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雇用情勢は好転ではなく、むしろ悪化している
http://diamond.jp/articles/-/72636
2015年6月4日 野口悠紀雄 [早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問] ダイヤモンド・オンライン
企業の利益が増大し、株価が上昇している。政府は利益の一部を賃金に還元させるとして、企業の賃上げに介入した。その結果、今年の春闘はベースアップが続いた。他方で、有効求人倍率が上昇している。これらは、雇用情勢の好転を示すものと言われることが多い。以下では、雇用に関する事態は、実は悪化していることを示す。
■春闘での賃上げ率は高かったが現金給与総額はほとんど伸びていない
毎月勤労統計調査によると、2015年3月の現金給与総額の前年比は、調査産業計で0.0%だ(図表1参照)。
業種別に見ると、医療、福祉のみが4.1%増と高い伸び率を示したが、他産業の伸びは押しなべて低い。製造業は0.1%増、卸売業、小売業はマイナス3.2%、不動産・物品賃貸業はマイナス3.4%などである。
以上の状況は、春闘での賃上げ率がかなり高い値だったのと比べて、大分差がある。厚生労働省の「民間主要企業春季賃上げ要求・妥結状況」によれば、民間主要企業春闘賃上げ率は、14年が1.8%、15年が2.19%だ。
このような差が生じるのは、春闘が主に大企業の正社員にかかわるものだからだ。実際には大企業は全体の一部でしかなく、また非正規社員の比率が増大しているために、経済全体の賃上げ率との乖離が生じているのである。
乖離が生じるいま一つの重要な理由は、雇用者増加率の高い医療、福祉は、賃金水準が26万2709円と、調査産業計の27万4536円よりかなり低いことだ。賃金の低い部門が成長し、賃金が高い製造業の雇用が伸びないために、賃金全体が伸びないのである。
名目賃金(現金給与総額)の対前年伸び率の推移を見ると、図表2のとおりである。
13年10月までは対前年比がマイナスになる場合が多かった。しかし、14年3月からは、14年10、11月を除くとプラスの伸びになっている。とくに7月には1.9%というかなり高い伸び率を示した。これは、消費者物価の上昇に対応したものと考えられる。
しかし、それ以降は、消費者物価上昇率が頭打ちないしは低下したため、名目賃金の伸び率も低下気味だ。そして、15年3月には前述のように0.0%になった。
■消費税増税と円安による物価上昇で実質賃金は下落してきた
雇用情勢を考える際に重要な事実は、つい最近まで実質賃金が下落してきたことである。この状況を図表3に示す。
下落は、とくに2014年において顕著だった。この原因の一つは、消費税増税である。14年4月の実質賃金指数は3月に比べて約1.8%ポイント低下したが、これは消費税による物価上昇率にほぼ対応している。
ただし、実質賃金低下は、それによるだけではない。
実際、実質賃金指数は13年6月まで99台であったが、その後低下し、14年3月には97.7になった。12年3月に比べれば、2.3%ポイントの低下である。これは、円安によって消費者物価が上昇したためだ。
つまり、円安は、企業の利益を増大させて株価を引き上げた半面で、実質賃金を引き下げたのである。これが円安の経済効果の本質である。
なお、それは実質消費を減らし、実質経済成長率を押し下げた。
ところで、実質賃金指数は、14年の後半以降、ほぼ94台で安定している。これは、円安の進行が止まったことと、原油価格が下落したことによる。とりわけ、14年12月以降の指数の上昇は、原油価格下落による。
今後しばらくは、原油価格下落の影響で実質賃金は上昇するだろう。
■増えたのはパートタイム労働者 一般労働者は減少傾向
雇用情勢に関するいま一つの問題は、正規労働者への需要が増えているわけではないということだ。
毎月勤労統計調査によって常用雇用の状況を見ると、図表4に示すように、事業所規模5人以上では、調査産業計で前年比1.9%の増となった。しかし、増えているのはパートタイム労働者である(前年比4.6%)。その半面で、一般労働者の伸び率は低い(前年比0.6%)。
業種別に見ると、鉱業、採石業等、不動産・物品賃貸業では、パートタイム労働者が激増する半面で、一般労働者が減少している。製造業でも、パートタイム労働者が2.6%増である半面で、一般労働者はマイナス0.5%だ。
