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大病院に自己都合でかかると来年度から「特別料金」、背景に国民皆保険の危機
http://diamond.jp/articles/-/72633
2015年6月4日 早川幸子 [フリーライター] ダイヤモンド・オンライン
5月27日、医療保険制度改革関連法が、自民・公明両党などの賛成多数で成立した。
今回、改革の中心に据えられたのは、国民健康保険の財政基盤の強化だ。
■国民皆保険の受け皿市町村国保は最後の砦
国民健康保険は、国民皆保険の受け皿として整備された日本独特の制度だ。
戦後の混乱が残る1955年(昭和30年)。すでに地域住民向けの国民健康保険を運営する市区町村はあったが、経済的理由で加入を見送る無保険の人が全国に約3000万人もいた。生活保護を受ける原因の6割は病気やケガによるもので、防貧対策の一環として健康保険の必要性が問われるようになる。
そこで、会社員や公務員など勤務先の健康保険(被用者保険)に加入する労働者とその家族以外は、すべて国民健康保険に加入することを義務づけ、1961年に国民皆保険が実現した(離島を除く)。
現在も、会社員や公務員は勤務先の被用者保険、船乗りの人は船員保険、75歳以上の人は後期高齢者医療制度などに加入するが、それ以外の人は市町村国保に加入することが国民健康保険法で定められている。
ただし、この半世紀の間に、国保加入者の内訳は様変わりした。
もともと市町村国保は、その地域で暮らす農業者や漁業者、自営業者などを対象に作られたものだ。しかし、現在では勤務先の健康保険に入りたくても入れない非正規雇用の人、年金だけが頼りの高齢者などの割合が増えている。
保険料収入は少ないのに、加入者の平均年齢が高いので、使う医療費は会社員や公務員などの被用者保険に比べると圧倒的に多くなる。
赤字に苦しむ市町村は多いが、国民健康保険は最後の砦だ。ここが崩れると皆保険制度が維持できなくなり、万一のときに医療を受けられない国民が出る可能性がある。国保財政の立て直しは喫緊の課題となっていたのだ。
■被用者保険に負担を求め国保財政の安定化を図る
今回の改正では、国民健康保険への税金投入を強化し、運営主体も市町村から都道府県に移すことを決定。国保加入者の保険料負担を軽減する一方、大企業の健保組合、公務員の共済組合には負担を求めることになった。
これまで現役世代から後期高齢者医療制度に支払う支援金は、加入者数に応じて負担額が決められる部分が多かった。それを、今年度から加入者の所得に応じて負担する制度に見直していくことになったため、平均所得の高い大企業の従業員や公務員に多くの負担が求められることになる。
また、会社員の健康保険料の算定基準である標準報酬月額の上限も2016年度から引き上げられる。
国民健康保険の負担を減らし、被用者保険の負担を増やす改革内容となっているため、会社員が加入する健康保険組合などからは、「取りやすいところから取っているだけ」といった批判も出ている。しかし、別の角度から見れば「取れるところが他にはない」とも言えるわけで、それだけ国保財政が追い込まれていることの表れでもあるのだ。
今回の改正では、被用者保険の負担増だけではなく、他にも国民全体に影響する次の見直しが盛り込まれた。
(1)入院時の食事代を、1食当たり260円から、2016年度から360円に、2018年度から460円に引き上げる
(2)紹介状なしで大病院を受診した場合に、通常の医療費とは別に5000〜1万円を徴収する制度を2016年度から義務化
(3)患者の申し出によって、保険診療と自由診療の併用を可能にする患者申出療養を2016年度に創設
いずれも受診時の患者負担を増やすもので看過できないが、「今後、なし崩し的に定額負担を求められるのでは…」と懸念されているのが、(2)の紹介状なしで大病院を受診した場合の定額負担の義務化だ。
■紹介状なしの大病院受診は特別料金が義務化される
紹介状なしで大病院を受診した人への特別料金の義務化は、医療機関の機能分化、病院で働く勤務医の負担軽減を目的に導入されることになった(本コラム第88回参照)。
日本の医療制度は、保険証1枚あれば、「いつでも、どこでも、だれでも」好きな医療機関を受診できるのが特徴だ。
本来、大病院はそこでしか受けられない難易度の高い治療が必要な患者が利用すべき施設だが、フリーアクセスがあだとなり、重症軽症にかかわらず、「家の近くだから」「大きな病院のほうが安心だから」など、個人的な理由で大病院を利用することも可能になる。
だが、医師不足の日本では、病院で働く勤務医に過酷な労働が強いられている。さらに、団塊の世代が75歳以上になる2025年になると、医療を必要とする人が増えるようになるため、医療機関の機能分化は待ったなしの状態だ。
そこで、自己都合で大病院にかかると、通常よりも費用が高くなるというハードルを設けて、国は「大病院は難易度の高い手術や化学治療」「診療所や中小病院は慢性期の治療や日頃の健康管理」と患者を誘導することにしたわけだ。
特別料金の対象になるのは特定機能病院(大学病院や国立病院機構など)や入院用のベッド数が500床以上の大病院。診療所や中小病院からの紹介状を持たずに受診した患者に、「選定療養費」という名目で初診時に5000〜1万円を請求することを病院に義務づける。
選定療養費は、健康保険の効かない費用と保険診療の併用を特別に認めた「保険外併用療養費」の枠組みで運用されている。差額ベッド料、予約診療料などプラス料金を支払えば、患者の望む診療時間や療養環境などを利用できるというものだ。
健康保険は適用されないので全額自己負担だが、患者の希望によって利用するかどうか決めるもので、本来は支払いを強要されるものではない。
ところが、紹介状なしで大病院を受診したときの特別料金は、選定療養費の枠組みで運用するのに、徴収が義務化されるという。定額料金をいくらにするかなどを詰めて2016年度から実施されることになっている。
■特別料金を義務化すれば機能分化はできるのか?
