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転職後に待っていたのは人材の墓場! 「中小企業=やり甲斐」という危険な幻想(ダイヤモンド・オンライン)
http://www.asyura2.com/15/hasan96/msg/621.html
投稿者 赤かぶ 日時 2015 年 5 月 19 日 00:22:45: igsppGRN/E9PQ
 

「中小企業は実力主義でやり甲斐がある」と、いまだに信じている人がいる。しかし、中小企業のホンネとタテマエは、そんな生易しいものではない Photo:vadymvdrobot-Fotolia.com


転職後に待っていたのは人材の墓場!「中小企業=やり甲斐」という危険な幻想
http://diamond.jp/articles/-/71705
2015年5月19日 吉田典史 [ジャーナリスト] ダイヤモンド・オンライン


 今回は、大手メーカーから中小のメーカーに転職した、30代半ばの男性を紹介したい。世間では、今なお「中小企業は実力主義で、やり甲斐がある」「結果を出せば認められる」と信じ込む人がいる。この男性に取材をすると、むしろその逆であることを思い知らされる。あなたの職場には、このように「組織のタテマエとホンネ」を見抜けない人がいないだろうか。

■本当にこの人は課長なのだろうか?明らかに能力が低い上司に牛耳られ

「桜井君は、部署の秩序を乱すことなく、平野さんの指示をきちんと聞いて、行動をとってもらいたい」

 会議の場でこう言い放ったのは、4月に総合企画部の部長になったばかりの大沢(48歳)だった。桜井(36歳)は反論しようとしても、声が出ない。身に覚えのない指摘に呆れ返ってしまったのだ。

 4月中旬、大規模な人事異動が行われた後、初の会議となった。とはいえ、社員は200人弱であり、そのうち30〜40人が異動になったに過ぎない。それでもこの会社では、「大規模」と社員間では大きな噂となっていた。些細なことが噂となるのだ。常に「現状維持」「平穏」を求める社風が浸透している。

 会議には、総合企画部の部員20人ほどが参加した。部は、企画課や広報課、IT推進室の3つのセクションで成り立つ。

 企画課から広報課に異動となった桜井は、会議が始まる前、嫌な予感がした。企画課のときの上司だった課長の大沢がこの4月に、総合企画部の部長になった。20人のトップに立つのである。しかも、執行役員を兼務する。

 一方で、桜井は36歳という年齢もあり、まだ非管理職である。この会社では、課長になるのは早くとも38歳だ。桜井は仕事のレベルに限って言えば、大沢よりもはるかに高いと自負している。心の奥深くには、上司である大沢をバカにしているものがあった。

「大沢は部長となり、自分はヒラのまま……。なぜ、こんな扱いになるのか……」

 そんな桜井の心を見透かすように、大沢は部員20人の前で忠告をした。自らが出世し、権力を握ったことを確かめるような口調だった。

 桜井は、特に「部署の秩序を乱すことなく」「平野さんの指示をきちんと聞いて」といった言葉にひっかかりを感じた。「平野」とは、広報課の課長のことであり、桜井の新たな上司である。

 実は企画課のとき、上司である大沢とは仕事の進め方をめぐり、何度もぶつかった。「本当に、この人は課長なのだろうか……。なぜ、この会社の社員は、これほどにレベルが低いのだろう……」

 そんな不満が、日に日に強くなっていた。こんな思いも持っていた。

■前の会社の上司より5ランクは低い!PDCAが回らないから中小企業のまま

 桜井は3年前、10年ほど勤務した大手薬品メーカーを辞めて、この薬品メーカーに転職した。前職では、転勤を30代前半ですでに4回経験していた。妻や小学生の子どもからも、転勤には不満が出ていた。

 桜井は今後も転勤が続き、地方に赴任することにためらいを感じていた。そんなとき、今の会社の求人を知った。規模ははるかに小さいが、同業である。地方支社はなく、転勤もない。業績は伸び悩んでいるが、売上が50億円前後と安定している。

 面接では、企画の仕事に関わることを人事部員や役員などとすり合わせ、入社した。給与は「特例」ということで、前職の年収を維持してもらった。どうやら、大企業から移ってくる人は過去にもほとんどいなかったようだ。

 しかし、上司となった大沢とは当初から大きな溝があった。ひとことで言えば、課長とは到底思えないのだ。業界の知識に疎く、自社の製品のことさえ正確に把握していない。1つ1つの仕事についてさらりとは理解しているが、深くは心得ていない。

