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欧州の長いバカンスの効用
長時間労働と短い休暇は、必ずしも生産拡大につながらない
2015.6.5(金) Financial Times
(2015年6月4日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
もう心は夏のバカンス(写真はスペインのコスタブラバ (c) Can Stock Photo)
6月に入った今、欧州各地のオフィスワーカーは当然、夏休みに思いを巡らせている。
フランスでは、夏季休暇は「les grandes vacances(大バカンス)」として知られている。
フランス人労働者にとっては年間2カ月の休暇が標準であることを考えると、それも意外ではないはずだ。
フランス人は手厚い年間休暇手当を享受するだけでなく、企業は年間休暇のうち12日を1度に連続で与えることを法的に義務づけられている。
フランス電力公社の驚きの長期休暇
フランス電力公社(EDF)では、大勢のスタッフがそれ以上に大規模な休暇を得ている。2000年に導入された週35時間労働制の結果として、また、EDFのスタッフの多くが週間所定労働時間を超えて働いていたために、多くの人が埋め合わせとして年間10週間の休暇を得ることになった。
EDFは今、この慣行を抑制しようとしており、3万人の従業員に対し、休暇の日数を27日間に減らす見返りに一時金支給ないし昇給を提案している。
EDFの過度に甘やかされた労働者の例はフランス全体の病の兆候と見なしたくもなる。労働市場の改革が進められているが、正社員はまだ、他の労働者に認められていないさまざまな手厚い恩恵を受けている。これは雇用主が正社員の採用をあれほど渋る理由の1つだ。
有期雇用契約は今、過去最高水準に達しており、新規採用者の80%を占めている。
フランス人労働者は怠け者か?
幾分皮肉なことに、欧州連合(EU)統計局によると、フランス人労働者の生産性が欧州最高の部類に入り、ドイツや英国の水準を上回っているのは、企業が新たに人員を採用するよりは、むしろ省力化プロセスに投資することを選ぶためだ。
だが、フランス人は我々より多くの余暇を楽しんでいるという認識は、全く間違っている。
実際の労働時間で見た経済協力開発機構(OECD)の国別ランキングによると、フランスの労働者は平均してドイツの労働者より年間100時間多く働いており、ドイツの年間平均1400時間に対し、フランスは1500時間に上っている。
確かに、両国――そして、その他欧州諸国の大半――はこの指標でOECDの加盟国ランキングの下位を占めている。つまり、比較的長い休暇を取ることは、単なるフランスの現象ではなく、欧州全土の現象だということだ。
実際、旅行予約大手エクスペディアは「vacation deprivation(休暇不足)」という見事なネーミングの調査を手掛けており、この調査は欧州の人々が全く苦しんでいないことを示している。
大バカンスの取得は生産性にプラス
欧州の人が毎年取る平均28日間の休暇は世界平均より12%多い。有給休暇と有給公休日に対する法的権利を与えているOECD加盟国のうち、上位12カ国は欧州の国だ。オーストリアが合計35日の有給休暇を与えているのに対し、日本はわずか10日、米国に至ってはゼロだ。
もしかしたら、欧州の人たちの贅沢な休暇手当は、この地域が世界の競争力ランキングで後れを取りつつあるもう1つの理由なのかもしれない。
だが、学術的な研究は、もっと多くの大バカンスを取ることは実際、生産性にとって良いということを示している。
2011年に国際労働機関(ILO)によってまとめられた調査では、大半とは言わないまでも多くの米国の産業で、より短い労働時間がより高い時間当たり生産性と関連していることが分かった。
1950年以降の年間労働時間の増加が時間当たりの生産性と関係した度合いを調べたOECD加盟国18カ国(大半が欧州の国)の分析では、一定の労働時間増加に対する生産性の反応度は常にマイナスだった。
年間労働時間が1925時間の節目を突破すると、労働時間が1%増えるごとに生産性が1%近く低下することが調査で分かった。
EDFと逆のアプローチを取る日本企業
日本の労働市場は欧州の大部分と同じ課題をたくさん抱えている。具体的には、生産年齢人口が減少しており、そのギャップを埋める移民が十分にいないという問題だ。
その日本では、企業は人材を呼び込むことを期待してEDFと正反対の方法を採用している。例えば、商社の伊藤忠商事と衣料品チェーン「ユニクロ」を運営するファーストリテイリングは短時間勤務制を導入しており、政府は労働者が最低でも年間5日は有給休暇を取ることを義務づける法案を提出した。
欧州の企業は日本の問題を抱えたいと思うかもしれない。日本では、ビルの電気を消すことで職員が午後10時以降働くことをやめさせようとした厚生労働省の取り組みが無残にも失敗し、10月には代わりに夜遅くの残業を全面的に禁じるルールが導入される。
だが、生産性の向上は、労働者の勤務時間を延長した結果でもなければ、労働者がコートダジュールやコスタブラバで過ごす年間の週数を減らした結果でもないのだ。
By Sarah Gordon
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/43959
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