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大阪は世界のハブ都市になれるか
〜都構想議論を成長路線の視点で考える
2015年5月14日(木) 白壁 達久
5月17日に投票を控えた大阪都構想の是非。賛否の議論は社会福祉が中心だ。だが、異なる視点から議論を呼びかける人がいる。シンガポールに移り住み、統括・ハブ機能研究所で所長を務める木島洋嗣氏だ。リクルート出身で独立し、世界におけるハブとして成長を続けるシンガポールの強みを研究している。木島氏はなぜ大阪都構想に賛成するのか。東京ではない、大阪の都市としての可能性を聞いた。
木島洋嗣(きじま・ひろつぐ)
1997年 、上智大学経済学部卒業。米シンクタンク勤務を経て99年にリクルートに入社。地域活性事業部、キャリア教育プロジェクトなどを歴任。 2004年に独立し、研修・採用コンサルティングに従事。 2009年 シンガポールに移住し、日系企業のアジア進出、アジア戦略に関するコンサルティングを行う。
大阪都構想の支持を表明されています。東京都出身で現在はシンガポールに住み、都市の統括ハブ機能を研究する木島さんが、なぜ都構想について賛成の立場なのでしょう。
A:最初に断わっておきますが、私は大阪維新の会で顧問など一切の役職はなく、金銭的なやり取りもない立場であります。あくまで個人的に支持している点をご理解いただいたうえで話します。
大阪都構想は大阪府と大阪市の二重行政を解消し、大阪都として一元管理の下で無駄を省き、意思決定を迅速にするという狙いがあります。賛否で多くの議論が交わされていますが、社会福祉がどう変わるのかといった議題が中心となっています。
経済成長モデルで是非を問え
ただ、大阪都構想の是非を問うには社会福祉の観点だけでは不十分です。今後の大阪経済をどう成長、発展させていくかの視点も不可欠ではないでしょうか。
私は大阪が世界経済におけるハブ機能を持つに足る都市だと考えています。その可能性を現実化するには、やはり現行の二重行政では難しい。大阪市と大阪府がそれぞれ縄張り争いをしていると意思決定に時間がかかる。その間に世界の都市は改革を進めるでしょうから、勝つ可能性は少なくなります。
日本には東京という国際都市があります。2020年にオリンピックも予定されており、インフラ整備も進みます。東京ではなく、大阪を国際都市にすべきという理由はどこにあるのでしょう。
A:都市の比較をする際、国内であれば必ず東京との比較になります。ただ、東京と比較する意味は少ない。なぜなら、東京と大阪では置かれている状況が全く異なるからです。
米ブルッキングス研究所が発表した世界の都市別総生産(GNP)ランキングを見るとよく分かります。東京は世界でトップの都市です。東京を中心とした首都圏では3000万人を越える人口を抱え、域内のGNPは1.57兆ドル(約188兆円)にも上ります。
世界の都市別総生産額トップ10
域内総生産:10億ドル 域内人口:万人
1 東京 1520 3666
2 米・ニューヨーク 1210 1913
3 米・ロサンゼルス 786.7 1302
4 韓・ソウル 773.9 2406
5 英・ロンドン 731.2 1407
6 仏・パリ 669.2 1242
7 大阪 654.8 1860
8 米・シカゴ 524.6 955
9 露・モスクワ 520.1 1162
10 中・上海 516.5 2416
出所:米ブルッキングス研究所「Global City GDP 2012」
2位は米ニューヨークですがGNPは1.21兆ドル(約145兆円)で域内人口は2000万人弱。3位の米ロサンゼルスになると7867億ドル(約94兆4000億円)の1302万人と一気に下がります。つまり、東京は世界に例のない規模の都市なのです。3000万人を越える人口を抱え、内需だけでも十分に成長する余地がある。今後も伸びると予測されています。端的に言うと、東京は海外に向けて開かなくても成長していける素地があるのです。
内需で成長できる東京と大阪の違い
では、大阪はどうでしょう。人口の減少が予想されています。さらに高齢化の波も押し寄せます。こうした環境の中で、東京と同じ路線を歩んでも発展していくのは極めて難しいと考えます。
