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聞き手である日経新聞の藤川記者は「財政再建と成長両立を」という見出しを付けて持論を書いているが、「財政再建と成長の両立」という考えは、財政健全優先主義よりましだとしても、どっちらも実現できないまま身動きできなくなる可能性が高いものである。
財政赤字(基礎的財政収支)増加と悪性インフレ昂進がスパイラル的に進む経済状況であれば、国民多数派からの怨嗟の声がどれほど聞こえてこようとも、中長期的観点で説明しながら「増税+歳出削減」政策をフルに動員してでも抑え込む必要がある。
しかし、現在の日本は、このまま進めば、だらだらの供給力衰退と円安(供給力衰退の反映でもある)という基礎的条件に、社会保障歳出増大が重ることで悪性インフレに陥る可能性が高い。
(新興国の産業的発展と一次所得収支=海外投資収益が悪性インフレを緩和する可能性もあるが...)
日本は、バタバタする必要なぞまったくない財政問題をあれこれ考えるのではなく、供給力の衰退を押しとどめ、生産性の上昇で一人あたりGDP(実質)を高める施策遂行に全パワーを注ぎ込まなければならないのである。
※ 昨晩10時からBS日テレで放送された「深層ニュース」は、日本の経済や財政をめぐり本田 悦朗内閣官房参与と金子 勝慶応大教授の対論を放送した。
そのなかで、経済の問題点など現状認識では優れた指摘をする金子教授が、こと財政問題になると、経済成長見通しに悲観的で(なにをやってもダメなんだから)、増税や歳出削減で財政の健全化を目指すべきと主張していたことにガッカリした。
金子氏がどうしようもないと日本経済の成長を断念しているのなら、アベノミクスを批判してもあまり意味がないだろう。
金子氏の主張である増税(企業や高額所得者が主たる対象)と歳出削減は、日本経済をさらに押し下げる政策であり、アベノミクスに劣る政策である。
まったく正しい政策だと思うが、本田内閣官房参与は、経済の見通しに基づき、17年4月に予定している消費税税率10%引き上げを“再延期”したほうがいいというニュアンスを見せていた。
増税は反対、歳出削減も抑制レベルにし、経済成長にすべての政策手段を集中すべきと主張した本田内閣官房参与のほうが、金子慶応大教授よりも政策的にはずっとまっとうである。
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財政健全化どう進める
歳出抑制、景気にも配慮
サントリーHD社長 経済財政諮問会議 民間議員 新浪剛史氏
政府が6月末に決める財政健全化計画作りが大詰めを迎えている。内閣府の試算では2020年度の財政健全化目標の達成には、高い成長を実現できたとしても9.4兆円の財源が不足する。成長と財政再建の両立に向けどう枠組みを作るか。新浪剛史サントリーホールディングス社長(経済財政諮問会議民間議員)と鶴光太郎慶大教授に聞いた。
――新浪氏を含む民間議員は消費税率を上げる17年度までは歳出削減を緩やかに進めるべきだと提案しました。
「消費税率を8%に上げた影響がやっと収まってきたところだ。歳出増をばさっと抑えるという議論がされているが、本当に経済再生にマイナスにならないのか。経営者の感覚として正直言って心配だ。せっかく良い流れが出てきた景気の腰を折ってはいけない」
――政策経費を税収でまかなえているか示す基礎的財政収支を20年度に黒字化させる目標があります。民間議員案は歳出改革が甘いとの声もあります。
「言葉に気をつけてほしい。歳出カットはやらないと受けとられているようだが、カットはやる。例えば、医療費の都道府県格差の是正や安い後発医薬品の使用促進などだ。そこで浮いたお金を民間が投資しやすい分野で活用する。一例は予防医療。ワイズスペンディング(賢い支出)と呼ぶが膨らむ医療費を抑制する効果が高い分野にはお金を投じる。17年度までは予算の配分を組み替えながら緩やかに歳出を抑制する。その効果が出てくる18年度以降は20年度をみながら歳出削減を加速する」
