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橘玲の日々刻々
2015年5月25日 橘玲
高野山の高僧が信者の浄財を「金銭欲」で運用し、大損した不祥事について
[橘玲の日々刻々]
弘法大師空海が修行の場として開いた日本仏教の聖地・高野山は今年開創1200年を迎え、5月21日まで記念の大法会が行なわれています。火災で焼失していた中門が172年ぶりに復活したほか、金堂の本尊がはじめて公開されるなどイベントが盛りだくさんで、多くの善男善女が参拝に訪れました。日本の仏教文化の精華に注目が集まるのは、まことにもって喜ばしいことです。
高野山真言宗の総本山である金剛峯寺の説明によると、空海の説いた密教とは、仏の真実の言葉=真言の秘密を知るための瞑想など特別な修法のことです。このきびしい修行によって仏の知恵を悟れば、心の悩みや苦しみをなくし、「完全な人格」をつくることができるのだそうです。これも、まことにもってありがたい教えです。
真言宗の高僧ともなれば、私ども下々の民とは異なり、貪欲(とんよく)、瞋恚(しんい/恨み)、愚痴などの煩悩とは無縁の気高い精神性を会得しているにちがいありません。
ところがこの高野山真言宗で、2013年2月、内局トップの宗務総長の不信任案が可決され、宗会が解散されるという“お家騒動”が起きました。報道によれば、宗務総長らはお布施や賽銭など非課税の浄財を含む30億円を日本株のほか、トルコリラや南アフリカランド、ブラジルレアルなどの新興国通貨に投資し、東日本大震災直後の2011年3月末に15億3000万円の含み損を抱えたといいます。取材に対し、宗務総長は「めちゃくちゃ利益があったいい時代に組んだ予算を縮小できなかった」、財務部長は「坊主には無理と思ったが、証券会社に言われるままに購入した」とこたえています。
しかしこれは、ずいぶんとおかしな話です。空海が教えた密教の修行を積み、仏陀の「完全な人格」にかぎりなく近づいているはずの高僧たちが、証券会社の営業マンふぜいにころりと騙されるのでしょうか。だとしたら、「なんのための修行なのか」と思うのは私だけではないでしょう。
さらに不思議なのは、宗務総長が利益=金儲けのために投資したと明言していることです。仏陀は人の苦の根本原因として三毒をあげ、その筆頭を貪欲としています。仏教の目指す解脱とはこの煩悩を克服し、悟りの世界へと至ることです。ところが高野山の高僧は、あろうことか信者の浄財でひと儲けしようと企み、大損していたのです。
アンデルセンの童話「裸の王様」では、愚か者には見えない特別な布地で服を仕立てるという詐欺師に騙された王様が、裸のままパレードを行ないます。家臣や観衆たちは、自分が馬鹿だと思われないよう、見えない衣装を誉めそやしますが、そのとき一人の子どもが「王様は裸だよ!」と叫ぶのです。
高野山の不祥事は、この「裸の王様」によく似ています。密教の修法とは、愚か者には見えない布地のことなのではないでしょうか。
高僧たちが煩悩にまみれているのなら、開創1200年の華々しい行事も鼻白んでしまいます。金銭欲にとりつかれた彼らが、今回のイベントで投資の損を取り返そうと考えたとしても不思議はないからです――もちろんこれは、こころ卑しき衆生の邪推でしょうが。
参考:2013年4月22日付「朝日新聞」朝刊「高野山真言宗 30億円投資 浄財でリスク商品も 信者に実態伝えず 『粉飾の疑い』混乱」
『週刊プレイボーイ』2015年5月18日発売号に掲載
<橘 玲(たちばな あきら)>
作家。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。「新世紀の資本論」と評された『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部の大ベストセラーに。著書に『日本の国家破産に備える資産防衛マニュアル』(以上ダイヤモンド社)など。中国人の考え方、反日、政治体制、経済、不動産バブルなど「中国という大問題」に切り込んだ最新刊 『橘玲の中国私論』が発売中。
●DPM(ダイヤモンド・プレミアム・メールマガジン)にて
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オヤジの幸福論
【第38回】 2015年5月26日 後藤順一郎 [アライアンス・バーンスタイン株式会社 クライアント本部戦略ソリューション室長、兼DC推進室長]
資産運用も「スループット」する時代
?前回は「インフレが当たり前の環境では、『運用するリスク』よりも『運用しないリスク』が顕在化するため、海外先進国では確定拠出年金(以下、DC)において何も意思決定をしない人のお金をライフサイクル投資で自動運用させることが常識となっている」とお話ししました。とは言うものの、オヤジ世代の中には「勝手に運用されてしまうのは嫌だ!?今まで通り、元本割れしない預貯金にしてほしい」と思う方もいらっしゃると思います。でも、私は多くの方にとって海外では常識の自動運用の仕組みは合理的であると考えます。
?以下で、その理由について触れていきますが、ここでのキーワードは「スループット(Through put)」です。オヤジ世代の皆さんはこの単語をご存知ですか?
