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日本の自動車メーカーが、アップルとグーグルに覇権を奪われる日 可能性大といえる理由
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20150605-00010006-bjournal-bus_all
Business Journal 6月5日(金)6時2分配信
●自動車のスマホ化
「自動車が無料になる日が来るかもしれない」
2009年に上梓した拙著『新・プラットフォーム思考』(朝日新聞出版)で書いた一文だ。さすがに近い将来に無料にはならないだろうが、将来、電気自動車(EV)が普及した際には自動車が携帯電話(スマートフォン)に4つの車輪が付いたものになっていき、広告モデルやコマース、保険、自動メンテナンスなどのアフターサービスといった多様な収益源が生まれることで、自動車のビジネスモデルが大きく変わる可能性は十分にあると思っていた。
そして今、自動車のスマホ化が現実化しつつある。
EVのエンジンの部品数は、ガソリンエンジンのそれと比較して100分の1程度といわれている。今後、電池が軽量化され低価格化されれば、多くの企業が自動車メーカーになる可能性はあるだろう。
米テスラモーターズのHP上では、「モデルSは車輪がついたアプリだと考えてください。モデルSはソフトウェアのアップデートにより、常にテスラが開発した最新の機能に更新されます」と紹介されている。ソフトウェアをアップデートすることにより、不具合対応や故障箇所の通知、機能追加ができ、リコール対応をすぐに顧客に伝えることができるようになる。また、ユーザーからのフィードバックや利用データを元に車の走行方法を変更できたり、グーグルカレンダーとカーナビを連携して自動的に目的地を設定したり、電池残量を元に最短ルートを選択したりすることなどが可能になるのだ。
しかし、問題の本質はさらに別のところにある。
巨大なパソコンメーカーであった米IBMが、やがてOSの下請けであった米マイクロソフトに市場の覇権を握られてしまった歴史を彷彿させる出来事が進行中だ。米国では、すでにそうした指摘が数多くされている。
今後多くの自動車はネットワークにつながれ、スマホ化あるいはパーソナル・コンピューター(PC)化していくと予測されている。実際EVにグーグルのAndroid AutoやアップルのApple CarPlayといったソフトウェアが搭載されていくことに、多くの自動車メーカーは同意しつつある。5月26日、韓国・現代自動車の米国法人Hyundai Motor AmericaはAndroid Autoを量産車に採用すると発表した。これはIBMとマイクロソフトの関係を彷彿させる。
PC市場では、ハードウェアはコモディティ化(均質化)していき低価格競争へと突入する一方で、ソフトウェアとマイクロプロセッサというプラットフォームを握ったウィンテル連合(マイクロソフトとインテル)が覇権を握ったことは周知のとおりだ。それと同様に、最終的にユーザーをダッシュボードのOSプラットフォームを提供するグーグルやアップルなどが握り、EVというハードは誰でもつくれるコモディティ化が進む可能性があるのだ。
●ビル・ゲイツの気づき
では、いかにしてビル・ゲイツはOSの下請けからパソコン市場の覇者となれたのだろうか。
その歴史を紐解くと、「戦略的経営者」がいかに長期的な視点で業界全体の未来を予測しながら、今現在の経営判断を行っているかが理解できる。それこそ筆者がプラットフォーム戦略思考【註1】と呼ぶものだ。
残念ながら日本企業の経営者、特にメーカーやコンテンツ提供企業の経営者と話していると、「良いものをつくれば売れる」という「メーカー思考」を信じたい人は依然として多い。実際にヒット商品が生まれることで業績が急拡大する経験をしているからだろう。しかし、残念ながらヒット商品の効果は長くは続かない。常にヒット商品を生み出し続けることが必要なのだ。
もっとも、あの天才スティーブ・ジョブズも元々はメーカー発想の強い経営者のひとりだった。ジョブズはアップルを一度追放され、復帰してからiPodやiTunesという大ヒット商品とプラットフォームを成功させるまで、約20年間プラットフォーム戦略思考について懐疑的だったといわれている(詳細は次稿)。
一方、米マイクロソフト創業者のビル・ゲイツは、かなり早い段階でプラットフォーム戦略思考の重要性に気がついていた。そして、1980年代にはコンピューターメーカーの巨人だったIBMから、その覇権を奪い取ることに成功した。
では、ゲイツは具体的にどのようにして、それを成功させたのか。歴史を振り返ってみよう。
●時代を見通す力と、巧みな契約交渉術
マイクロソフトは、まだコンピューターが研究所や大企業向けの高額な大型装置であったメインフレーム全盛期、IBMから個人向けPC用のOS開発依頼を受けたものの一旦断った。そしてOSを開発していたある企業をIBMに紹介した。しかしその企業もIBMの依頼を断ったため、再びマイクロソフトのもとに依頼がきたのだった。
