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なぜ今、私たちは未来をこれほど不安に感じるのか?
【第7回】 2015年5月18日 松村嘉浩
非成長の時代にこそ求められる国家観
【特別対談・後篇】林宏明×松村嘉浩
前篇で解説されたように、異次元金融緩和政策は本質的な解決策ではないうえに、弊害が非常に大きいというのが債券取引のプロであるお二人の認識です。では、我々は一体どうするべきなのでしょうか? これから私たちは、どういう世界に生きていかなければならないのでしょうか? そして日本はどのような国になるべきなのでしょうか?
前提におくべき「成長しない」という事実
――異次元金融緩和政策は本質的な解決策ではないということですが、どのような形をとっていくべきでしょうか?
松村 まずは、現状を正しく認識することです。自著で詳しく述べましたが、我々は成長しない、全く“新しい時代”に生きているのです。
林 私は長年債券の投資をしてきて、長期金利が本格的な上昇に入ると考えたことは一度もありませんでした。80年代に16%あった米国の長期金利は基本的なトレンドとして低下し続け、1%台にまで割り込んできました。日本も欧州も同様です。長期金利は“成長できない世界”を的確に織り込んできたのです。1970年台には日・米・英・仏・西ドイツの、いわゆるG5が世界のGDPに占める割合は約70%でした。ところが、新興国の台頭もあり現在では約30%前後になっています。世界経済で新しい付加価値が生まれることもありますが、コアの経済価値はゼロサムです。
松村 つまり、世界経済の“成長”は全体としては大きく低下する、と。
林 おっしゃるとおりです。これに、多くの先進国が直面している少子高齢化による人口減少の要素を加味すると、世界経済は低成長とデフレないしディスインフレの様相を呈してくるだろうと考えたわけです。「米国は日本のようにならない」と言っていた米国の経済の専門家ですが、最近になってようやくサマーズ元財務長官が「長期停滞論」を言い始めるなど、ようやく「成長できていないこと」に気が付き始めました。成長しないジャパナイゼーションは、日本固有の問題ではなく世界に共通する問題なのです。
松村 我々は「人類は成長の歴史を歩んできた」というイメージを持っていますが、実はそんなことはないんですよね。実質的に成長したのは、せいぜいここ数百年の話。それまでは、ほとんど横ばいの世界でした。この数百年が特別な時代だったといえるかもしれません。この事実はアンガス・マディソン氏の研究によって明らかになりました。
林 成熟期に入った今、成長は止まろうとしている……つまり、元に戻ろうとしていているのです。
松村 そして、日本は成熟した先進国の中でも、もっとも早く成熟した“先進国中の先進国”。いわば、フロントランナーです。我々、日本人は“未知の世界”を最初に切り開いていかなければならない運命にあるといっていいでしょう。
林宏明(はやし・ひろあき)
フコクしんらい生命保険取締役執行役員財務部長。
1982年早稲田大学法学部卒。同年、富国生命保険入社。証券金融市場での経歴は25年近くに渡る。富国生命保険では国内の国債・地方債・財投機関債、海外の国債、地方債、エージェンシー債、カバードボンド等幅広く内外公社債市場の運用を担当するとともに、短期金融市場での運用にも従事。また、内外のクレジット市場、証券化商品の投資には深く関わってきた。現在は、フコクしんらい生命保険において、公社債市場・株式市場を始め、資産運用業務全般を統括している。
ゴーイングコンサーンを意識した国家観を
林 そろそろどういう「世界」にしていくのか、というグランドデザインを、真剣に考えるべき時期に来ていると思います。先進国は、日本を先頭にして人口減少時代に入っていきますから、今までの成長前提の経済は成り立たなくなるでしょう。今、地方公共団体の人たちと話をしていると、「市民が幸せになるための行政」という表現を盛んに使い始めたと感じています。人々は、根本的な何かが変わりつつあって価値観の変化が必要であることを、察知しているのではないでしょうか。
松村 ええ、それは感じますね。速水融慶応大教授が「人口減少=悪」ではない、次世代に向けて発想転換せよ、とおっしゃられています。
林 日本の場合、他の先進国と違い「女性の活躍」や「地方創生」のような大きなポテンシャル、いわば甚大な「伸びしろ」があります。このあたりの付加価値を顕在化していくことができれば、日本の将来は明るいとも思っています。
松村 現状の問題は、前提を間違えていることです。成長できないものを成長できると考えているから、異次元金融緩和のような政策が出てくるわけです。とにかく早く結果を出すことばかり考えて、将来にコストを付け回す政策です。どう考えても無茶でしょう。重要なのは、少なくとも30年後の未来を考え、ゴーイングコンサーンを意識した国家観をもって取り組むこと。国債を買いまくれば解決すると言った安易なことではないのです。
