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黒い職場の事件簿〜タテマエばかりの人外魔境で生き残れるか? 吉田典史
【第14回】 2015年5月12日 吉田典史 [ジャーナリスト]
海外で日本人社員を“使い捨て”するグローバル証券の罠(上)
今回は、グローバル化の最前線である日系大手証券会社のシンガポール支店で働いていた41歳の男性(A氏)を取り上げたい。男性は昨年暮れにこの証券会社を退職し、帰国した。現在は、大手金融機関のグループ会社に勤めている。
以前の会社のシンガポール支店にいた頃、正社員はいくつかのグループに分けられ、自らの扱いは「限定正社員だった」と振り返る。限定正社員とは、労働内容や地域が限定された正社員のことで、非正規社員と正社員の中間的存在と言える。A氏はその待遇などに不満を感じて辞めたそうだ。
限定正社員は、非正規雇用の増大に歯止めをかける目的で、政府の成長戦略でも導入が検討されてきた。一方で、解雇されやすいといった労働条件面でのデメリットも指摘され、世間ではその是非が議論されている。
これまで日本型正社員が中心だったビジネスパーソンの働き方が多様化するなか、彼のように不満を持つ社員は、今後日本国内でも多く見かけるものと予測できる。しかし筆者に言わせれば、こうした議論には的を射ていない部分も少なからずあるように思う。日本企業の海外支店の内情をえぐることで、「働き方」に関する議論の盲点を炙り出したい。
限定正社員は安かろう、悪かろう
だから、辞めさせればいいんだ
グローバル企業の海外支店で働くことは、日本人にとってキャリアアップにつながる反面、ケースによっては人事制度上の思わぬ「落とし穴」もあるようだ MIXA-Fotolia.com
A氏 シンガポール支店は、日本企業の今後の人事のあり方を先取りしている感じでした。150人ほどの正社員をその職種や仕事の内容などによって、いくつかのグループに分け、総額人件費などの管理をしていました。今風に言えば「多様化する正社員」であり、私などはその1つとして「限定正社員」だったのだと思います。
だけど実際のところ、「限定正社員などを安かろう、悪かろう、だから、辞めさせればいいんだ」としか見ていないのが、不満でしたが……。
シンガポールは東南アジアの金融センターです。日本からは主だった証券会社や銀行などが進出していましたが、支店での人事のあり方は、どこの会社も同じようなものだったと思います。
取材に応じるA氏(品川にて)
筆者 どのような経緯で、その支店に勤務していたのですか。
A氏 もともとは日本の大手メーカーに勤務しており、シンガポール支店に赴任しました。そこで退職しました。現地の人の支援もあり、IT系の会社を興そうとしたのです。しかし、様々な事情で断念しました。
そんなとき、日本の大手○○証券のシンガポール支店が、IT部門のマネジャー(管理職)を募集していることを知り、面接試験を経て入社したのです。いわゆる「現地採用」となり、労働形態は正社員でした。仕事は私の専門のIT。転勤はなく、昇給もなく、その意味で「限定正社員」みたいなものです。
入社した35歳のときで、年収は350万円ほど。現地(シンガポール)の相場としては高いほうだと思います。しかし同じ日本人でも、東京本社から赴任してくる人たちとは、待遇は大きく違いました。同じ35歳のIT部門のマネジャー(管理職)は、私の3倍近い年収をもらっているようでした。
特定部門のプロとは言い難い
東京から送り込まれる日本人たち
筆者 支店にいる正社員は、どのようにグループ分けされていましたか。
A氏 1つのグループは、東京の本社から来た日本人です。支店には150人ほどの社員がいて、支店長以下フロントやバックオフィス(管理部門)などの責任者(部長)、マネジャー(課長)たち20人前後がいわゆる日本人の幹部です。東京本社から数年間、単身赴任か家族連れで来ていました。若い人が35歳くらいで、支店長は40代後半でした。
