http://www.asyura2.com/15/hasan96/msg/465.html
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かつてのハゲタカは今や開拓者!米ベンチャーキャピタルの実像
http://diamond.jp/articles/-/71418
2015年5月14日 野口悠紀雄 [早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問] ダイヤモンド・オンライン
アメリカのIT革命で新しい事業分野を開いたのは、ベンチャー企業であった。それらベンチャー企業を育てたのは、ベンチャーキャピタルである。それは、いかなる組織であり、ベンチャー企業の発展にとってどんな役割を果たしたのか?
■先進国の中でも起業率が著しく低い日本
ベンチャー企業の動向については、グローバル・アントレプレナーシップ・モニター(GEM)の調査がある。これは、1997年に、アメリカのバブソン大学とイギリスのロンドン大学ビジネススクールの起業研究者たちが、「正確な起業活動の実態把握」「各国比較の追求」「起業の国家経済に及ぼす影響把握」を目的として作ったプロジェクトチームだ。
2013年の調査結果は、「GEM 2013 Global Report - Global Entrepreneurship Monitor」として公表されている。
http://www.gemconsortium.org/docs/download/3106
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GEMの調査項目の一つに、「起業活動率」(Total Entrepreneurship Activity:TEA)がある。これは「起業の準備を始めている人と、創業後3.5年未満の企業を経営している人」が18〜64歳の人口100人当たりで何人いるかを示したものだ。
先進国についての13年の値は、図表1に示すとおりである。アメリカは12.7%だが、日本は3.7%でしかない。先進国中では、イタリアについで低い水準だ。
旧社会主義国での起業率が高いのはある意味で当然だが、カナダ、シンガポール、オランダ、アイルランドなどでの起業率も高いことが注目される。
日本で新しい企業が生まれにくいことはしばしば指摘されるが、この図もそれを明確に示している。
日本における起業率がこのように低い水準であるのは、日本の将来にとって大きな問題だ。
日本でアメリカのベンチャー企業に対応するような企業が生まれなかった原因の一つとして、ベンチャーキャピタルが存在しなかったことがある。そこで、以下では、アメリカにおけるベンチャーキャピタルについて見ることとしよう。
■マイクロソフトもグーグルもツイッターもベンチャーキャピタルの支援で成長した
ベンチャー企業のスタートアップには、ベンチャーキャピタルが資金を提供する場合が多い。
ベンチャーキャピタルとは、将来の成長が期待される未上場企業に対して、リスクを取って投資し、ハイリターンを狙う投資会社である。
単に資金を投入するだけでなく、投資先の経営に対して指導を行う。例えばグーグルは、ベンチャーキャピタルからの助言に基づいて、CEOを外部から募集した。こうした経営コンサルティング的指導により、投資先企業の価値向上を図るわけだ。
自己資金を投資する場合もあるし、投資事業組合(ファンド)を設立し、投資家から資金を集めてそのファンドマネージャーとして投資する場合もある。
1970年代のアメリカでは、インテル、サン・マイクロシステムズ、マイクロソフト、アップルコンピュータなどの企業が、ベンチャーキャピタルからの資金を受けて成長した。
その後も、ヤフーやグーグルなど、最近ではフェイスブックやツイッターなどが、ベンチャーキャピタルからの資金援助を得てスタートした。
Entrepreneurの「VC 100: The Top Venture Capital Firms Backing U.S. Startups」によると、ベンチャーキャピタルの2013年における合計投資額は、294億ドル(前年比7%増)、合計投資案件が3995社(前年比4%増)だ(元のデータは、PwC/NVCA MoneyTree Report)。
http://www.entrepreneur.com/article/233512
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■米国でも80年代には否定的に評価されていた
いまから見れば、ベンチャーキャピタルの資金援助が新しいアメリカ経済を切り拓いたわけだ。
しかし、1980年代には、ベンチャーキャピタルは否定的に評価されていた。
80年代の末にアメリカで刊行された『Made in America』という報告書がある(邦訳の出版は1990年、草思社)。これは、ノーベル経済学賞の受賞者ロバート・ソローなどをメンバーとするMIT(マサチューセッツ工科大学)の委員会によるもので、当時日本の製造業に押されて衰退していたアメリカの製造業をいかに復活させるかを論じたものである。
同書は、アメリカの半導体産業が弱くなったのは、多数の企業が乱立しているからであると指摘している。そして、乱立状態をもたらした元凶の一つが、ベンチャーキャピタルだというのである。
半導体産業の成長のためには大規模投資が必要だが、すでに大規模企業として成熟しているモトローラ社やフェアチャイルド、AT&Tなどが大規模投資を行なおうとしたとき、有力なメンバーが新会社を設立して辞めてしまったために、投資ができなかったとしている。
その手助けをしたのが、80年代始めの規制緩和によって資金流入が促進されたベンチャーキャピタルであったというわけだ。同書は、ベンチャーキャピタルが成熟した大企業に与えた損害を「禿鷹資本主義によるもの」として非難している。
