題だったというが、後に解放されてから、「酷い虐待を受けた」などと言い出した。寄付ビジネスのためというのはわかるが、日本からすれば、やはり気分のいいものではない。
■クジラ戦争で培ったノウハウでイルカ漁が断罪された
そんな「クジラ戦争」で培われた映像による対立軸設定の集大成が、太地町のイルカ漁を扱ったドキュメンタリー映画「ザ・コーヴ」である。
和歌山県のホームページで、《イルカの捕殺現場を隠し撮りし、命が奪われていく所をセンセーショナルに映し出してい》るとあるように、日本側は撮影手法や構成がかなり偏っていると批判している。
実は、この映像作品を手がけたのはSSのOBだ。彼らが10年以上も磨き上げてきた「対立軸を煽る」という手法がふんだんに使われているのは、ある意味で当然だろう。
実際にその効果もてきめんに出ている。「ザ・コーヴ」がアカデミー賞をとってからというもの、太地町や漁協への「紙爆弾」は激しさを増し、「変態民族め」という誹謗中傷や、戦時中の死体画像とともに南京事件と結びつけるような文面もでてきたという。
このような反捕鯨団体の緻密なPR戦略によって、日本は完全に「悪者」に仕立て上げられてしまっているというわけだ。こういう状況で、「伝統文化だ!」とか「お前らだってスポーツハンティングしているだろ」みたいな反論をしたり、お役所のホームページで「公式見解」を示したりしても、ほとんど意味はない。というか、逆効果だ。
たとえるなら、北朝鮮が核実験を世界中から非難されて、国営テレビの女性キャスターが怒って反論をしているのを見た我々が、「やれやれ、またおかしな理屈をふりかざしているよ」と思うのと同じような感想を抱かれるのがオチだ。
■日本側が態度を硬化させれば逆効果 映像コンテンツでPRし返せ
では、どうするか。彼らの「勝因」は反捕鯨活動というものを、さながらアメリカンプロレスのようなエンターテイメント性のある映像コンテンツにしたことである。これにカウンターを打つには、やはり映像やエンターテイメントで日本の正当性を訴えるしかない。
ドキュメンタリーをつくるのもいい。実際に、同じくSSの標的になっているフェロー諸島では、イルカ漁がいかに地域文化や経済に根ざしているかというPRビデオをつくっている。アニメやマンガがクールジャパンだというのなら、そういう武器を使うのもいい。
SSのような反捕鯨団体が最も喜ぶのは、今回のような圧力を受けて、日本国内で「文化を守れ」とか「欧米にガタガタ言われる筋合いはない」という世論が高まることだ。
日本が態度を硬化させて、ノルウェーやアイスランドのようにIWC(国際捕鯨委員会)を無視して商業捕鯨を継続してくれれば、なおさら都合がいい。国際世論から孤立すれば、なんの気兼ねもなく「正義」の戦いを遂行できる。以前の大戦の時から、日本はこういう西側諸国の包囲網戦略に弱い。
日本のイルカ漁、捕鯨関係者のみなさんは相手の挑発に乗ることなく、ぜひとも「PR」という戦いの方に力を入れていただきたい。
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