04. 2015年5月26日 13:54:54
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緊急輸入では焼け石に水、 バター不足解消には構造的変革が必要 酪農家も牛も減っている JBpress 2015/1/9 11:34 白田 茜 バター不足が深刻化している。スーパーでは品薄状態が続き、「お一人様一点限り」としながらも、入荷するとすぐ売り切れてしまう状況だ。政府はバター不足解消のために海外から緊急輸入したが、店頭でのバター不足は改善していない。バター不足の背景を探りつつ、今後の対応策について考えてみたい。 ■生乳使用製品の中でバターの生産減少が顕著 深刻なバター不足になってしまったのは、酪農家の廃業が相次ぎ、国内で飼育している乳牛頭数が減ってしまったこと、2013年の猛暑の影響で乳牛の多くが乳房炎にかかってしまい、生乳(せいにゅう:搾ったままの牛の乳)の生産量が減少したことなどが原因である。 農林水産省の「最近の牛乳乳製品をめぐる情勢について」によると、乳用牛を飼育する酪農家数は、2014年は前年比4.1%の減少。原料の生乳を生産するためのコストも、配合飼料などが上昇したため高騰傾向にあるという。 生乳の生産量は1997年以降、減少傾向にある。 生乳を原料とする乳製品の中でも、バターの減産が著しい。2014年度(4〜11月)はチーズは1.9%の減少、クリームは2.9%の増加だったのに、脱脂粉乳・バターは7.5%の減少。このうち、バターの生産量は9.2%の減少だった。生乳の増産の計画を立てているにもかかわらず、減少に歯止めがかかっていない状況だ。 ■緊急輸入してもバター不足はすぐに解消されない バター不足解消のために政府は海外から1万トンのバターを緊急輸入したが、店頭のバター不足は解消していない。 政府は緊急輸入したバターのうち、7000トンをすでに乳業メーカーに売り渡しており、2015年3月までに残りの3000トンを輸入する予定だ。しかし、メーカーはこの先もバター不足が続くとみて出荷制限を続けている。 クリスマスなどの需要期を迎え、政府は、乳業各社に対しバターの安定供給を依頼。「乳業各社に取り組みの強化を依頼する通知」を出した。この異例とも言える通知に対し、バター製造大手4社は、12月の家庭用バター供給量を11月に比べて33%(453トン)増加すると回答。併せて、家庭用バターの供給を12月前半に集中させ、1月以降もバターの安定供給について最大限努力するとした。 緊急輸入により、本年度末のバター在庫量は前年度比119.1%になると予測されている。だが、12月末現在、クリスマスの需要期を迎えてもスーパーや百貨店でもバターは品切れ状態だ。都内百貨店によると、「国産バターは欠品が続いており、発注はしているが、まだ店頭には入ってこない状態」だという。 すぐに解消されないのには理由がある。バターには20〜25キロのブロックタイプで品質保持期限の長い「バラバター」と、約450グラムで品質保持期限の比較的短い「ポンドバター」、それにスーパーなどで家庭向けに売られる「家庭用バター」などがある。今回輸入されるバターは、「バラバター」だ。政府は、「乳業メーカーは、国産のバラバターに加工されていた生乳を家庭用やポンドバター等のバターに回すことができるようになる」という。だが、輸入されたバターがそのまま家庭用に回されないので、家庭用バターを生産するのに時間がかかるのだ。西川公也農林水産大臣は記者会見で、「バターの生産から流通までには4週間前後はかかってしまう」と述べている。 ■リスクが大きい輸入バター頼り 今後も輸入バターで安定供給を図ろうとするとリスクがある。輸入バターには高関税がかかる上、価格変動もある。世界的な需給も逼迫してきている。 乳製品は、毎年一定量のカレントアクセス(CA)という輸入義務がある。生乳換算で13万7000トンもの量だ。この中には、バターだけではなく、脱脂粉乳やホエイ、バターオイルなども含まれる。脱脂粉乳とホエイは菓子、パン、飲料、ヨーグルトなどの原料となり、バターオイルはマーガリン、菓子、アイスクリームなどの原料となる。この輸入量でもバターが不足したことから、前述の通り、政府はCA枠外の緊急追加としてバター7000トンを輸入したのだ。CA枠を超えたバター追加輸入は2012年以来2年ぶりだった。 CA輸入分などのバターは関税が35%と低く抑えられているが、これを超えると360%もの高関税になる。そのため、バターが品薄でも輸入は急激には増やすことができないと考えられる。 乳製品の世界的な需要は、中長期的には増大すると予測されている。農水省が2010年2月に発表した「2019年における世界の食糧需給の見通し」によれば、主要品目の国際価格の変動の中でもバターの上昇率が著しい。2007年と比較し2019年には実質価格が47%増加すると予測している。 また、輸入バターの価格は国際価格に左右されるため不安定になりがちだ。農畜産業振興機構によると、バターの国際価格は2008年に1トンあたり3514.6ドルだったのが、2014年3月には4750ドルまで高騰。