――予算の組み替えや配分見直しは過去も取り組んだが成果は乏しい。
「配分の見直しのカギは『見える化』だ。都道府県別に1人あたりの医療費でこんなに差があるなんて、データがなければ知らなかった。最も少ない千葉県と最も多い高知県では1・6倍の差がある。この差を半分にするだけで、医療費の抑制につながる」
――9年前の小泉政権では社会保障費の増加を5年で1.1兆円抑える目標を立てました。
「総額で管理するかつての手法は各省任せとなりチェックが働かない。個々の項目の目標を出し点検する。後発医薬品の使用割合をいつまでに高めるか、財政上の効果がどうなるか、その一方で、予防医療に使えるお金にどれだけ回すかなどのイメージだ。6月末に方向性を出し今夏以降、具体的に議論していきたい。9月以降は詳細を出せる」
――内閣府試算の経済再生ケースは実質成長率が2%で、健全化計画は前提が甘いとの声があります。この試算でも20年には9.4兆円の赤字が残ります。
「公共サービスの抜本的な改善に官民で取り組むが、そうした改革案が反映されていない。本来なら歳出や歳入改革の効果を盛り込んだうえで試算を示すべきだった。9.4兆円が一人歩きしている」
――改革効果で財源不足は少なくなる?
「そうだ。経済成長に伴う税収増の度合いを示す税収弾性値は今の1ではなく、1.2〜1.3にするのが妥当だ。税収増で財源不足額は減る」
――方針を決めても実行段階で骨抜きになるケースもあります。
「今は首相が代わらないので色々なことが実現している。自分が関わった企業統治改革や農協改革は、提案から実現が見えるまで約2年かかった。改革には時間がかかるので17年度末までを集中改革期間と位置付けた。効果が表れ始めるのは18年度からとみている」
「諮問会議に調査委員会のようなものを作り改革が進んでいるかをチェックする。これまでは短期政権だからできなかった。この国は経済運営で計画は作ってもチェックをやってこなかった。経営者としては当たり前だ。メディアは派手なことが好きだろうが派手なことはうまみがない」
――長期政権だからこそ、「痛みの伴う改革」ができるのではないですか
「おとなし過ぎるという意見があるようだが、諮問会議ではカットできるものは徹底的にカットするという議論をしている。若い人が元気にならないと日本は駄目になる。金融資産のある高齢者にはもっと負担を求めていい。高齢者層のなかで金融資産を持っている人とそうでない人がいることを『見える化』したらどうか。資産課税のような形で資産を使ってもらったり、若年層に移転させたりすることも必要だ。私が言うことで、議論が盛り上がることも期待している」
にいなみ・たけし ローソン社長を経て14年にサントリーホールディングス社長。14年から経済財政諮問会議の民間議員。56歳。
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成長見通し楽観しすぎ
慶大教授 鶴光太郎氏
――経済財政諮問会議の財政論議をどう見ますか。
「基礎的財政赤字の解消に向け、どれくらいを歳出減と歳入増でやるかが大枠になる。これが先進国では標準となる財政健全化計画だ。ところが、今回の諮問会議は具体的な数字を示さず大きな枠がぐらぐらしている印象だ」
――諮問会議では経済が再生し高成長に伴う税収増が見込めることを前提に、残る9.4兆円の赤字の解消策を話し合っています。
「成長の見込みはあまりにも楽観的だ。実質2%、名目3%というこれ以上望めない数字を前提にしている。過去の健全化を振り返ると、甘い見通しでやると失敗する。慎重な見通しにたつのが国際的な常識だ。現状の成長が続く保守的シナリオなら16.4兆円の赤字が残る。これを前提にすべきだ。16兆円という金額が大きすぎて議論が動かないなら、9.4兆円をきちんと歳出と歳入(増税)の改革で手当てしないと駄目だ」