では、紹介状なしで大病院を受診した患者から特別料金を徴収すると、本当に国が目指す医療機関の機能分化、病院勤務医の負担軽減はできるのだろうか。
4月16日に全国医学部長病院長会議が発表した「選定療養費と外来患者数についての調査結果報告」に、興味深い報告がまとめられている。
《選定療養費の金額変更により、選定療養費算定患者数の減少、紹介率・逆紹介率上昇について一部確認することが出来ますが、金額変更はあくまでも一端であり、紹介・逆紹介の向上への取り組みを行っている病院が、数値に表れているかと思われます》
つまり、紹介状なしで大病院に来る患者の特別料金を引き上げても、病院の機能分化の効果は低く、それよりも地域の医療機関と連携して患者を紹介し合っている病院のほうが機能分化の効果をあげていることが報告されているのだ。
2013年度の厚労省の中央社会保険医療協議会(中医協)の資料「入院医療等調査評価分科会調査と日本医師会・四病院団体協議会調査との比較について」では、医療機関の機能分化が進まない理由に次のようなことが挙げられている。
「選定療養費をとっていても、紹介状を持たない患者が多数受診すること」
「地域に連携できる医療機関が少ないこと」
「患者数を確保するなど経営上の理由があること」
病院にかかるときは、自分や家族が病気やケガをしたときだ。命に関わる可能性があるとき、5000円〜1万円多く払っても大病院に行きたいと思う人がいるのは無理のないことだ。
反対に、「お金を払えば、自己都合でも大病院で診てもらえる」「たくさんお金を払っているのだから、きちんと診療しろ」とモンスターペイシェント化する患者が増えることにはならないだろうか。
■苦肉の策の選定療養費法的な矛盾はないか?
さらに、法律上の矛盾も生じている。
本来、選定療養費は、患者の嗜好や選択など自由な意志によって、利用するかしないかを決めるもので、医療機関が患者に強制することはできないものだ。それを「義務化」するという。
なぜ、このような矛盾する制度を導入したのだろうか。
実は、大幅な医療制度改革が行われた2006年の改正健康保険法には、保険給付の割合を「将来にわたり百分の七十を維持するものする」という付帯決議がつけられている。患者の自己負担割合は3割以上に引き上げないと約束されているのだ。
そのため、紹介状なしで大病院を受診した場合、保険診療部分に特別料金の上乗せを義務化すると、この付帯決議に抵触することになる。苦肉の策で、選定療養費の枠組みで特別料金の徴収を行うことにしたわけだ。
だが、一度こうした矛盾が通ってしまうと、なし崩し的に「法外な」定額負担を請求される可能性が出てくる。実際に一度は消えた、医療機関を利用するごとに100円程度を徴収する「受診時定額負担」の案も、再び財務省から出されているので、今後の動きを注意深く見守る必要がある。
■日本の医療体制維持に国民ができることは?
紹介状なしで大病院を受診した場合の特別料金の義務化は、多くの矛盾を抱えた制度ではある。だが、5月27日に可決した医療制度改革関連法によって、2016年度から導入が決められてしまった。
家計防衛のためには、何でも相談できる「かかりつけ医」を持ち、病状に応じて専門病院に紹介状を書いてもらうなど、必要に応じて医療機関を上手に使い分けるように心がけたい。
だが、前述したように、この制度が導入されたからといて、医療機関の機能分化、病院勤務医の負担軽減に効果を発揮するかどうかは分からない。
これまでと同様に、自分の都合で大病院を利用し続けると、さらに勤務医の疲弊を加速させ、必要なときに必要な医療を受けられない状況作りに加担することになりかねない。その結果、いちばん困るのは医療を受けられなくなる自分自身だ。
2014年に改正された医療法では、はじめて医療を利用する国民の責務が盛り込まれた。
《医療法 第六条の二の3》
国民は、良質かつ適切な医療の効率的な提供に資するよう、医療提供施設相互間の機能の分担及び業務の連携の重要性についての理解を深め、医療提供施設の機能に応じ、医療に関する選択を適切に行い、医療を適切に受けるよう勤めなければならない。
国民自らも医療を受けるための情報収集に心がけ、適切な行動を取ることが求められているのだ。
団塊の世代が75歳以上になり医療を必要とする人が増える2025年は、もう目前まで来ている。世界に誇る国民皆保険を守り、必要なときに必要な医療を受けられる態勢を維持するには、医療者や行政だけではなく、国民も知恵を出し合って、自分ごととして考える必要があるだろう。
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