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「河合薫の新・リーダー術 上司と部下の力学」
「リストラ・ひも・ウツ」 育児に協力するオトコの世間体
主婦業は誰でもできる“仕事”なのか
2015年5月26日(火) 河合 薫
リアクションに困る――というのは、こういうときのことを言うのだろう。
「やっぱりね、女性は家で子育てをしっかりやるのが正しいですよ。“男まさり”の女性が増えちゃったから、男たちがひ弱になった。家族を養わなきゃって思うからこそ、必死で働くし、モチベーションも上がって出世するんです」
(えっと…、そのなんというか、いや、まぁ、すみません。わ、私もソノ“男まさり”群なるものに、カウントされているわけですね?)
「ウチの会社はね、育児休暇だけは男もちゃんと取れって言ってるの。出産のときだけは、ちゃんと休んで家族サービスしろって。私なんて子どもが産まれたときに出張行って、いまだに女房にそのときの文句言われちゃうからさ。先生が言ってたとおり、誰だって自分の存在価値とか、必死でやったことを認めてほしいからね。だから女房が子どもをがんばって産んでくれたときには、“よくやった。ありがとう”って言って労わなきゃ!」
(そ、そうですよね。……。それはそのとおりなんですけど…)
※()の中は、私の心の声だと思ってください。
これは経営者の方たち(部長クラスの方も数名いました)を対象にした講演会での出来事。
講演会後の懇親会で、1人の経営者の方が、実にリアクションに困る、件の自論を展開したのである。
しかも、この方。その数分前まで、「女性がどんどんリーダーになっていった方がいいですよ。社内を見渡しても、女性の方が優秀ですから」と言っていたので、余計に驚いた。
といっても、こういった意見を面と向かって言われたのは初めてじゃない。
数年前に「出産したら女性は会社をお辞めなさい」との発言を作家の曽野綾子さんがし、それに対する記事を書いたときには、「でも、私はどちらかというと曽野さんの言う通りだと思うんです」と、賛同する人の多さに驚かされた。
また、イクメンという言葉が市民権を得てからは、「育児に積極的な社員=男の女性化」というニュアンスの意見もしばしば耳にするようにもなった。
現場でふと垣間見えるホンネ――。聞き逃してはならない瞬間でもある。
しかも、今回の“ホンネ”は、思わぬ方向に広がり、ますますリアクション不能状態に陥った。
「○○君でしたっけ? 主夫になったんですよね?」(同席していた関連会社の方)
「えっ、そうなの? 知らなかったなぁ。それって、リストラされたからじゃないのかい?」
「いえいえ、そんなんじゃないですよ。彼の優秀さは社長だって知ってるでしょ」
「いや〜、でも主夫でしょ? なんか辞めざるを得ないことやらかしたんじゃないのかね」
さすがにここは何か言わねばと、必死に対応。
「……でも、最近珍しくないですよ。私の友人も旦那が主夫してますから(ふ〜っ、言うだけ言ったぞ!)」(河合)
「(驚きの顔)へ〜〜、そりゃすごいな。よほど女房の稼ぎがいいんだろうね〜。世も末だね〜」
……えっと……、これって何?
世の中の男性たちは、いつもこんな陰口を叩かれているってことなのでしょうか?
だいたいナニをもって、「男がひ弱になった」と言っているのかよく分からないし、ひ弱になった理由を「男まさりの女性たち」のせいにし、女性が専業主婦になって夫を支えないから出世できないって理屈もちっとも分からない。
挙げ句の果てに「世も末」って……。
この方たちは、育児や家事の仕事をどれだけ軽んじているんでしょうか?