――5月の諮問会議で、諮問会議民間議員の高橋進日本総研理事長が9.4兆円の赤字分の解消への道筋として、5兆〜6兆円を歳出削減で捻出する一方、税収増に伴う歳入増で4兆〜5兆円を見込むイメージで発言しています。
「(実質2%成長という)最大限楽観的な見通しを作っておいて、さらに4兆〜5兆円の歳入が増えるということに正直驚いている。民間の力を活用とするという考え方は悪くはない。ただ(経済成長によってどれくらい税収が増えるかを示す)税収弾性値が1980年代並みになるとした意見にも驚いている」
「歳出をみると、日本は社会保障以外の分野では国際的にみても支出を抑えてきている。最大の焦点である社会保障改革の理念が見えない。日本の社会保障財政は高齢層に偏った使い方をしている。若年層にも高齢層にも困っている人は双方にいる。困っていない高齢層に少し我慢をしてもらう。こういう国民的なコンセンサスを作る努力をしていくべきだと思う」
――民間議員の提案にも余裕のある高齢者の負担を増やすという内容の提案は入っています。
「重要な提案があるのは事実だ。財政の持続性や世代間格差の是正といった議論はしているが、全体のメッセージが伝わってこないと感じる」
「例えば公費を圧縮するために患者の自己負担を増やせば良いという議論が浮上している。特定の病気にかかっている人の自己負担を上げるよりも、薄く広く負担する消費税の引き上げを考えるべきではないか」
――甘利明経済財政・再生相は記者会見で、消費税10%超の引き上げを封印する考えを示しました。
「歳出削減だけで赤字を埋めるというのは難しい。例えば、3年に1回ずつ消費税を上げることを考えてもいい。消費税率を上げる選択肢は残しておくべきだと思う」
――2006年の経済財政の基本方針は、社会保障費の伸びを5年間で1.1兆円、年2200億円抑える方針を示しました。今の諮問会議はこのやり方は間違いだったとしています。
「当時の議論は社会保障費の伸びの抑制だ。削減するという話ではなかった。確かに、対象を明らかにしたうえで歳出の削減を積み上げていけば納得が得やすかったかもしれない。それでも数字を示し聖域視されていた社会保障費に踏み込んだ点は意義があったと考えている」
――今回の財政健全化計画は、国際的な信認を得られるかもポイントです。
「国内では選挙を考えるとこれ以上歳出抑制は無理だなどの理屈が幅をきかせるかもしれない。しかし、海外の投資家からみて納得できるような案になっていなければ、国債の買い手が減り金利が跳ね上がってしまう」
「デフレの間は日銀が異次元緩和を維持するのでひどい財政状態のままでも金利は低いままだろう。だが、デフレを脱却したら金利は確実に上がっていく。その時に、しっかりした財政健全化計画がなければ、経済も財政も危機的状況に直面する可能性があると感じている」
つる・こうたろう 経済企画庁(現内閣府)出身。12年慶大教授。06年に経済財政諮問会議での財政再建計画作りに関与した。54歳。
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〈聞き手から〉財政再建と成長両立を
新浪氏と鶴氏は成長と財政に関する見解で食い違った。脱デフレと景気回復を重視する新浪氏は成長の底上げを最優先に考える。鶴氏は成長率が低くても財政が持つような仕組みを求める。歳出削減に厳格な数値目標をもうける手法に関しても評価が違う。
財政健全化に魔法のつえはない。経済成長で税収(歳入)を増やし、政策効果の乏しい経費を抑制することに尽きる。それでも足りなければ増税する。高齢者が増え、支える現役世代が減る以上、持続可能な社会保障の仕組みに転換する必要もある。
歳出削減を急ぐあまり景気が腰折れしてもいけないし、成長重視が歳出改革先送りの言い訳になってもいけない。国の借金は1000兆円を超し主要国で突出する。成長と財政の二兎(にと)を追う計画を作れるかが焦点になる。
(経済部 藤川衛)
[日経新聞6月7日朝刊P.9]
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