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[一目均衡]トヨタが投じる一石 証券部 松崎雄典
株主総会で株主に交じった社債保有者が議案に次々と賛成票や反対票を投じた――。こんなことが起きたら周囲の株主はびっくりするだろう。似たようなことが現実になりつつある。
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トヨタ自動車が導入を発表した「AA型種類株式」は、5年間保有すれば発行価格でトヨタに買い取ってもらえる。配当は1年目が発行価格の0.5%で、5年目まで徐々に高まる仕組み。残余財産の分配が通常の債権に劣後する点を除けば性格は債券に近い。だが、一般の株主と同じ議決権が付与される。
種類株は一般に、議決権はなく配当を優先的に受ける優先株や、創業者が普通株の何倍もの議決権を持つ複数議決権株などが知られる。野村証券と二人三脚で考案したトヨタのこの種類株は世界でも異例だ。
6月16日の株主総会で3分の2以上の賛成票を得れば発行できる。普通株の株主が「議決権を持つ債券保有者」という異質な存在を受け入れるか。証券史に残る総会といってもよい。
賛成か反対か、投票する既存株主の悩みどころはもう一つある。この種類株は5年間は売れない譲渡制限があることだ。最大5%の固定的な株主が生まれ、流動性のない株が増える。
トヨタは、次世代技術の研究開発を長い目で見守る株主が必要だという。中長期で株式を保有する株主を「会社にとって重要なパートナーとなり得る存在」とする企業統治指針(コーポレートガバナンス・コード)の原案に沿った取り組みとしている。
市場の短期主義には金融危機以降、世界で批判が高まった。外国人株主が多かったオリックスも危機後に株主が去った経験から、個人株主を求めるようになった。トヨタの種類株が持つ元本保証の仕組みは、株式投資に慎重な個人を市場に呼び込む力も持つ。
一方、市場には違った見方もある。「中長期投資かどうかを保有期間だけで決めるべきではない」(大和総研の鈴木裕金融調査部主任研究員)という視点だ。保有期間が長いだけの株式持ち合いは、経営の緊張感をそぎ、ガバナンスの低下を招いてきた。中長期の視点で経営力や将来像を分析して株式を売る投資家を短期志向とも言いにくい。
フランスでは市場の短期主義を是正しようとする政府の動きに対し、議決権行使助言会社や機関投資家が反発している。
株式を2年以上保有すれば議決権が2倍になる仕組みが、株主総会で拒否されない限り、自動的に導入される。米運用大手ブラックロックは「企業が対話する株主の対象が狭まりかねない」とし、長く持つ株主を優遇すれば長期志向になるとの考えを否定する。
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従来、1株の価値は均一であるのが望ましいとされてきた。短期と中長期の投資家を分別して扱うべきか、新たな株式構造のあり方を模索する時代に入ったのかもしれない。トヨタが投じる一石の波紋は大きい。
[日経新聞5月19日朝刊P.15]
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