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膨れあがるギリシャ危機、だがユーロ離脱はできない
ニッセイ基礎研究所・上席研究員、伊藤さゆり氏に聞く
2015年5月19日(火) 田村 賢司
ギリシャの債務危機は、第2のリーマンショックとなるのか――。巨額債務を抱えながら、追加融資のために緊縮財政の改革を求めるEU(欧州連合)と対立するギリシャ。債務返済の期限は迫るが政府の資金は底をつきかけている。ギリシャのデフォルト(債務不履行)、ユーロ離脱はあるのか。チキンレースの様相さえ帯び始めたEU・ギリシャの交渉と危機の先行きをニッセイ基礎研究所の欧州担当エコノミスト、伊藤さゆり氏に聞いた。
(聞き手は田村賢司)
4月に続き、今月半ばのユーロ圏財務相会合でEUはギリシャへの融資再開を見送った。ギリシャは、いよいよデフォルトの危機なのか。世界経済への打撃は大きいはずだ。
伊藤:確かに今回の財務相会合でも、ギリシャへの融資再開を見送った。だが、会合の声明文では、「包括的な合意には時間が必要」だが、「協議は進展した」という前向きな姿勢を示している。4月の会合では、融資再開の条件としてEUが求めている緊縮財政への改革案すら出さず、EU側とは大きな距離があった。その状況から考えると、デフォルト回避に向けて少しは動いたと言えるだろう。
だが、安心はできない。そもそも危機の発端は2009年秋、ギリシャの名目GDP(国内総生産)比の財政赤字が、公表していた3.7%ではなく、12.5%(その後13.6%に修正)に上っているとが発覚したことにある。ユーロに加盟するには、財政赤字を3%以内、公的債務残高を同じくGDP比で60%以内に抑える必要があるが、これをごまかしていたというわけだ。
反緊縮政権の誕生で再び危機に
ギリシャの信用力は失墜し、金利は急騰した。IMFやEU、ECB(欧州中央銀行)から2度に渡る金融支援を受けて何とか凌いできたはず。それでも改革できないのか。
伊藤:2010年5月に1次支援で約700億ユーロ(9兆5200億円)の融資を実行。2012年2月から2次支援で約1700億ユーロ(23兆1200億円)の融資を始めている。この2次融資は途中で止められている。残りは72億ユーロ(9792億円)あり、それを再開するかどうかを巡ってぶつかり合っているのが今だ。
中断の裏には、ギリシャの迷走がある。2次支援の際、EU側はギリシャ政府に対して2013年に基礎的財政収支(PB=プライマリー・バランス)を黒字化するなど厳しい緊縮財政を求めた。PBは、税収でその年の政策的経費を賄えるかどうかをみるもの。つまり、借金に頼らないで、行政運営をできるように要求したわけだ。
しかし、労働者の25%が公務員で、年金制度も手厚いという国だから、緊縮財政は、国民の間に不満を膨れあがらせた。そして、今年1月には反緊縮を掲げたアレクシス・チプラス政権が発足。ギリシャは緊縮にノーを突きつける形になった。元々、今年2月に終了するはずだった第2次金融支援は6月末までに延長することになったが、改革は進まなくなった。
2次支援を打ち切られるとデフォルトしかねない。どこかで妥協はしなければいけないはず。
伊藤:先ほども触れたように、ギリシャは4月の財務相会合の際には、何の改革案も示さなかった。これについては、緊縮への抵抗とも言えるが、そもそもギリシャ政府自身が、自国の財政状況を正確に把握できていないという可能性すらある。
しかし、EU側は、2次支援を実行する際に、ギリシャ国債を持つ民間金融機関にその債権の大半を事実上カットさせるなど、融資以外にも支援を講じてきただけ譲らなかった。融資再開と改革の紐づけを外すことは考えられなかったようだ。
公表はされていないが、5月の財務相会合では、ギリシャ側から「国営企業の民営化」や「労働市場の規制緩和」については、何らかの改革案が出たはずだ。ひょっとすると、近隣諸国に比べてなお手厚すぎると言われる「年金」についても妥協の余地が探られつつあるかも知れない。
脱税横行、徴税システムから作り直し必要
伊藤さゆり(いとう・さゆり)氏
1987年、日本興業銀行入行。2001年にニッセイ基礎研究所入社、2013年7月から現職。専門は欧州経済分析。「欧州情勢の分析を通じて、日本の経済・企業、政策へのヒントを発信したい」と言う。
