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派遣法改正案はアベノミクスが目指す消費拡大と矛盾する「改悪」だ
http://diamond.jp/articles/-/72637
2015年6月4日 山田厚史 [デモクラTV代表・元朝日新聞編集委員] ダイヤモンド・オンライン
アベノミクスを諦めたのだろうか。安全保障法制と並び今国会の法案で、安倍政権の性格がむき出しになっているのが、労働法制の規制緩和だ。派遣労働を固定化する派遣労働法改正、残業代ゼロ、解雇の金銭解決。実施されれば痛い目に合うのは立場の弱い労働者、それは「家計」でもある。首相が国民に約束したのは景気回復ではなかったか。「個人消費の拡大」が不可欠と分かったから春闘で賃上げを求めた。それなのに家計を委縮させ、将来不安をあおる労働政策を導入する。自己矛盾気味な政策は、首相に取り入る人脈に病根がありそうだ。
■景気回復最後の1ピース 「個人消費」が伸び悩むわけ
景気は回復に向かいつつある、と言われながらも力強さが感じられない。個人消費が奮わないからだ。GDPの70%近くを占める個人消費が伸びなければ好循環は始まらない。振るわない理由ははっきりしている。所得が伸びない。家計の購買力が足らないからだ。
企業は好決算に沸いている。3月期決算は上場企業で純利益が前期比3・5%増、約25兆円にのぼり二年連続で史上最高益を更新した。株式時価総額は60兆円に達し、バブル絶頂期を上回る盛況ぶりだ。
儲かった理由は様々だが、リストラ効果を抜きにして好決算は語れない。長く続いた不況で企業は人減らしと賃金の圧縮に邁進した。その中で正規社員が担うべき仕事を派遣社員など身分の不安定な労働力に切り替えた。労働分配率は年々下がり、膨らんだ利益は企業に溜まっていった。財務省によると企業の内部留保は2012年で304兆円。決算や株価で見る限り、日本経済は「絶好調」である。それでも景気は回復しない。「企業栄えて家計衰退」が個人消費を冷やし、国力を萎えさせているのだ。
リストラは企業業績を好転させた。個別の企業家の判断は正しくても、全体で見れば日本経済を委縮させる。経済学で「合成の誤謬」と呼ばれる現象だ。利潤動機に任せるだけでは解決にほど遠い。政治の出番はここにある。
企業に偏り過ぎた「儲けの構造」を労働側に再分配しない限り内需は盛り上がらない。2兆円の利益を上げたトヨタ自動車も利益は海外で稼ぎ、国内で儲かっていない。国内市場は期待できないから設備投資は海外に。日本でも大企業は多国籍化し、商売に国境はない。だが政府は国内に責任を持つ。国内でカネが回らなければアベノミクスは不発に終わる。
安倍首相が春闘で「賃上げにご協力を」と財界にお願いしたのは方向として正しい。その甲斐あって大企業はベースアップに踏み切り、4月の実質賃金は前年比0・1%の増となった。微々たる伸びだが23ヵ月連続でマイナスだった実質賃金が2年ぶりにプラスに転じた。画期的なことである。
この勢いを更に進めて労働者の取り分、すなわち家計を元気づけることが政権にとって大事なことだ。「安倍さんは本気で個人消費を盛り上げようとしている」と人々に感じさせることが経済の好循環に必要だ。
■異例だった賃上げ要請に逆行 なぜ今、労働者に不利な法改正?
