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「円安アレルギー」はアメリカの首を絞める 「反為替操作策」のTPPへの影響は?
http://toyokeizai.net/articles/-/71153
2015年06月06日 The New York Times 東洋経済
今から36年前、日本は自動車の輸入関税を撤廃し、表向きは、世界で4番目に大きい自動車市場が全面的に国際競争にさらされることになった。しかし米国の自動車業界によると、よく手入れされた日本の道路を走る車の93%は、今も日本のメーカーが日本で製造している。
日本に言わせれば、日本の消費者が日本車を好むだけのことだ。
■通商交渉の足かせになる
しかし米国の自動車メーカーは、不適切な状況が長く続いていると主張する。すなわち、日本の政策決定者による組織的かつ意図的な円安誘導が、自動車を含むあらゆる輸入品の値段を巧みに引き上げているというのだ。
米議会では5月22日、大統領貿易促進権限(TPA:ファストトラック)法案が上院で可決された。通商交渉の権限を大統領に委ねるTPAの成立は、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の交渉締結の前提条件とされている。最大の焦点は、通商相手国の為替操作への対抗措置を盛り込む修正案で、上院では否決されたが、下院で再び提出される見込みだ。TPA法案に反対する議員が多いとされる下院でも審議は難航しそうだ。
為替操作に関する規定に反対する人々は、そのような厳しい対抗措置が必要な時期は過ぎたと指摘する。日本が公然と為替介入を実施したのは、2011年が最後だ。中国は長年、人民元の対米ドル相場を低く抑え、米国をはじめ世界の市場に中国の輸出品を浸透させてきたが、最近は対ドルで上昇傾向にある。オバマ政権は、為替の問題は外交政策で効果的に対処できると主張している。
ジェイコブ・ルー財務長官は共和・民主両党の上院指導者に宛てた5月19日付の公開書簡で、為替操作の報復条項は貿易相手国に受け入れられないと指摘。TPA法案に条項が盛り込まれた場合は、大統領に拒否権発動を進言すると述べていた。
為替操作は太平洋沿岸に事実上、蔓延している。日本では、停滞する経済成長を刺激するために日本銀行が通貨供給量を増やしている。中国の人民元は基本的に、対ドルの固定相場を維持している。マレーシア政府は通貨リンギットを守るために外為市場に介入する。
為替操作の問題に、今回ほど米議会が関与することはめったにない。TPA法案が成立すれば大統領には最大6年間、貿易交渉権が付与される。現政権と次期政権は、政府が他国と合意した通商協定について、議会に修正を認めずに賛否だけを問うことができる。
直近では、年内の締結を目指すTPPの交渉において、TPAは不可欠な権限とされている。TPPの交渉にはカナダやチリ、日本、オーストラリアなど12カ国が参加、世界経済の40%を包括する。
■米国も「為替操作」の矛先に
為替操作に反対する人々は、為替政策を、関税障壁や知的財産権、市場アクセスと同じレベルの通商問題に格上げする格好の機会とみる。議会民主党に大きな影響力を持つリベラル派のシンクタンク、米経済政策研究所(EPI)は2月に発表したリポートで、米国の対日貿易赤字が2013年に783億ドルに達した「最も重大な要因」は為替操作だと主張。拡大する貿易赤字の影響で、2013年に全米で推定89万6600人の雇用が失われたとする。
しかし、オバマ政権の高官や多くのエコノミストは、グローバル市場の反動を懸念する。TPPで為替に影響を与えるような政策介入を禁止することになれば、米政府の政策がTPP参加国から抗議されかねないからだ。
たとえば、赤字財政支出によって需要を喚起する景気刺激策や、経済成長を加速するための金融緩和策は、意図的に為替市場を誘導する目的ではないが、実際にドル相場に影響を与えることになる。
「2008年に米議会と大統領、連邦準備理事会(FRB)は、大恐慌の再来を回避するために思い切った決断を下した。しかし多くの国が、一連の政策は為替操作にあたると間違った理解をした」と、ルー財務長官は19日付の書簡で述べている。TPA法案に為替操作への報復条項が盛り込まれれば、「(政府が)米経済を守るために必要な措置を取る権限がリスクにさらされ、為替政策の不公平な慣習に立ち向かおうとする広範な努力にとって逆効果を招くだろう。そのようなリスクを取ることはできない」
それ以上に深刻な問題は、TPA法案に為替操作を防ぐ条項を加えたら、ほかの国々が通商交渉から離脱する可能性があることだ。
それ以上に深刻な問題は、TPA法案に為替操作を防ぐ条項を加えたら、ほかの国々が通商交渉から離脱する可能性があることだ。米政府に言わせれば、為替介入をなくすという目的のためだけに、太平洋の市場を米国の商品やサービスに向けて開放するというはるかに重要な努力を犠牲にすることになる。
■結局米国労働者を苦しめることになる?
ブッシュ政権で財務次官補を務め、現在はメリーランド大学で教えるフィリップ・スウェーゲルは、中国やマレーシアなどは自国通貨の価値を歪めるような為替介入を行っており、結局は米国の労働者を苦しめることになると指摘する。ただし、貿易交渉はそうした複雑な経済問題を主張する場ではないとも語る。
「それぞれの国が、自分たちがふさわしいと思う通貨政策を運営できる。ほかの国の通貨政策を指図するために通商協定を利用するのは、おかしなことだろう」
ルー財務長官は政治的な軋轢を弱めるために、外交努力によって、為替操作に関する規定は不要になるとも説明している。中国の人民元は、2010年に中国政府が規制を緩和して以来、対ドルで30%近く上昇している。対米貿易黒字は、オバマ政権発足前は中国経済の10%相当だったが、2014年は2%まで縮小した。財務省高官によると、日本は1991年から376回、為替市場に介入したが、2011年以降は露骨な介入を控えている。
もっとも、為替操作に反発する議員や輸出産業、米経済の慢性的な貿易赤字を懸念するエコノミストたちは納得しない。
2009〜2011年にジョー・バイデン米副大統領の首席経済顧問を務めたジャレド・バーンスタインは、アジア諸国の為替介入の規模は縮小しているというオバマ政権の主張は認めたうえで、次のように語る。「ただし、安心はしていない。晴れているからといって、傘を捨てたりはしない」
(執筆:JONATHAN WEISMAN、翻訳:矢羽野薫)
© 2015 New York Times News Service
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