「スループット」で仕事を効率化
?先日私はテレビのとある番組で初めて、「スループット」という単語を知りました。その番組では、最近の若者はインプットやアウトプットに加えて、「スループット」も活用しているという文脈でこの新しい言葉を使っていました。気になったのでインターネットで意味を調べてみたところ、もともとはIT関連用語で、“単位時間当たりの処理能力”という意味があることがわかりました。ただ、この番組では、従来からの意味ではなく「スループット」を“インターネット上にある膨大な知識を借りてきて、そのまま活用する”という意味で使っていました。いわゆるコピペに近い概念ですから、これには眉をひそめる人たちも多いようです。しかし、私は従来から自分の専門ではない分野においては「スループット」を実践することで仕事の効率化を図っているため、この考えにまったく違和感はありません。
?もちろん、何から何まですべて「スループット」では自分の核がなくなり職業人としては問題がありますが、要はインプット、アウトプット、そして「スループット」のバランスが重要なのだと思います。得意な分野はインプットからのアウトプットを自分で考えて行い、そうでない分野はインターネット上の叡智を借りて「スループット」する。若者のみならず、オヤジ世代のようなシニアのビジネスマンもすでにこのようなスタイルで仕事に取り組んでいる方が多いと思います。
資産運用も「スループット」する時代
?ここで、「はっ!」とひらめくものがありました。それは、この連載のテーマである資産運用についても同じことが当てはまるのではないか、つまり資産運用も「スループット」を活用する時代なのではないか、ということです。ともすると、資産運用においてはしっかりとインプットしてからアウトプットしよう、つまり投資教育で基礎知識を習得したうえで、自分自身で運用しよう、という考え方が当たり前になっていると思います。でも残念ながら皆が投資教育を通じて資産運用の知識を高められるとは限りませんし、そうすることを望んでいない人も多いはず。しかも以前の連載でも触れたように、「行動ファイナンス」によれば、理解しても正しく行動できないバイアスが人間にはあるのです。であれば、資産運用を専門家に任せ、その結果をまさに「スループット」として享受することを考えても良いのではないでしょうか?
?これをオヤジ世代に馴染みのある経営戦略でたとえれば、今流行りのオープン・イノベーションに近いと言えるのかもしれません。オープン・イノベーションとは、足りないスキルや能力を外部から調達しコラボすることで足りない部分を補い、トータルでさらに良いものとすることです。これを資産形成に当てはめると、自分自身は得意分野である仕事に専念することでそこからの実入りを増やし(人的資本の増強)、自分の得意分野ではなく、しかも費やす時間もない資産運用については専門家に任せて自動的に運用してもらうことで増やしていく(金融資産の増加)。結果として人的資本と金融資産を合わせたトータルが増えていく、ということになります。資産運用が得意でない人にとってみれば極めて魅力的な選択肢になります。
国も「スループット」を後押し
?前回も触れましたが、この資産運用の「スループット」については、今まさに国で議論されているのです。具体的には、DCで資産運用の意思決定をしない人、または意思決定をしたくてもできない人のお金の投資先(デフォルト商品)としては、専門家によってしっかりと分散投資されているライフサイクル型の運用商品(代表的な例:ターゲット・イヤー・ファンド)が適していると明示したうえで、そこへの投資を促すように法律を改正しようという方向で議論が進んでいます。
?そこではライフサイクル投資をデフォルト商品とすることを企業に努力義務として課す方向で検討されています。また、今後活性化すると思われる職場積立NISAにおいても、日本証券業協会がラインナップの中に長期・分散投資型の金融商品を一つ以上加えることをガイドラインに定めています。これらの動きの背景には、インフレや公的年金の減額が予想される中で、『運用しないリスク』が国民の老後生活に与える影響の大きさを国が痛切に感じているということでしょう。
?結論としては、私はオヤジ世代の皆さんにとって資産運用が自分の専門分野、または好きな分野であり、それを実践する時間もあるのであれば、自分自身で資産運用をすべきだと思いますが、得意でもないし好きでもない、しかも面倒くさいと思っているけれど準備しなければならないと認識しているならば、国も後押しする「スループット」運用を活用するのも一つの合理的な選択肢であると考えます。
今回の川柳
やってみよう?スループットで?資産運用
※本記事中の発言は筆者の個人的な見解であり、筆者が所属するアライアンス・バーンスタイン株式会社の見解ではありません。
http://diamond.jp/articles/-/71330
#株価ピークでスループット推奨とは
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