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脳と学力と貧困の悪循環
By ALISON GOPNIK
2015 年 5 月 14 日 14:11 JST
研究チームが脳の表面を覆っている皮質の厚さを計測したところ、低所得の世帯の子供の皮質は、高所得の世帯の子供よりも薄かった Getty Images
国勢調査によると、米国の5分の1ないしそれ以上の子どもは貧困の中で生活しており、状況は2000年以降、悪化の一途をたどっている。それと同時に、教育研究家のショーン・リアドン氏が指摘しているように、「収入による成績の格差」は広がっている。つまり、低所得世帯の子どもの学校での成績は、高所得世帯の子どものそれをかなり下回っているということだ。
教育の所得水準に及ぼす影響が、かつてないほど大きくなっている中で、貧困の循環に陥る子どもが増えている。この循環がいかに機能しているのかを理解し、それを終わらせようとするプロジェクトほど重要なものは思いつかない。
神経科学はこのプロジェクトに貢献できる。マサチューセッツ工科大学(MIT)のジョン・ガブリエリ氏率いるチームは、「心理科学」に掲載された新たな論文で、イメージング技術を使い、14歳の公立学校の生徒58人の脳を計測した。被験者のうち23人は給食費が免除ないし減額されている子で、残りの35人は中間層の世帯の子だった。
チームはこの2つのグループの間に脳の違いがあることを発見した。チームは脳のさまざまな場所で、脳の表面を覆っている皮質の厚さを計測した。低所得の世帯の子供の皮質は、高所得の世帯の子供よりも薄かった。
低所得の世帯には民族・人種のマイノリティがより多く含まれていたが、統計の分析から、民族や人種の違いは脳の皮質の厚さと関係ないことが分かっている。また、皮質の薄い子どもは、皮質の厚い子どもより成績が悪い傾向にあった。これは高所得世帯の子でも、低所得世帯の子でも変わらなかった。
もちろん、脳に差があることの発見から分かることはそれほど多くない。本質的に、子どもの脳に関することはそれぞれの子どもによって違うはずだ。なぜなら、彼らのテストの際の行動もさまざまだからだ。しかし、発見したこの脳の違いからは、少なくともいくつかのことが浮かび上がってくる。
脳は地球上で最も複雑なシステムであり、脳の発達には、遺伝子と物理的・社会的・知的環境との間の複雑なやりとりが関わっている。脳には、われわれがまだ知らないこともたくさんある。
しかし、われわれは脳に神経科学者が言う「可塑性」があることを知っている。進化の過程で、脳は外部世界によって変化するようになったのだ。脳を持つ意味はここにある。この形成過程でとりわけ重要な役割を果たしているのが2つの補完プロセスだ。1つは神経科学者が「プロリフェレーション(増殖)」と呼ぶプロセスで、脳の神経細胞間に多くの新たな結合が作られることを意味する。もう1つは「プルーニング(刈り込み)」と言うプロセスで、一部の既存の結合が強くなる一方で、一部が消滅することを意味する。体験はこのプロリフェレーションとプルーニングの両方に大きな影響を及ぼす。
発達の初期段階では、プロリフェレーションが勝っている。小さな子どもは成人よりずっと多い、新たな結合を作る。発達の後期の段階になると、プルーニングが重要になってくる。人間は、柔軟性があり記憶力の良い若い脳から、より効果的、効率的かつ硬直的な大人の脳にシフトする。皮質の厚さの変化は、この発達によるシフトを反映しているように思われる。皮質は小児期に徐々に厚くなるが、青年期には逆に、薄くなっていく。おそらくプルーニングの結果だろう。
この研究に参加した低所得世帯の14歳の子が小児期に皮質を厚くできなかったのか、それとも、彼らの皮質が青年期に、より迅速に薄くなったのかは分からない。
低所得世帯と高所得世帯の間には、収入以外にも多くの体験上の違いがある。栄養、ストレス、学習の機会、家族構造など多くのことが違っている。これらの違いのうちどれが皮質の厚さの差につながっているのかはわれわれには分からない。
ただし、動物の研究からいくつかのヒントを得られる。豊かな環境(探索するものが多くあり、学ぶ機会も豊富な環境)で育てられたラットはより多くの神経的な結合を作る。ストレスにさらされたラットが作る結合は少ない。ストレスが動物の成長を過度に早めることを示す証拠もいくつか存在する。この場合、悪影響が生じることが多い。また、栄養状態は全ての動物の脳の発達に影響する。
だが、重要なのは、ありがたいことに脳の可塑性は失われないということだ。脳は生涯を通じて変化を受けることが可能であり、われわれが学び、変化する力が完全に失われることはない。ただし、それと同じくらい重要な点は、小児期は最も可能性に満ちた時期であり、最もリスクの大きな時期でもあることだ。われわれは毎日、何百万人もの米国の子どもの脳の可能性を失っていると言える。
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