http://www.asyura2.com/15/hasan96/msg/904.html
Tweet |
コマツの“最強コンピュータ”はなぜ狂った?予測不能な新興国で需要読み違え、本社で悲鳴
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20150527-00010006-bjournal-bus_all
Business Journal 5月27日(水)6時2分配信
千里眼のように需要を先読みしてくれるはずだった、コマツ自慢のコンピュータ需要予測システムが狂った。
コマツは4月27日、2016年3月期連結決算は純利益が前期比10.4%減の1380億円となり、2期連続で減益になる見通しだと発表した。同社は、記者会見で2期連続減益の要因を「中国経済減速で建設・鉱山機械の市場が20〜25%縮小した。新興国でも需要が減少している」と説明した。
同日に発表された15年3月期連結決算は、売上高が前期比1.3%増の1兆9787億円、営業利益が同0.7%増の2421億円、純利益が同3.5%減の1540億円だ。ほかの輸出企業と同様、円安の恩恵を十分に受けながら、売上高も営業利益も前年比横ばいを保つのがやっとだった。
同社は、12年度に策定した中期経営計画(13〜15年度)で、建設・鉱山機械需要は13年度を底に徐々に回復すると予測していた。ところが、中国の経済成長減速、新興国の経済成長鈍化、鉱山資源価格下落などの影響で、14年度から主力事業の建設・鉱山機械が大幅な売り上げ減少に陥った。
特に、12年度まで好調だった鉱山機械・車両の14年度売り上げは前年度比26%減だ。石炭などの価格低迷を受け、体力のない中小資源開発事業者だけではなく、資源メジャーまで新規購入を控え、手持ち鉱山機械・車両を修理しながら使い続ける状況が続いている。
このため、同社は決算説明会で「現在の経営環境は中計策定時の想定から大きく乖離しており、中計目標の進捗に多大な影響を及ぼしている」と、得意の需要予測の誤りを認めざるを得なかった。
自信を喪失したかのように、同社が期初から決算の減益予想を発表するのは、リーマン・ショックの影響を受けた09年度以来6年ぶりのことだ。「ダントツ商品、ダントツサービス、ダントツソリューション」の「ダントツ経営」で着実な成長を続け、今や「製造業の優等生」とまでいわれる同社に、いったいなにが起こっているのだろうか。
関係者への取材から深層を探ると、今はやりのビッグデータを活用したコンピュータ需要予測システム「KOMTRAX(コムトラックス)」に対する過信が見えてきた。
●市場の変化をつかめなかった、自慢のコンピュータシステム
同社の需要予測が狂う兆候は、13年9月から表れていた。ある日、本社の一角で突然、悲鳴のような声が上がる。
「なに、鉱山で使う大型ダンプや油圧ショベルの商談が、国全体でも数件しかないだと?」
その日、インドネシアの現地法人から送られてきた営業報告は、同国の鉱山機械・車両の冷え切った需要状況を伝えるものだった。本社サイドが分析した「回復基調」の予測は、完全に外れていた。
その後も需要は回復せず、13年10月下旬、同社は14年3月期の連結営業利益予想を約1000億円下方修正した。
13年5月、前月に就任したばかりの大橋徹二社長は、インドネシアの首都・ジャカルタにいた。インドネシアは資源バブルの崩壊以降、石炭採掘に使う鉱山機械・車両の需要が減退しており、大橋社長の最大の懸念事項になっていた。そこで、「いつになれば、需要の前提となる石炭市況が回復するのか」を直接確かめたいという思いを抑えきれず、社長就任直後の超多忙な状況にもかかわらず、現地視察を敢行したのだ。
大橋社長は、現地のコマツ販売代理店や石炭開発会社のトップと面会し、石炭市況の先行きを聞いて回ったのはもちろん、石炭採掘現場に足を延ばし、現場管理者にも石炭市況の見通しを聞いた。
すると、返ってきたのは、いずれも「しばらくすれば、市況は回復する」という答えだった。「市況の先行きは不安だ」の声は誰からも聞かれなかった。東京で深刻な状況を心配していた大橋社長は、現地関係者のあっけらかんとした反応に拍子抜けする思いだったようだ。
だが、9月になっても鉱山機械・車両需要回復の兆しは見えなかった。大橋社長が、現地関係者の根拠のない楽観的な見通しを真に受けたことを悔やんだ時は、すでに万事休すだった。同社は、業績予想の下方修正に追い込まれた。
実は、インドネシア事業の予測外れは、新米社長の判断ミスだけが原因ではなかった。同社が頼りにしていたコムトラックス自体が、変化をつかめなかったのだった。
●ビッグデータ収集と製販一体のデータ分析で「万全の需要予測」
コムトラックスは、通信衛星や携帯電話の回線を使い、コマツが世界中で販売した建設機械や鉱山機械の稼働状況を、リアルタイム監視できる遠隔管理システムだ。
このシステムに伴い、同社の建設・鉱山機械は、稼働状況を監視するセンサーや稼働場所を特定するGPSを標準装備しており、大阪工場のオペレーションセンターで一元管理されている。
