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チプラス首相の手に委ねられたギリシャの運命
期限が迫る債権者との交渉、ギリシャがのめる取引の条件とは?
2015.5.26(火) Financial Times
(2015年5月25日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
ギリシャ14年の財政赤字、予想の2倍超 公的債務はGDP比177%
ギリシャの首都アテネの議会に掲げられたギリシャ国旗〔AFPBB News〕
今やすべてはギリシャの首相、アレクシス・チプラス氏次第となった。首相は近々、ギリシャ政府が債務の元利返済を行えるようにするための債権者側との取引を望むか否かを判断する。
もし首相が「取引は不要だ」と言えば、ギリシャはデフォルト(債務不履行)することになる。
その時点でギリシャがユーロ圏から離脱せざるを得なくなる可能性もある。
では、チプラス首相は何をすべきなのか。どんな政治的制約があるかは首相自身がいずれ知ることになるだろうから、筆者は経済に的を絞って論じてみたい。
端的に言えば、理にかなった取引であるなら首相は受け入れるべきだろう。では、理にかなった取引とそうでない取引の境界は一体どこにあるのだろうか。
債権者との取引の経済合理性
ざっくり言ってしまえばそれは、何が何でも不確実性に終止符を打つことにある。Grexit(グレグジット)、すなわちギリシャのユーロ圏離脱の脅威がある限り、ギリシャに新たに資金を投じようとする投資家は出てこない。取引での合意が成功するためには、その合意によってグレグジットの可能性がゼロに引き下げられる必要があるだろう。
同じことは、チプラス氏が「取引は不要」と判断した場合に必要になる政策にも当てはまる。そう判断したその日から、首相には優れた経済計画が必要になるからだ。
では、取引の提案を評価する際に、チプラス氏はどのような経済的基準を適用するべきなのだろうか。
合意で唯一かつ最も重要なのは、債権者側がギリシャ政府に履行を求める財政調整に関する部分である。
特に注目すべき変数がプライマリーバランスの黒字、すなわち利払い前の基礎的財政収支の黒字である。基本的にはこれが、その国の債務の元利返済に充てられる原資になるからだ。
これには、客観的に見て正しい、あるいは、誤っている値といったものはない。しかし過去の経験に照らして見れば、プライマリーバランスの大幅な黒字は政治的に持続不可能であることが分かる。そして、ギリシャで急進左派連合(SYRIZA)の政権が誕生したのは、ギリシャと国際通貨基金(IMF)、そして欧州の債権者たちが前回交わした合意に持続不可能な面があったからだった。
筆者は先月、この問題に詳しいある高名な専門家が、プライマリーバランスの黒字を対国内総生産(GDP)比で2.5%にすると恐らくうまくいくだろうと話しているのを耳にした。ギリシャ側は1.5%を要求しているが、これは交渉の最初の提案としては妥当だ。
交渉担当者の間に出回っているいわゆる「ノンペーパー」(交渉担当者が出所を明記せずにリークする文書のこと)の1つには3.5%という数字が記されていたが、これでは大きすぎると筆者は思う。前回の金融支援で2016年以降の実現を求めるとされていた、4.5%などという数字は論外だ。
債権者側の責任
確かに、2010年の危機はギリシャのまずい経済運営がもたらしたものだった。しかし現在の混乱については、経済のことをほとんど分かっていない調整プログラムの履行を要求した債権者側に責任がある。
債権者たちは、ギリシャが比較的閉じた経済であることを考慮していなかった。閉じた経済とは、GDPのほとんどが国内で生産されて消費されるという意味だ。そのような国に極端な緊縮財政を、それも景気後退に陥っている最中に強制すれば、不況から抜け出せなくなってしまう。
ギリシャ経済復活のカギは、緊縮財政を終わらせることにあるに違いない。その意味では、グレグジットも解決策になるとは限らない。さらに厳しい緊縮財政をもたらす可能性があるからだ。グレグジットに踏み切れば、ギリシャは国際資本市場から切り離され、財政赤字を出せなくなるだろう。
今なすべきことは何か。それは、ギリシャへの1回目の金融支援が合意された2010年および2回目の金融支援が合意された2012年になすべきだったことである。
あの時、ギリシャ政府にはデフォルトを認めるべきだった。しかし債権者側はそれをせず、危険な契約を提案した。
借金の期日延期に手を貸そう、ただし、将来的にはプライマリーバランスで過大な黒字を計上してほしいと持ちかけたのだ。
同様な選択肢が再びギリシャに示されたら、そしてチプラス氏がこれを受け入れたらどうなるだろうか。
「extend and pretend」はもううまくいかない
恐らく、ギリシャはデフォルトせずにこの夏を乗り切るだろうが、今年1月以降に財政がひどく悪化していることなどから、3回目の金融支援が必要になるだろう。このプロセスがいずれ挫折する公算は大きい。投資家がそのことを承知している公算も大きい。
返済されることはないと知りながら外国の政府や銀行がギリシャに資金を融通する、不正直な「extend and pretend」に筆者が懐疑的なのはそのためだ。
ギリシャ政府、改革案の提出を延期 支援延長の条件
アレクシス・チプラス首相はどう出るのか〔AFPBB News〕
このやり方は、1度はうまくいった。1年前には、投資家たちは妙に楽観的だった。ギリシャは金融市場への復帰を果たし、実質経済成長率がプラスに転じた時期もあった。
しかし、このトリックをもう1度使えると彼らは本気で考えているのだろうか。
それは疑わしい、と筆者は見ている。筆者が思うに、妥当だと思われる回復のシナリオは3つ考えられる。
回復の3つのシナリオ
第1のシナリオは、プライマリーバランス黒字の要求が穏当な、信頼できる取引をギリシャが勝ち取るかもしれないというものだ。
このシナリオが機能するためには、チプラス氏やギリシャ議会、そしてギリシャ社会が政治的な支持をこの取引に寄せる必要があるだろう。
また、絶対に反対されない内容にする必要もある。仮に政権が変わることがあっても、この取引は維持されなければならないからだ。
第2のシナリオは、ギリシャに債務のデフォルトを認め、債権者側がギリシャへのこれ以上の資金移転をやめ、ユーロ圏がギリシャの銀行システムの自己資本を引き継ぐというものだ。
もしギリシャの銀行が国内資本に所有されていないとなれば、かつギリシャ政府の保証も受けられないとなれば、ギリシャがユーロ圏離脱を強いられる可能性はなくなる。銀行システムの崩壊こそ、グレグジットが起こり得る理由であるからだ。
そして、グレグジットの恐怖を取り除くもう1つの方法は、グレグジットそのものをやってしまうことだろう。筆者自身はこの選択肢を好まない。しかし、不合理だという点では、グレグジットと今以上の緊縮財政を強いることの間に大した差はないことを債権者側は理解する必要がある。
By Wolfgang Münchau
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/43878
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