その後も乱降下を繰り返している。 ■バター代替品への切り替えは進むが・・・ バター不足が続いているため、代用品のマーガリンの売上が伸びている。家庭用では、バター風味に機能性をプラスした商品が次々と登場している。 雪印メグミルクは「雪印 まるでバターのようなマーガリン」を2010年9月に発売。バターの代替品として、値頃感のある商品として好調だという。また、バターのようなコクと味わいを実現した、J-オイルミルズの「ラーマ バター好きのためのマーガリン」も、好調だという。 各メーカーは、バターと同じような使用感を出すなど、コストパフォーマンスの高いマーガリン製品を作る努力を重ねている。バター供給の不安定さから、業務用ではマーガリンなど他原料に流出した食品メーカーが一定数存在しているようだ。これまでも、食品メーカーはバターが不足していたときには代替品に切り替えたり、バターの配合量を減らしたりして対応していたとみられる。 だがこれは、バターの供給状況の「不安定さ」が結果的に国産品離れ、輸入品・他原料へのシフトを後押ししていることを意味する。 乳業メーカーからなる日本乳業協会は、国産の生乳が不足しているとして、2014年8月に政府に対し、異例とも言える乳製品の大規模輸入を求めていた。国内の生乳生産量が確保できないため、食品メーカーからのバターや脱脂粉乳の要望に十分に応じきれていないためだ。今回の輸入要請は異例の規模で、生乳換算で約14万トンもの量だった。いかに生乳に不足感があるかが伺える。これに対し、前述したように政府は追加輸入で応えたとみられるが、要望された量には届いていない。 ■構造的変革がなければ問題は解決しない 今後もバター不足は続くだろう。大きな原因は、酪農家が減り生産量が減少していることだ。 酪農農家は2004年には全国に2万9000戸あった。それが2014年には1万9000戸まで減った。牛の数も1993年以降減少を続け、2004年に169万頭だったのが、2014年には140万頭になった。 少なくとも、小さな農家が淘汰され、規模拡大した農家が生き残るというシナリオは成立していないようだ。 酪農家が減少し続けている背景には、エサとなる飼料費の値上げや燃料の高騰など厳しい経営環境がある。飼料価格は10年前の1.5倍の水準に上昇しているという。加えて、TPP交渉で乳製品の関税撤廃などが求められている。チーズやバターなどの乳製品にかかっていた関税が撤廃されれば、安い輸入品との価格競争に負けてしまう。農家にとっては先行き不透明な状況が続いている。 このような状況の中でも、2006年には余った牛乳を捨てるという問題が起き、北海道では900トンもの牛乳が廃棄された。バター不足からすれば皮肉だが、背景には、飲用乳の消費が3年続けて減ったことがある。 2008年にもバターが店頭から消え、入荷してもすぐに売り切れる状況だったことは記憶に新しい。2011年11月の記事「今年のクリスマスケーキはお値段高め? 懸念されるバター不足の長期化」でも書いたように、2008年のバター不足の原因は牛乳の減産や猛暑、東日本大震災の影響だったとみられている。牛乳は牛を妊娠させて生産するものなので、増産や減産に時間がかかり、需給調整が難しいのだ。 この記事でも書いたように、バターは生乳の生産減の影響を受けやすい。生乳はまず鮮度が高い牛乳や生クリームに振り分けられ、最後に保存性が高いバターや脱脂粉乳に加工されるためだ。バターや脱脂粉乳は、生乳が多く生産されるときは在庫として積み上げておき、生乳が不足するときは、バターや脱脂粉乳の生産を減らし在庫を放出するといった「需給調整弁」の機能をもっているのだ。 加えて、農家と乳業メーカーで取引される価格が生乳の用途によって異なり、バターが低い価格であることも生産減の影響を受けやすい一因だ。最も高く取引されるのが牛乳で、1キロあたり115円程度。次いで生クリームなどは75円程度。一方のバターでは70円程度と、取引価格が安い。生乳の生産量が減ると、農家はより高く取引される牛乳などに生乳を多く割り振るため、バターの生産量が減ってしまう。 2014年には、ホクレン(札幌市)と大手・中堅乳業メーカー15社との間で、バターなど加工向けの生乳価格が1キロあたり1.5円値上げされた。生乳は4年連続で値上げされているが、生産増には直結していないようだ。 これまでも、政府は酪農家の経営を安定させるための様々な対策を行ってきた。バターや脱脂粉乳の生産者に対する補給金の支払いや、加工原料乳の全国平均乳価が直近の3年平均を下回った場合の差額の8割補填などだ。 生鮮品である飲用乳と違い、バターは輸入品との価格競争にさらされる。しかし、バターの乳価が低い状況や、生乳の余剰分をバターに回すといういまの構造のままでは、同じようなことが繰り返されることになるのは目に見えている。 コスト割れせず、持続的な生産を続けることができる乳価を保証するべきだろう。いまこそ、構造的な変革が求められている。 http://newsbiz.yahoo.co.jp/detail?a=20150109-00042611-biz_jbp_j-nb&ref=rank&p=1 |