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イオンを見れば庶民消費がわかる?格差大国アメリカを追う日本〈dot.〉
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20150523-00000000-sasahi-bus_all
dot. 5月23日(土)7時3分配信
2014年の景気回復の遅れと失速と消費増税の断念、シェール革命に端を発したによる原油価格の下落などを、すでに2013年の段階で的確に予見していたエコノミストの中原圭介氏に、日本の金融緩和とそれが経済にもたらした影響、アベノミクス後の格差経済ついて語ってもらった。(聞き手=金融アナリスト・三井智映子氏)
* * *
中原 安倍首相の運がいいなと思うのは、原油価格が2014年の後半から落ちてきたことです。実質賃金は、2014年の後半から落ち幅が縮まってきました。もしも、原油安がなければ、アベノミクスは2015年でたぶん終わっていましたね。
三井 早いですね・・・。
中原 だって原油価格が半値になったんですよ。
三井 そうですね。普通に考えたら、想定できない下落ですよね。
中原 私は円高論者でも円安論者でもないですが、企業にとっても、国民にとっても、財政にとっても、居心地のいい為替水準があると思います。
今の1ドル120円という為替水準はあくまで企業とお金持ちしか恩恵を受けない為替水準ですが、90円台半ばならば、それぞれにとってバランスが取れた、いい為替レートだと思います。
当然、企業収益は今より落ちますが、一方で国民の実質賃金はそんなに落ちないで済むわけです。
たとえば円相場が、安倍政権が始まる前の80円ぐらいだったとしましょう。それで原油価格が半分になっていたら、ガソリン価格はレギュラーで100円ぐらいまで落ちるはずです。
でも、そこから5割増しで円安になったので、今のレギュラーのガソリン価格は140円ぐらい。1ドル95円ぐらいであれば、国民の実質賃金もそんなに傷まないで済んだと思います。
三井 たしかに95円ぐらいでしたら、特に地方で車が移動手段の方は「うわ、ガソリン安くなったなと実感できるはずですよね。
中原 ええ、だからアメリカでは原油高が進んでいたとき、ウォルマートの売上が下がったんですよ。
ウォルマートは郊外型の大店舗で、アメリカでは自宅から50キロ、100キロの距離でも、当たり前のように車を飛ばして買物に行くわけです。それが、原油高によってガソリン代が高くなり、消費者の足が遠のいたわけです。今回の日本の場合、円安が進んだから、ガソリンが安くなったといっても、そんなには安くなっていないと。
三井 ちょっと気持ち楽になったかなくらいという感じでしょうか。
中原 はい。ウォルマートと同じような郊外型の店舗は、日本でいうとイオンなんです。
主婦で、ガソリン代が高かったら、やはり頻繁に買い物に行けないですよね。だからイオンは減益を続けているわけです。
三井 確かにイオンは2012年2月期から2015年2月期まで3期連続の減益を続けています。
中原 だからイオンの収益を見ていると、日本の一般庶民といわれる人たちの消費がわかるわけです。
都心の銀座の三越とか、高島屋の売れ行きというのは、一般の消費とはかけ離れたところの話です。同じ百貨店でも、地方の百貨店へ行くと、売上は減っています。
◆これからの日本経済、2つのシナリオ
三井 今、日本はインフレ政策に舵を切ったわけですけれども、中原さんが考えておられる、日本のゆくえについて楽観的な予測と悲観的な予測を伺えますか? まずは楽観的なほうからお願いします。
中原 結局、国民の生活がなかなか良くならなくて、安倍政権の支持率が下がって退陣。そして、次の政権で、インフレターゲットをやめれば、本当の意味で回復できるのかなという感じはしますね。
日銀も金融緩和をあと3年続けることはできないですから。続けられてあと1年半です。
三井 そうですね。やはり株式市場でも、2017年は下がるのではないかという予想がもうすでに出ています。
中原 もうインフレを人為的につくり出すのは無理な環境になってきているわけです。ですから、これからはできる限りうまく軟着陸するのが一番いいですね。
楽観的な話をもう一つしますと、日本の賃金はまだ高いですけれども、その間に新興国の賃金は上がっているわけです。
そうすると、日本と海外の賃金の差が縮まってくるわけです。そういった意味では、あと10年もすれば、かなり日本の競争力は上がってくるのかなと思います。
三井 なるほど。今まで人件費が安いから海外でやろうみたいなことが、日本でいいんじゃないかということになってくるということですね。
中原 確実に海外と日本の賃金の差は縮まっているわけです。それは競争力の差が縮まってくるということですよね。日本の競争力が、相対的に上がってくるということです。
だから10年ぐらいの単位で見れば、私はそんなに悲観はしていません。
本当は、インフレ目標なんかやっていなければ、私は2017年にはかなり経済は良くなっていると予想していました。なぜなら、それまでに原油価格が下がって、実質賃金が上がっていく。その中で成長戦略も効果を発揮してくる。着実に効果を発揮できるというシナリオを描いていたんですよね。
ところがインフレターゲットなんかやったものだから、景気が良くなるまでにだいたい3年くらいロスしたなと思っています。
