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今年3月10日、ドル円は7年8カ月ぶりに1ドル121円台後半の円安に。この水準を抜く円安水準となるのか(写真:共同)
2015年は、おそらく「最後の円安の年」になる 「円売り余力」が復活、年内はドル高円安方向
http://toyokeizai.net/articles/-/70581
2015年05月22日 唐鎌 大輔 :みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト 東洋経済
年内のドル円相場に関しては需給面、金利面から見て円安シナリオは継続と考えたい。
確かに円安シナリオにとってのリスク要因は、そこかしこに見え始めている。例えば昨秋からの貿易収支の改善はその1つである。しかし、需給面に目をやれば、後述する対外証券投資の存在がある。これを踏まえると、貿易収支の改善は、現段階では「売り圧力の後退」程度の話であり、「買い圧力の増大」と言えるほどの状況ではないだろう。原油価格急落を受けた輸入減少が貿易収支を改善させる構図も恐らく今年の1〜3月期がピークであったと思われ、暦年で貿易黒字を確保するまでの展開は考えにくい。
むしろ、需給の話をするのであれば、年内は日米の金融政策格差(要するに日米の金利差)や日本の政策要因などを背景に対外証券投資の加速、雑駁に言えば「日本人による円売り」が基礎的需給環境を円売りへ傾斜させていく展開に注目したい。確かに貿易収支ひいては経常収支は改善傾向にあるが、これを補って余りあるだけの対外証券投資が出ることで、円相場全体としては円売り超過の環境が継続する、というのが年内に関する筆者の基本的な見立てである。
■投機筋の円売り余力は復活
年内とは言わず、ごく目先に着目してもドル円相場の上振れ、つまりドル高リスクは感じる。
短期的な相場動向に関してはIMM通貨先物取引に現れる投機筋の動向などが注目されるが、同取引データによれば、今年4月下旬には円売りポジションがいったん中立まで調整されている。具体的には、4月28日時点の同取引における円売りポジションは金額(筆者試算)にして5.73億ドルと2012年10月16日以来の低水準を記録した。アベノミクスの起点を野田佳彦首相(当時)が安倍晋三首相(現在)に解散を持ちかけた2012年11月14日とした場合、投機筋の円売りポジションは初めて振り出しに戻ったわけである。
しかし、こうしたドル買い円売りのポジションが巻き戻された(要は円が投機的に買い戻された)にもかかわらず、この過程でさほど円高進行が見られなかった。これは投機筋における円の先安観が後退する一方、「安いドル」を欲する主体は依然多く、需給面では円売り優勢の状況が続いていることの証左と思われる。結局、冒頭述べたように、確固たる円売り需給が投機筋の買い戻しを相殺しているのである。
今後に関しては二通りの見方ができる。一つはドル買い円売りポジション解消の流れが続き、早晩ネットで円買いドル売りに転じるという見方、もう一つは軽くなったポジションを前提に再びドル買い円売りが再構築されてくるという見方である。
冒頭述べたように、客観的に見て、円買いがネットで増えてくる理由を探すのは簡単ではない。貿易赤字縮小や日銀追加緩和観測の後退といった材料は円売り縮小の理由にはなっても、円買いを積極的に増やす理由にはなりにくいと思われる。
中立に戻った投機筋のポジションに関しては、「円売り余力が復活した」と解釈するのが恐らく無難であり、事実、5月に入ってから再びじわじわと円売りドル買いのポジションが増え始めている。目先のドル円相場に関しては、実需動向から見ても、投機動向から見ても、ドル高リスクの方が大きいように思われる。
■問題は「方向」よりも「水準」
以上のような認識に立てば、「年内は円安」という「方向」自体の確度は相応に高いと考えている。問題はドル円相場の高値が125円なのか130円なのかといった「水準」に関する議論だが、これは日米の金融政策、とりわけ日本銀行の金融政策に関してどういった想定を持つかが重要になってくる。年内における日銀の追加緩和の有無については、どちらかと言えば「緩和なし」の予想が優勢と見受けられるが、「緩和あり」の予想も相応に存在しており、確固たるコンセンサスがあるとは言えない。
本稿では日銀の政策ロジックまで立ち入るつもりはないが、円相場見通しにとって重要なのはあくまで冒頭述べた実需の動向、それに並んで投機筋の動向であり、日銀の追加緩和の有無はドルの高値が125円なのか130円なのかということを決する程度の材料と筆者は割り切っている。あくまでメインのパスは「円安・ドル高」であり、その速度に多大な影響を与え得るのが日銀の「次の一手」という整理である。
良い意味でも、悪い意味でもロジカルに動かないことが黒田日銀の強みだとするならば、為替予想において日銀の政策運営はとりあえず「置き」で処理するしかない。
■2016年はより複雑なシナリオが必要に
なお、年内は上述のような理解に立つとしても、来年以降は違ったシナリオが必要かもしれない。日本からの対外証券投資はあくまで日米の金融政策格差があってこその話だが、米国におけるドル高のノイズは足元で明らかに強まっている。すでに「対話」を始めてしまった以上、FRB(米国連邦準備制度理事会)は年内1回の利上げには踏み切るだろう。しかし、1回利上げに着手したその瞬間から米金融政策の焦点は「いつやるか」から「何回できるか」にシフトするはずだ。
残念ながら「何回できるか」という点に関し、自信を持つ向きは多くない。そう考えると、来年のドル円相場見通し作成においては、日米の金融政策格差という大前提を再検討する必要も出てこよう。また、歴史的にもFRBが最初の利上げに着手した後にドル相場が急落するというのは比較的有名なアノマリーである。それゆえ、皮肉なことだが、年初来、見られてきたように「米利上げ観測が後退するほどドル高シナリオが延命する」という展開になっている。だが、最速で9月、順当で12月に利上げをするならば、この延命期間も近く終わりを迎えることになる。
政治的にも来年は大統領選挙を控え、米産業界からはドル高に対して苦情も出やすくなるだろうし、日本でも2016年7月の国政選挙(参院選)を前に過度な円安を志向しにくいムードが再び漂うはずだ。政治上、米国がドル高を嫌気し、日本が円安を嫌気するような構図が鮮明化する状況になれば、円安・ドル高シナリオの実現はほぼ不可能である。まだ2016年のストーリーを考えるのは早過ぎるかもしれないが、こう考えてみると、2015年は円安相場が実現する「最後の年」になるのではないかと筆者は考え始めている。
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