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高齢者に牙をむく!「子どもの貧困」の実態 先鋭化する特殊詐欺の風景〈AERA〉
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20150518-00000012-sasahi-soci
AERA 2015年5月25日号
急増する特殊詐欺。その背景には、家庭にも社会にも居場所がない子どもたちのつながりがあった――。『老人喰い』(ちくま新書)で話題の著者が書く。(ルポライター・鈴木大介)
2014年の年間総被害額が550億円を超えた、いわゆる振り込め詐欺などの特殊詐欺犯罪。触法行為・犯罪に手を染める加害者側の少年少女の取材を続ける中で、詐欺の加害者取材もこなしてきたが、そこで20代を中心とする現場プレーヤー(被害者に直接電話をかける架電要員=カケ子)に共通する証言が、詐欺でターゲットとする高齢者が「何でこんなにも払える金を持っているんだろう」と驚愕したという経験だ。
その驚きはそのまま、詐欺組織側がプレーヤーに行う「ふんだんに金を持っている高齢者から多少の金を奪うことは最悪の犯罪ではない」という洗脳教育の正当化につながり、彼らは罪悪感どころか半ば義侠心をもって詐欺に加担するようになる。
この犯罪を「再分配」として肯定することはとてもできないが、それでもこの犯罪が横行する背景に現代日本の世代間格差があるということは否定できない。なぜなら取材してきた若き詐欺加害者たちが、幼い頃「子どもの貧困」の当事者だったケースが非常に多かったからだ。
彼らの根底にあるのは、貧しかった自らの生い立ちと、長じてからも努力が成功に決して結びつかないという強い閉塞感。例えばこんなケースだ。
●事例・ワンコイン児童
現在19歳だというM君は、最近詐欺のリクルーター(人材斡旋者)をしている先輩から、誘いを受けている。日当の出る研修を受け、使い物になるようならば「月給50万円保証+歩合(詐欺の成功額の15%)」をもらえるプレーヤーに。この候補から外されれば「日給5万円保証+歩合(詐欺の成功額の3%)」のウケ子(集金役)になるという条件。既に引ったくりで少年院を経験し、退院から1年経って保護観察も取れた現在は、建築の型枠職人をやりつつ、仲間内で建築系工具や自動車などの窃盗の「バイト」をしているというM君。その生い立ちは、「ワンコイン児童」だった。
M君には父親の記憶はない。一人っ子で、小学校時代は母親とアパートでの2人暮らし。毎日深夜に帰る母親は自炊を一切しなかった。M君は小学2年生の頃から、毎日母親からもらう500円玉1枚で食いつないだ。
ワンコインの夕食代を使って食べていたのは、コンビニの肉まんや駄菓子。夜遅くまでゲームをするかテレビを見ているため、朝に起きられず毎日遅刻で、給食を食べるために学校に行くという生活。500円はなるべく使わないで、貯めた金でゲームソフトを買っていたために、年じゅう腹を空かせていた。母親が不在がちであるゆえに学用品なども揃わないことがあり、体操服や書道道具もなかった。書道のある日は学校をサボった。
同級生からイジメを受けるようなことはなかったが、明らかに浮いていたという自覚はある。
「お前んとこは自由でいいな」と言われることもあったが、小学生にとって一人きりの夜は長かった。兄弟でもいればまだしも、一人でゲームを続けるのは寂しいというより、飽きるし、腹は減るし、退屈だった。
●家族より一緒にいる
そんなある夜、万引きでもするかと夜中にブラブラしていたところ、自販機前の明かりにたむろする隣の学区の小中学生と行き合ったのだという。小学5年生の時のことだった。
全員が喫煙をしており、初めは「狩られる」と思った。案の定絡まれた結果、「なにお前、チャリ(自転車)乗れないの? じゃあ教えてやるよ」という話になった。実はその年まで自転車の乗り方を教わったこともなく、自分の自転車も持っていなかった。ほんの数時間で自転車に乗れるようになり、さらにその夜に無施錠の自転車を窃盗。なぜか全員で隣町まで自転車で遠征し、集団万引きをしたのだという。
毎日つるんで遊ぶのは、8人のグループ。M君より年下もいれば、既に中学校に上がっている先輩もいたが、それぞれの家のことなども自由に話した。服を買ってもらえない子。週に1度しか親が家に帰ってこない子。電気代を滞納しがちで、年じゅう家が暗闇という子。家に帰ると殴られるという理由で、小学校4年生の頃から家出をしては連れ戻されて殴られるという子もいた。
毎日の500円があっただけで「まだうちはマシだったんだ」とM君は思ったという。
