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6月の株主総会でも決算説明ができない異例の事態に Photo:Takahisa Suzuki
東芝の不適切会計が示すガバナンス欠如の重い代償
http://diamond.jp/articles/-/72397
2015年6月1日 真壁昭夫 [信州大学教授] ダイヤモンド・オンライン
■電機の勝ち組が起こした不祥事 過去の例では信頼回復に長い時間
東芝は4月3日、2014年3月期のインフラ関連工事の会計処理に不適切な手続きがあったとして、室町会長をトップにした特別調査委員会を設置すると発表した。
それに続き5月8日、同社は委員会の調査に基づき不適切な会計処理が見つかったとして、15年3月期決算の公表を6月以降に延期し、期末の配当を見送ると発表した。さらに、5月13日深夜、14年3月期までの3年間に、インフラ関連工事に係り約500億円の営業利益がかさ上げされた可能性があると公表した。
大手電機メーカーの中で“勝ち組”と言われる同社で、発表のように不適切な会計処理がなされていたことは、金融市場から大きな驚きとして受け止められている。
特に、問題が内部告発によって表面化したことも注目される。同社のガバナンスの機能が働いていないことを意味するからだ。
不適切な会計処理については、過去にもIHIやオリンパスなどに例はあるものの、いずれのケースでも当該企業が金融市場からの信用を取り戻すために多くの時間を要している。
今後、東芝は、外部委員による厳格な調査を行いその結果をすべて公表するとしているが、不適切処理発生の背景や、経営陣の関与の解明などすべてを解明するのは容易なことではないだろう。
3月決算の上場企業には、6月末の決算書類提出が義務づけられているが、5月29日にはその提出も8月末に延期するとした。同社の行く道はより厳しくなるはずだ。
■問題となった“工事進捗基準” 悪用すれば重大な背信行為
今回、同社の会計処理方法で問題となったのは、インフラ工事などに係る“工事進捗基準”と言われる会計処理手法だ。
一般的に、企業は製品を売った場合、その時点で売り上げを計上し、それに該当する原価を立てることによって期間損益を計算し、決算書類を作成することになる。
一方、インフラ工事などのケースでは、工事に数年間を要することが多いため、工事がすべて完成した時点で売り上げを計上すると、決算数字が大きくぶれることになりやすい。そこで、工事の進み具合に応じて、売り上げや収益を各年度に割り振る処理を行う。それが“工事進捗基準”の処理の仕組みだ。
実際には工事に取りかかる時点で、工事に掛かる費用を見積もり、その費用を基準にして売り上げを計上する。総費用が10億円の工事があるとすれば、1年目で費用が2億円掛かったとすると、全体の売り上げの5分の1の売り上げを立てるのである。
問題は、工事費用を過小に見積もったり、工事着工後、費用が増加することを考慮しなかったりすると、その手法によって適正な会計処理を行うことができず、売り上げや利益が特定の期間に過剰に計上される懸念があることだ。
この手法を恣意的に利用すると、経営者など特定の人が、故意に企業の決算を歪めることも可能になる。それは大きなリスクだ。仮に経営者が、意図的に企業の虚偽の決算書類を作成=粉飾決算を行えば、投資家など企業利害関係者=ステークホルダーを欺いたことになる。
その場合には、株主からの付託に対する重大な背信行為となる。その意味で、今回の東芝のケースは深刻な事態の発生と考えるべきだ。
■表面化の契機はなぜ内部告発だったのか それこそが東芝が抱える最大の問題
今回の事例に関して、見逃せないポイントが二つある。
一つは、問題が表面化するきっかけだ。東芝の会計処理に不適切な手法が見つかったのは、同社内部の関係者による証券取引等監視委員会への内部告発だと報道されている。
逆に考えると、内部告発がなければ、問題は表面化せず同社の不適切な会計処理がこれからも続く可能性があった。不適切な処理が行われると、同社の決算書類上の売り上げや利益は歪んだ数字が提示される可能性がある。それは、株主などの利害関係者を欺く重大な瑕疵だ。
そうした事態の発生を防ぐために、多くの企業は内部の管理システムを作り、常にガバナンスが働くよう努めている。東芝ほどの大企業になると、本来はしっかりしたガバナンスのシステムがワークしているはずだった。
ところが、今回のケースを見ると、内部のガバナンス機能では不適切な処理を見つけることができなかった。つまり、システム自体が上手くワークしていなかったということだ。それでは、投資家などからの十分な信頼は得られない。
もう一つのポイントは、問題について気付いた人が内部にいたにもかかわらず、その問題意識は内部のシステムで拾い上げることができなかったことだ。
本来、企業内で不適切な事象が発生している場合には、問題を逐一拾い上げて、解決に向けた処置がとられることになっている。そうした問題発見と、それに続く解決へのプロセスもガバナンスの重要な一部であるはずだ。
しかし、東芝の件では、問題に気付いた人は外部の機関に直訴することを選択した。その背景には、企業内のガバナンス機能に対して問題を指摘し難い、何か不都合な要因が存在したと見られる。その不都合な要素こそが、東芝が抱える最も重要な問題点と言えるかもしれない。
■東芝だけの問題ではない ガバナンス欠如がもたらす社会的コスト
今回の件で同社については様々な意見が寄せられている。その中には、「背景には社内の派閥争いが関係している」といったものや、「部門ごとの収益管理が厳しいため、中間管理層が意識的に行ったのではないか」との指摘もある。
そうした見解の真偽は定かではないが、このような問題が表面化すると、当該企業に対する人々のイメージが大きく害されることは間違いない。また、金融市場の投資家から見ても、当該企業に対する信認が低下することは避けられない。
しかも、同社の経営者が取ったアクションがやや迅速さを欠いたとの批判は多い。ニューヨーク在住の市場関係者の友人からは、「東芝の対応は日本時間」という皮肉メールが来た。彼らからすると、「これでは、企業ぐるみで粉飾を行ったと見られ投資家が手仕舞う恐れがある」と感じられるのかもしれない。
実際、迅速にしかも真摯な姿勢で対応することによって、人々の印象が違うことは十分に考えられる。そうしたリスク対応も、企業経営者の重要なガバナンス機能の一つと考えるべきだ。
このケースは単に東芝だけの問題ではない。むしろ、多くの企業にかかわる問題だ。従来から、わが国企業はガバナンス機能が弱いと指摘されてきた。だからこそ現在、社外取締役の拡充などを通して、しっかりした企業統治の機能を構築する方向に進み始めている。
今回の問題によって、国内外の投資家の目が一段と厳しさを増すことにもなりかねない。企業経営者は、会計処理の問題等で企業イメージが低下したり、投資家から信任を失うマイナスは大きいことを肝に銘じるべきだ。
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