4人に1人が公務員という国で、国営企業の民営化や労働市場の規制緩和が本当に出来るのか。
伊藤:新政権は、債務を減らす手段となる国有財産の売却を否定、国営企業の民営化手続きを一時中止したが、5月中旬になって再開したようだ。正規雇用者を強く守っている労働規制も、容易なことでは動かない。難しいことだらけだ。
脱税も横行し、国民が多額の資金を国外に持ち出しているが、その調査すら出来ていない。所得捕捉もろくに出来ていないといわれ、本来、徴税システムから作り直さないといけない状況と見られる。
だが、5月末には公務員給与と年金支払いで25億ユーロ(3400億円)、6月にはIMFへの返済やECBへの利払いなどで計11億ユーロ(1496億円)が必要になる。この他にも短期国債の借り換えがあり、多額の資金が必要になる。もはや時間は少ない。妥協は必要になるはずだ。さらに言えば、7月もIMFへの返済やECBが保有するギリシャ国債の償還などがあり、これは別の協議が必要になる。
具体的にはどういう改革がありえるのか。
伊藤:例えば、年金や公務員給与は政府が発行する借用証で払うという案がある。借用証をユーロの代わりの通貨の様に使えるようにするわけだ。EU側が求める「最低賃金の引き上げ凍結」にしても、チプラス首相は1月の総選挙終盤には「景気が回復した時に、最低賃金を引き上げる」というような言い方をしたりしていた。状況が変わる可能性はあると思う。
ユーロを離脱すれば経済は「崩壊」
ギリシャがEU側の要求を拒否し続けた場合、金融システムの危機に波及しないのか。
伊藤:まず、交渉が長引いて融資再開が支払期限に間に合わないケースはあり得る。しかし、それが直ちにデフォルトとなるかどうかは分からない。IMFやECBなどへの返済などは、遅れてもそれをすぐにデフォルトの扱いにするとは言えない。それはIMFやECBなどの判断次第だからだ。交渉が続いて、妥協に至る可能性があれば、返済を待つことはあるだろう。
それに、第2次支援が始まった2012年まではユーロ圏の銀行がギリシャ国債を幅広く保有していたが、今はECBなど公的機関がほとんどを持っている。ギリシャの銀行に生じる問題にどう対処するか次第だが、ユーロ圏の金融システムへの波及はないと思う。
仮に何かが起きても今は、金融システムの安全網として常設の欧州安定メカニズム(ESM)があり、ECBもESMを補完する形で重債務国の短期国債をほぼ無制限に引き受ける仕組みを持っている。これらが発動されれば、金融システムが危機に陥ることはない。
ギリシャ経済は大幅に落ち込んだ
●欧州主要国とギリシャの実質GDPの推移
http://business.nikkeibp.co.jp/article/interview/20150518/281247/graph.jpg
注:2008年1〜3月期の各国・地域の実質GDPを100として指数化している。
出所:ニッセイ基礎研究所の資料を基に本誌作成
ギリシャの民間銀行の危機には、どういう対応が出来るのか。ギリシャの民間銀行が大量破綻すれば、EUはおろか、世界経済を震撼させる火薬庫にならないか。
伊藤:ギリシャがデフォルトすると、同国内の民間銀行は危なくなる。その時には、ECBが一元的監督機関として民間銀行の増資を命じることができるが、今のようにユーログループとギリシャ政府が対立している状況ではそれも難しい。
ギリシャが、ユーロを離脱することはないのか。離脱したらどうなると見るか。
伊藤:ユーロを離脱すれば、ギリシャは昔の通貨のドラクマを再び使うということになるのだろう。しかし、ユーロに対する交換レートは暴落する。当然、ギリシャの経済はさらに悪化することになる。
ギリシャのGDPは2008年から2013年までで4分の1も縮小し、失業率は今、26%にも達している。この状況の中でユーロ離脱はあり得ないはずだ。
キーパーソンに聞く
日経ビジネスのデスクが、話題の人、旬の人にインタビューします。このコラムを開けば毎日1人、新しいキーパーソンに出会えます。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/interview/20150518/281247/?ST=top
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