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『あなたの隣のモンスター社員』(石川弘子/文藝春秋)
セクハラでっちあげ、親の介入、備品持ち帰り…「モンスター社員」増殖の理由とは?
http://lite-ra.com/2015/05/post-1141.html
2015.05.28. リテラ
いまやさまざまな分野に「モンスター」は存在する。モンスターペアレント、モンスターペイシェント、モンスタークレーマーにモンスター客がいればモンスター店員というのもいるらしい。いずれも常軌を逸した価値観とそれに基づく行動をやらかす、極めてまれな人々であり、多くの「普通な」人々にとっては別世界の出来事に思えてくる。
だが、実はそうでもないらしい。現役の社会保険労務士が書いた『あなたの隣のモンスター社員』(石川弘子/文藝春秋)は、著者が受けた企業からの相談例や、実際のモンスター社員と対峙した事件簿だ。それによれば、一見普通の「いい人」が何かのきっかけで牙を剥く事例とそのプロセスが克明に描かれている。そしてこの問題が、誰の身にも起こるかもしれない可能性を示唆している。被害者として、あるいは加害者として。5月のシーズもそろそろ終わりだが、みんな大丈夫だろうか。
これまでも、周囲の迷惑も顧みず、休暇を取り、遅刻を繰り返し、仕事をサボる「問題社員」は存在していた。だがモンスター社員の実態は全く違うという。巧みに嘘をついたり、逆切れし、周囲に恐怖を与える攻撃性を備えていたりする。他人と健全なコミュニケーションが成立せず、多くはメンタルの問題を抱えている。
《そうなると、いくらこちらが論理的に諭しても、相手には伝わらず、問題は大きくなっていくばかりである》
《1人のモンスターが原因で、会社の雰囲気が悪くなり、経営自体が傾き始め、ついには会社の屋台骨を揺るがし、組織が崩壊する事態になったケースもある》
というから『釣りバカ日誌』のハマちゃんや植木等の『無責任一代男』とはワケが違う。
その事例はというと、まず「セクハラでっち上げ美人OL」。新人の事務員から、先輩の営業主任からセクハラを受けているという相談だった。メールアドレスを教えるように言われ、断ることもできずに教えると、それから毎日一日に何度もメールが来るようになった。「何か辛いことがあれば、いつでもメールして」から始まり「僕が彼氏だったらもっと大事にするのにね」という、同僚に送るには親密すぎる内容を見せると、「このメール気持ち悪いですよね。セクハラだと思います」と泣き出す。また、本人の歓迎会の時にとられた写真には、営業主任が新人事務員の肩を抱いているように見える様子が収まっていた。彼女の両親はこの件を聞いて激怒し、営業主任の処分をしないなら、会社を訴えると言っているとも言った。
確かにこれが事実ならセクハラに該当する。セクハラには明確な判断基準がなく、被害者が性的に不快だと感じればそれは成立するからだ。そこで営業主任にも事情を聴いてみると、事実はまるで異なっていたのだ。
そもそも、相談があるから聞いてほしいと持ち掛けたのは新人事務員のほうで、営業主任は励ますつもりでメールをしていたという。彼女からのメールは、主任からのメールに感謝する内容や、「彼氏が○○さんみたいだったらよかったのに」というものだったこと。件の写真が撮られた状況は、彼女がかなり酔って自分から主任の腕にしがみつき、ベタベタしてきたことがわかった。だが既婚者である主任が妻にメールのやり取りがバレ、「もうメールできない。ごめんね」と告げると「私の話をいつでも聞くって言ったのは嘘なんですね!」と怒り、以来会社を休んでいることもわかった。要は自分が優しくされていたのに裏切られたという逆恨みである。
結局、営業主任は降格・減給させられ、他の支店に異動となった。事実関係を知る社長も釈然としないまま「誤解を受ける言動で職場内の秩序を乱した」と処分を下した。さらに営業主任は異動先でも「セクハラ男」と陰口をたたかれ、居づらくなって会社を辞めた。事務員は別の営業社員にメールアドレスを聞いて、頻繁に「是非食事に誘ってください」等と送った。新たなターゲットを見つけたわけだ。
