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6月3日のECB理事会でマリオ・ドラギ総裁は「ボラティリティの高い状態に慣れる必要がある」と語り、金利はさらに上昇した(ロイター/アフロ)
ヨーロッパ発で金利急騰が広がった理由 ECBと日銀の超金融緩和で起きていること
http://toyokeizai.net/articles/-/72387
2015年06月08日 森田 長太郎 :SMBC日興証券 チーフ金利ストラテジスト 東洋経済
先週、日本国債10年物金利は上昇して、昨年11月以来、約半年振りの0.5%台に乗せた。海外市場では、米国債10年物も2.4%を付け、ドイツ国債10年物はほぼ1%まで上昇した。米国債の水準は日本国債と同じく昨年11月以来の水準であり、ドイツ国債の1%は昨年9月以来の水準となる。
今回の金利上昇の主因は欧州である。欧州債市場では第一波の金利上昇が4月下旬から5月上旬にかけて起こり、ドイツ国債10年物は0.1%割れから0.8%近くまで急騰した。5月半ばには、いったん落ち着いたようにみえたが、今回、第二波が発生したわけである。4月中旬のゼロ%近い水準からするとドイツ国債金利は累計で1%近くも上昇したことになる。
■欧州でQQE導入後の日本と同じ現象が起きた
欧州市場でこの1カ月半の間に起きていることの解釈として最も妥当なのは、2013年4〜5月にかけての日本国債金利の急低下、急上昇の再現だというものであろう。
日本銀行の黒田東彦総裁が就任直後の2013年4月4日に「量的・質的緩和(=QQE)」を打ち出すと、日本国債金利は10年物で一時0.3%強まで急低下した後、5月下旬には1%近くまで跳ね上がった。今回、ECB(欧州中央銀行)の量的緩和が3月上旬から開始され、ドイツ国債を中心に欧州債金利の急低下が4月中旬まで続いた。現在、その大きな反動が生じているとみることができるわけだ。まさに日本のQQE開始直後を彷彿とさせる状況である。
中央銀行が大量の国債を購入する政策を開始したにもかかわらず、なぜ長期金利が乱高下してしまうのだろうか。
この問いに対しては、日本の2013年4〜5月の状況を冷静に振り返ってみると、ある程度のことは言える。
第一に、中央銀行という「池の中の鯨」のような存在が市場に参入してきたことで、それまでの市場の需給構造が変質してしまったことが大きい。市場参加者が、変質した需給構造にすぐには適応できず、市場の安定が崩れてしまうのである。市場の安定が崩れると、わずかな債券の買いや売りを吸収することができずに、過剰な値動きが発生してしまう。
第二に、中央銀行のアナウンスメントがあまりにも強力すぎて、市場のインフレ見通しが不安定化してしまうということもある。長期金利は本質的にはインフレ率の関数であると言ってよく、将来のインフレ率に対する市場の見方が突然不安定化してしまうと、長期金利の適正水準も見えなくなってしまうのである。
日本でも、QQE導入後の長期金利の大きな変動は、一巡するまでに1カ月半から2カ月かかった。この間、米国では量的緩和終了の時期を巡って市場で微妙な心理の揺れがあり、それが日本国債金利の急変動の引き金になった面もある。今回も、米国では利上げ開始時期を巡って市場には様々な思惑が生じやすい時期であり、米国の状況が欧州にフィードバックして市場の変動を増幅した面もある。しかし、あくまでも長期金利の急変動の根底にある要素は、欧州の金融政策である。
■少しでも高い金利を求めて資金がさまよう
それではなぜ、欧州の中央銀行の行動と、それに誘発されて起きた欧州債市場の急変動が、日本国債や米国債市場にも顕著に波及しているのだろうか。
もちろん、通常であっても、日米欧の三大債券市場は、それぞれが互いに強い影響を与え合って動いている。しかし、特にこの2年間は、各国の中央銀行による強力な金融緩和によって各市場とも長期金利が歴史的な水準まで低下しており、各国の債券投資家はその中で少しでも金利の高い債券、あるいは少しでも割安な債券を求めて資金を動かすようになってきている。
欧州の債券投資家が日本の2年債や米国の30年債に投資をしたり、日本の投資家が米国の10年債を大量に購入したりという具合に、である。その結果、一市場における相場変動が、ほかの国の債券投資家の行動にも大きな影響を及ぼすようになっているのである。
しかし、さすがに先週、ドイツ国債金利が一時1%を付けるところまで上昇したことで、金利上昇のメドは見えてきたように思える。ドイツ経済の良好なパフォーマンスからすれば、10年債金利の1%という水準はそれでも低すぎることは確かだが、ECBのマイナス金利政策によって、ドイツの3カ月物国債金利はマイナス0.3%という水準である。いわゆる長短スプレッドが1.3%まで拡大している。
2013年5月下旬に日本の金利が急上昇後にピークアウトした時、3カ月物金利が0.1%、10年物が1%で長短スプレッドが0.9%だったこととの比較でも、今回のドイツ国債金利の上昇はすでにかなりの程度に達している。2013年5月にピークを付けた後、日本の長期金利はしばらく横ばい圏で推移したが、夏場以降は日銀の大量の国債買入れによる需給逼迫を背景に徐々に低下していった。ECBによる国債買入れ規模も日銀に劣らず巨大であり、いったん金利上昇のメドがついてくれば、ドイツの長期金利も再び緩やかに低下してくる可能性はあるだろう。
一方、日本の長期金利は、海外要因がなければ、国内要因のみで大きく上昇する要素は今のところほとんど見当たらない。現状程度の円安では、日銀が2%インフレ目標を早期に達成して出口に向かうとの見方が浮上することも考えられない。まだ多少慎重に見るべきではあるものの、欧州債金利の上昇が一巡したとの確信が得られてくれば、日本国債10年金利の0.5%という水準は今後数カ月のスパンでみればほぼピークだったということになるのではないか。
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