 入社し、半月で感じ取った。

(前職の頃に仕えた課長のレベルよりも、5ランクは低い……。中小企業のレベルはこのくらいなのか……)

 その後、仕事の進め方をめぐり、機会あるごとに意見がぶつかった。大沢は負けん気が強い。桜井の言い分の揚げ足をとり、意見をそれ以上言えないようにする。そしてねじ伏せる。

 得意のセリフが、「君、こんなことでは人事評価が下がるよ」。それはソフトな物言いであったが、脅しに近いものがあった。結局、大沢の仕切りが悪く、部署が効率よく進まないという問題は残ったままだった。桜井は、学生時代の友人らにも話した。

「今の会社では、PDCAサイクルが回らない」

 大手の証券会社に勤務する友人は、こう諭す。

「PDCAが回らないから、中小企業のままなのだ。回るならば、業績はもっと上がる」

「こんなはずじゃなかった……」

 大沢は、常に自分を正当化する。自分が仕切れていないところから生じる問題を必ず歪曲し、部内に伝える。

 桜井は、20代前半でキャリアの浅い女性社員・山崎とコンビを組んで仕事をすることがあった。山崎のペースは、極端に遅い。そのしわ寄せが自分にくる。やむを得ず、山崎の仕事を処理した。そのことに不満を感じた山崎が、大沢に報告をする。

■素人同然の女性が甘やかされて辛くあたられるのは自分ばかり

 大沢は自分に逆らう部下のトラブルを知り、喜んだような表情で桜井を叱った。

「君は、部署の秩序を乱すなよ。山崎さんときちんとコミュニケーションをとってくれないと……。これでは、士気が低下する」

 そして山崎をあやし、ご機嫌をとる。それで山崎は満足そうだった。桜井は驚いた。「前職の大手メーカーでは、新人の女性社員はもっと前向きだった。こんな幼稚じゃなかった……」

 大沢は、特に女性社員には「優しくいい上司」でありたいのだ。その姿にも、理解に苦しむものがあった。「なぜ、厳しく言わないのだろう……。素人社員にご機嫌をとるあまり、問題が問題として残されたままなのに……」

 そもそも素人に近い山崎に、これほどの量の仕事を与えたのは、上司である大沢である。そこにはマネジメントがない。桜井が昨年、そのことを指摘すると、大沢は興奮し、否定した。なぜかマネジメントについて話し合うのでなく、「君は協調性がない。和を乱す」と論点をそらす。挙げ句に、「部署の秩序を乱す。協調性がない」と桜井がいないところで、吹聴する。

 桜井が喫煙所でタバコを吸っていると、ほかの部署の管理職がこんなことを言う。

「大沢のことを追い詰めるなよ。もっとおとなしくしないと、部署が成り立たないだろう」

 社長や役員からも、階段の踊り場などですれ違うときに、同じようなことを言われた。いずれも、身に覚えのないことだった。嘘を通り越し、ねつ造に近いほどに話をつくり込まれているようだ。

 桜井は思った。

「仕事が極端に遅い山崎がなぜか咎められることなく、自分が責められる。どうして、こんなことになるのか……」

 今年は転職してから4年目。桜井には、この会社の体質が次第に見え始めた。

「PDCAサイクルが回ることなく、問題がそのまま残り、見せかけの『和』を守る。それで平穏無事であれば、みんなは満足なのだ」

 部員たちは、日々の職場でも会議の場でも、大沢が喜ぶような話をする。大沢の指示や判断がいかに正しいか、いかにタイミングがいいか、などを競い合うかのように伝える。桜井は、前職の大手メーカーでは見たことのない光景に異様なものを感じた。

■200人の社員のうち50人が退職 「負の人材の流動化」が止まらない

 大沢は、自分に従わない桜井を孤立するように仕向ける。昼食に他の部員を誘うが、桜井は決して誘わない。会議の場では、意見を言わせないようにする。

 意識の高い30代前半までの男性社員が、次々と辞めていく。残るのは覇気のない男性社員や、単純作業しかできない30〜50代の女性社員である。

 入社式は、2ヵ月に1度のペースで行われる。新しい人を雇うと、新たにどこかの部署で以前からいた人が辞めていく。この繰り返しだ。この4年間で、200人の社員のうち50人近くが辞めた。