なんだか仕組まれた「痴漢冤罪」のような話だが、実は少なくないケースなのだそうだ。
いわゆる「モンスターペアレント」が会社に乗り込んで混乱に拍車をかける例もある。運送会社に採用された新人のドライバーは、寝坊による遅刻回数がとても多く、不注意で荷物を破損し、荷主が激怒するのをよそに謝罪どころか「チッ」と舌打ちをして立ち去るなど、問題児ぶりを発揮。挙げ句に乗車前のアルコールチェックに引っかかり、一日乗務が出来なくなってしまう。さすがにキレた社長は新人ドライバーを怒鳴りつけ、帰宅させたのだが、その日の夕方、新人の母親という人物から電話が入る。曰く、
「うちの息子がおたくの会社でさんざん長時間労働をさせられた挙げ句、たいした理由もないのに怒鳴られ、来なくていいといわれた。過重労働で監督署に訴える!」
直属の上司が事情を説明すると「遅刻したのは会社が過労死寸前の働かせ方をして、睡眠時間が足りないから」「荷物を壊したのはおそらく別の人間でうちの息子に罪をなすりつけた」「酒気帯びは激務でストレスがたまり、仕方なくアルコールの力を借りた」と超常識ぶりの言い分。
しかし上司である所長がタイムカードを調べてみると、新人の勤務は他の従業員より時間が短く、休みも月に7〜8日と、運送業にしてはかなり短いシフトであることが分かった。確かに残業はしていたが、法定労働時間に行政が定める延長できる労働時間(残業時間)を足した時間よりも短かった。過重労働には当たらない。会社はタイムカードのコピーとともに、経緯を書いた文書を新人の自宅に送った。すると数日後、新人の母親から手紙が届いた。手紙にはこう書かかれていた。
「所長のパワーハラスメント及び残業代未払い、不当解雇について慰謝料300万円を7日以内に支払え」
さもなくば知人の議員に依頼して営業許可を取り消してもらう、労働基準監督署に通報し、措置をとるという。結局、新人には2か月程度の賃金を払うことで退職してもらうことになった。
モンスター化する「働くママ」も登場する。ある製作所の30代後半の経理担当事務員は小学生の子供を持つ。この会社では10年以上勤めてきたベテランで、仕事もできるなくてはならない存在だ。だが、当然子供の学校行事や、熱を出した、などの理由で会社を休むこともある。それを上司の部長はよく思っていないらしく、「また休むのか?」「もうやめた方がいいんじゃないか?」と嫌みを言われる、と著者の元に相談に来た。
「働く母親は要らないってことですよね? 国は育児休業を推進しているのに、こんなこと言う部長はおかしいですよね?」と訴えた。確かにその通りなら問題がある。ところが、名指しされた部長の話はまるで異なる。「休みの連絡をしないで突然休む」「毎日職場から子供に10分以上電話を掛ける」「夏休みに、一人で留守番は危ない、とほぼ毎日職場に子供を連れてくる。放課後にも子供が職場に来ては応接室で菓子を食べさせたり、ゲームをさせる」「小口現金の管理を任せているが、購入したトイレットペーパー等備品を自宅に持ち帰っている」「PTAの連絡に、会社のFAXを勝手に使っている」……。
こうした問題が頻繁にあって、そのたびに注意すると「女性に対する差別だ」「子育てしながら仕事ができる環境を会社が整備するべきだ」と反論する。だが、このママ社員の後輩社員は著者に、この社員は会社の切手を盗んでいること、残業はいつも後輩社員に押し付けていること、仕事中にネットオークションをやっていて、出品した品物を会社の経費で発送していることを明かしている。
こうした悪事を問い詰められたママ社員は「もうこんな会社にはいられない」と怒って帰宅。自主退職という扱いになったものの、事態はこれで終わらなかった。元社員は子供の学校のPTAの会合で、この会社は脱税をしていて、それを指摘した自分が辞めさせられた、とあらぬ噂を流した。さらにはインターネットの掲示板に同社を誹謗中傷する文章を書き込んだ。
