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通信自由化３０年 世界１億件利用の日本初規格「ＰＨＳ」 日本は風前のともしび
http://newsbiz.yahoo.co.jp/detail?a=20150510-00000503-biz_san-nb
SankeiBiz 2015/5/10 19:30
平成７年８月１６日の朝、当時、第二電電（ＤＤＩ）副社長だった千（せん）本（もと）倖（さち）生（お）（７２）は青ざめた。自身の発案で７月に始めたＰＨＳサービスの通話ができなくなったためだ。基地局の数に対し制御するソフトの能力が追いつかず、電波の同期が取れなくなったのが原因だ。千本は必死で修復作業を指揮したが回復したのは５日後だった。
稲盛和夫（８３）に請われてＮＴＴを辞め、ＤＤＩの創業に携わった千本にとって、ＰＨＳは携帯電話に対抗するサービスの柱だった。全国展開の矢先につまずいたものの、ＰＨＳはその後、音質の良さや割安感から契約数を伸ばし、日本発の通信規格として海外普及も期待できる「次世代通信技術」の本命ともてはやされた。
パケット通信やカメラ付き端末、スライド式キーボード装備のスマートフォン…。どれも携帯電話に先駆けてＰＨＳが実用化した技術だ。自販機など機器同士が通信する「組み込み型機器」の分野でも、割安なＰＨＳが先行した。一時はＤＤＩ子会社のＤＤＩポケットのほかＮＴＴパーソナル、アステルグループなど約３０社が携帯電話の対抗サービスとして売り出した。
■先陣切った技術
しかし、携帯電話の普及が進み、ＰＨＳの隆盛は続かなかった。郵政省（現総務省）は当時、２２年にＰＨＳ契約数が３３００万件に達し、携帯電話並みに普及すると予想した。行政の期待の高さが分かる数値だ。しかし２２年実績ではＰＨＳが３７５万件に対し、携帯電話は１億１９５０万件と大きく明暗を分けた。
後にＤＤＩポケット会長になる木下龍一（７４）は「携帯との競争に巻き込まれないよう独自技術を次々開発したが、独自マーケットは確立できなかった」と振り返る。
通信自由化後に生まれたＰＨＳは、２０年間で携帯電話に駆逐されつつある。１日付でソフトバンクモバイルに統合された旧ワイモバイルは、昨秋から断続的にＰＨＳ契約者をスマートフォンに移行するキャンペーンを実施している。ピーク時の９年に７００万件を超えた契約数は現在、５００万件程度となっている。
長年、ＰＨＳを利用してきた総務審議官の桜井俊（６１）は「外でも使えるコードレス電話がコンセプトだったが、携帯電話には太刀打ちできなかった」と打ち明けた。
■「ｉモード」も
大きな期待を受けたが、勢いを失った独自技術が通信分野では少なくない。電話回線を通じて画像表示できる「キャプテン」システムは、民営化前年の昭和５９年に商用サービスを始めた。「世界初の技術」と評されたが、サービスは広がらず平成１４年に終了した。
ＮＴＴドコモが１１年に商用化した携帯電話向けインターネット接続サービス「ｉモード」も世界初だった。ドコモの社長、会長を務めた大星公二（８３）は「『ウォークマン』からヒントを得て、携帯に音楽や情報やゲームを流せばもうかると考えた」と開発のきっかけを説明する。
大ヒットしたｉモードを、ドコモは海外進出の武器と位置付けた。だがＩＴバブル崩壊で１兆円を超える損失を被り、ドコモは北米市場から撤退した。その後、ｉモードにヒントを得た米アップルや米グーグルのスマートフォン事業は、世界規模に拡大した。
国内では携帯電話に押されたＰＨＳだが、１８年には世界のＰＨＳ契約数が１億件を超えた。ほとんどは固定電話網の代替として普及した中国だが、市場はタイやベトナム、台湾にも拡大した。売り込んだのは郵政省移動通信課長の寺崎明（６３）＝現ＮＴＴドコモ副社長＝だ。
当初、中国政府との交渉は暗礁に乗り上げていた。寺崎は共産党青年部の幹部と面会し、その影響力を利用して地方都市に次々と導入を進めた。寺崎は「霞が関最強の商人」（同省幹部）との異名をとった。
その後、中国政府はＰＨＳの電波を携帯電話に配分したため、海外市場も縮小した。“世界初”の技術力だけで、海外市場で日本発のビジネスが普及するのは困難だ。技術に加え、特色あるサービスに踏み込んだ営業戦略が、その後の優勝劣敗を左右する。（敬称略）
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