それがなぜ「派遣労働の固定化」や「残業代ゼロ」なのか。やはり企業に儲けさせたいのか、と生活者は思うだろう。円安で食料品など輸入品が値上りしている。電気代や公立高・大学の授業料など公共料金が追い打ちをかける。年金は削られ、医療介護の費用もやがて上がる。将来不安が募る中で、労働者の立場を弱くする法改正をなぜ今やるのか。
不況下の日本は経営の失敗を従業員に転嫁する20年だった。人員削減、早期退職、給与カット、年金削減…。労働側の既得権は剥奪された。その象徴が派遣労働への切り替えである。禁じられていた製造業の派遣労働まで認められ、人が生産ラインの部品のように取り扱われるようになった。
若者は正社員への道を狭められ、中高年にはリストラ不安が付きまとった。家計は消費を抑えるしかなかった。
企業業績が好転した今、これ以上家計にしわ寄せする政策を続ける大義はない。過剰なリストラを修正する時なのに、政府は派遣社員を増やそうとしている。
派遣は「一時的な措置」であり「固定化するなら正社員に」というのがルールである。通訳やコンピューターのプログラマーなど専門26業種に限って派遣に頼ることを例外として認めていた。その例外を止め、26業種も3年を限度にする。専門職と言いながら、実態は普通の社員と同じような仕事をさせる「不正派遣」が横行した。
26業種も3年限りで、というのは「改善」に見えるが、とんでもない、と学者はいう。他の業種と一緒にして、労働組合と話し合えば派遣を継続することができる。「3年限度」どころか永遠に派遣で済ますことが可能になる。3年経ったら隣の課に配転し、また3年で戻す、というやり方が可能だ。会社の人事に組み込み、正社員の仕事が派遣に切り替わる。
人件費を安く済ませたい企業にとってはハッピーだろうが、低賃金で雇い止めの不安を抱える派遣にとっては深刻だ。
女子派遣はセクハラに遭うことも少なくない。抗議しようにも職場に上司はいない。契約を結んでいるのは派遣元の会社であり、派遣先の会社に直接文句は言えない仕組みだ。派遣元にとって派遣先の企業はお客様。文句を言おうものなら仕事を失いかねない。
そんな人たちを増やすことが社会にとっていいことなのか。
「残業代ゼロ」もとんでもない制度である。労働現場でいま問題になっているのは長時間労働ではないか。休みもろくにとれないブラック企業が指弾されている。過重な責任を負わされた末端管理職の過労死が後を絶たない。
年収1000万円を超える限られた職場に適用する、という制度だが、榊原定征日本経団連会長は4月の記者会見で「制度が適用される範囲をできるだけ広げていっていただきたい」と語り、年収条件などを緩めることに狙いがあることを明らかにした。
労働法制の改変は財界関係者が委員を務める政府の規制改革会議などが議論を先導してきた。「小さく生んで大きく育てる」という戦略である。一定のカネを払えばいつでも解雇できる「金銭解決」や、労働時間でなく成果を基準にする裁量労働なども財界主導で制度化が進んでいる。
■職場と家計を元気にすることこそが成長戦略ではないのか
55年体制と呼ばれた保革の対立では自民党=財界、社会党=労組だったが、自民一強でその構造は崩れた。自民党が財界に肩入れし資本側の利益ばかり優先された結果、日本経済は歪んでしまった。家計の衰弱、若者の貧困だけではない。リストラの猛威が職場の活力を痛め、日本独特の「強い現場」が崩壊しつつある。中間管理職や末端労働者の創意とチームワークで発展してきたのが日本企業ではなかったか。ソニーやホンダなど強烈なリーダーを頂いた会社でも、現場の自由な気風が独創的な製品を生み出した。
基礎技術はあってもアップルやサムスンに引き離され、グーグルやアマゾンのような発想が生まれないのも職場の意気消沈に淵源があるのではないか。不況期にリストラしか思いつかなかった経営に責任がある。
職場と家計を元気にすることこそ成長戦略ではないのか。「情けは人の為ならず」。労働者の尊厳を認めることが企業の持続性を高める。
そんな時に政府は消費税を増税して法人税を減税するという。これも自己矛盾を思わせる出来事だ。諸外国と比べ税率が高い法人税を何とかしてもらいたい、と財界が願うのは分かる。しかし、政府は「税と社会保障の一体改革」を進めている。財政が危機にある時に、史上最高益に潤う企業に税金をまけてやるのが妥当だろうか。その財源を外形標準課税に転嫁し、赤字企業から税金を取ろうという。本末転倒である。
