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日本での爆買いパワーを内需に転換できない中国の焦燥
http://diamond.jp/articles/-/72713
2015年6月5日 姫田小夏 [ジャーナリスト] ダイヤモンド・オンライン
今年第一四半期、上海市の百貨店の売上高は160億4400万元となり、前年同期比7.5%の減少となった。昨年上半期、上海市の百貨店は歴史的な落ち込みを経験したが、いまだ低迷が続いている。習近平政権による倹約令や不動産価格の成長の頭打ちなどが、消費マインドを冷え込ませ、上海市の小売市場を鈍化させている。
中国人客の爆買いパワーは止むことがない
ところがその一方で、海外では中国人の爆買いパワーが炸裂している。今年2月後半、春節(旧正月)時の訪日中国人旅行客は10日間で60億元(約1125億円)を消費し、4月上旬の清明節(日本のお盆に相当)の休暇では70億元を消費したといわれている。
この状況を見た中国政府は、爆買いパワーを国内に回帰させるべく策を講じた。それが「日用品の輸入関税引き下げ」である。6月1日からは、一部の衣料品や靴、スキンケア用品、紙おむつなどの輸入品が中国でも購入しやすくなると期待されている。
■以前なら考えられないブランドの「叩き売り」
中国では長期にわたり、内外価格差が存在した。例えば、1000元の化粧品を輸入すると関税が10%、増値税(日本の消費税に相当)が最高17%、消費税(奢侈品に課税)が30%課税され、最終価格は1758元に跳ね上がる。中国の消費者には「中国で輸入品を買えば、常に50%以上も余分に支払わされる」という心理があり、それが国内での消費を妨げる一因となってきた。
さて、その上海で、先月、高級ブランド品のセールが行われた。筆者のスマートフォンに「グッチ、上海全店で50%オフ」の記事が着信したのは5月26日のことだった。すでに成長鈍化の局面にあることはたびたび報道されてはいたが、強気一点張りの高級ブランドが「叩き売り」に出るというのは珍しいことだった。
上海でセールを行った13の店舗には、20〜30代の女性たちの長蛇の列ができた。50%オフならば、海外で免税品を買うような割得感がある。
中国のファッション業界に長年携わる日本人は「ここまでの値引きは初めて見る」といいつつ、次のように話してくれた。
「習近平政権の腐敗撲滅策が贈収賄に関与する役人や富裕層に影響した結果、高級品の売上げ減少につながった。店側は余剰在庫の換金に迫られたというのが実情でしょう」
愛人連れの成金が、平日の昼間から店を貸し切るようにして買い物をしたのは、すっかり過去のものとなり、代わって出現したのは「50%オフなら買える」という新たな購買層だった。
■中国経済の減速で超高級路線に変化が
5月に全館開業した上海新世界大丸百貨の豪華な吹き抜け
中国経済を牽引する上海では、毎年続々とショッピングセンターが新設された。売り場面積は拡大の一途をたどったが、その発展は「高級路線一辺倒」とでもいうべき歪んだものだった。どこのショッピングセンターも海外の高級ブランドがフロアを埋め、「上海の街で買い物」といえば“高級ブランド”と“そのニセモノもしくはB級品”の両極化をたどった。
その北京や上海の小売市場には日本ブランドも進出した。百貨店でいえば高島屋が2012年末、上海の高級市場に乗り込み1号店を開いた。
「当時、上海の高級路線には驚かされた」と高島屋関係者は振り返る。すでに上海市場は日本を上回るケタ違いの高級市場と化していた。上海高島屋もまた「地元ニーズ」を反映すべく、店舗を高級ブランドで固める戦略をとった。
ところが、上海高島屋の出店を前後して世の中のニーズは大きく変わった。中国経済の好循環に変調が出始めたのである。上海高島屋の来店数は予想を大きく下回り、平日の昼間などは閑散として目も当てられない状況となった。
