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中国の農業政策の矛盾:砂糖の生産コストは海外産の2倍
備蓄制度が腐敗を生む
2015年5月21日(木) The Economist
中国では過去5年間に農業従事者の賃金が急騰している。このため、中国南部のサトウキビ農家は国境を接するベトナムに労働力を求めるようになった。賃金が中国人労働者の4分の3程度にとどまるベトナム人労働者を雇い、特に冬場の収穫期に畑仕事をさせるのだ。こうした労働者は不法移民だが、地元当局は見て見ぬふりをしていた。
広西チワン族自治区に位置し「砂糖の都」と呼ばれる崇左には毎年約5万人のベトナム人が流れ込んだ。サトウキビは、カルスト地形に並ぶ丘の合間をぬった赤土の畑で栽培されている。だが最近の政治的緊張を受け、中国はベトナムからの移民を拒否し始めた。サトウキビ農家にとって、米カリフォルニア州の果樹園からメキシコ人労働者が突然いなくなってしまうのに等しい状況が生じている。
こうした打撃を受けなかったとしても、崇左の農家は安価な輸入品との競争によって深刻な財政問題に直面していただろう。だが中央政府が国内の砂糖産業のてこ入れに取り組んだおかげで、農家の収支はおおむね合うところだった。中国政府は砂糖の輸入に対する承認を遅らせ、海外製品よりも値の張る地元製品を買い上げて、ただでさえ膨れ上がった備蓄を増やしてきた。採算の取れない農家がサトウキビ栽培を継続できるよう、中央政府は直接的な補助金制度も検討中だ。崇左を廃れさせるつもりはない。ベトナム人労働者を拒む一方で、地元政府は「砂糖ローン」とでも言うべき支援を提供し始めた。
このような戦術に頼る場面が増えているのは、砂糖に限らず中国の農産物の生産に問題が広がっていることの表れだ。コストが上昇し、穀物の収穫高が伸び悩む中、政府は農家が破綻しないようにこれまで以上の支援を行っている。
食糧の自給自足を重視してきた
主に政策の誤りが招いた1950年代末からの飢饉では、数千万人の死者が出た。それ以来、中国は食糧の大半を自前で生産するという偉業を行ってきた。世界人口の5分の2*に及ぶ人口を賄うための食糧を、世界の耕地面積のわずか10分の1で支えきたのだ。だが中流層の「食欲」が増した現在、中国はもはや自国の農業だけでは食糧を賄えなくなっている。中国は2011年に、世界最大の農作物輸入国となった。これには豚の飼料用大豆への需要が高まったことが大きい。
*:原文をそのまま訳した。中国の人口は約13億人。世界の人口はおよそ72億人。
中国における穀物別の需給バランス
出所:The Economist/米国農務省
中国は大豆の輸入を拡大する一方で、政府が主要な食糧と考える農作物に関してはバリケードを張りめぐらせている。中国共産党は、政権に就いて間もない頃から穀物の自給自足、および砂糖から豚肉に至る広範な製品での自立を目指して奮闘してきた。
現在提出されている安全保障法案の第2草案(5月6日発表)は「穀物の安全保障」(中国の官僚が食物の自足自給に関してしばしば使う用語)を維持する上での国家の責任を明記している。食糧を自前で賄える国に成長することは、毛沢東の戦略目標だった(もっとも彼自身が食糧不足を招いたのだが)。毛沢東の統治時代において、ソ連(当時)と米国が長く中国の敵だった。そして、彼は世界市場をあまり信頼していなかった。今日でも中国官僚の一部はこのような考えを持っている。
政府の介入が生産性の停滞を招く
食糧における自立を維持するには費用がかかる。富裕国のシンクタンクである経済協力開発機構(OECD)によると、中国は2012年に農家への支援として1650億ドル(約20兆円)を支出したという。これはその5年前の2倍の金額だ。
また、すべてを国内で賄おうとすれば不効率も生じる。国が定めた米・小麦・とうもろこしの最低買い取り価格は世界水準を大きく上回っている。これは生産を促進するには役立つが、土地資源をもっと有効に活用できる換金作物に転向しようとする農家の動きを鈍らせる。
国が介入した結果、小麦やとうもろこしなどの穀物が水資源の乏しい土地で広く栽培されることになった。こうした栽培の生産性を上げるために使用される化学薬品は飲料水を汚染する。収穫高の伸びは1998年から減速しており、生産量はこの数年間は横ばい状態だが、コストだけは上がり続けている。特に、若年層が都市部に移動するのに伴って人件費が上昇している。
主食となる穀物の生産量が目標を上回る年には、政府は余剰分を買い上げて国の備蓄に回している。同様のことをする国は多い。食糧の備蓄を増やして食糧価格の安定を図ると同時に、干ばつや植物の病気の発生に備えるためだ。だが中国の食糧備蓄は不必要に多いと考えられている(正確な数字は国家秘密)。例えば、中国のとうもろこしの備蓄量は7カ月分の消費を賄うと見積もられている。通常は、3か月分あれば安全とされる。
中国国家食糧局の任正暁局長は、この大量の備蓄を「喜ばしい負担」と呼んだ。だが国営テレビが備蓄制度の中で起きている汚職を4月に暴き、同局長のこの言葉は説得力を失った。中国東北地方の役人たちは、質の低い穀物を割引価格で購入しているのに、良質の穀物を国定価格で購入したと報告していた。つまり食糧備蓄に質の劣る穀物製品を回し、代金の差額を着服していたのだ。このような汚職は至るところにはびこっていると思われる。
それでも農業の保護は続く
中国においては米や小麦に比べて食糧戦略上の重要性が低い砂糖の生産においてさえ、国の介入が機能障害を招いていることは極めて明白だ。政府は年間消費量の85%を国産で賄うと呼びかけている。だが中国のサトウキビ農家の効率は低く、その生産高は、世界一の生産国であるブラジルの農家の半分以下だ。中国国内で生産する砂糖のコストは、海外産のものに比べて2倍以上に及ぶ。輸送費と最大50%の輸入関税を計算に入れてもまだ海外から買うほうが安い。それゆえ中国政府は輸入許可を遅らせ、地元市場に海外産の製品が流入するのを防いでいる。
一部の官僚は、自給自足の目標をもっと柔軟なものにする必要があると理解しているようだ。李克強首相は昨年、中国の目標は食用穀物の「絶対的な安全である」と語った。同首相の言い回しには曖昧な点があるという指摘がなされ、その後、国内で増産するより海外市場からの購入を増やすほうが「安全」を得られるのではないかという論議が国民の間で沸き起こっている。
だが、中国共産党は自らの組織が農村部で発祥したことを誇りとしており、地方を動揺させたくないと考えている。そのため、国内の生産者が脅かされると感じれば、輸入の阻止を続行する。崇左の農家の例でもわかるように、中国政府は、支援がなければ採算のとれない畑で農家が生産を続けることを今も望んでいる。
©May 16th 2015 | CHONGZUO | From the print edition,
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英エコノミスト誌の記事は、日経ビジネスがライセンス契約に基づき翻訳したものです。英語の原文記事はwww.economist.comで読むことができます。
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