 証券会社に勤務する友人は、桜井にこんな助言をする。

「中小企業は、慢性的に定着率は低い。管理職のレベルは、大企業に比べおおむね低い。人材を定着させ、育成する仕掛けがほとんどない。出入りが激しいから人材の流動化は進むけど、役職の流動化がない。レベルの低い人も、部長になれば王様になれる。何をしても許される。降格もないし、ライバルもいない」

 最近、桜井は家に帰ると、妻に「こんなはずじゃなかった……」と愚痴をこぼすようになっている。娘は小学4年。私立の中学校に進学させたいと夫婦で願っている。その夢が、もしかすると実現しないかもしれない。

 いつまで、この会社にいればいいのか――。そんな憂鬱な思いが強くなっている。

■タテマエとホンネを見抜け! 「黒い職場」を生き抜く教訓

 今回登場した男性社員は、職場のホンネとタテマエを見抜くことができていない。筆者が送る教訓は、次の通りだ。似たような境遇にいる読者は、参考にしてほしい。

@社員数200人程度の会社は大企業にはなり得ない

 このことは当たり前のようでいて、実は多くの人が本当の意味で心得ていない。この男性に限らず、筆者が取材などで接すると、「中小企業は実力主義」「結果を出せば、すぐに昇格できる」などと、いまだに信じ込んでいる人がいることに驚く。特に30代半ばまでの社員に、よく見かける。

 結論から言えば、それはある断面をえぐった事実ではあるかもしれないが、やはりタテマエの域を出ていないのだ。そもそも、就業規則も人事規定も、社員の意識には浸透しない。当然、管理職や役員たちにもだ。

 しかも、社員の定着率は一貫して低く、人の出入りは激しい。これでは、「実力主義」云々よりもはるか前のところで破綻している。要は「負け戦」に近い状態であり、経験の浅い戦闘員が大きな部隊を率いて、自滅するような構造に似ているのだ。そんなところに、大企業のような体制は根付くはずもない。

「中小企業は実力主義」などという話は、極端なことを言えば、自分を認めてほしいという野心を持ったメディアや有識者の妄想に近いのだ。

A会社の人事は「公平」であるわけがない

 これは大企業にも言えることだが、そもそも会社の人事は公平にはなり得ない側面がある。「公平」の定義も、実はないのだ。人事権を握る上層部が、たとえば「大沢が部長にふさわしい」と判断すれば、その時点においては「勝ち」なのだ。そんなことでは、部署はいずれ「負ける」かもしれない。だが、そこまで思慮深く査定評価などを行う会社は、皆無に近い。少なくとも、筆者はそんな会社を取材で見たことも、聞いたこともない。

 それでも、桜井が感じ取ったように、200人規模の会社の社員ならば、平穏無事に日々が過ぎればいいのだ。社員は経営者ではないのだから、今後の会社のことなどを考えていない。考えたところで一過性のもの。真剣に考える人は、はるか前に会社を辞めているはずだ。

 社内の「公平」とは、こういう怠惰で無気力な社風を覆い隠す、都合のいい言葉なのだ。本当に熾烈な競争があり、ある程度納得感のある人事が行われている会社では、「公平」といった言葉は浸透しない。大きな不満が社員間にはないのだから、当然のことだろう。桜井は、そんなタテマエとホンネを見抜くことができていない。

B上司や会社は部下を育成しようとは思っていない

 組織のタテマエは「上司は部下を育成すべき存在」であるのだが、そうとは言えない場合がある。さらには、会社は社員を育成すべきなのだろうが、これもタテマエである。

 そもそも社員数200人程度の会社は人を育成する前の段階にある。日々の仕事を消化し、それでなんとなく月日が流れていく。役員など上層部も、それで満足なのだ。そんなところで社員が「育ててもらえる」と信じ込むことにも、救いようのない甘えがある。

■幻想を追い求める者には企業社会は容赦ない

 さらに言えば、会社は業績を維持し、上げることを最大のミッションとしている。たとえ「社員の定着を促し育成をしないと、業績は上がらない」と理想を説いたところで、中小企業からすると空想にしか聞こえないのである。

 桜井は大企業を辞めて、この会社に飛び込んだ。「家族を守るために転勤をしたくなかった」と振り返るが、今や皮肉なことに、家族の人生が軌道修正されそうになりつつある。安易な姿勢や考えが、不幸な現実を引き寄せる一例と言える。企業社会や会社では、現実に即して考える者が上手くいく。幻想を思い求める者には、容赦のないものなのだ。

 

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