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混迷シャープ 中期計画骨抜きの深層
http://diamond.jp/articles/-/72067
2015年5月25日 週刊ダイヤモンド編集部
経営再建中のシャープが、巨額赤字の中で打ち出した中期経営計画に批判が集中している。銀行が再建を主導しながら、一体なぜ骨抜きになったのか。深層を探る中で、見えてきたのはとんでもない実態だった。(「週刊ダイヤモンド」編集部 中村正毅)
5月18日午前。大阪市阿倍野区のシャープ本社では、会議室に順次集められた社員たちが、大型のディスプレイをぼんやりと眺めていた。
画面に映っているのは、高橋興三社長。前週に公表した新たな中期経営計画について、トップ自らが改革の方向性や理念を語った録画映像を、40分にわたって見せられていたのだ。
関西弁交じりの“施政方針演説”の中で、「(希望退職は)苦渋の決断だった」「途中で投げ出さず、改革をやり切ることが責任の取り方だ」と話す姿を見て、ある若手の社員は「周囲の人たちがタイミングを合わせたかのようにため息をついているのを見て、思わず苦笑いしてしまった」という。
しらけた雰囲気が会議室にまん延する中、社員の多くは、保身の塊のような役員たちを見て「あなたたちこそ辞めるべきだ」と、胸の内で叫んでいたに違いない。
踏み込み不足の改革で、リストラを余儀なくされた高橋社長は続投。仲の良い副社長2人も、取締役の退任や代表権の返上はしたものの、なぜか引き続き役員にとどまったからだ。
人事に限った話ではない。シャープが14日に発表した2015年3月期の連結決算と中計は、社員ならずとも目を覆いたくなるような内容だった。
わずか2年前に1100億円の黒字目標を掲げていた営業損益は480億円の赤字に、400億円の黒字としていた最終損益は2223億円の巨額赤字に転落した。
最終赤字がここまで大きく膨らんだのにはワケがある。
主力の液晶パネル事業での在庫評価減に加えて、稼働率が低下した亀山などの工場の減損、過去に高値で契約した太陽電池原料への引き当てなど、決算期末の土壇場で事業の“ウミ”を出したからだ。
今後の反転攻勢に必要な処理だったが、問題なのは、そのウミ出しを一部にとどめたことだ。
これまで何度も議論の俎上に載せられてきた、競争力を失いつつある薄膜太陽電池からの撤退や、テレビやLEDなどの国内生産拠点の縮小・撤退などは、中計でほとんど触れることはなかった。
さらに、耳を疑う内容だったのが、構造改革の一番のポイントとなる液晶事業だ。
数カ月で勝者と敗者が目まぐるしく入れ替わる変動の激しい事業に、シャープはこれまでリスク管理と収益の想定外の下振れに、深く頭を悩まされてきた経緯がある。今回の赤字転落の主因にもなっているわけだ。
にもかかわらず、中計で示した計画は引き続きスマートフォン向けに注力しながら、自動車向けのパネル供給という、通常5年先といわれる受注も確定していない分野を伸ばすといった、「希望的観測」の域を出ないものだった。
決算発表のわずか1カ月前に、中国でリップサービスのように記者団に語っていた液晶事業の「分社化」についても、自らは言及せずに、報道陣から質問を受けると「現時点ではロードマップにもない」と、手のひらを返したように言い切ってみせた。
一連の固定費の削減で、損益分岐点が下がり、一時的な収益改善は見込める一方で、この計画内容と説明では、シャープとして今後どう事業の変動リスクを抑えながら、安定的に収益を稼ぎ成長していくのかが非常に見えづらい。
抜本的構造改革とうたいながら、減損処理など財務上の手当てばかりが目立ち、どこに事業変革上の抜本的要素があるのかも、判然としなかった。
アナリストたちからも酷評された中計の発表翌日、シャープの株価が急落したのは、当然の結果だったといえる。
■幾度となく脳裏をよぎった2部降格
ここで大きな疑問が湧く。なぜ主力銀行は、ここまで“骨抜き”になった中計に対して、首を縦に振ったのかということだ。