林 ここで問題になるのが、「分配」の概念ですよね。
松村 そうなんです。成長しない世界を受け入れ持続可能な国を考えるときの最大のハードルは、成長すればできたはずの分配ができないことです。そればかりでなく、成長できないゆえに痛みを伴う“負の分配”を行わざるを得ないのですから。はたして、これができるのかどうかが、大きなカギとなるでしょう。
林 アベノミクスにおいても、第一の矢、第二の矢、第三の矢とうまくバランスをとった政策がとれれば問題はありません。なぜなら、そこには“負の分配”も含まれているからです。たとえば、第三の矢のような規制緩和は既得権益者にとって“負の分配”。財政再建だって、増税や歳出カットという“負の分配”です。第一の矢で時間稼ぎをしている間に、財政再建のための消費税上げといった“負の分配”を行うことが本来のアベノミクスのコンセプトだったはずなんですが。
松村 ええ。
林 先の総選挙では、消費税上げを先延ばしすべきと国民は考えているという選挙結果になりました。しかし、実際のところ、国民は真剣に“負の分配”を考えなければという問題意識ももっているはずです。
松村 この問題に関して自著で「日本人なら日本の国の未来を考えてできるはずだ」と楽観的な書き方をし、そんな簡単なことではないだろうというご批判もいただきました。たしかに、資産価格を吊り上げるだけのバブルをつくって自分の生きている間だけ良ければいいと考え、次世代にコストを付け回すことを厭わないのであれば、日本の未来は暗いと言わざるをえないでしょう。国が続いていくために必要な“負の分配”を受け入れていくような日本人の英知に期待したいですね。
不安定な世界でものを言うのは国家の信用力
――お二人は、今後の世界がどのようになっていくとお考えでしょうか?
林 成長が止まっていく世界では、不安定化していくことは避けられないでしょう。イアン・ブレマー氏の言うような「G0」の世界で、国際秩序は大きく変容しようとしています。中国のAIIB(アジアインフラ投資銀行)はその象徴的な事例ですね。AIIBとADB(アジア開発銀行)のような対峙など、これまでの常識では考えられない話です。そして、成長できないので税収不足に陥っているのは、何も日本に限った話ではなく、他の国では徴税権(罰金を含む)を他国に対して積極的に行使する例が多くなっています。
松村 欧州では、米国企業のGoogleが独占禁止法違反で多額の罰金を科されようとしていますね。
林 ええ。米国でも欧州の金融機関がスーダンへの送金に対して兆円単位の制裁金を取られていますし、これからの世界経済はますます奪い合いの様相を呈してくるでしょう。そのためにも財政力を確保することが安全保障上も極めて重要なファクターとなってくるのです。
松村 我々が生きている社会システムは、すべからく成長を前提としたものです。貨幣経済だって、そうです。あまり認識されていないかもしれませんが、実は我々がふだん使っている貨幣ですら成長を前提にしています。貨幣を“信用”によって生み出す銀行が生まれたのも、成長が軌道にのって自然利子率が安定的にプラスになり、信用創造することが安定的に利益になっていったからです。
林 ああ、そうですよね。そもそも、現在の民主主義という政治体制も成長とともに生まれたものです。すべては「成長」がベースになっている。
松村 このように、あらゆる社会システムの前提が「成長」だとすると、成長が構造的に止まることで世界的に機能不全を起こしてしまう。林さんがおっしゃるように、世界が不安定化していく可能性が高いでしょう。その結果、将来なんらかの危機に直面する可能性は否定できません。
林 そういう事態を見越して、国としてのゴーイングコンサーンを考えた長期的なものの考えが必要だということですね。
松村 そのとおりです。危機に直面した時に物を言うのは、国家の財政力。ショックを吸収するのは国家の信用力にしかできないことです。国家は、いわばゴールキーパーなんですね。ところが、現状はゴールキーパーがフォワードより前に出て、得点しようと、つまり成長しようとやっきになっている。本来、“負の分配”を行ってゴールキーパーを強くして、守りに強い体制にしなければいけないのに、です。目先の得点をとることに目を奪われて、ゴールキーパーを前線に投入して疲弊させるようなことをしているわけです。
林 国家の信用力を使い尽くしてしまいますね。
松村 ええ。そんなときに大きな危機が来たらどうなってしまうか。言うまでもないでしょう。
林 おっしゃるとおりですね……。今日は貴重なお話をありがとうございました。
松村 こちらこそ、ありがとうございました。
http://diamond.jp/articles/-/71542
債券市場のプロは、 異次元金融緩和の弊害を理解している 日銀緩和に継続リスク、政策調節は円高招くか=山田修輔氏
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