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BPはメキシコ湾の深海油田「マッド・ドッグ」の第2期開発について、投資の最終判断を先送りした(写真:BP)
1986年を彷彿させる石油大手の投資削減 原油安ショック、1000億ドル相当のプロジェクトが中止・凍結に
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/43833
2015.5.20 Financial Times JBpress
(2015年5月19日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
エネルギー会社が設備投資を削減し、新規プロジェクトを延期しているペースから判断すると、2015年は1986年によく似ている。
30年近く前、サウジアラビアが市場シェアの大幅拡大に乗り出して原油安の引き金を引いたことがあった。
西側のエネルギー会社はこの時、設備投資の大幅削減を強いられた。
そして今、エネルギー業界は同様な対応を迫られている。サウジアラビア主導の石油生産国カルテル、石油輸出国機構(OPEC)が昨年11月、生産コストの高いライバルの供給増加を見て原油生産量の据え置きを決め、その威力を見せつけたからだ。この決定を受けて、原油価格は急落した。
ノルウェーのエネルギーコンサルティング会社ライスタッド・エナジーが世界各地で計画中の石油・ガス開発プロジェクトを分析したところによれば、リターンの低下を受けてコスト削減に躍起になっているエネルギー会社が減速、延期、または中止した設備投資は計1000億ドルを超えており、26件の大型プロジェクトに影響が及んでいるという。
■待ちの姿勢を決め込むエネルギー生産者
また、エネルギー会社121社の2015年の設備投資計画を精査した投資銀行モルガン・スタンレーのアナリストらによれば、121社は2015年に1290億ドルの投資を計画しているが、この額は前年実績を25%下回るという。
設備投資の縮小は、米国のシェール生産地における掘削リグ数の減少にはとどまらない。
カナダでは今年に入ってから、ビチューメン(瀝青)を多く含むタールサンドから石油を抽出するプロジェクトへの投資が数百億ドルも棚上げになっており、何千人もの雇用が失われている。生産会社が生産コストの高いプロジェクトから順番に延期しているためだ。
こうした投資の削減はオーストラリア、ノルウェー、イラク、アンゴラ、エクアドル、中国、そしてフォークランド諸島でも見受けられる。
削減の影響は広範囲に及ぶことになるだろう。石油生産会社は特定のプロジェクトを進めるか否かという最終判断を延期することにより、キャッシュフローを厚くしたり、配当の原資を確保したり、いずれ実現する開発コストの低下という恩恵を享受したりしようと思っているからだ。
石油生産会社が待ちの姿勢を取れば、サービス提供業者への支払い――石油サービス会社への人件費や掘削リグなどの設備使用料の支払い――は減り、新規プロジェクトの損益分岐点が引き下げられることになる。
従って、ロイヤル・ダッチ・シェルやシェブロン、BPといった生産会社は配当の原資を確保するだけでなく、コスト低減、そしていずれは原油価格の回復から大きな利益を得ることになるだろう。
■歴史的に珍しいトレンドの合流
「我々の見立てが正しければ、この業界は販売価格の上昇と生産コストの減少という歴史的に珍しいトレンドの合流に備えていることになる」。モルガン・スタンレーのアナリスト、マルタイン・ラッツ氏はこう語る。
この見通しは、原油価格が昨年夏のピーク(1バレル=115ドル)から急落して以降、エネルギー会社が驚異的なスピードで対応していることに負う部分が大きい。
ただ、そのスピードは正確に把握できているわけではない。エネルギー会社の中には、コスト削減の取り組みを派手に発表するところもあれば、その情報を年次報告書に小さく書き込むだけのところもあるからだ。
ノルウェーのライスタッドは、原油安によって減速を余儀なくされたプロジェクトと、お役所仕事や政治的な争いのために実行が遅れているプロジェクトを選り分けようとした。
シェルは原油価格の下落局面においても投資を継続しているが、今年2月には、カナダのアルバータ州北部でオイルサンドを掘る計画を中止した。ピエール・リバー・プロジェクトと称されたこの計画では、日量20万バレルの生産が見込まれていた。
また、カーモン・クリークというオイルサンド開発プロジェクトの立ち上げも2年延期している。
オーストラリアの200億ドル超のアロー液化天然ガス(LNG)プロジェクトも断念している。
BPはメキシコ湾の深海油田「マッド・ドッグ」の第2期開発について、投資の最終判断を先送りした。140億ドルと見積もられている支出を減らすのが狙いだ。ノルウェーのスタトイルも、同国の北極圏にあるヨハン・キャストバーグ油田についての決定を2016年に延期している。
ロイターの報道によれば、カザフスタンにおけるシェブロンの合弁会社テンギスシェブロイルの上級幹部は先月、原油安を受けて生産規模拡大計画の実行ペースを落とし、今年の設備投資額もカットしたと語ったという。
本紙(フィナンシャル・タイムズ)がシェブロンに問い合わせたところ、同社の女性広報担当者からは最新の年次報告書を見てほしいとの答えが返ってきた。そこには、規模拡大の最終決定は今年下されるだろうと書かれていた。
■市場への影響は?
市場では影響が感じられるようになるが、即座に影響が出るわけではない。ライスタッドの分析責任者、ペール・マグナス・ニースベン氏は「現時点では、誰もが非常に大幅な設備投資削減を行っているが、来年までは目に見える生産減少はないと考えている」と言う。
実際、設備投資の削減――あるいは延期――の性質は、その影響が浸透するまでに数年かかる可能性があることを意味している。カナダ、オーストラリア、ノルウェーの3カ国は、ライスタッドが特定した、延期された設備投資総額の4分の3近くを占める。
これは偶然ではない。オイルサンド、LNGプロジェクト、北極圏関連のプロジェクトは、多額の先行投資が必要で、そうしたプロジェクトからの資金回収はかなり後になるからだ。ひとまず待って、サプライヤーと契約内容を再交渉し、コスト低減の恩恵を手に入れることは、理にかなっている。
その意味で、ライスタッドが特定した26プロジェクトの多くは、まだ実行される可能性があるものの、生産は予想されていた時期より後に始まる。
およそ日量50万バレルの予想生産量は、2020年ではなく、2022年に実現するだろう。
米国のシェールに対する投資削減も考慮すると、非OPEC諸国における石油産業の上流部門の投資総額は今年、2014年と比べて約22%減少すると見られている。
ライスタッドの試算によれば、2014年のピークから2016年にかけて、非OPEC諸国の設備投資は2000億ドル減少する見通しだ。
■結局サウジが戦いに勝つのか
こうした状況は皆、生産コストが非OPEC諸国よりはるかに低いサウジアラビアにとって朗報だ。
実際、世界の需要がまだ堅調なため、他国・地域の設備投資削減の結果として、OPECは向こう5年間で日量200万バレルの市場シェアを獲得できるとライスタッドは試算している。
サウジアラビアは結局、市場の支配を巡る戦いに勝てるかもしれない。
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