この20人ほどは、日本の大学を卒業し、新卒で○○証券に入り、国内の本店や支店で十数年以上勤務した人たちです。英語に堪能で、シンガポール支店のそれぞれの職務、たとえば株式や債券などの売り買いを始め、現地のシンガポール人との折衝などに長けていました。管理部門である総務や経理、ITも一通り心得ていて、オールラウンド・プレーヤーという感じです。だけど、特定の部門のプロとは言い難いのです。
支店の最前線(フロント)にいるのが、株式や為替などの売り買いをするトレーダーたちです。そのほとんどが、○○証券のアメリカやイギリスなどの支店に勤務するアングロサクソンたちで、40人ほど。アメリカやイギリスの支店からから「転勤」という形で、シンガポールに来たのです。いくつもの証券会社を渡り歩いてきた人たちが多く、多い場合は転職歴が10回を超えていました。
ニーズが専門家・多様化するなか
正社員のグループ分けは当たり前
筆者 なぜ、東京本社にいる日本人のトレーダーを、支店に赴任させないのでしょうか。
A氏 日本人のトレーダーは数人いましたが、40人ほどはアングロサクソンです。「支店の人件費を一定の範囲内に抑えつつ、株式や為替などでノルマ以上の成果を出さなければいけない場合は、このような体制がいいのだ」と、管理部門の部長から聞きました。人材のポートフォリオに基づいて、レイアウトされているという感じでした。
アングロサクソンたちの労働形態は、日本でいえば正社員に該当するのでしょうが、コミッション契約で、成果に応じて報酬は相当に変わるようです。次々と辞めては、他の金融機関に移ります。そするとまた、新たにアメリカやイギリスの支店からトレーダーがくるのです。
彼らは、たまたま○○証券に籍を置いているだけです。自分を高く買ってくれる金融機関があれば、あっという間に移籍します。自分のスキルを売る、ということを徹底しています。その意味では、「プロ意識旺盛な正社員」と位置づけられていたように思います。
筆者 専門性が高い仕事だから、そのようにならざるを得ないのでしょう。今後、金融などの仕事はますます専門的になるから、正社員をその仕事の内容に応じていくつかに分けていくのが、自然の理なのでしょうね。
日本では、正社員をグループに分けると、「正社員から非正規社員にさせようとしている」「グループの1つに限定正社員を設け、解雇し易いようにしている」と批判されます。労働組合やインテリは、こんなことを真剣に議論しているのです。
市場の動向を見ると、ニーズは専門化し、多様化しているのですから、正社員をいくつかに分けるのは当たり前のこと。「搾取」云々は別の論点ですよ。そんなことが、きちんと認識されていないのです。
「悪平等」でいると
日本企業は絶対にダメになる
A氏 実情に応じてグループに分けて管理するのは当然としても、私のような「限定正社員」的な人を「安く使おう」とするだけでは、日本の企業はグローバル化の中、生き残れないでしょう。
筆者 確かに……。ところで、アングロサクソンのトレーダーは、相当に高いお金をもらっているのではないですか。
A氏 私が本人たちから聞いた限りでは、40人のうちの10人ほどの年収は平均2000〜2500万円ほどで、中には5000万円を超える人もいました。日本人の場合は、35歳で年収は1200万円ほどと聞きました。支店長は2000万円を超えるのではないでしょうか。
筆者 日本人の社員たちから不満は出ますか。なぜ、アングロサクソンのトレーダーにこんなに高いお金を支払うのか、と。
A氏 そんなものは一切ありませんね。噂でも聞いたことがない。
筆者 同じ日本人の「正社員」の間で、そんなに賃金の差を設けたら、不満を通り越し、ひどい状態になります。会社が成り立たないでしょう。
A氏 そんな悪平等でいると、日本企業は絶対にダメになると思います。トレーダーは、支店長たちよりもはるかに大きな貢献をしていました。稼ぎまくっていたから……。支店長の倍以上の報酬を受ける人がいても、問題はありませんよ。それが健全な職場です。
日本人の社員たちの中には怠慢な人もいたし、結果を出している人もいました。彼らの間にももっと大きな差を設けるべきでしょう。それが健全です。