そして、ベンチャービジネスは、しばらくすると株式を売却し、「創業者は一夜にして億万長者になるものの、会社は衰退し、技術の速い動きから遅れていく」としている。
現実の世界が、この指摘とまったく逆方向に進んだことは、いうまでもない。
■いま世界をリードするベンチャーキャピタルの姿
現在の主要ベンチャーキャピタルは、Entrepreneurによる「VC 100: The Top Investors in Early-Stage Startups」で紹介されている。2014年におけるトップ5社の概要は、つぎのとおりだ。
http://www.entrepreneur.com/article/242702
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第1位は、カリフォルニア州メンロパークにある「アンドリーセン・ホロウィッツ」(Andreessen Horowitz)だ。09年に設立された。
創始者のマーク・アンドリーセンは、インターネットのブラウザ「モザイク」(後にNetscapeとして商品化された)を生み出した人だ。
ソフトウエア、消費財分野を中心に投資している。これまで、ツイッター、フェイスブック、インスタグラムなどの優良ベンチャー企業に投資をしてきた。アンドリーセンは、仮想通貨の将来にも大きな期待をかけている。
14年における投資額は、10.2億ドル。ファンド規模は43.5億ドルだ。
第2位はカリフォルニア州メンロパークにある「コースラ・ベンチャーズ」(Khosla Ventures)だ。
創設者のビノッド・コースラは、インド生まれ。1979年にスタンフォード大学を卒業。同窓生だったスコット・マクネリとアンディ・ベクトルシャイム、そしてカリフォルニア大学バークレー校の修士ビル・ジョイらとともに、82年にサン・マイクロシステムズ社を設立した。84年まで最高経営責任者を務め、86年にクライナー・パーキンス・コーフィールド・アンド・バイヤーズ(後述)のゼネラルパートナーに就任。04年にコースラ・ベンチャーズを設立したのである。
ソフトウエア分野を中心に、中国、アメリカのベンチャー企業に投資している。
14年における投資額は、8.1億ドル。ファンド規模は31.0億ドルだ。
第3位の 「SV エンジェル」(SV Angel)は、パロアルトにある(メンロパークは、パロアルトの隣町)。
ソフトウエア、商業サービス分野を中心に、アメリカのベンチャー企業に投資している。地域としては、シリコンバレー、サンフランシスコ、ニューヨークが中心だ。
14年における投資額は、7.4億ドル。ファンド規模は1.0億ドルだ。
■ITだけではなく幅広い分野に投資 グーグル運営のファンドも
第4位は、「アクセルパートナーズ」(Accel Partners)。所在地はパロアルト。
通信部門、消費財、ヘルスケア技術、メディア、ソフトウエアなど幅広い分野に投資している。投資先国は、ヨーロッパとアメリカ。
14年における投資額は、7.2億ドル。ファンド規模は96.0億ドルだ。
第5位は、メンロパークにある「ニューエンタプライズ・アソシエイツ」(New Enterprise Associates)。
投資分野は通信、エネルギー、ヘルスケア、ITサービス、ソフトウエア、バイオ、医薬など。投資先国は、アジア、ブラジル、アメリカ。
14年における投資額は、6.9億ドル。ファンド規模は130.0億ドルだ。
なお、IT革命の初期に重要な役割を果たした「セコイア・キャピタル」(Sequoia Capital)は、14年では第6位だ。14年における投資額は、6.5億ドル。ファンド規模は100.0億ドルである。
同じく老舗の「クライナー・パーキンス・コーフィールド・アンド・バイヤーズ」(Kleiner Perkins Caufield & Byers:KPCB)は、14年では第12位。14年における投資額は、4.9億ドル。ファンド規模は68.3億ドルだ。
また、グーグルが運営する「グーグル・ベンチャーズ」(Google Ventures)は、第13位。09年に設立され、いままでに225社以上に投資している。14年における投資額は、4.6億ドル。ファンド規模は12億ドルだ。
■映画の資金調達などで注目されるクラウドファンディング
自主製作映画などの資金調達の方法として、「クラウドファンディング」と呼ばれる手法もある。これは、群衆(crowd)と資金調達(funding)を組み合わせた造語だ。クラウドファンディングは、ベンチャーキャピタルや金融機関に頼らない資金集めの新しい方法として注目されている。
映画、音楽、舞台芸術などのクリエーターや、製品・サービスなどのアイデアを持っている人が、その実現のために、インターネットでアイデアを公開し、アピールする。そして、不特定多数の人から資金の出資を募るのである。
1人当たりの提供資金額は、数ドルとか数十ドルといった少額であってもよい。このため、気軽に資金提供できる。多数の人々から資金を集めることができれば、総額としては大きな額になる。
最初に目標額を設定する。資金総額が目標額に到達すれば、プロジェクトがスタートする。
クラウドファンディングのサイトとして最も知られているのが、2009年に設立された「キックスターター」だ。自主製作映画、音楽、舞台芸術、漫画、コンピュータゲームなどに関して、資金調達を行なってきた。
資金を提供した人々は、金銭的なリターンを得ることはできない。その代わり、カスタムTシャツをもらったり、プロジェクト関係者との会食などに参加したりすることができる。
募集開始の当日に100万ドル以上集まったプロジェクトもあるし、総額で1000万ドル以上集めたプロジェクトもある。また、アカデミー賞にノミネートされた映画もある。
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