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ギリシャが限りなくデフォルトに近づいて来た 緊縮より成長こそ正しい戦略だ
http://bylines.news.yahoo.co.jp/kimuramasato/20150605-00046361/
2015年6月5日 16時47分 木村正人 | 在英国際ジャーナリスト
資金繰りに窮したギリシャは5日に迫った国際通貨基金(IMF)の返済期限を先送りするため、6月の分割払い4回分を一括して月末までに払うとIMFに通告した。IMFは規則通り受け入れる見通し。
バブルに踊ってクレジットカードでカネを使いまくり、最後は金貸しに返済を迫られる多重債務者という構図が浮かび上がる。「ギリシャの民にどうかご慈悲を」とギリシャのチプラス首相が訴えても、これまで何度も裏切られてきた金貸しは堪忍袋の緒が切れる寸前だ。
ギリシャの分割払いスケジュールはこうなっている。
6月5日 国際通貨基金(IMF) 3億100万ユーロ
6月12日 短期国債 16億ユーロ
6月12日 IMF 3億3900万ユーロ
6月12日 短期国債 20億ユーロ
6月16日 IMF 5億6500万ユーロ
6月19日 IMF 3億3900万ユーロ
6月19日 短期国債 16億ユーロ
とりあえずIMFの4回分で計15億4400万ユーロ。しかしギリシャの債権者はIMFだけではない。6〜8月の返済計画を見ておこう。
返済は2057年まであと42年も続くのだ。ギリシャのチプラス政権は、IMF、欧州中央銀行(ECB)、欧州単一通貨ユーロ圏の指示に従って財政再建を優先させるか、それともユーロ圏から離脱するのかの瀬戸際に追い込まれている。
ユーロの安定を第一に考えれば、とにかく参加国が財政赤字を国内総生産(GDP)の3%、政府債務をGDPの60%以内に抑える安定成長協定を順守することが絶対条件。問題児のギリシャが財政再建を進めている限り、ユーロ圏に問題は生じない。
しかし、インダストリー大国ドイツと、観光と農業で何とか生計を立てているギリシャが同じ通貨ユーロでやっていくことは難しい。それぞれの国が財政主権を持つユーロ圏に、都道府県間の財政格差を穴埋めする日本の地方交付税交付金のような制度はない。
経済の体温を示すドイツとギリシャのインフレ率を見てみよう。ドイツはデフレ危機からV字回復したが、ギリシャは2013年3月からデフレに突入している。デフレなのにさらにデフレ圧力を強める緊縮財政と増税を強行すればどうなるのだろう。
ギリシャ経済は回復しているのではなく、死に近づいている。無料の食料や医薬品を求めるギリシャの人々の表情を見ていると、生きているのが精一杯という印象を強く受ける。
チプラス首相は年金給付の削減見直し、最低賃金の段階的な引き上げなどを求めてギリギリまで交渉する姿勢を見せないと、急進左派連合(SYRIZA)内の最左翼強硬派「左翼プラットフォーム」が黙っていない。
可及的速やかに財政再建策で合意に達して、2400億ユーロ支援枠組みの72億ユーロの融資を再開してもらわないとギリシャの資金繰りは破綻する。しかし、IMFやECB、ユーロ圏の財政再建策をそのままのむとギリシャ国内ではチプラス政権への失望が強まり、政治的な混乱が深まるのは避けられない。
6月末までに合意に至らなかった場合、ECB がギリシャの銀行向け緊急流動性支援(ELA)を停止するのは確実とみられており、ギリシャはユーロを離脱して新ドラクマ(ギリシャの旧通貨)を発行しなければならなくなる。資本規制が敷かれ、国内の年金支給、公務員給与の支払いも滞る。
単一通貨ユーロからの桎梏から解放され、安いドラクマを武器に輸出ドライブがかかる。国内では雇用が増える。外貨建ての借金はおそらく踏み倒される。安くなったドラクマで返せるわけがないからだ。
ユーロ圏がギリシャを抱え込んでいくつもりなら、正しい処方箋は緊縮策ではなくギリシャの成長戦略だ。だがしかし、その気配は微塵も感じられない。ECBもユーロ圏もギリシャと付き合うのにもう、うんざりしているからだ。
1〜3月の財政統計によると、ギリシャの財政収支は5億300万ユーロの赤字。同じ期間のプライマリーバランス(基礎的財政収支)は17億3200万ユーロの黒字。
2月の輸入総額は34億4930万ユーロ(前年同月比14.6%減)。輸出総額は20億2390万ユーロ(前年同月比2.7%減)。3月の観光客は32万1316人で前年同月比32.2%増。
1月の失業率は前月から0.2%減少したものの、25.7%と高止まりしている。格付け会社スタンダード・アンド・プアーズはギリシャ国債長期信用格付けを「CCCプラス」に引き下げた。
ドイツのメルケル首相はギリシャがユーロ圏を離脱した後、財政統合にコマを進めるつもりだと筆者は勘ぐっている。しかし、排除の論理はギリシャをロシアに追いやることになり、欧州は安全保障上、新たな爆弾を抱え込むことになる。
(おわり)
木村正人
在英国際ジャーナリスト
在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002〜03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
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