そもそも、市場がこれほどに専門化し、高度化しているならば、相当に高いスキルを持った人を雇わないと、その企業は倒産しますよ。まして、市場の変化はかなり早い。時間をかけてじっくり育成して……という考えは、ある職種については通用しない時代です。この職種の人は、他の正社員よりも高い賃金を払わないと、絶対に雇えません。私は、従来の長期安定雇用の正社員のスタイルだけにこだわることが、根本的に誤りなのだと思います。
>>後編『海外で日本人正社員を“使い捨て”にするグローバル証券の罠(下)』に続きます。
http://diamond.jp/articles/-/71282
【第14回】 2015年5月12日 吉田典史 [ジャーナリスト]
海外で日本人社員を“使い捨て”するグローバル証券の罠(下)
>>(上)より続く
筆者 たぶん、東京本社の人事部などはそうした認識を持ち、シンガポール支店で正社員のグループ分けを試みていると思うんですね。その証券会社に限らず、日本の大企業は労働法などの縛りがゆるいアジアの国では、人事制度や賃金制度などで大胆な実験をすることがあります。そこで成功すると、日本にその人事制度を言わば「逆輸入」をするのです。
現地採用は「限定正社員」扱いで
年収300万円以下というひどい格差
ところで、支店にあった他のグループは、どのようなものでしょうか。
A氏 3つめのグループは、管理部門。総務や経理、ITなどの部署があります。管理部門のトップの部長は日本人ですが、その下にいる社員40人ほどは、現地で雇い入れたシンガポール人です。
数人を除き、ほとんどが単純作業に近い仕事をしていて、年収は200〜300万円と聞きました。労働形態は、日本でいえば正社員に該当するようですが、昇格はなく、転勤もありません。昇給もほとんどないと耳にしました。「限定正社員」みたいなものなのでしょうね。あれでは派遣社員などの非正規と変わりませんよ。
40人ほどの仕事のレベルは相当に低く、私も驚いたほどです。まさに「安かろう、悪かろう」です。ローコスト体制を維持する要員としてしか、見なされていない。それほどに仕事が単純化されているのです。安く使おうとするから、それなりのレベルしか集まらないのです。私は、ここに問題を感じましたね。
現地人でも、IT部門のヘッドや部長、支店長になれるようにしないといけない。ところが現地人は「限定正社員」で、年収300万円以下……。これでは、現地人で優秀な人は入社しないでしょう。海外では、日本の企業は人材の奪い合いで負けている傾向がありますが、その理由の1つはこんなところにあるように思います。
筆者 たぶん東京の本社は、現地人は「限定正社員」で年収300万円以下でいい、と思っているのでしょうね。そもそも人件費を抑え込むために、シンガポールに進出したのでしょうから。むしろ300万円を100万円にするために、今度はアフリカなどに拠点を構え、そこでそのITの仕事を一斉に賄おうとするかもしれませんね。10〜20年以内には……。IT部門は、それが可能でしょう。
資本の論理は、弱いところを徹底して弱くしていくことにありますから。それが、ある意味で健全なのでしょう。
A氏 人件費を削減することは必要でしょうが、「限定正社員」の待遇を多少はよくしないと、優秀な「限定正社員」のところに仕事が集中することになります。ここも、問題の1つなのです。
筆者 実は、パワハラとか過労死はそのあたりから生まれることがあると私は見ています。「限定正社員」を「ダメな人たち」という位置づけで使い、それをリカバリーするために優秀な人をわずかに雇い入れておくと、見事にその人たちが潰れていく。あるいは潰されるのです。
「6年在籍してアホらしくなった」
優秀な限定正社員を生かせない仕組み
A氏 私はIT部にいたのですが、そこはヘッド(部長)が現地の人で、その下に12人います。そのうちの10人が現地人で、残りの2人は本社から赴任した日本人と、もう1人が「現地採用」の私です。「現地採用」の日本人枠で入る人は、数年ごとに辞めます。私は6年在籍してアホらしくなり、41歳のとき辞めました。