センターの正面壁には4台の大型モニターが並び、世界各地の工場ラインなどの映像が24時間リアルタイムで映し出されている。オペレータはそれを見ながら、自席のパソコンでコムトラックスを通じて世界中から集まる34万台以上の機械の稼働状況、流通在庫、日々の販売台数などをチェックしているのだ。
同社は、これらの分析結果などを判断材料に、毎月開催する全社販生会議で、生産台数の増減を月次で決める。ビッグデータ活用の巧拙が、同社の収益を大きく左右しているのだ。
全社販生会議は、販売部門と生産部門が一体となった同社独特の組織だ。議長は、篠塚久志取締役と、高橋良定専務執行役員が共同で務めている。同会議には、社内から選出された販売・生産の管理職と、藤塚主夫CFOが参加する。
同会議は、建設・鉱山機械の稼働状況、日次販売状況などのビッグデータ分析に基づき、世界中の同社工場の生産台数を決め、流通在庫最適化を図る、司令塔の役目をしている。
同社が同会議を設置したのは、11年だ。08年のリーマン・ショックによる世界的な景気後退により、建設機械の在庫が膨れ上がってしまった反省がきっかけだった。当時も、コムトラックスにより機械の稼働状況はリアルタイムで把握していたものの、流通在庫や日次販売状況までは把握できなかったからだ。
当時の社長だった野路國夫会長の指示で、流通在庫はすべてコマツの資産にした。代理店の資産にしてしまうと、流通在庫を正確に把握できないからだ。その結果、一時は1万8000台もあった流通在庫を約1万台まで削減、以後は適正化を実現している。
コムトラックスの威力は、それだけではない。さまざまな経済指標と機械の販売データ、機械の稼働データなどをチャート分析すれば、国別の需要予測ができる。さらに、各国の経済成長についても、かなりの精度で予測できるといわれている。当然、それらのデータを販促に活用することもできる。
例えば、建設機械の稼働時間が半年前より長くなっていれば、それだけ消耗している証拠であり、更新時期が近づいていると推測できる。それにより、同社は競合他社よりも先に営業ができるというわけだ。
業界内で、コムトラックスが単なる遠隔管理システムではなく「コンピュータ需要予測システム」と見られているゆえんだ。
●コンピュータには荷が重すぎた、新興国の需要予測
そのコムトラックスが、なぜインドネシア市場の変化をつかめなかったのだろうか。
インドネシアでは13年夏以降、現地関係者が揃って楽観視していたように市況が回復、石炭採掘量が増えていた。当然、コマツの鉱山機械の稼働時間も短縮されていなかった。「全社販生会議でも、コムトラックスの分析からインドネシアの石炭市況は回復に向かっており、鉱山機械の買い替え需要は減らないと判断された」と、同社の関係者は打ち明ける。
この判断を打ち砕いたのが、インドネシアの通貨であるルピアの急落だった。同年7月以降、ルピアの対ドルレートは約20%も下落した。鉱山機械の取引は、その大半がドル建てだ。現地の石炭開発会社に、コマツの鉱山機械を買い替える余裕はなかった。
前出の関係者は「インドネシアのように、想定外の要素が絡んでくると、いくら賢いコムトラックスでもお手上げだ」と、コンピュータ需要予測の限界を認めている。
コマツが「伝統市場」と位置付けている日米欧の先進国市場と、「戦略市場」と位置付けている中国をはじめとする新興国市場は、事業環境がまるで異なる。同社が古くから事業展開を行ってきた先進国では、すでに営業ネットワークが張り巡らされている。このため、マクロの経済データはもとより、顧客個別の経営状況など、生の市場データもつかみやすい。
一方、同社売上高の過半数を占める新興国では、営業ネットワークが未整備な上、政府発表の経済統計ですら水増しがあるなど、マクロのデータ自体の信憑性が低い。加えて、「販売代理店の販売計画は『やってみなければわからない』というずさんさで、マージン稼ぎの水増し報告も多い。顧客の購入計画も、猫の目のようにコロコロ変わります。そもそも、何が起きるかわからない新興国で、1年先の需要予測をするのは不可能に近い」(建設機械業界関係者)といわれている。
つまり、不確実な要素が多すぎるため、コンピュータでは需要予測が困難な事業環境といえる。インドネシア市場の需要予測が狂ったのは、インドネシア個別の事情によるものではなかったのだ。
前出の建設機械業界関係者は、自らの営業経験から、「新興国の需要予測で頼りになるのは、本社の分析ではなく現場の皮膚感覚です」と断言する。
ビッグデータを活用したコンピュータ需要予測に頼る経営から、人間が需要変化に即応できる経営へ。今回の2期連続減益予想は、コマツにそんな教訓をもたらしたようだ。
文=田沢良彦/経済ジャーナリスト
投稿コメント全ログ コメント即時配信 スレ建て依頼 削除コメント確認方法
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。