ランキングを見ると、4位の韓国ソウル、英ロンドン、仏パリに続く7位に大阪がランクインしています。
大阪(神戸まで含む)のGNPは6548億ドル(約78兆5700億円)で人口は1800万人とあります。私が何を言いたいかと言うと、同じ日本の中の都市ではありますが、東京と大阪を同じように見てはいけないということです。そして、大阪が勝負すべき相手は東京ではなく、パリや中国の上海など、海外の都市だという点です。
東京とは違う路線で海外の都市と勝負する。どのようなモデルを目指せばよいのでしょうか。
A:私が提唱したいのが、外需型都市への転換です。外需を取り込んで成長していくモデルに変えるのです。今、日本は円安の恩恵で海外からたくさんの外国人が訪日しています。関西国際空港は日本人より外国人の利用者の方が多くなりました。「爆買い」など、インバウンド消費は、外需型成長モデルの良い例です。
大阪は世界のハブを目指すべき
都市として国際競争力を高めるには、旅行者だけでなく、モノの流れの中心にもなっていくべきだと考えます。その好例こそ、私が現在居を構え、研究の中心に据えているシンガポールです。
シンガポールは東京都23区ぐらいの広さしかなく、人口は540万人程度しかいません。地下資源にも恵まれない国でありながら、世界から人・モノ・カネを集める磁力がある。強烈なまでの磁力を生み出し、人・モノ・カネのハブであり続けるために、法律やインフラを徹底的に整備しています。
物流に関して言えば、世界の港におけるコンテナの取扱量は上海に次いで僅差の2位です。上海と異なるのは、多くの荷物が陸揚げされず、積み替えるためにシンガポールを活用している点です。荷物の9割は積み替えなのです。まさにハブとして活用しているわけです。そこで雇用が生まれている。
海外から飛行機でやってくる人は2014年に約5330万人で世界6位でしたが、そのうちシンガポールに入国した人は1500万人程度。多くの人は通過するだけではありますが、それでもシンガポールがハブ機能を有しているために寄っていく。発着が増えて飛行場も活性化します。
現在シンガポールのチャンギ空港は第3ターミナルまでありますが、2017年に第4ターミナルを完成させ、さらに2020年代中ごろには第5ターミナルまで作ることが決まっています。旅客処理能力は現状の倍増以上の年間1億3500万人を予定しています。
目指すべきは民営化とサービスの輸出
大阪では関西国際空港と大阪国際空港(伊丹)の運営が一本化されました。
A:これは非常に重要なことです。一体化することで、どのように運営していくかを総合的に判断できるからです。役割を明確に分けて、どのような都市とインフラを創っていくのかを長期的に考え、迅速な判断で変革していく。関空と伊丹の一本化は、その第一歩だと考えます。日本の空港では初めて、運営権を売却することになりました。
完全なる民営化など、課題は山積みです。
A:目指すべきゴールは民営化による成長です。これは空港に限りません。先ほど挙げた船の港も同じです。現在、大阪府と大阪市それぞれに港湾を管理する港湾局があります。現状は二重行政の典型で、一体改革の足かせになっている。大阪都として一体化を果たし、その後は民営化によって国際競争力をつける。ハブ機能を有するだけでなく、世界で最先端のインフラを築けば、そのインフラサービスを輸出することも可能です。
インフラサービスの輸出とはどういうことでしょう。
A:香港の地下鉄であるMTR(香港鉄路有限公司)は良い例です。香港MTRは運行管理など優れている点が多く、海外で運営を任せられています。中国では北京や深セン、スウェーデンのストックホルムや豪メルボルンなど様々な場所でオペレーションを任せられている。まさにインフラサービスの輸出です。
国内で培った技術やサービスを海外に輸出し、そこで利益をあげる。その利益を還元すれば、自国サービスの料金は下がる。だから、香港MTRの料金は数十円から百数十円程度とものすごく安い。海外に拓くことで、自国の人たちも恩恵を受けられるのです。大阪の市営地下鉄は高いとの評価でしたが、昨年に初乗りが200円から180円に値下げされました。民営化によってサービスレベルが上昇し、輸出できるようになればもっと下がる可能性はある。
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