筆者 「限定正社員」は、かつての日本の一般職みたいな存在なのです。これは、ホンネのところでしょうね。一般職の職場に高学歴で意識の高い女性が入ると、アホらしくなることは多かったでしょう。そこで、女性にも総合職になる人が現れました。あれは自然の理です。実情に応じて明確に分けていくのは、当たり前のことでしょう。
大切なことは、「限定正社員」の賃金などを上げて、待遇を底上げすることではなく、Aさんのように優秀な「限定正社員」が損をしない仕組みをつくることですよ。ところが、日本の議論はそんな優秀な人のことなど一切考えない。本来は、議論の大きなポイントはここにあるべきなのです。
A氏 そんな感じですね。
筆者 ところが日本では、「限定正社員は『名ばかり正社員』になる」「解雇されやすくなる」と、実態からかけ離れた情緒的な指摘が多いのです。市場の変化という意識が、パーフェクトに抜けているのでしょう。「安倍政権が悪い!」なんて言えるのは、ある意味で市場環境の厳しさを知らないという点では、幸福な人たちなのです。
A氏 少なくとも市場の変化を見据えると、ついていくことができない社員はいます。IT部門で言えば、スキルが時代の流れについていけないのです。こういう人は、辞めてもらわないとマズイでしょう。そうでないと、優秀な人に仕事が押し寄せる。だけど、優秀な人がなんとかリカバリーをしたところで賃金は上がらない。それでも、自分よりもITスキルが低い日本人の正社員は、毎年賃金がベースアップなどで上がって行く。これは明らかにおかしい。
「グローバル化のもと、企業は実力主義になる」なんて叫ばれていますが、ホンネのところでは、こんなものですよ。私が6年目にあの会社を辞めた理由は、そこにあります。
「少数精鋭」とは名ばかりの実態
悪い制度は日本に「逆輸入」される
筆者 残念なのは、日本の「多様化する正社員」「限定正社員」をめぐる議論に、そのような声が見事に反映されていないことですね。タテマエの域を出ていないのです。今後、Aさんのように「限定正社員」でありながらも優秀な人は、間違いなく苦しむことになるでしょう。シンガポール支店で起きていたことは、必ず「逆輸入」されるはずです。
ところで、証券会社のシンガポール支店を辞めたのはなぜですか。
A氏 待遇に不満がありました。契約を交わす時点で心得ていましたが、あまりにも大きな差に違和感を覚えたのです。年収は、東京から来た同じ日本人社員と比べて3分の1ほど。IT部のマネジャーをしていた私よりも数歳上の日本人社員は、仕事があまりできない。ITだけをしてきたわけではなく、日本では、株式や債券などの売買をしたり、法人営業をやったりしていたようです。スペシャリストではないのです。あくまでジェネラリスト……。それで給料は、私の3倍以上です。
しかも、私は6年間で昇給が1度もなかった。彼らは毎年基本給が上がり、それに伴い賞与が増える。挙げ句に、海外赴任手当や子どもの養育費など、私が受け取ることができない手当までもらっていました。それは、月に10万円を超えると聞きました。ほぼ同じ年齢で、同じような仕事をして、同じポジション
なのに、東京本社の日本人と現地採用の日本人の待遇がこんなに違うと、バカバカしくなります。
筆者 東京本社の日本人は、新卒入社の時点から職能資格制度のもと、等級(資格)に基づいて基本給が上がっていく仕組みなのでしょうね。当然、そこには査定評価があるものの、下の等級に下がる「降格」はなく、常に賃金は年を追うごとに上がって行くはず。
ところがAさんには、ITという職務に対し一定の賃金しか支給されない。そこには等級はなく、基本的に給与は同じ。変わる場合は、昇格するか、もしくはIT以外の職務に就くときのみ。つまりは、職務給に近い状態なのですね。
A氏 職能資格制度の人と職務給の人が、なぜか同じ仕事を同じポジションでするのです。しかも、成果や実績はほぼ同じ。それでいて、年収は3倍近く違う……。滅茶苦茶なハイブリッドですよ(苦笑)。グローバル時代なのに、これではまずいでしょう。