他方、この変化の真っただ中で、今春また日系の百貨店が開業した。「上海新世界大丸百貨」である。立地は繁華街で有名な南京東路であり、観光地「外灘」にもほど近い。営業面積は6万m2、吹き抜けには三菱電機が納入したスパイラルエスカレーターが回転し、一目で贅を凝らした売り場だとわかる。
これは、上海の老舗百貨店である新世界百貨と大丸(J.フロントリテイリング)が業務提携したもので、新世界百貨からのオファーで提携話が進められてきた。ところが大丸側は頭を抱えた。テナントがなかなか集まらなかったからだ。
「店舗の入居はプレオープンの2月時点で2〜3割、3月後半でも8割程度で、開店休業にも等しい状態だった」と明かすのは、現地の事情通だ。ようやくグランドオープンにこぎつけたのは、5月になってからのことだった。
「肝心な1階フロアがなかなか埋まらなかった。オープン遅延の最大の原因はここでしょう」(同)
1階フロアといえば、まさに売り場の顔。数年までは早い者勝ちで高級ブランドが占拠したものだが、時代はすっかり変わってしまったようだ。
■ネットで日本製品を買うのは、店に「ほしいものがない」から
上海高島屋は超高級路線からの転換を図る(c)takashimaya
一方の高島屋は、ここに来て富裕層向けの高級路線一辺倒の戦略を見直し、路線変更に出た。
「百貨店自らマーチャンダイジングする平場を重視し、子連れ需要を満たすような売り場づくりに力を入れました」(同社広報)
その結果、一日当たりの集客は今では1万人に伸びたという。高級品を出せば売れる中国の小売業界だったが、今はどの小売業態も改革を迫られている。改革のカギになるのは“中間層の取り込み”に他ならない。
ある外資シンクタンクのレポートは「上海の小売業態の売り場の課題は、地域密着型のニーズをどこまで反映できるか、ニッチなニーズをどこまで拾えるかだ」とするが、それにはべらぼうに高い都市部のテナント料相場の引き下げが前提となる。
今の中国は、中間層がようやく経済力を蓄えてきたにもかかわらず、売り場には依然「欲しいものはない」。期待の国産ブランドも商品開発の時間とコストを惜しみ、このニーズをつかみ切れていない。
その結果、中間層はインターネット通販に走り、低予算で買える日本製を物色する。中国のネット通販業界はいまや驚異的な成長を遂げ、2015年第1四半期の売買高は231億6400万元、前年比43.1%の伸びとなった。
■日本にあって中国にはない販売員のソフトパワー
では、関税を引き下げ売れ筋商品を輸入すれば、あるいは中間層が欲しがるものを陳列すれば、中国国内でも店頭での爆買いに火がつくのだろうか。かつて上海で欧州ブランドの高級品販売に携わっていた日本人女性は、筆者の取材に対してこうコメントしてくれた。
「近年豪華さを極める中国の売り場ですが、依然中国にはないものがあります。それは『対面サービス』というソフトの力です。訪日観光客の多くがこれに感激し、癒されていることは間違いありません。日本ブランドを中国で買いやすくしたところで、対面サービスまで伴うことはできないでしょう」
日本の売り場での対面サービス、それは単に「ていねいなものごし、やさしい言葉づかい」にとどまらない。ベテラン販売員になればなるほど、顧客の好みを即座に掴み、似合うもの、欲しいものを提案する優れた能力を発揮する。
さらにこの女性はこう加える。
「日本の売り場で対面サービスを担う人々、彼女たちには知識や情熱はもちろん、売場への愛情や仕事に対するプロ意識が非常に高いのです」
面積だけは拡大の一途を遂げるこの中国だが、残念ながら、これらをもって客と向き合うベテラン販売員は育たなかったといってもいいだろう。
日本でも売れる商品だから中国でも売れるのか。この疑問に対する答えは「ノー」であり、「爆買い」が中国回帰することは難しいだろう。日本で爆買いが起きるのは、そこに中間層のほしいものが山とあり、そこで買い物することが彼らにとって大変心地いいからだ。
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