また、飲食サービス業等の伸びが顕著だ(5.5%)。しかし、増加の大部分はパートタイム労働者である(6.9%増)。医療、福祉の伸びも高い(3.1%)が、ここでも、大部分はパートタイム労働者による(4.5%)。
一般労働者の減少傾向は、事業所規模30人以上で顕著に生じている。調査産業計でマイナス0.7%、製造業ではマイナス1.7%、卸売業、小売業ではマイナス8.8%などだ。
賃金の伸びがはかばかしくないことを上で見たが、その大きな原因として、このようなパート労働者の増加がある。
この結果、図表5に見るように、事業所規模5人以上では、すでに3割を超える労働者がパートタイムだ(調査産業計)。卸売業、小売業では4割を超えている。
事業所規模30人以上で見ても、調査産業計で4分の1以上がパートタイムだ。
このように、日本の労働市場は、一昔前とは様変わりしている。このため、先に述べたように、春闘を見ても賃金全体の動向を正しく把握できないのである。
■有効求人倍率の上昇は労働供給の減少による
有効求人倍率が上昇しており、失業率が低下している。また、大卒就職率も高い。これらは、景気が回復したためだと解釈されることが多い。
しかし、実はそうではない。有効求人倍率の上昇は、求職者数の減少によって引き起こされている側面も強いのである。つまり、人手不足、労働力不足が深刻化しつつあると解釈することができる。この状況をやや詳しく見よう。
厚生労働省「一般職業紹介状況」によると、有効求人倍率(季節調整値)は、2009年8月には0.42まで落ち込んだが、その後回復した。そして、13年11月に1を超えた。
15年3月の数値を見ると、有効求人倍率(季節調整値)は1.15となった。
ところで、有効求人倍率は、(有効求人数)/(有効求職者数)によって定義される(有効求人・求職とは、新規求人・求職と、前月から繰り越された求人・求職の合計)。
したがって、有効求人倍率が上昇するのは、有効求人数が増加する(労働に対する需要が増加する)場合だけではない。有効求職者数の減少(労働供給の減少)によっても上昇するのである。
では、実際の有効求人倍率の上昇は、どちらの要因により強く影響されたのだろうか?
13年以降の有効求人数と有効求職者数の推移は、図表6に示すとおりである。
この期間を通じて、有効求人数が増加したことは事実だが、それだけでなく、有効求職者数が顕著に減少したことがわかる。
14年中頃以降は、有効求人数は頭打ちとなっているが、有効求職者数はほぼ一貫して減少しているのである。
15年4月の数字を13年1月と比べると、有効求人数が16.3%の増であり、有効求職者数は16.2%の減となっている。つまり、両者はほぼ同程度の影響を有効求人倍率に与えているわけだ。
■労働需給が逼迫しても名目賃金の上昇は鈍い
労働に対する需要増(労働需要曲線の右方向へのシフト)が供給減(供給曲線の左方向へのシフト)より大きい場合には、労働力は増加する。そして逆なら逆になる。
実際の就業件数のデータを見ると、11年から12年頃には月間で18万人だったのが、最近では16万人台に減少している。したがって、労働供給の減のほうが大きな影響を与えていると考えることができるだろう。
なお、原因が需要増でも供給減でも、需給逼迫は名目賃金を引き上げるはずである。ところが、実際の名目賃金の上昇率はさほど高くない。その原因は、すでに述べたように、非正規の増加、介護部門など賃金水準が低い部門の成長などであろう。
大学卒業者の就職率上昇の背後にも、供給減の影響が見られる。文部科学省の「学校基本調査」によれば、短期大学卒業生と大学卒業生の合計は、1996年に74万9371人のピークになって以降は、傾向的に減少している。14年では62万4370人だ。
有効求人倍率の動向には、これ以外にも問題がある。第1に産業別に見ると、宿泊業、飲食サービス業(18.8%増)、教育、学習支援業(12.3%増)、医療、福祉(10.7%増)などで増加しているのであって、製造業ではない。
第2に、正社員の有効求人倍率は、季節調整値で0.71倍であり、低い。とくに事務職では、0.31という非常に低い値となっている。2を超えているのは、建設、小売り、介護などである。
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