ほかにも暴言を吐き放題のパワハラ社員が女子社員の人格を否定する発言を繰り返し、ゴミ箱を蹴り飛ばしペンを投げつけ、女子社員を精神的に追いつめたケース等、同書にはさまざまなモンスター社員が登場する。
しかし、モンスター社員を巡る事件は、一方的に彼らが悪で、会社が被害者という単純な図式には収まらない。最初はふつうの社員だった者を、会社がモンスター化させてしまうケースも多いのだという。
例えば仕事ができるから、と多少のルール違反に目をつぶり、対応すべきところで対応していない場合に社員のモラルは低下する。前述の「ママ社員」の場合がその典型。直属の上司はこの社員の行動を問題視し、逐一注意してきたが、肝心の社長は技術畑出身で、労務管理は大の苦手。問題行動が表面化しても、「確かに問題なんだけど、何とかうまくやってくれないかな?」「彼女は10年以上も勤めてくれているし、何とか機嫌を損ねないように穏便にさ」と彼女の直属の上司に「丸投げ」する始末。両者と対面した著者も言う。
「問題社員の言動を大目に見て、その後上手くいったなどという話はほとんど聞いた事がない。大抵のケースが『最初からきちんと注意しておけば……』という結果になる」
あるスーパーマーケットでは新入社員がベテランのパート従業員にいじめられて、辞めてしまう問題があった。大学を出たばかりの女性新人が幹部候補生として現場に派遣される。パート従業員は新入社員が自分たちより仕事ができないのに給与が高いことを厭味ったらしく本人に聞こえるように何度も言い、結局耐えられずに新人は会社を辞める。このことだけを見るとパート従業員が「モンスター」のように見える。しかし、これも経営サイドに原因の一つがある。
それはやはり、パートと社員の待遇格差だ。パートの待遇を改善し、不満を取り除き、理解を得ていれば「モンスター化」は防げたかもしれないのだ。
経営者が社員を見下していることに原因があるケースもある。とある60代の経営者は、従業員のレベルが低く、仕事はいい加減でモラルは低い、特に問題な社員がいて、反抗的で何かというと弁護士に相談するといっては脅す、という。だが、この社長は著者にこんな相談をしていたという
「自分は大手企業に勤めていたので、周囲の人間もレベルが高かった。中小企業で働くような人間は、元々人間としてのレベルが低い」
「中小企業の従業員なんていうものは、自分で考えることをしないバカなんだから、こっちが怒ったり持ち上げたりして上手く操っていくしかない」
「会社は経営が大変な中で賞与もちゃんと支払っているんだから、普通は会社に感謝するのが当たり前だ。経営者である私1人が仕事をしているようなものだ」
《このような発言を繰り返すこの経営者を見ていて、問題はこの経営者にあるということがよく分かった。この経営者自身が、自己中心的で、プライドが高く、相手を見下しているのだ。まさに、従業員は、この経営者を鏡としているのだろう》
経営陣や上司のモラルの低さがトラブルを引き起こしているケースも多い。
「理解できない言い分をあれこれと言ってきて、仕事にも差し障りが出ているし、周囲への影響もあるので、問題社員だ」と、その企業の経営者が20代女性社員について相談に来た。著者が当該の女性社員に会って話をきくと、驚愕の事実が。
経営陣は「整理、整頓、清掃の3Sに徹底的に取り組んで、美しい職場環境を作ろう!」とミーティングで言ったそばから、ミーティングで出た茶や菓子のゴミをそのまま放置。机やいすもグチャグチャでホワイトボードも消さずにそのまま。その片付けを仕方なく女性社員がやっているが、空しくなるという。
「風邪をひくなど、たるんでいる証拠!」とカツを入れる取締役は、自分は朝まで麻雀、寝不足でだるいと会議室で寝ている。社員にそれを指摘されると「マージャンも仕事のうちだ!」と烈火のごとく怒る。
この言行不一致ぶりに落胆し、彼女は会社によくなってほしいとの気持ちから社長に話すのだが、それで関係が悪化していく。まるで問題社員でもないのに、会社が勝手にモンスター社員と位置付けているだけだった。
《会社がごく当たり前の主張をする社員を「モンスター社員」として白眼視しているケースも多い。会社側の労務管理体制が整っておらず、法的な知識が欠けているとこのようなトラブルも起きやすい》
