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アメリカンドリームを打ち砕く債務の遺物 急増する学生ローン債務、デフォルトや延滞も問題に
2015.5.12(火) Financial Times
(2015年5月8日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
ハーバード大の黒人学生、人種ステレオタイプにブログで挑戦
近年、教育費は急激に膨れ上がってきた(写真は米ハーバード大学の卒業式の様子)〔AFPBB News〕
今から10年前、米国の消費者は地球上で最も債務中毒に侵された人たちのように見えた。だが、2008年以降、かなり驚くべきことが起きた。米国のクレジットカードや住宅ローン債務の水準が低下しているのだ。
だが、この傾向には1つ明らかな例外がある。学生ローンである。学生ローン債務の残高は過去10年間で3倍近くに膨れ上がり、1兆3000億ドルに達した。
そして、法律は学生ローンから逃れるのを比較的難しくしているが、デフォルト(債務不履行)も目立って多い。
この数字を測定する方法はたくさんあるが、米教育省は、2011年に学生ローンの返済を開始するはずだった米国人のデフォルト率が昨年13.7%だったと報告している。
この数字は前年(14.7%)よりわずかに低いが、1990年半ば以降の水準よりはるかに高く、クレジットカードのデフォルト率を上回っている。
サブプライムローン危機との「不気味な類似点」
だが、この数字は問題を実際より小さく見せているかもしれない。
財務省借入諮問委員会(TBAC)は昨年末、実際のデフォルト率(TBACのデータに基づく数字)はわずか9%だったが、「影」のデフォルト率――完全には報告されていない債務の「返済延滞」――が23%に達している可能性があるとする報告書を公表した。他のエコノミストらも同様の試算をしている。
これは問題だろうか? 財務副長官のサラ・ブルーム・ラスキン氏によれば、その答えは「イエス」だ。ラスキン氏は5月初め、ワシントンで開かれた金融関連会議で、学生ローンの状況とサブプライム住宅ローンとの間に、現在、「不気味な類似点」が見られると述べた。
それはラスキン氏が、学生ローンが今まさにシステミックな金融危機を引き起こそうとしていると考えているからではない。サブプライムローンと異なり、学生ローンは(ありがたいことに)、大量の奇抜なデリバティブ(金融派生商品)にリパッケージされたり、簿外機関の巨大なネットワークに注入されたりはしていない。
そして、連邦政府の保証が多くの学生ローンを支えているため、将来の打撃の多くを被るのは、民間部門の投資家だけではなく、政府になるだろう。
だが、ラスキン氏は示唆に富む3つの類似点を指摘しており、投資家やエコノミストはこれに注目すべきだ。
第1に、学生ローン債務の爆発的な増加は、サブプライムローンと同様、何十年も続く賃金伸び悩みの副産物だ。教育費は近年、加速度的に高騰したが、所得は増加しておらず、家計は債務を使ってその穴を埋めるようになった。
第2に、たとえ経済論理に逆行していようとも消費者がそうし続けている理由は、文化的な必要性にある。住宅の所有と同様に、教育はアメリカンドリームに欠かせない部分だと考えられているのだ。
第3に、学生ローンはサブプライムの世界と同じくらい細分化された生態系を持っているため、何が起きているのかを監視するのは誰にとっても難しい。最も注目すべきは、1兆3000億ドルに上るこれらのローンが多数の異なる機関によって提供され、監視され、サービスが提供されていることだ。
政府機関の対応の余地は?
筆者は第4の類似点を付け加えたい(ラスキン氏は極めて如才ないため、この点に言及していない)。細分化や爆発的な増加もあって、政府機関が問題に対処するのに悪戦苦闘していることだ。
学生ローンは、主に教育省によって監督されている。だが、かつて小さかった部門が目もくらむほど大きくなる中、官僚たちは対処する態勢ができていないように見える。
部門が細分化されていることは、デフォルトのパターンに対処するための積極的な対策を打ち出す取り組みも阻んでいる。返済に苦労している借り手に支援の手を差し伸べる多様な仕組みが存在するが、これの措置は煩雑かつ断片的なやり方で実施されている。
政治家は、考えられる解決策についてあれこれ議論している。学生ローンに対する国の支援を終わらせたいと思っている共和党議員がいる一方で、民主党のエリザベス・ウォーレン上院議員のように、ローン金利を大幅に引き下げたいと思っているもいる。とりわけ数年前にローンを利用し始めた多くの学生が、8%というとてつもなく高い金利に縛られているためだ。
ラスキン氏は、もう少し控えめな目標を設定している。
学生ローン部門の透明性を高め、消費者が返済できない債務について再交渉するのを助ける一貫した明確なプロセスを作りたいと思っているのだ。
それによって、これらのデフォルトが抑制され、コストがずっと明確になると同氏は主張する。
それは賢明なやり方だ。だが、これらの控えめな考えでさえ、受け入れられるようにするのは容易でないかもしれない。教育省は、当然ながら財務省に自らの縄張りを踏み荒らさせるのを嫌がっている。
家計のみならず米国経済にとっても問題
そして、近年の歴史は、官僚組織や金融機関が細分化されている時に賢明な債務免除の仕組みを作り出すのがいかに難しいかを示している。財務省とホワイトハウスがサブプライムローンの借り手を救済するための真に効果的な政策を立てそこなった様子を見るといい。
差し当たり、気がめいるような現実は、この1兆3000億ドルの債務が減少する可能性がほとんどないということだ。それは何百万もの家計にとって悪い知らせだ。だが、それは、無視されることの多いこの債務の山の重圧にさらされる余裕がない米国経済にとっても望ましくないことだ。
By Gillian Tett
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/43747
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