これじゃあ、育休休暇を取る男性は増えるわけもないし、マタハラがなくなるわけもない。
「育児に熱心な男性は出世できない」
安倍晋三首相が「女性が働き続けられる社会」ののろしを上げてから、皮肉にも男性の育児休業取得率は前年度の2.63%から0.74ポイント下落。昨年はわずかに上昇したものの、それでも2.01%しかない。
おまけに、「育休」といっても、ほとんどが、なんちゃって育休で、「1〜5日」が4割、「5日〜2週間」が2割と2週間未満が6割を占めているのである。
そういえば、「育児に熱心な男は出世しない」発言で話題になった漫画家・弘兼憲史氏も、
「能力の低い男性に家庭に入ってもらえばいい(笑)」と発言していましたっけ。
そこで今回は、「主婦(主夫)というお仕事の価値」について、あれこれ考えてみようと思う。
まずは友人の夫=主夫 のリアルから、お聞きください。
「彼は1人目の子どものときに、何かいろいろと考えることがあったみたいで、2人目ができたって分かった途端、“育児に専念したい”と言い出した。当時、私は復職してから、やっと納得できる仕事に就けていた時期だったから、彼がそういってくれたのはものすごく嬉しくて。もともとウチって、“普通”にとらわれない変な夫婦だったでしょ?(笑)なので、私は出産ギリギリまで働いて、出産後もひと月で復職し、彼と育児をバトンタッチしたの」
「いろいろ言われるだろうなぁ〜って、ある程度覚悟していたけど、世間のバッシングは想像以上だった。“ひも”呼ばわりされたときは、さすがにこたえた。しかも、それを言ったのが、家族で仲良くしている人からだったから、ダブルパンチ。『会社やってる知り合いがいるから、旦那さん、紹介しようか?』って彼の仕事を世話しようって人までいて(苦笑)。旦那が保育園に迎えに行ったときなんて、『お体は良くなりましたか? 子どもさんといると気分も前向きになりますよね』って突然言われたって、笑ってたよ。“ママ友”たちの間では、ウツで会社辞めて、主夫になったって噂になってたみたい」
「でもね、旦那は主夫になってから『ママさんたちのおかげで、社会は上手く回ってるんだなぁ〜』っていつも言ってる。主夫業の何が彼の琴線に触れたのか、女の私にはよく分かんないけど、専業主婦は年収1000万くらいの価値はあるとか、言ってるよ。まあ、それは彼が自分のプライド保つために言ってることなのかもしれないけど、逆に私は旦那が主夫になったことで、専業主婦の仕事の社会的地位が低いことが分かって面白かったけどね〜」
念のため補足しておきますが、友人の旦那はプログラマーさんで、大手企業に20年勤めた後、フリーランスとなり企業と専属契約して、年間かなりの額稼いでいたお方。
島耕作に「能力の低い男」とレッテルを貼られることのない、キャリアの持ち主である。
専業主婦の価値はおいくら?
ちなみに、米国の「salary.com」という会社では母の日に専業主婦の賃金を算出していて「How Much Are Moms Worth in 2014?」では、約1200万円としてる(2015年版はなぜか公表されていない)。
一方、日本では一昨年、「専業主婦は年収304万円の価値あり(家事・育児)」との計算結果を内閣府が出した。
その金額には賛否両論あったが、
「誰でもできる仕事で、300万もらえるんだ〜。主婦ってどんだけ楽なんだよ〜」
という批判が散見された。
主婦業は楽だのなんだの低評価する人たちは、決まって「主婦って誰でもできる」っていうけど、世の中に「誰にでもできない仕事」がいかほどあるというのだろうか。是非とも教えてもらいたいものだ。
育児だって、家事だって、最初からちゃんとできる人は滅多にいない。失敗し、苦労し、自己嫌悪に陥るから、ストレスもたまる。会社なら上司や先輩が教えてくれたり、同僚がヘルプしてくれたりすることがあるが、1人っきりで育児と家事をこなすのはめちゃくちゃ大変なこと。
“男まさり”群の私が言ってもちっとも説得力ないかもしれないけれど、私には「今日からやって!」と言われて、すぐにできる自信はない。
特に、父の“変化”に直面し、両親のことが頭から離れない日々が始まってしまったことで、「育児」という逃げ場のない仕事って大変だろうなぁ、とつくづく思う。「自分だけ」のことを考え、「仕事が大変だ〜。ストレスだ〜」と喘いでいた生活って、意外と楽だったなぁ、などと感じているのだ。
それに女性であれば、妊娠し、子どもを産むことはできるかもしれない。でも、生まれた子どもをまるで“モノ”のように扱い、放置し、虐待し、死に至らせてしまう人に育児能力があるといえるだろうか。
いずれせよ、主婦業を「誰にでもできる」などと見下すから、「育児に積極的な男性=仕事を軽んじている」となるし、育児休暇から復帰した女性が「バカンス休暇明け」のような扱いを受ける。
主夫が哀れみのまなざしにさらされ、「お気の毒ね〜」なんて言われてしまうのも、主婦業の価値が見いだされていないから。
主婦はプロフェッショナルな職業
イタリアでは、主婦にはcasalinga(カサリンガ)という職業名がつけられていて、医師、警察官、ジャーナリスト、作家同様、プロフェッショナルな職業に分類されている。だが、日本では総務省が出している「日本職業分類」のどこを探しても、主婦はない。
つまり、「主婦=仕事」という認識がはなっからない。家に「ルンバ」を置き、洗濯機を置き、電子レンジを置けば、専業主婦の仕事は完結すると思われているのだろうか。育児は? 子育ては?
