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グローバル社員なんて偉くも何ともない。できるだけ減らした方がいい
DMG森精機社長 森雅彦氏に聞く(後編)
2015年6月10日(水) 日経トップリーダー
2015年5月、かねて業務・資本提携を結んでいたドイツのDMG MORI SEIKI AG(DMG)を連結子会社化するなど、日独の一体経営を加速しているDMG森精機。だが、社長の森雅彦氏は「グローバル社員なんて偉くも何ともない。彼らが過半数になったら会社は潰れる」と言い切る。工作機械で世界のトップを走る森社長の人事戦略とビジョンを聞いた。
今春の新入社員は61人ということですが、選抜はかなり厳しいのでしょうか。
森:学生にとって、超大企業での就職活動とは違うかもしれませんが、工作機械を革新的にやりたいという人を選んではいます。
森雅彦(もり・まさひこ)氏 1961年奈良県生まれ。85年京都大学工学部精密工学科卒業後、伊藤忠商事に入社。産業機械部門などで8年間勤務した後、父で前社長の幸男氏が体調を崩したことを機に、93年森精機製作所に入社。取締役、常務、専務などを経て、99年社長に就任。当時、東証一部上場企業の最年少社長として注目された。社長業の傍ら、2003年東京大学大学院で工学博士号を取得している。(写真:菊池一郎、以下同)
社員に言いたいのは「照れるな」「かますな」
世間では、入社3年で30%辞めるのが一般的になっていますが。
森:うちは全然辞めません。辞めそうな人は採らないし、最初からちゃんと説明しています。
何を最も重視して採用されているのですか。
森:自尊心の持ち方ですね。若ければ、将来に対して不安を持つのは当然です。不安から来るふらふら感とか、緊張や怒りの感情が伝わってくるのは大変かわいらしくていいんです。ですがそうではなくて、今までやってきた受験勉強の延長で根拠のない自信を持っていたり、家の育ちがいいから自信を持っているという人は採らないようにしています。
社員によく言うのは「照れるな」「かますな」ということ。照れてしゃべれなくなってしまうのは、ちっぽけな自尊心があるからですよ。知ったかぶりをする人も駄目です。ですから、悪い意味で受験勉強をしてしまった人は採りません。
経営理念はどうやって浸透させているのでしょうか。
森:我々自身の経営理念はもちろんありますが、うちの社員は基本的にはお客様に育ててもらっていると思っています。我々のお客様はトヨタ自動車やフォルクスワーゲン、ロールス・ロイス、ボーイングなど大手もあれば、10人未満でやっている東京・大田区や東大阪の工場、さらにドイツのハンブルグやイギリスのロンドンの郊外で操業している鉄工所などもあります。そういう取引先が社員を育ててくれています。
優良な取引先と付き合えば社員が育つ
いったん製品を納めたら20年はコミットメントするわけですが、中には30年と長期的な関係を結んでいる取引先があります。40年、50年のお付き合いをしているサプライヤーもいます。例えばファナックとうちの取引は、ファナックの創業以来続いています。NSK(日本精工)やNTNもそうでしょう。銀行だっておやじの代から付き合っていますし、証券会社もそう。
人は、多様な関係の中で育っていきます。特に営業やサービスの担当者は、お客様に育ててもらっているところが大きいのではないでしょうか。
いい組織にはいいお客さんが付き、そのお客さんが社員を育ててくれて、それがまたお客さんに還元される。そういうウィン・ウィンの関係になっているということですね。
森:そうありたいですね。そのためにはまず、しようもない自慢をする人や汚い考えの人は要りません。愛想のいい方がいい。
工作機械産業の特徴は、お客様が必ず工場まで買いに来てくださることなんです。工場は製造現場であると同時にショールームでもあり店頭でもあるんです。そういう意味で、うちの社員は常に見られているという緊張感があります。受付から始まって全てです。このような状況がありますので、社員教育がやりやすいというか、社員が目指すものの方向性は定まっています。
10年ごとに進化している工作機械の技術
森:工作機械の技術は10年ごとに変わってきています。60年代に数値制御のNC旋盤が初めて出てきて、70年代にそれが一般化し、80年代に立形(たてがた)マシニングセンター、90年代に横形マシニングセンターが出てきました。
2000年頃に旋盤とマシニングセンターが一体化したミルターン加工機が出て、2010年以降には同時5軸加工できる精密加工機械が登場し、2020年ぐらいからは超音波やレーザーでも加工できる複合工作機が出てきます。
どのくらい先まで見据えているんですか。
森:常に20年ぐらい先までは見越しています。今日納めた商品が最低20年間は使われますから、それくらいは想像しないと駄目ですよね。
工作機械の世界は、お客様のリピート率がもともと7、8割あります。今いるお客様に満足してもらって維持するのが第一なのです。イノベーションは絶えず意識していますが、新しい技術が必要な場面はそう多くありません。それに、技術は商品開発だけではなく、人材マネジメント、マーケティング、経理・財務、ありとあらゆる分野に存在します。それぞれの分野で遅れないようにすることも重要です。ですから、今回はマーケティングで先を行くドイツと一緒に組んで、我々も成長させてもらいます。