投資家たちは、銀行が中計の細部にまで目を凝らした上で、ゴーサインを出したものだと理解している。だからこそ「銀行が付いていながらなぜ」という失望が広がり、シャープ株の下落に拍車が掛かったようにも見える。
しかしながら、2000年代前半の不良債権問題をはじめ、企業再生の修羅場を幾度となく経験してきたのが銀行だ。
その銀行が、市場の反応すら読めないほどもうろくし、手ぬるい計画を許したというのは、どうにもふに落ちない。では、骨抜き計画の真意は一体どこにあるのか。深層を探っていくと、見えてくるのは、シャープが「連結債務超過」に陥りかねないほど、存続の危機に立たされていたという事実だ。
その事実をひもとくカギになるのが、「後発事象」だ。
今回の事案への理解を深める上で、特に重要な点なので丁寧に解説していこう。後発事象とは決算期末の後に発生した、財務や業績に影響を及ぼす事象のことだ。
例えば、銀行が3月末に決算を締めた後、決算発表の5月中旬までの間に取引先企業が破綻した場合、3月末より以前に実質的な破綻の原因が発生していたとなれば、その期末までさかのぼって引当金の計上など、損失処理をするといった事例がある。銀行に限らず、企業会計上の基本ルールでもある。
これをシャープに当てはめると、どうなっていたか。複数の関係者によると、一部事業や工場の撤退を14日の中計に可能な限り盛り込んだ場合、監査法人の判断によっては、「後発事象として15年3月期にさかのぼって、損失処理を迫られる可能性があった」という。
その場合、「連結で債務超過に陥ることは確実な情勢だった」(同)といい、となると上場廃止基準に片足を突っ込み、東京証券取引所から「2部降格」を宣告される事態に発展する。
ともすると、法的整理間近のような心証を投資家に与えかねない事態で、シャープにとっても、融資金の貸し倒れだけは避けたい銀行にとっても、連結債務超過だけは、全力で回避しなければならなかった。
それ故、お茶を濁したような中身がペラペラの計画を出して、その場をしのぐしかなかったわけだ。それほど、財務が想定以上に傷んでいたということでもある。
ある銀行幹部は「(液晶の分社化は)ロードマップにもない? ああ、あの(高橋社長の)発言は、気にする必要ないよ」としており、今後分社化をはじめとした改革は、粛々と進めていくことに変わりはないと話す。
みずほ銀行と三菱東京UFJ銀行の2行で、計2000億円ものお金を債務免除益がかからないよう「疑似デット・エクイティ・スワップ(DES)」のかたちで新たに投入するだけに、もはやシャープの意向を最大限酌んでいるような義理も余裕も銀行にはなくなった。
■本格始動する日の丸液晶の再・再編
「それにしても、もう少し違うやり方があったんじゃないの」
経済産業省の幹部は、高橋社長の記者会見での言動に疑問を投げ掛ける。
後発事象という会計上の理由で、思い切った内容の中計を発表できなかったことは理解できるが、いくらでも記者会見の発言の中で、今後改革の方向性を示唆したり、におわせたりすることはできたからだ。
今は言えないからといって「考えていない」と完全否定してやり過ごすところに、高橋社長の経営者としての限界が見え隠れしているように映ったという。
後発事象に気を取られ、社員の強い反発を招くような役員人事を見過ごした銀行にも、まだ甘さが残る。
下図にあるように、6月以降、経営陣たちの役職は一部変わるものの、座席の配置はほとんど変わらない見込みで、問題ありとされたガバナンス(統治)、経営体制には大きな変更はない。
銀行幹部は「平身低頭して、婚約相手を探す『汚れ役』をこれからしっかりやってもらわなきゃ」と、副社長2人を残した理由を話すが、追加の人員削減で経営責任が叫ばれているときに、そうした役割を負わせることで続投の理解が得られるのかは微妙だ。
「批判はあるかもしれませんが、これからですよ。液晶の分社化も再編もきっちり方向付けします」。そう話す銀行首脳の目は、静かに燃えているようだった。
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