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コラム:円安に冷めた海外勢、年後半に円高シフトか=佐々木融氏
2015年 05月 29日 17:15 JST
佐々木融 JPモルガン・チェース銀行 債券為替調査部長
[東京 29日] - 筆者は現在、英ロンドンに出張中だが、最近のドル円相場の急速な上昇に対する現地ヘッジファンドと機関投資家の反応はかなり冷静で、若干冷めた印象すら受ける。
ドル円相場は過去2週間で大幅にドル高・円安が進み、2007年6月に付けた124.14円を上抜け、2002年12月以来12年半ぶりとなる124.46円まで上昇した。しかし、今回のドル円上昇は、実は「ドル高」によるところが大きい。
ドルが上昇を始めた5月18日以降の主要10通貨の騰落率を見ると、ドルが圧倒的に強くなっており、上から6番目の円に対して4%上昇している。2番目に強かった英ポンドは対円で1%程度しか上昇していないことを考えても、ドルが圧倒的に強いことが分かる。
ちなみに、この間最も弱かったのはノルウェークローネで、円に対しても3%下落している。その次に弱い豪ドル、ユーロもそれぞれ対円で1%程度下落している。
日本人にとっては、ドル円相場が12年半ぶりの高値を更新したことに特別な感情があるが、ロンドンの投資家からすれば、全体的な「ドル高」の中の1つの動きにすぎない。ここからさらにドルが上昇すると予想している投資家は多いが、12年半ぶりの高値を更新している対円でドルロングポジションを積み上げるより、直近の高値さえ超えていない対豪ドルや対ユーロでドルを買った方が良いと考える投資家が多いのである。
例えば、ドルはノルウェークローネに対して過去2週間で7%超上昇しており勢いがあるが、3月中旬に付けたドルの高値に比べると7%もドル安水準にある。ドルに対して強気なら、わざわざ対円でドルを買わなくても、勢いがあり、まだ上値余地が十分にありそうな対ノルウェークローネで買った方が良いと考えるのは自然なことだろう。
<政策変更を伴わない円安の限界>
また、今回のドル円上昇は、日本サイドの政策変更などを伴っていないという点で、過去2年半の動きとは異なるとの声も聞かれている。2012年11月にアベノミクスがスタートし、2013年4月に日銀が量的・質的緩和政策を導入して以降、ドル円相場がそれまでのレンジを上抜けて大きく上昇トレンドをたどったことは4回あった。それぞれについて見ると、確かに1回のやや小さめな動きを除くと、その他の3回は日本の政策変更を伴った円安となっている。
最初のケースは、2012年11月から2013年5月までの約半年間で、79円台から103円台まで30%も上昇した。この時は言うまでもなく、安倍政権樹立、日銀によるインフレターゲット導入、量的・質的緩和政策の導入があった。
2回目は2013年11月から12月までの2カ月間で、97円台から105円台まで約8%上昇した。この時は目立った政策変更はなかったが、レンジをやや長めにとって2013年5月頃からで見ると、レンジの上限だった104円近辺を1円程度上抜けただけであり、他と同列に論じるほど目立った上昇だったとは言えないかもしれない。
3回目は2014年7月から9月までの3カ月間で、101円台から110円台まで約9%上昇した。この時は年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が基本ポートフォリオを変更し、リスク性資産を増やすとの思惑が強まった時期で、実際のフローデータでも日本人投資家による外国株投資増の痕跡が見え始めた時期だった。
また、黒田日銀総裁が昨年9月4日の金融政策決定会合後の会見で、「今の水準から円安になることが、日本経済にとって何か非常に好ましくないとは、私は思っていない」と発言したことも、日本の当局が円安進展を問題と感じていないというメッセージを事実上送ることになった。
4回目はそのすぐ後の10月末から12月までで、109円台から121円台へ約12%上昇した。これは言うまでもなく、10月31日の日銀追加緩和が背景となっている。
一方、今回のドル円上昇は、今のところ2週間で119円台から124円台まで約4%の上昇となっているが、特に日本サイドで政策や当局のスタンスが変わったという兆候や事実は確認できない。これがロンドンの投資家からすれば、わざわざドル円に対してさらに強気になる必要性を感じさせない一因になっていると考えられる。
また、円相場のファンダメンタルズも過去2年半とは大きく異なっている。過去2年半の円安は貿易収支の急激な悪化が背景の1つとなっていたが、現在、貿易収支は急速に改善している。この結果、今年の経常黒字は、大幅に減少した昨年に比べて6倍以上の規模になりそうだ。当然、円買い需要がその分増えている。
さらに言えば、過去2年半は日本の当局が円安を支持しているとの確信がありながら円を売ることができたが、今回はそうではない。いつ円安けん制発言が出てくるかビクビクしながら円を売る必要がある。また、日本からの対外証券投資も、昨年後半から今年初めにかけての勢いと比べれば、明らかにフローが細ってきている。
<中期的には110円台トライか>
そもそも円はすでに大幅に割安となっている。実質実効レートベースでは1970年以降で最も割安な水準にある。ロンドンの物価がもともと高いということもあるが、現在の「1ポンド=190円」で換算すると、ほとんど全ての物が日本の2倍の物価に感じる。
ある程度開き直って「1ポンド=100円」のつもりで生活しないと何も買う気もしないし、地下鉄に乗る気も起きない。地下鉄は割引になるカードを使っても初乗り2ポンド以上、つまり400円もする。円の購買力は惨めなほど弱くなっている。
こうした様々な要因を考えると、今回のドル円上昇は過去2年半の大幅な上昇とは異なり、それほど大規模なものにはならない可能性が高いのではないだろうか。
