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日本企業よ、アフリカに針路を取れ!
http://diamond.jp/articles/-/72281
2015年6月1日 米倉誠一郎 ダイヤモンド・オンライン
僕が最初にアフリカに行ったのは2011年のこと。南アフリカのプレトリア大学のビジネススクール[GIBS = Gordon Institute of Business Science]で「震災後の日本復興」について学会発表するために数日訪れたにすぎないのだが、それから2年後の2013年、突如アフリカと深い縁を持つことになる。GIBS内に設置された日本研究センターの二代目所長に就任してしまったのだ(現在は、同センターの体制変更により、所長から顧問に就任)。
日本研究センターは、日本と南アフリカの国交樹立100周年を記念し、南アでトヨタ自動車の製造販売を手がけてきたブラッドリー家が中心となった基金により2011年に設立された研究機関だ。日本と南アにおける学術・ビジネス・人的交流のハブとなり、両国の相互理解を深めることを目的としている。
南アフリカの行政首都・プレトリアにあるGIBS日本研究センター
■両国の間に横たわる相互理解の薄さ
僕がこの所長を引き受けることになったのは、冒頭に書いたとおり、2011年に招かれて行なった学会発表がきっかけだった。「日本の強靱性」をテーマに日本のポテンシャルについて語ったのだが、逆にそのとき痛感したのは、現地の人が日本のことをほとんど知らないということ。韓国や中国と比べて、南アにおける日本の存在があまりにも薄いという現実に愕然とした。
お互いのことをもっと知れば、日本と南アは絶対に良いパートナーになれるはず――そう思った僕は、その一助を担いたいと所長就任の話を受けることにしたのだ。
だが、相手のことをよく知らないのは、われわれ日本人も同じだ。南アというと、2010年に開催されたFIFAワールドカップが記憶に新しいところだが、多くの日本人が抱く南アの印象といえば、かつての人種隔離政策(アパルトヘイト)や、犯罪率の高い危険な国といったところが大半かもしれない。
しかし一方で、南アは名目GDPで世界33位、アフリカ諸国のなかではナイジェリアに次ぐ経済大国でもある。1人当たりGDPでは85位(6621ドル)と、中国の83位(6958ドル)と大差ない。しかもこのマーケットには、巨大な貧困層に加えて、「ブラック・ダイアモンド」と呼ばれる黒人中間層が急速に伸びている。アフリカに進出するならば、最初にベンチマークすべきマーケットなのだ。
そこで僕が所長就任後に手がけたのは、なるべく多くの日本人を南アに連れて行くこと。この2年間で計3回、約60人のビジネスパーソンを連れた現地視察ツアーを敢行した。その理由はもちろん、多くの日本人に南アを知ってもらいたいから。とくに、いま世界から注目集めている「BOPビジネス」、その主戦場であるアフリカの現場をその目で見て、肌で感じてほしかったからだ。
昨年2014年8月の視察団。大学生3人を含む計30人が、10日間にわたり現地を視察した
■世界一を狙うなら避けて通れない市場
ちなみにBOP(Base of Pyramid)とは、世界人口の最下層を占める約40億人を指す。彼らは1日2ドル以下で生活しており、20世紀まではビジネスの対象にはなりえないと思われていた貧困層だ。しかし2005年、ミシガン大学の故C・K・プラハラード教授がその著書『ネクスト・マーケット』のなかで、この広大なマーケットが持つ大きな可能性について最初に提唱したのだ。
プラハラード教授がその可能性を提唱したBOP層。40億人の巨大マーケットに世界が注目
それから10年、それは現実化した。いまや、この層をターゲットに世界中の企業がしのぎを削ってビジネスを展開し始めている。なかでもアフリカはその巨大なBOPマーケットの一角を占めており、世界一を狙うならもはや避けては通れない市場だ。実際、ネスレやコカ・コーラといった名だたるグローバルカンパニーが、現地に適したサイズ、価格の商品を投入。世界シェアを拡大している。
もちろん、日本もアフリカに進出している企業は多くある。しかしその多くは資源・インフラ分野が中心。BOPビジネスの主役ともいえる消費財メーカーの多くはアジア止まりで、アフリカへの進出はまだまだ少ないのが現状だ。
なぜならアフリカには、治安への不安や、インフラや人材不足の面も多く、ビジネスにおけるトランザクションコストが高くつくため、二の足を踏んでいる日本企業も多いだろう。しかし、それ以上にハードルとなっているのは「マインドセット」。つまり、このマーケットに対する思い込みや誤解である。
ヨハネスブルグの黒人居住区(タウンシップ)内にあるBOPショップ。現地の人が買い求めやすいよう、小さなサイズで売られている。日本の文具メーカー「パイロット」もアフリカでBOPビジネスに挑戦している
■マインドセットを変える4つのポイント
この巨大な新マーケットと向き合うためには、マインドセットを変えなければならない――それを教えてくれたのは、プレトリア大学のビジネススクール(GIBS)で教鞭をとる新進気鋭の経済学者タシュミア・イスマル女史だ。彼女はアフリカBOPビジネス研究の第一人者であり、著書『ニューマーケッツ・ニューマインドセット』のなかで、4つの重要なポイントについて説いている。僕ら南ア視察ツアーの一団は、旅程のなかでその真髄を直接聞くことができた。簡単に紹介しよう。
アフリカBOPビジネス研究の第一人者タシュミア・イスマル氏。彼女の著書(写真右)は、タイトルとおり、「新たなマインドセット」の重要性を説く