今後は、人事交流もグローバル化していくのでしょうか。
森:今はグループ全体で1万2000人の社員がいて、日本人はそのうちの約4000人です。ドイツ人も同じくらいで、そのほかに米国人や他の欧州諸国の人たちがいる。全体のグローバルのリソースを見ながら人材を回していくということになるでしょう。
「グローバル社員」なんて、何にも偉くない
うちでは、基本的には社員を「ローカル社員」「ナショナル社員」「グローバル社員」と分けています。ローカル社員は、例えば伊賀事業所(三重県)、ドイツならフロンテン工場にずっといる。そこで世界一の主軸を組んでいるといった社員です。これに対し、1カ所の工場にいるのは嫌だけれど、かといって外国語をしゃべるのも嫌という人がナショナル社員。そのほか、日本でもドイツでもどこへでも行きますというのがグローバル社員です。
最近は何となく、グローバル社員の方が上という雰囲気がありますよね。
森:それは大いなる勘違いです。文化の違う人たちをマネジメントしなければならないので、結果としてそうなるのはいいのですが、最初からグローバル社員を目指している人は駄目です。
こんなことを言うと怒るかもしれませんが、語学だけは堪能で、世界中どこに行ってもはったりをかませる人たちがグローバル社員になっているのです。だから、グローバル社員だからといって何も偉くはないですよ。どちらかというと、グローバル社員の数はできるだけ減らした方がいいと思っています。今より10%でもグローバル社員が増えると、弊害が出てくるでしょう。語学が堪能とはいえ、やはりネイティブと違う英語なりドイツ語を使うのでは、ドイツで機械は売れないでしょう。関西人が東京に来ても機械は売れないですよ。東京弁をしゃべらないと。
要は、本当に稼いでいるのは誰かということですね。
森:そうです。ローカル社員もグローバル社員も両方必要なのですが、グローバル社員が半分以上になった会社は倒産してしまいます。うちの場合、ローカルが7割、ナショナルが2割、グローバルはせいぜい1割ぐらいでいいのです。実はうちでも起こっていることなのですが、サービスマンが飛行機ばかり乗っていたら、時間が足りず、サービスにならないですからね。
「人間の存在を危うくするものと戦うモノづくりを応援
人材の引き抜きは、ないんですか。
森:中堅幹部やマネージングディレクタークラスを中心に、毎年、新卒と同じぐらいの通年採用をしています。今は特にサービスマンが不足しているので、サービスマンの通年採用が多くなっています。
中途採用では、自動車産業から来る人が多いです。10年前の自動車ですと機械的な修理をする場面が多々ありました。ところが今はもう、あまりそういう場面がありません。自動車修理をやりたくてその業界に入ったのに、営業に変わってくれと言われてもやりたくない、そのような人たちが応募してくれるんです。彼らは自動車産業で基本的な教育を受けていますから、6カ月も教えれば即戦力になります。転職して5年目ぐらいでドイツに駐在する社員も出てきています。
ここから先、DMG森精機はどのような会社を目指すのでしょうか。
森:会社は、ある程度永続性を持たないといけないと思います。いろいろな会社を見てきて思うのは、売上高数千億円で、社員1万人以上の規模でないと長くは続かないなということ。うちは今回の合併でやっとその規模になります。売上高が4000億円を超えると、1000人に1人ぐらいリーダーが出てきて、その人たちが5〜6人で競い合う。いい意味で競い合って次のリーダーを選ぶというような会社になるといいですよね。傲慢になったら駄目ですが。
工作機械の市場規模はだいたい6兆円で、周辺機器やソリューションまで含めると20兆円ぐらいの付加価値のある産業です。産業革命のような大きな変化はありませんが、細かなイノベーションは常に起きています。
インターネットが生まれたような強烈なイノベーションはいわゆる戦争状態とか、対立の図式がないと生まれません。今までその対立の図式は、国と国との戦いとか人種の間の戦いとか、宗教の違いが引き起こしていたわけです。これからはそうではなく、温暖化との戦いやがんとの戦い、省資源との戦いへと変わっていくでしょう。
人間の存在を危うくするような事象に対して戦うモノづくりを応援していく。これがこれからの工作機械産業です。そういう認識がもっと広まればいいと思います。
(構成:曲沼美恵)
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このコラムについて
トップリーダーかく語りき
自ら事業を起こし数々の試練を乗り越えて一流企業に育て上げる。引き継いだ会社を果敢な経営改革で躍進させる――。 こうした成長企業のトップはどう戦略を立て、実行したのか。そして、そこにはどんな経営哲学があったのか。日経トップリーダー編集部が創業経営者やオーナー経営者に経営の神髄を聞く。http://business.nikkeibp.co.jp/article/interview/20150605/283970/
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