先週の当コラム(here)で指摘したように、ドル円相場は過去25年間、年前半のレンジのどちらかを必ず年後半にブレークしている。過去25年間の最小レンジは10%で、その次に狭いレンジは12.8%だ。今年のボトムがすでに付けている115.85円だと仮定して、年間レンジが12.8%になるとすると、ドル円は130円台まで上昇することになる。しかし、今年のピークが今週付けた124.46円だとすると、ボトムは110円台となる。
これから6月に入るが、まだ年前半だ。筆者は、円相場を取り巻くファンダメンタルズの変化を勘案すると、年後半は110円台方向を試しに行く可能性が高いのではないかと見ている。
*佐々木融氏は、JPモルガン・チェース銀行の債券為替調査部長で、マネジング・ディレクター。1992年上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月にJPモルガン・チェース銀行に入行。著書に「インフレで私たちの収入は本当に増えるのか?」「弱い日本の強い円」など。
*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here)
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPKBN0OE0FA20150529
焦点:物価基調は食品などで強めに、エネルギー下落との攻防
2015年 05月 29日 18:11 JST
[東京 29日 ロイター] - 4月全国消費者物価指数(除く生鮮、コアCPI)は、前年比プラス0.3%と一部で予想されていたマイナスへの転落を免れた。円安コストや人件費などを価格に転嫁する動きが進み、物価上昇品目数は増加し、物価の基調は食品などで強めに変化する兆しを見せている。
とはいえエネルギー価格の下落を主因に6月以降はマイナスとなりそうで、予想インフレ率の下振れを重視する日銀の判断に、市場の注目が集まりそうだ。
4月コアCPIのプラス0.3%には、一部公共料金などの消費増税分の転嫁が昨年5月にずれ込んだ影響(0.3ポイント)が含まれ、それを除くと前年比横ばいとの解釈が成り立つ。
政府・日銀が重視するコアコアCPI(生鮮食品とエネルギー関連などを除くベース)は、今年1月から4月まで前年比プラス0.6%での推移が継続。3、4月は前月比でも0.1%ずつ上昇している。
ニッセイ基礎研究所・経済調査室長の斉藤太郎氏によれば、物価の上昇している品目数が、4月は3月より増えて319品目と全体の61%を占め「基調的な物価上昇圧力の強さを示している」という。
先行指標とされる5月東京都区部コアCPIも、4月に続き前年比プラス0.2%となっている。
物価の上昇は、外食など食品関連で顕著だ。牛丼の物価指数は1月以降、全国ベースで前年比17%以上の高めの伸びが続いている。5月の東京都区部でも、牛丼は28.6%も上昇。
このほか5月の都区部では、持ち帰りすし10.3%、アイスクリーム8.3%など食品の値上げが目立っている。このため生鮮食品を除く食料全体で5月は1.2%上昇し、4月より0.1ポイントプラス幅が拡大。電気代や都市ガス代が指数を押し下げるなかで、物価を下支えした。
POSデータを利用して全国スーパーなどの食品や日用品の価格から東大日次物価指数を作成・公表している東京大学の渡辺努教授によると、東京都区部でPOSの対象品目の物価上昇率が今年3月を底に、4月、5月と上がっていると指摘。「どの程度品目間の広がりが出てくるか、もう少し様子をみないとわからないが、消費者物価指数の基調に4月以降、変化が生じているとみてよい」と指摘している。
こうした物価の基調変化の背景には、値上げに対する企業の抵抗感が薄れていることもある。ロイターの4月企業調査では、今年の値上げを予定する企業の割合は1月時点より6ポイント増えて38%に上昇した。原材料コストの転嫁を予定する企業割合が7割と多いが、人件費上昇の転嫁も3割と1月より相当増えている。
コスト上昇を企業が価格転嫁していける状況は、「物価の基調」を重視する日銀の想定に沿った動きといえる。
とはいえ、表面上の物価がマイナスに落ち込む今年後半、日銀がそれを看過できるのか、という点は予断を許さない。原油や天然ガスの価格下落を反映して電力各社が7月以降値下げを打ち出しており、「電気代の値下げで全国コアCPIは、今後下落基調をたどり、10月はマイナス0.8%まで落ち込む」(SMBC日興証券・シニアエコノミストの渡辺浩志氏)との予想も出ている。
物価の基調的な動きについて、価格転嫁を吸収するほどの需要の強さが持続できるか、不透明な部分もかなりある。
昨年以上の賃上げ実現や株高による資産効果に期待がかかるが、自動車を筆頭に家電など耐久消費財の売れ行きはさえない。その影響で、自動車や家電は4─6月に減産となる見通しだ。日銀が重視する労働と設備の需給ギャップの改善は、緩やかなものにとどまる可能性もある。
さらに足元で円安が一段と進行する中、昨年にみられたように輸入コスト上昇に伴う中小企業の収益悪化や家計の実質所得の減少が、消費を抑制することになるのか、その点も懸念材料だ。
現実の物価指数が下がれば、日銀の黒田東彦総裁がかねがね指摘してきたように、期待インフレ率の低下にもつながりかねない。政府・日銀が言うように、賃金─消費─物価へと続く好循環が始まろうとしているのか、あるいはそれを阻害するリスクが高まってきたのか。その判断は、これから数カ月の間に出てくる経済データにかかっている。
(竹本能文、中川泉、伊藤純夫 編集:田巻一彦)
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPKBN0OE0UJ20150529
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