さらに、私が6年間いる間に、その会社は本社から赴任する日本人の数を減らしたのです。当初は20人ほどでしたが、いつしか15人ほどになっていました。おそらく、人件費を減らすのが目的でしょう。支店長は「少数精鋭」と話していましたが、「精鋭」には見えなかった。特別なスキルがなく、漠然としたマネジメントしかできない人たちなのだから。これも、少数精鋭のホンネですよ。何でも屋みたいな人たちが「優秀」と言われる時代は、40〜50年前のことでしょう。
これで、優秀な人へのしわ寄せが一段とひどくなると思いました。私は、不満がますます強くなりました。そんな頃、現在勤務する金融機関から誘われたので、会社を移ったのです。
優秀な社員にばかりしわ寄せが
的を射ない日本の「正社員議論」
正社員のあり方が、市場の変化に伴って変わってきていますね。多くの大企業などが正社員の数を減らそうとしています。それにもかかわらず、1つの正社員の姿にこだわるのは、海外では通用しない議論です。だけど、そんなことをいつまでも話し合っている。対応が遅いですよ、この国は。本当に危ないですよ。なぜ、わからないのだろう……。
筆者 日本の人事の議論は極めて国粋的で視野の狭い、「愛国主義」によるものなのですね。実は、実態を知らないだけのことなのですが……。2020〜40年くらいの経済情勢や財政事情も見抜けないのです。今後は日本人が想像する以上に厳しい時代が到来するはず。そのときでは、もう遅いんですけどね……。
http://diamond.jp/articles/-/71346
秘書だけが知っている仕事ができる人、できない人 能町光香
【第3回】 2015年5月12日 能町光香 [株式会社リンクCEO 人材育成コンサルタント 一流秘書養成スクール校長]
秘書が見抜く、一見良い人だけど実はダメな上司
一見いい人を演じていても、秘書には本質が見抜かれています!
Photo:sunabesyou-Fotolia.com
はじめて部下を持つことになった時、「いい上司になろう」と、きっと誰もが思うことでしょう。ところが、その決意は時間が経過するにつれて、次第に揺らいでいくかもしれません。そして、部下と仕事を進めていくなかで、「いい上司」とは、どんな上司なのだろうか、と頭を悩ます日がやってきます。
「いい上司」とは、いったいどんな上司なのでしょうか?
長年秘書を務めていると、ボスの本質を見抜く才能が備わると言われます。
「いい人は、いい人で終わってしまう」
「いい人が、必ずしも、仕事ができる人ではない」
こう微笑みながら言うのは、ベテラン秘書のAさん。
人あたりがよく、人懐っこい笑顔のなかに、凛とした姿勢や冷静な態度が見受けられ、ベテラン秘書の風格を漂わせています。その微笑みの下には、どんな思いが隠されているのでしょうか?
Aさんの元上司について、語ってもらいました。
秘書の仕事までこなす社長は
本当に“優しい社長”なのか
Aさんの元上司は、3万人の従業員を有する企業の代表取締役社長(以下、B社長)です。B社長は、多忙な時以外は、ホテルや飛行機の手配を自分でおこないます。そして、B社長は、自慢げな表情で、社長秘書にこう言うのです。
「本来なら、出張の手配は○○さん(社長秘書)の仕事だけど、ボクがやっておくよ」
この話を聞いて、「忙しいのに、出張の手配までしてくれるなんて、なんて優しい社長なのだろう」と思いますか? それとも、「それは秘書にまかせて、会社のために、社長としてするべき仕事に集中してほしい」と思うでしょうか?
きっと、多くの人が後者のように思うことでしょう。「社長本来の仕事に注力してもらいたい」「枝葉ばかり見ないで、森を見て仕事をしてほしい」「もっと部下を信頼してほしい」「細かい仕事まで抱え込まずに、部下に任せてほしい」という声が聞こえてきそうですよね。
一方、B社長にとっては、秘書に対して、いつも「いい上司」でありたいという気持ち の表れが、このような行動へと駆り立てているのかもしれません。その真相は、B社長に聞いてみないとわかりません。ただ、残念なことに、秘書にとっては、「いい上司」と映らない可能性が大きいのは間違いないでしょう。
これは、なにも「社長」と「社長秘書」の間の関係性に限ったことではありません。「上司」と「部下」というすべての関係性においても、起こることです。皆さんの周りでも、このような部下の声を聞いたことはありませんか?