そこでゲイツはようやく、プラットフォームの重要性に気がつくこととなった。マイクロソフトは当時自社ではOSを開発していなかったので、他社からOSを買い取り、DOSというソフトウェアを開発し、IBMに納品した。マイクロソフトは、IBMがOSの開発依頼をした4社のうちの1社に過ぎなかった。
では、なぜマイクロソフトだけがその後、OS市場の覇権を握るプラットフォーマーとなり得たのだろうか。それは、ゲイツの時代を見通す力と巧みな契約交渉術による。
ここで読者の方々に質問したい。もしあなたが当時のゲイツの立場であったら、以下の3つのどの条件をIBMに提示するだろうか。
(1)高額でIBMにOSを売却(1回だけの売り上げだが高額)
(2)IBMのPCにOSがインストールされるごとに、ライセンスフィーとして代金をもらう(IBMのPCが売れれば、莫大なライセンスフィーを得られる)
(3)開発に要した少額のコスト分だけを請求し、ライセンスフィーもなし
通常のメーカー発想の経営者であれば、(1)を選ぶだろう。またリスクがあるが将来の普及を予測する経営者であれば(2)を選ぶだろう。
しかし、ゲイツが選んだのは(3)だった。もし(1)や(2)を選んでいたら、マイクロソフトは一ソフトウェア開発受託会社として終わっていたかもしれない。しかし、ゲイツは「10〜20年後には個人一人ひとりが、PCを持つ時代がくるだろう。そしてハードウェアは低価格化陳腐化していく中で、ソフトウェアというプラットフォームが覇権を握るだろう」と業界全体の将来像を予測し、それを確信していたのだ。
ゲイツはIBMにひとつだけ条件をつけた。それは「マイクロソフトのOSを、他社にも提供できる」というものだった。
当時IBMはチップを開発し、そのチップがなければOSは作動しない仕組みを採用することで他のPCに模倣されないような対策を打っていたが、IBMは(3)の格安な条件を承諾してしまった。これが、その後の両社の運命を分けることになった。
●業界全体の未来予想
1981年にIBMがPCを発売後、リバースエンジニアリング、つまりIBMの完成品を分解して同様のものを複製する方法によって、コンパックなどの中小メーカーが数多く誕生した。こうした企業たちは、IBMのチップがなくてもOSが動くようにしてしまったのだった。そしてマイクロソフトはそれら中小メーカーに対して自社のOSを極めて低価格で提供することで、一気に90%近い市場シェアを奪うことに成功した。
ここでも、マイクロソフトの契約交渉力が奏功した。「搭載されたPCの台数」ではなく「出荷されたPCの台数」に応じて極めて低い水準のライセンス料を受け取るという契約を結んだのだった。前者の形態でライセンスフィーを得る契約が一般的だろう。しかし同社は、「OSが搭載されたかどうかを確認するのが難しいので、激安価格でよいので出荷ベースで」と交渉したのだった。
すると何が起きたか。メーカーとしては安い上に出荷ベースならば全部にマイクロソフトのOSを搭載してしまおう、と考えた。かくして他社のOSよりもマイクロソフトのOSを搭載するメーカーが急増して、市場シェアをあっという間に奪ってしまったのだった。同社の巧妙な交渉力の賜物といえるだろう。
こうしてIBMからの依頼を一度は断ったマイクロソフトは、目先の利益ではなく10〜20年後の業界全体の未来予想を行い、OSプラットフォームの覇権を握り、今日の成功を築くことに成功した。ゲイツがいかに戦略的な経営者であり、プラットフォーム戦略思考を有していたかがわかる。もっとも近年は、スマホやタブレットが急激に市場を拡大しており、同社はグーグルのAndroidやアップルのiOSに大きく後れをとってしまった。
ちなみにIBMは81年に世界で初めてPCを発売したが、23年後の04年にパソコン事業を中国レノボに売却し撤退したことは周知のとおりだ。
●グーグルやアップルが、クルマの覇権を握る可能性
以上からいえることは、自動車業界も将来ネットワーク化が進み、さらに現在EVの価格の半分程度を占めているといわれる電池の価格が低下すれば、一気に自動車がコモディティ化していき、OSプラットフォームを押さえるグーグルやアップルが覇権を握る可能性は十分あり得るのではないだろうか。
さらに自動車メーカーだけでなく家電製品がIoT(Internet of Things:モノとネットの融合)によってネットワーク化する中で、家電メーカーも含めて日本メーカーの経営陣は目先の課題だけでなく10〜20年後の業界未来図を思い描き、今からハード以外への対策を取る戦略的思考経営を目指すことが求められている。
(文=平野敦士カール/ビジネス・ブレークスルー大学教授、ネットストラテジー代表取締役社長)
【註1】「プラットフォーム戦略」は、株式会社ネットストラテジーの登録商標です。
平野敦士カール/ビジネス・ブレークスルー大学教授、ネットストラテジー代表取締役社長
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