これらは一体どういう位置づけになっているのか。考えれば考えるほど、私の脳ピューターは混乱してしまうのだ。
私が敬愛する健康社会学者のアーロン・アントノフスキー博士は、仕事が「Sense of Coherence(SOC)=人間の生きる力」に与える影響力を非常に重視しているのだが、主婦の仕事について次のように論じている。
「家庭を運営し、子どもを育てるという役割は、家庭外の活動と同じくらい社会的な価値があり、人間の生きる力を高める、極めて重要な経験をもたらす。
主婦の役割には親族内(家庭)の責任があるので、極めて多様な技術が求められる。しかしながら、それらは子どもに愛情をもって接する中で育まれるものであり、子育ては子どもの成長だけでなく、親をも成長させる。
主婦業の多くは予測不可能なものである。子どもの不意の病気や事故への絶えざる不安、隣人の気分や夫の帰宅時の機嫌など、常に様々な脅威と背中合わせである。しかしながら、主婦業を通じて、これらの出来事がときには大きく、ときには小さいことを経験し、日常のごくありふれた一コマとなっていくのである。
さらに、主婦業は彼女の裁量で仕事のテンポや、やり方を決めることもできるため、失敗や成功を通して様々なことを学べる。これらは自分には乗り越えることができるという感覚だけでなく、自己のアイデンティティーの形成にも強い影響を及ぼす」
と、ここからが特に重要なので、よく読んでほしい。
「しかしながら、西洋社会では、主婦は『働いていない』とみなされるため、強いSOC形成に役立たないことが圧倒的に多い。主婦であるがゆえに、評価の低い女性的な仕事に就くことも余儀なくされる。しばしば夫に性的およびその他のニーズに奉仕する存在として、文化的に定義される。そのような状況では、主婦のSOCが高まることはない」
つまり、本来、主婦業は、人間にとって極めて“質の高い”すばらしい仕事。ところが、西洋社会、すなわち競争社会では、おカネを稼ぐ能力の違いで、人間の価値まで選別されるようになった。「市場経済の価値=人間の価値」という誤った価値観が、主婦業の“社会的地位”を低下させたのだ。
だが、その“競争社会”のトップランナーの国では、価値の多様性の風が吹き始めている。
米国の「2015年大統領経済報告」に引用されている経済諮問委員会のデータによると、父親が子どもの世話や家事に費やす時間は、1965年には週に約7時間だったが、2013年には週に約16時間まで増えた。
米国の市場調査会社が1200名の労働者を対象に実施したアンケートでは、
男性の67%が「家庭のための時間を増やすために転職をした、あるいはそうするつもりがある」と答え、
57%が「昇進を諦めたか、諦めてもいい」、
26%が「育児休暇の制度が充実した国へ移住してもよい」
と答えた。
子育てに専念する父親が倍増
そして、米ABCニュースでは、「stay-at-home dad(子育てに専念する父親)」が、この10年で倍増したと伝え、「フルタイムで働く妻に代わって育児に専念する父親は、もはやanomaly(特異な存在)ではない」としている。
主夫を世も末と嘆き、「能力の低い男性に家庭に入ってもらえばいい(笑)」(何度も使ってすいません)とイクメンの味方と自負する人が言う社会とは大違いだ。
トップランナーと肩を並べたい、世界から同等に見られたい、と願うなら、“銃”を持つ男より、“子”を抱える男たちを見習った方がいい。
専業主婦(夫)の経験は、いかなる仕事にも存分に生かせると思いますよ。私はうっかり、はい、ホントにうっかりそのチャンスを逃してしまったけれど、きっとうっかりしてなきゃ、もっと違う角度から物事が見られたのになぁ〜と、ちょっとだけ残念!なんですよね〜。
このコラムについて
河合薫の新・リーダー術 上司と部下の力学
上司と部下が、職場でいい人間関係を築けるかどうか。それは、日常のコミュニケーションにかかっている。このコラムでは、上司の立場、部下の立場をふまえて、真のリーダーとは何かについて考えてみたい。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20150522/281478/?ST=top
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