「いい上司」とは、部下に「いい顔をする上司」を指すわけではないのです。
部下を怒らない上司は
必ずしもいい上司ではない
ここで、部下たちの見解を聞いてみましょう。
部下の方たちに、「いい上司とは、どんな人ですか?」と尋ねてみました。すると、真っ先に出てきたのが「怒らない上司」という答えでした。つまり、細々と苦言を呈したり、注意をしたりしない上司のことです。
最近、職場でのパワーハラスメントが社会問題となり、上司は、部下への一言に気をつけようとするあまり、言いたいことも伝えられないと嘆く人が増えています。
たとえば、以前、ある会社で役職についている方からこんな相談をうけたことがあります。
その会社では、毎年12月2週目の金曜日に、忘年会が開催されていました。何十年も続く恒例の忘年会。上司が若手社員に忘年会開催のお知らせの案内をメールで送ると、「忘年会の目的は、何ですか?」「忘年会に参加しないといけない理由を教えてください」という返信があったそうです。
その上司の方は、「この時は、さすがにまいりました。忘年会は、みんなでワイワイと楽しみ、お互いをねぎらう場だと思っていたので。忘年会の目的は、その年の慰労を目的として執り行う宴会です、と伝えてもねぇ…」と、若手社員の機嫌を損ねると仕事がしづらくなりそうなので、どうしようか迷っている様子でした。
このように、忘年会の例1つをとっても、どう伝えればいいのか悩んでしまい、上司のほうが部下に過敏に反応してしまうケースがあります。部下との距離は、過剰に近くなるのもよくないですし、疎遠になりすぎるのもよくない、その「さじ加減」が、上司の腕の見せ所と言ってもいいでしょう。
いい上司はストレスを
うまく軽減させる方法を知っている
もちろん「いい上司」とは、「部下の機嫌を損ねない上司」のことではありません。部下にとって、上司から苦言を呈されることは嫌なことかもしれませんが、一度も助言やアドバイス、ネガティブな意見を上司からもらうことなく、成長していった人はいないでしょう。
また、「いい上司」とは、「注意をしない上司」のことを指すのではありません。
上司も「人」ですから、部下の行動を見て、時には、我慢できず、今すぐに注意をしたいという衝動に駆られることがあります。そんな時は、「怒る」のではなく、「ネガティブ・フィードバックをおこなう」という姿勢で、部下に接してみてください。カッと怒りたい気持ちをグッと抑えて、深呼吸をし、どうしたら部下に効果的に伝えることができるかを考えてみるのです。
「気持ちが高ぶる時には、何よりも深呼吸が大切だ」と言う上司がいました。彼は、机の引き出しの中に、カラフルなストレスボールを5個用意しており、まず、ストレスボールを机の上に置くことから一日が始まります。そして、終業時間になると、いくつ机の上にストレスボールが置いてあるかで、その日の上司の緊張やストレスの度合いを測ることができるほどでした。
ストレスボールは、指を動かすことで脳を活性化したり、ストレスを軽減したりするものと言われます。彼は、感情が高まるとすぐにストレスボールを握ることで、感情を抑えていたのです。それが、深呼吸へとつながり、自分の感情をマネジメントする方法でした。
自分の気持ちや感情を自分でマネジメントすること、つまり、「感情マネジメント」は、一流の人たちの習慣です。イライラして相手にあたるということはしません。なぜなら、それは恥ずかしいことであり、さらに、相手に対して何も良い影響がないことを知っているからです。
時には、秘書の私に、冗談まじりに、「今日は、いくつのストレスボールが必要?」と聞き、「3つです」と答えると、3つのストレスボールを机の上に置いていくこともありました。それは、私が上司から大きなプロジェクトを任された時でしたが、こうやって、ユーモアのある気づかいに、心がなごんだものです。
じつのところ、秘書は孤独
人知れず泣く、ぬいぐるみと話す人も