ある飲食店の経営者は、店の店長が田舎の友人の結婚式に出たいと週末3日間の有休を申請してきたことに腹を立てた。そもそも飲食店に有給休暇なんてあるわけないとの考えから、それを認めなかった。すると納得がいかない店長は労働基準監督署に相談に行った。その一件が社内に広まり、他のスタッフも風邪をひいたときなど、有給を申請するようになった。社長は「店長は社内の和を乱すモンスター社員だ。会社は何か制裁をできないか?」と相談に来たのだが、《この場合、法律的には明らかに非は会社にある》。
《飲食店だろうと何だろうと有給休暇は法律上労働者に認められた権利だ。それを拒否することは法律上認められない》
飲食店以外でも、ITベンチャー企業やマスコミ、ノルマの厳しい営業職や、決算期や納期を迎えた一般的な企業でも、有給休暇どころかサービス残業は当たり前とばかりにコキ使われることも多いが、本来、これは雇用側の違法行為であり、労働側が当然の権利を主張しただけで「モンスターだ」「空気を読め」といわれる筋合いはないのだ。
とある食品製造会社の、コンプライアンス崩壊ぶりは酷い。なんと製造した食品の賞味期限が切れそうになると、賞味期限シールを張り替えて出荷することを指示されるという。経営陣は「特に問題なく食べられるのだから大丈夫」と開き直っている。このような会社には、やはりモラルの低い社員が集まってくる。その中にあって、普通の従業員は適当に合わせることもできず、会社の方針に不満を溜め、反抗的になる。なかには会社の方針に納得できず、社長に意見したことで煙たがられ、適当に理由をつけて解雇されてしまった社員もいる。コンプライアンスの低い会社は正当な意見を言った社員をモンスター扱いしたり、不満を募らせてモンスター化していくことがあるという。
このように、普通のいい人が環境によってモンスター化する可能性がある以上、採用前にモンスター予備軍を100%見抜くのは不可能だ。
この本が示唆するのは、非常識な社員と旧体制の会社が繰り広げるドタバタ騒動だけではない。著者はモンスター社員が生まれる要因についてこう書いている。
「『その人が、仕事やプライベートも含めた人生に満足しているかどうか?』という点だ。『やりがいのある仕事をして、いい同僚に恵まれ、思いやりのある友人や家族に囲まれている』という人で、実はモンスター社員だった、という例を私は見たことがない」
こう指摘されると、なにやら落ち着かなくなる人も少なくないのではないか。程度はさまざまだが、人生に満足している、と言い切れる人がいったいどれほどいるだろう。実際、著者も、モンスター化する一因としてコンプレックスを挙げているが、「どんな人でも、多かれ少なかれ自分に対するコンプレックスを抱えている。しかし、それが極端に大きくなると、コンプレックスから自分を守るために、周囲の人間を攻撃する人がいる」と書く。
そう考えれば、少々極端だが、誰もが時限爆弾を抱えていて、それが職場の環境や思わぬきっかけで暴発するかもしれない、とも思える。取り上げられている様々な事例はどれも「そんなバカな」と呆れもするが、同時にどこか誰でも思い当たるようなもので、同じシチュエーションだったら、似たようなことをする人は結構いるのではないだろうか。働く人の多くにそんな因子が内包されていて、あるいはすでに他者からその存在を気づかれているかもしれない。
著者は、こう結んでいる。
「モンスター社員が出現した際は、ある意味で企業が成長するチャンスであると考える。その対処方法を模索する中で、モンスター社員だけの問題でなく、職場の様々な問題が浮き彫りになることもあるだろう。問題から目をそむけず、正面から向き合う事で、きっとよりよい職場環境となっていくだろう」
数々の修羅場を踏みながら、あるいは踏んだからこそ言える前向きな姿勢なのかもしれない。カイシャの覚悟が問われる。
(相模弘希)
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