三井 そう考えている方は、少ないですよね。今、「自分の実質賃金は上がらないけど、株価は上がっているし、この先景気はよくなるはずだ」という方が多いと思います。
中原 万国共通ですけど、株価が上がってくると、一般庶民まで景気が良くなったと勘違いするんです。自分は持っていないけど、景気が良くなったように勘違いしてしまうんです。
アメリカが典型的ですが、「お金持ちによるお金持ちのためのお金持ちの政治と金融政策」です。これは決して差別の意図はないのですが、実のところ、アメリカの庶民といわれる人たちは、日本人よりも情報弱者です。
だから、今までインフレで自分たちの実質賃金が目減りしていたのに、それに明確に気づくことができなかったんです。なぜかと言うと、彼らはメディア、主にテレビが情報源です。テレビのスポンサーは誰ですか。
三井 大企業。
中原 そう。結局、大企業がテレビを通して「インフレというのは経済に良い影響をもたらす」という意識付けをさせるわけです。さまざまな経済コメンテーターが、インフレがいいんだ、インフレがいいんだと言うと、みんなそう思ってしまうわけです。
「これはちょっとおかしいぞ」と気づき出したのが2011年で、「ウォール街を占拠せよ」というデモになったわけです。
◆「2017年消費税10%」の呪詛
三井 日本の悲観的なシナリオについても教えてください。
中原 まあ、日銀が緩和政策をこのまま続けられるわけがありませんが、むしろ私は揺り戻しが怖いです。具体的には、株価暴落、円急騰、長期金利急騰。この金融緩和の副作用が怖いと思います。
三井 その悲観的な予測が当たってしまうと、今はバブルではないと言われていますが、どうなるのでしょうか。
中原 私は、株価は2万円で止まってくれればいいと思っています。
たとえば、株価2万円から1万6000円に落ちたって、2014年とか、2013年の繰り返しという話になりますよね。でも、これがたとえば強気筋が言っている2万5000円まで急騰してから1万6000円まで落ちたらきついですよ。
株を持っていない庶民だけでなく、株を買っているお金持ちまで含み損で今度はお金を使わなくなってしまいますから、消費が一気に冷え込んでしまいます。国民の年金資産であるGPIFも大きな含み損を抱えてしまうのではないでしょうか。
三井 国全体で将来への不安が増えるかもしれませんね。
中原 そのうえ、安倍さんは「2017年に消費税10%に増税する」とすでに宣言しているんですよ。普通に考えたら、増税すると言っているのに、企業の経営者が強気で国内で設備投資をやらないですよね。設備の更新や修繕、補修だけですよね。
それは消費者層も同様で、2014年に8%の増税ですらこれだけ景気が冷え込み、さらに2017年に再増税するのに、財布の紐を緩めますか? 緩めないですよね。
三井 正直、2013年は確かにアベノミクスで株価は全体的に底上げになりましたけれども、2014年は個人投資家の買いは少なくて、GPIFに代表される官製相場ですよね。
中原 だから、2017年に増税しますというのが、逆に企業の経営者、あるいは消費者層の消費意欲を削いでしまった。だから、なかなか景気は力強く回復してこないと思います。
そこで安倍さんが増税できるかどうかわからないですよ。ただ、2017年は日銀もそろそろ出口を探らなくてはならないわけですよ。官製相場は膨らめば膨らむほど反動が大きい。
たとえば2009年からのエコポイントのときも、シャープも、ソニーも、パナソニックもエコポイントによる売上に甘えてしまい、構造改革が遅れて日本の家電は凋落してしまいました。
だから、官製によって作り出した需要というのはろくなことがありません。それが今回は株の買い入れで同じ轍を踏もうとしているのです。
三井 本当にそうですね。官制相場にROE革命を囃す買いも加わって、株価は一段高になるのではないかというイメージがあります。
中原 ROE革命について苦言を申し上げると、この胡散臭い革命は日本社会の長所を壊してしまいそうで怖いと思います。
アメリカの過去2年間の株式の買い需要の半分ぐらいは、自社株買いによるものです。アメリカ企業はROE(株主資本利益率)を上げるために、安易な自社株買いをやってきました。その自社株買いを除くと、アメリカの上場企業の収益率は2割程度低くなってしまうのです。
国策だからと言って、日本企業がアメリカ企業と同じように、派手に自社株買いや配当を増やしたりすると、企業は後々成長のための投資ができなくなってしまいます。
そればかりか、安易に従業員の首を切ってROEを高めようとする企業まで出てくるかもしれません。
日本は過去20年、企業が雇用を守ることによって低成長に甘んじてきたということ、その甲斐あって先進国で最も低い失業率を誇ってきたということをしっかりと認識しなければいけないと思います。
●中原圭介(なかはら・けいすけ):アセットベストパートナーズ代表 経済や経営だけでなく、歴史や哲学、自然科学など幅広い視点から経済や消費の動向を分析。「最も予測が当たる経済アナリスト」として評価が高く、熱烈なファンも多い。著書多数。
●三井智映子(みつい・ちえこ):フィスコリサーチレポーター NHK教育「イタリア語会話」でデビューし女優として活動。2013年、講談社より『最強アナリスト軍団に学ぶ ゼロからはじめる株式投資入門』を出版し、「美人すぎる金融アナリスト」として話題に。わかりやすい初心者向けの投資解説やセミナーを得意とする。
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