自民党の野田毅税制調査会会長が首相に直談判した、という。
「野田会長は『法人税を減税する状況ではない』と進言した。ところが首相は『そう考えるなら税制調査会会長を辞めてください』と切り返し、野田会長は二の句を継げなかった」
自民党税調の議員はそう明かす。「物言えばくちびる寒し自民党」という状況である。直言すると切られるのでは誰も正論を言わなくなるだろう。
異論を効く耳は持たない、耳障りの悪い意見は排除する、という暴君に安倍晋三はいつからなったのか。
「安倍さんの頭には55年体制がまだ残っていて、敵と味方を単純に峻別する」といわれる。安倍さんは近づいてくる人の意見を素直に聞くともいわれる。では誰の意見を聞いているのか。
■安倍政権を取り巻く人々の「戦略的互恵関係」
幕下突出しのような形で首相になった安倍がまず頼りにしたのは「お友達」である。二世議員仲間や思想性が近い議員たちだ。
「安倍さんは自分より背の高い人は友達にできない」と自民党のベテラン議員は言う。身長のことではない。優秀に思える人には近づかない、という意味だ。
議員では塩崎恭久、山本一太、世耕弘成、根本匠、高市早苗など。それぞれ優秀な人たちだが安倍さん同様、行政経験は少ない。
次は「ブレーン」。首相の座から降りて不遇だったころ、話し相手になってくれた学者やその仲間である。学者では財務省OBの本田悦郎、高橋洋一、イェール大学名誉教授の浜田宏一などがいる。お札をじゃんじゃん刷ってインフレを起こせば景気はよくなる、と金融超緩和を吹き込んだ人たちだ。
実務を担っているのは「官邸官僚」である。父・晋太郎が大臣を務めた経産省、外務省から側近を集めた。政務秘書官の今井尚哉は第一次安倍内閣で経産省派遣の秘書官だった。原発やTPPが重要課題になった第二次内閣でお側用人に納まった。外務省からは事務次官・アメリカ大使を経験した谷内正太郎を官房参与として迎え、首脳外交の下工作を委ねている。
自民党政権は伝統的に霞ヶ関官僚体制の上に乗って行政を進めてきたが、霞ヶ関の筆頭官庁と見られてきた財務省とは隙間風が吹いている。ブレーンの学者は「アンチ財務省」で、その間隙をぬって経産省が官邸に根を張り内政を仕切る。象徴が経済財政・TPP担当の甘利明だ。商工族で電力会社と近く、経産省のエネルギー政策の後見人だった。原発再稼働を目指す経産省は、甘利を内閣の要に据えることで政権に足場を固めた。便乗したのが日本経団連をなど財界だ。甘利が仕切る産業競争力会議や規制改革会議を通じて、財界の都合にいい政策を振り付けている。
「安倍さんは経済政策には興味がない。成長戦略は経産省に丸投げ。法人税も労働法制も成長戦略に欠かせない、と説明され、側近の言うなりだ」
官邸事情に詳しい官僚はそう指摘する。安倍政権の特徴は「戦略的互恵関係」という見方がある。日中関係で使われる外交用語だが、その意味するところは、自分の利益を実現するため、腹の内は隠して仲良く振る舞うこと、である。
「側近やお友達でも心から安倍さんを心配したりリスペクトする人はほとんどいない。総理大臣という権力を利用したい人に取り巻かれているさみしい人です」(自民党議員)
権力に群がり、それぞれが利用しあう関係は政治の世界で珍しくないが、それを承知で全体のバランスを調整することがリーダーの仕事だ。
リーダーに見識がないと、都合よく毟られる。原子力産業に関係するある財界人は「安倍さんは好きにはなれないが、彼のいるうちにいろいろしてもらわなければならないことがある」と親しい記者に漏らしたという。
労働法制も法人税減税も原発再稼働も経産・財界連合で粛々と進められている。
「安倍さんの関心は憲法改正。その間隙をついて経済政策は側近のやりたい放題」
自民党からもそんな声が出ている。
安倍一強と言われながら、政策の中枢にぽっかり穴が開いている。国民経済はどうなるのか。安倍さんにとってそれはどうでもいいことなのかもしれない。
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