「自分自身の家もなんかヤバいって感じはしてたけど、普通の家の同級生にそんな話できない。けどその友だちになら普通に話せた。友だち……っていうより兄弟ができた!って感じですね。中学3年生までは毎日そいつらとつるんでたから、実際家族とかより一緒にいる時間長かったし」
●富める者への敵意
中学時代は、その「週に1度しか親が帰らない」友人宅に5人ほどで住み込み、自販機を破壊しての釣銭窃盗、海水浴場の駐車場で車上荒らし、スクーター盗とやりたい放題をした。中学卒業後は「高校行けなかった組」でつるみ、いつしか近隣の同じような境遇の少年のつながりで数十人規模のグループになっていた。
仲間内には、ヤクザになった者、ホストになった者、バンドをやっている者、そして詐欺に従事している者。そんなつながりから今回の詐欺のリクルートを受けているM君だが、話を受けるかどうかはまだ五分五分だ。
「ウケはハイリスクなバイトですけど、モシモシ(プレーヤー)は一回やると、目つきからして変わっちゃうんですよ。結局、俺らみたいにガキの頃から荒ぶってなくても、高校行けたヤツも、大学まで上がったヤツも、稼いでるとか努力が報われたとかの話は全然聞かない中で、詐欺周りのヤツだけがダントツで羽振りいい。それで『詐欺は頑張ったら頑張っただけ結果がある。捕まったらロング(長期刑)食らうけど、そのリスク込みで1年で一生分稼ぐ』とか真顔で言うんで。ちょっとカッコイイと思う半面で、意識高すぎで痛い感じもするし、『俺たちはお前らとは違う』って感じが鼻につくときもある。俺だって金持ってのうのうと暮らしてるジジイババアについては、こいつら金持ってても使い切んねーだろうから取っちゃってもいいんじゃね?って思うけど、やるならやるで本気で腹据えて取れる限り取り尽くすぐらいで行く。じゃないと、その先輩にも簡単には返事できない感じなんです」
今はまだ逡巡の中にあるM君だが、これまで取材に応じた現役詐欺プレーヤーたちは、その逡巡を突き抜けた者たちだ。親の経済的事情で大学を卒業できなかった者、中学卒業後に「出社と同時にスクワット100回」というブラックな営業代行会社を経験した者、M君同様に少年院を経験し、その中でスカウトを受けた者。同級生の親や祖父母に生活保護受給者が何人もいるという「地域そのものが貧困」なエリアの出身者もいた。カバンの中に、中学生用の学習参考書を忍ばせていた20代もいた。
いずれにせよそこに共通するのは、与えられなかった者として、「富める者」としての高齢者へのギラギラした敵意と、「ここで成功しなければ」という自らへの追い込みだった。
●自助的に居場所作る
痛感するのは、まず子どもの貧困が今に始まったことではなく、それを見過ごし放置し続けた結果がこの世代間対立構図なのではないかということだ。現在詐欺の現場を支える世代は、そのローティーン時代を2000年代に過ごしているが、当時から今に至るまで「日本に子どもの貧困なんてあるの?」という声は絶えない。
そしてもうひとつは、子どもの貧困には親の放任と育児放棄がセットになっていること。放任された子どもたちは、寂しさを抱えた自らの居場所を、福祉や支援者に求めるのではなく、自助的に自ら作り上げるということだ。
例えばM君のケースなら、地元で問題を抱えた児童が集団化していたわけだが、周囲の大人は彼らを貧困の中にある子どもではなく、あまつさえ犯罪者予備軍として扱った。なぜ彼らを幼い頃に救い上げてやることができなかったのか。
「犯罪のルーツに子どもの貧困がある」と発言すれば、必ず返ってくるのが「貧困の中で育った子どもの全てが非行に走るわけではない。それは差別を助長しかねない」といった反論だ。しかしそれは本来支援の対象だった子どもたちを、「道を外れた」時点で支援対象から外すと言っているに等しい。その代替として、非行や犯罪に繋がる自助的グループが彼らのセーフティーネットとして、居場所や飢えを満たすものになっているというのならば、いっそう彼らは明確な反逆の意思を持って社会に牙をむくだろう。
詐欺の現場で働く若者たちは、総じて非常に優秀で、正常な教育と環境を与えれば社会に大きく貢献できたであろう者が多い。将来の社会を支えるはずだった人材を、社会から奪う犯罪者に変えてしまう。それが子どもの貧困を「無きもの」にしてきた結果ではないのか。
年間550億円という特殊詐欺犯罪の被害額よりも、これらの人材を一般社会の生産に生かせなかった損失はそれ以上に大きいのではないか。これが取材を続けての実感だ。
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