もちろん、リーダーの近くで働く秘書も、自身の感情のマネジメントの方法について考えておくことは、非常に重要です。なぜなら、社長秘書など、役職の高い人を補佐する秘書になればなるほど、リーダーと同様に、孤独になっていくからです。そんな彼女・彼らに、私はいつも「孤独に耐えるのではなく、孤独に慣れてください。そして、孤高の人になってくださいね」とお伝えしています。それが、リーダーと共に歩んでいく人の宿命だからです。
秘書の感情マネジメントの方法は、人によってさまざまです。どうしても抑えきれない感情が湧いてきたら、サッと席を立ち、お化粧室や休憩室に行く人もいます。昨今、自分の机など人のいる場所で涙を流す女性社員が多くなってきていますが、職場は「公共の場」ですから、泣くのであれば、お化粧室でしたいものです。
また、こんな人もいます。
机の上にお気に入りの熊のぬいぐるみを置いておき、何かあったら、誰もいなくなったところで、熊のぬいぐるみに小声で話しかけることで、気持ちの整理をしている人もいます。誰もいなくなったところで、というのが、秘書としてのプロフェッショナリティを感じますね。自分なりの感情マネジメントの方法を持っておくことで、長い間取り乱すことがなくなるでしょう。
ぜひ、自分なりの感情マネジメント法を持つようにしてみてくださいね。
“いい人の仮面”を取れない人は
「本当にいい上司の3ヵ条」が欠けている
さて、ここまで、
1)いい顔をする上司ではない
2)部下の機嫌を損ねない上司ではない
3)注意をしない上司ではない
という、本当にいい上司の3ヵ条について見てきました。そして、いい上司の条件とも言える「感情マネジメント」の重要性についてお伝えしました。
さて、上司の皆さん、いかがでしょうか?
自分では「いい上司」であるかどうか、判断しづらいかもしれませんね。それがわかれば、どんなに安心できることか、と思う人も多いのではないでしょうか。
「上司」といえども、ひとりの「人間」ですから、どうしても「いつもいい人でありたい」という願望を持つのは、当然のことでしょう。そうであっても、部下を持つ立場になったら、自身に厳しく、相手にも厳しくせざるをえない状況に身を置くことになると覚悟しなければなりません。
私が秘書として働いていた時、こんな質問をしたことがあります。
「はじめて部下を持った時、一番つらかったことは何でしたか?」
多くの人が、「部下を評価しなければならないこと」と答えていました。なぜなら、「部下の評価」をする時こそ、いつもいい人でありたいという願望が満たされず、いい人の仮面を取らなければならない時だからです。それが、「上司」としての初めての関門であり、この時、上司としての「覚悟」が試されます。
多くの場合、人事評価は、相対評価ですから、ある部員に「B」の評価をつけると、他の部員に「D」をつけなければなりません(ここでは、A:最高評価 からE:最低評価の5段階評価とします)。
ところが、上司の中には、いい人の仮面をとることができない人がいます。
たとえば、部下が10名いたとしましょう。すると、10名全員に、C(平均値)という評価を与えるのです。評価者の心理として、評価が中央に偏りがちという意味のCentral Tendency(中央傾向)が挙げられます。みんな仲良く同じ評価であれば、評価者は評価対象者からの不平不満や文句を避けることができるという心理が働くのです。
今後、ますますグローバル化が加速するなか、「みんなで仲良く同じ評価」であれば安心と喜んではいられないのは、誰もが気づいていることではないでしょうか。
いかがでしたでしょうか? 一見いい人に見える人が、「いい上司」とは限らないということをおわかりいただけましたか? 一見いい人に見えない人であっても、本当は、部下思いのいい上司かもしれません。見た目だけで判断せずに、じっくりと時間をかけて人とつきあっていく心の余裕を持ちたいですね。
http://diamond.jp/articles/-/71278
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