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マンハッタンの中でもファッション性の高いトライベッカ地区。ここにある米ハーレーダビッドソンの販売特約店では、毛深い男性ライダーの姿を見かけることはほとんどない。フロアスペースの半分は女性用の衣料品売り場や、美味しそうなパイやタルトを売るカフェが占めている。昔ながらのハーレー愛好家にとって唯一ほっとするのは、金属と黒皮が施された二輪車と、タトゥーを身につけ「夜はヘビメタバーで働いている」という女性の売り子だけだ。
ハーレーダビッドソンはかつて、車両業界における「共和党」だった。おそらく、米国における顧客の3分の2は白髪まじりの白人男性だ。だが政界の共和党とは異なり、ハーレーは新たな層へのアピールを展開してきた。それは冒頭で紹介したトライベッカやその他の場所でハーレー製品を販売するディーラーも同じだ。
ジャグジー(泡風呂)をけん引できるほど大きなツーリングバイクだけでなく、今では女性にも乗りやすく、若者にも求めやすい小回りのきくモデルも販売している。いわゆるスポーツバイクとストリートバイクは2014年の販売台数の5分の1を占めた。インドや中国、ベトナムでの売上高は爆発的に伸びている。
世界に進出した米国メーカーが現在置かれている状況を示す、これほど顕著な例はほかに見当たらない。昨夏まで、ハーレーは快進撃を続けていた。だがその後、同社が擁する1690ccの「ファットボーイ」よりも頑強でスピードを備えた障害にぶつかった。「ドル」である。
米ドルは昨年7月以来、貿易額で加重平均した通貨バスケットに対して18%上昇している。通貨価値の急激な変動は、3つの側面において企業に影響を与える。3つとは、「海外売上高をドル換算する際のレートが変わる」「収入と支出における通貨の不一致」「競合他社の行動が変化する」ことだ。ハーレーのケースからは、通貨価値の変動が深刻な影響をもたらすことが見て取れる。
まず、通貨換算における影響から見てみよう。今年の1〜3月期、ハーレーのドル建て売上高は前年同期に比べて3%減少した。為替レートの変動がなければ前年同期と同じ水準を保ったはずだ。海外部門の規模と扱う通貨によって傷の深さに違いはあるものの、米国大手メーカーの大半は同じ境遇にある(図参照)。
S&P500指数が示すように、米国の大手企業の第1四半期の売上高は全般的に2〜3%減少した。データ分析会社のファクトセットによると、これは2009年に金融危機が起きた時以来、最も大きな落ち込みだという。ドルはその大きな原因となっている。
収入と支出における通貨の不一致はさらに頭の痛い問題だ。米国最大手のメーカー各社は、世界の顧客により近い地域に生産拠点の多くを置いてきた。その目的のひとつは経費の支払いと収益を同じ通貨でそろえることにある。例えばエマソン・エレクトリックの場合、コストの85%は関連製品を販売する地域で発生している。だが中小企業の場合、製品の一部を海外で販売していたとしても、生産は米国内で行うことがほとんどだ。ドルが値上がりすると、コストはそのままでも売上高が減少し、利幅が縮小してしまう。
ハーレーはバイクの大半をウィスコンシン州、ミズーリ州、ペンシルバニア州で製造しているが、その一方で売り上げの3分の1は海外で獲得している。このため、同社は次の四半期の粗利が減少すると見込んでいる。2014年の海外部門の業績はかろうじて収支とんとんだったが、今年は損失が出るかもしれない。
為替が大きく変動した際に最も予測が難しいのは、それを受けて競合他社がどのように行動を変えるかだ。ハーレーのライバル会社は欧州や日本の企業がほとんどで、大抵は自国で製品を生産している。つまり現在のドル高によってこうした企業の収益と利幅は拡大している。そしてライバル企業の中には新たに得たこの利益を投じて製品価格を最大25%値引きし、米国で価格競争を始めようと目論むところもある。ハーレーはこの結果として米国内におけるシェアを失うと予想している。
ドル高への対処法として何が最善か。投資家は通常、企業に対して迅速な対応を求める。ハーレーの場合、急場をしのぐためのアプローチとなるのは、価格を引き下げて市場シェアを維持することだ。ハーレーには金融部門があるので、貸付規定を緩めて購入者を援助すればよい。株主の機嫌をとるため研究開発費やその他の投資を大幅に削減し、今より大きな自社株買いプログラムを立ち上げることも可能だ。ハーレーは金融部門を除けば純負債を抱えてはいない。
だが、ハーレーの新たなリーダー、マット・レバティッチ社長兼最高執行責任者(COO)は、こうしたアプローチを断固として受け入れない。それはちょうど、本格的なバイクの愛好家が、イタリアのスクーターをバイクとは認めないようなものだ。我々は、近視眼的な思考との戦いを日々強いられている。レバティッチCOOの方策はそれとは異なり、投資を継続しつつ、価格も据え置いた上で、この苦境を乗り越える構えだ。ハーレーにはブランド力とこれまでの実績があるので投資家たちもそれほど厳しい目を向けることはないだろう。
だが今の状況が新たなドル高時代の幕開けだとしたら、ハーレーもいずれは生産の海外移転を検討しなければなるまい。そしてそれは他の米国メーカーも同じだ。
©May 9th 2015 | NEW YORK | From the print edition
, 2015 All rights reserved.
英エコノミスト誌の記事は、日経ビジネスがライセンス契約に基づき翻訳したものです。英語の原文記事はwww.economist.comで読むことができます。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20150513/281097/?ST=top