1)(きわめて当たり前のことだが)BOP市場とは、地理的・政治的・経済的・社会的にも全く異なるところだということを、徹底的に理解すること。
→インドやアフリカなどのBOP市場は、これまで以上の現地化や長期的コミットメントが求められる。その覚悟がないと、中途半端なままに撤退に追い込まれてしまう。
2)貧困層だからこそ最高のものを。なぜなら、彼らは何度でも消費できるわけではない。だからこそ、品質を重視している。安かろう悪かろうではダメ。おざなりな商品戦略は決して立ててはいけない。
→貧困層が品質を重視するという点は、日本企業にとっては追い風だ。価格だけでは、高い世界シェアを持つグローバルカンパニーや、中国をはじめとする新興勢力などにはなかなか勝てない。しかし、品質を中心に、丁寧なマーケティング戦略を立てれば、日本企業にも勝機はある。
3)貧困層は単にモノを買う層ではなく、消費以上の購買体験を求めている。
→これは先進国でも同じことが言えるが、消費者は単にモノを買うだけの存在ではない。多少高くても消費者が満足する品質とは何か。丁寧な商品説明や、消費者との長期的なコミュニケーションも重要だ。
4)貧困層の立場で考え、行動する。第三者の視点、つまり先進国視点の戦略では、決して成功できない。
→BOP市場で成果を上げるには、彼ら貧困層がどのようなライフスタイルを好み、実際どのような生活環境で暮らしているかを徹底的に理解する必要がある。そのためにはやはり現地に長期滞在し、コミュニティにしっかりと入り込まねばならない。2年ぐらいの任期でくるくると担当者が変わるようでは、現地の情報も信頼も得ることはできない。
■左手のイノベーションが市場を拓く
これら4つのポイントに共通するのは、「先入観を捨てよ」ということ。自分たちがこれまで培った成功モデルや常識から離れ、ゼロベースで市場を見なければならないということだ。もちろんそれは簡単なことではない。いわば、慣れた“利き手”を使うことを封印するようなものだからだ。いやむしろ、その利き手が通用しない、というのがこのBOP市場なのだ。イスマル女史はさらにこう語った。
「BOPビジネスでは、利き手ではないほうの手、つまり左手を鍛えることが重要です。多くの企業はこれまで、利き手である右手を使い、従来のマーケットで成功してきました。
しかし、BOPのような新たな市場では反対に、利き手ではない左手を使って、異なるニーズに対応できる製品やサービスを開発しなければならないのです。つまり、“左手のイノベーション”が新たな市場を切り拓くのです」
イスマル女史の指摘どおり、企業がグローバルで戦うためには、「市場に合わせて右手と左手の両方を使いこなす器用さが必要となる。むしろ、これからの時代は、BOPという成長を続ける巨大市場を取り込むためには、 “左手の存在”がより重要になってくるだろう。しかしながら、日本企業はこの左手がまだうまく使えていない。
しかし、成功事例がないわけではない。イスマル女史は、左手をうまく使い始めている日本企業のひとつとして、ある企業を挙げた。
「それは富士フイルムです。かつてフイルム市場を二分していたのはコダックと富士フイルムですが、その後のデジタル時代の到来で両者の明暗は大きく分かれました。コダックは旧来のフイルム事業にこだわりすぎたあまり、時代の波に飲まれ、ついには消えていきました。
一方、富士フイルムは、デジタル時代に対応しただけでなく、将来を見据えて新たな製品開発を行なったのです。つまり、右手でしっかりと従来のビジネスに向き合いつつ、左手でイノベーションに挑戦していたということ。その結果、化粧品やサプリメントなどのヘルスケア事業が生まれ、異業種進出もできたのです。この右手と左手を使いこなす力が、これから多くの企業に求められていきます」
■BOPで日本のお家芸復活を
さらに、左手でイノベーションを起こす有効な方法が、「フルーガル・エンジニアリング(frugal engineering)」だ。つまり、低資源・低予算でより良いものを作ること。エネルギーも購買力も限られている途上国だからこそ、余計なものをそぎ落としたシンプルかつ機能的な製品が求められている。近年、オーバースペックと揶揄される日本のモノづくりでは、このBOP市場ではとても太刀打ちできないのだ。
しかし僕は、この市場こそ、日本が再び世界に存在感を示す大きなチャンスだと感じている。かつての日本企業はみんな、少ない資源のなかでより安くより良いものを作ることがお家芸だった。世界の人たちが、「どう考えてもこっちのほうが安くていいじゃないか」と日本の製品を高く評価してくれたことを思い出してほしい。いま、日本企業に求められているのは、その頃の精神だ。そしてそこに、これまで日本が磨き上げてきた環境負荷の少ないテクノロジーが加われば、途上国の人たちに喜ばれる製品やサービスがきっと生まれるはずだ。
日本のビジネスパーソンたちよ、いまこそビジネス新大陸アフリカに針路を取ろう。自らの足で現地に赴き、自分の目で確かめよう。BOPビジネスの主戦場・アフリカに、きっとその答えはある。
【筆者からのお知らせ】
今回の記事の中でもご紹介した、僕が企画/同行コーディネーターを務める「南アフリカ視察ツアー(主催:JTB)」を今年も催行します! 最後のフロンティア「アフリカ」を見ずして、21世紀は語れない。自分の目で大地の躍動を確かめ、日本がどうやって生きていくのかを考えましょう。ライオンにもキリンにも会えますよ。
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