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中国財政トップ「中所得国のわな」に白旗「新常態」は成長鈍化の言い換えに過ぎない
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投稿者 rei 日時 2015 年 5 月 08 日 13:27:53: tW6yLih8JvEfw
 

中国財政トップ「中所得国のわな」に白旗「新常態」は成長鈍化の言い換えに過ぎない

2015年5月8日(金)  北村 豊

 4月25日、中国政府“財政部長(日本の財務大臣に相当)”の“楼継偉”は、北京の“清華大学”で開催された「清華中国経済ハイレベルフォーラム」で講演し、中国は今後5年から10年の間に50%以上の可能性で「中所得国のわな」に陥ると述べた。中国メディアが4月26日付で報じた楼継偉の講演要旨は以下の通り。

急速な高齢化に5つの対策

【1】中国は今後5年から10年の間に50%以上の可能性で「中所得国のわな」に陥る。それは中国が急速に高齢化社会に突入することによって引き起こされる。現在の中国にとって重要な任務は「中所得国のわな」をいかに乗り越えるかである。そのためには、年間5〜7%の経済成長を実現し、今後5〜7年の間に全面的な改革を行い、中国市場に依然として存在する「ひずみ」を解決しなければならない。

【2】「中所得国のわな」を乗り越えるための方策について、楼継偉は5つの分野の対策を列挙したが、その要点は下記の通り。

(1)農業改革:“糧食(食糧)”<注1>に対する全面的な補助金の削減、農産物輸入の奨励。

中国人は全般的に戦争思考があり、ひとたび戦争が起こったら、我が国が現在大量に輸入している農産物の供給が遮断されると考えている。但し、彼らはたとえ戦争が起こったとしても、“換草退耕、還湿退耕作(草原を農地に戻し、湿地を農地に変える)”ことにより農産物の在庫を確保できると考えている。従い、今は農産物の輸入を奨励して、食糧に対する補助金を削減し、それによって余剰が発生する農村労働力の移転をさらに進めて、製造業やサービス業の労働力不足を補えば、賃金の上昇速度を生産効率の上昇速度より低く抑えることが出来る。

<注1>中国語の“糧食(食糧)”は穀類、豆類およびイモ類の総称。

(2)戸籍改革:法律の角度から戸籍移転の障害を打破し、各地方政府に借家による戸籍登録を認めさせる。

 “国務院(日本の内閣に相当)”は2014年7月に戸籍制度改革の公文書を公布したが、現在までのところ14の省・市がその実施方法を発表しているに過ぎない。しかも、人々が最も戸籍を登録したい省・市は容易に戸籍登録を開放していないのが実情である。労働力の流入に対する抵抗を打破するためには、国家が教育や医療などの資源を提供することにより、戸籍を移転する人々が安心して都市部へ定住できるようにする必要がある。

(3)労働関係:欧米諸国のように従業員が地域や業界を単位に連合して、雇用主と強行談判することがあってはならない。企業と従業員の間で個々に決定させることにより雇用の融通性を増大させねばならない。

(4)土地改革:農村建設用地(宅地、工業用地、集団の経済用地に分類される)は農民にわずかなカネが支払われた後は、都市部の土地の様に転売することが可能になる。土地取引の過程では、政府は土地収用や建物の取り壊しを行うべきではなく、農民の自主決定にゆだねられるべきである。また、農民は土地の買手と土地売却後の再就職や社会保険について交渉すべきである。

(5)社会保険:国有資本を振り分けて社会保険基金を充実させることで社会保険料率を適当に引き下げ、真の「“多交多得(保険料を多く支払った者が保険金を多く得る)”システム」を確立しなければならない。1997年以前は社会保険制度が設立されていなかったため、国有企業の職員は“養老保険(社会保険=年金)”の保険料を納めていなかった。国有資本を振り分けることにより、はじめて以前の未納部分の欠損を補てんして問題を解決することができる。現状の社会保険制度の給付、徴収、投資収益率および所得代替率などの比率は相応の調整が必須である。さもなければ、我が国は急速に迫りくる高齢化の波を乗り越えることができなくなる。

世界第二の財政部長の白旗

 一国の財務大臣が、今後5〜10年の間に50%以上の確率で「中所得国のわな」に陥る可能性があると述べるのは尋常なことではない。しかも世界第二の経済大国である中国の“財政部長”の楼継偉がそう述べたというのだから大ごとである。

 私ごとながら、1996年頃、当時広東省の広州市に駐在していた筆者は、貴州省視察団の一員として貴陽市の貴州省人民政府を表敬訪問した際に、中央政府からの出向で貴州省副省長に就任していた楼継偉と会見したことがある。当日はそれとは別に女性の副省長とも会見したが、彼女の人当たりが良く、笑顔を絶やさぬ応対振りに比べて、楼継偉は無愛想で、俺ほど有能で賢い人間はいないと言わんばかりの横柄な態度に、強い反感を覚えた記憶がある。こういう類の輩(やから)は上司には媚びへつらい、部下には威張り散らすのが通例だが、なぜか出世街道を驀進するから不思議である。楼継偉の場合は1986〜87年頃に当時“国家経済委員会”副主任だった“朱鎔基”(後の国務院総理)に見出されたことが、出世の足掛かりとなったのだった。

 それはさておき、財政部長たる楼継偉がたとえ可能性であっても50%以上の確率で中国が「中所得国のわな」に陥るという危惧を公言したということは、事態がよほど深刻であると考えられる。国営の「新華通訊社」が運営するニュースサイト「新華網(ネット)」が2011年4月11日付で報じた「“中等収入陥穽(中所得国のわな)”は世界的な発展の難題」という記事は楼継偉の講演内容を考える上で興味深い。その内容は下記の通りである。

わなの「10大特徴」に合致

【1】「中所得国のわな(Middle Income Trap)」は2006年に世界銀行がその『東アジア経済発展報告』の中で明確に提起した概念である。新興市場国は人口1人当たりの国内総生産(GDP)1000米ドルの「貧困のわな」を突破した後、急速にGDP1000〜3000米ドルのテイクオフの段階を突き進む。但し、人口1人当たりのGDPが3000米ドルに近づくと、急速な発展中に蓄積された矛盾が集中的に爆発し、1人当たりのGDP1.1万米ドルを突破して高所得国の列に加わることが出来なくなる。この種の発展の停滞を「中所得国のわな」という。

(2)実際上、「中所得国のわな」は世界的な発展の難題であり、ブラジル、アルゼンチン、チリ、マレーシアなどの国は、20世紀の70年代には中所得国の列に加わったが、今なお依然として1人当たりGDPが3000〜5000米ドルの発展段階にあってもがいている。フィリピンは、20世紀の60年代には1人当たりGDPがアジアで日本に次ぐ規模であったが、発展中に蓄積した矛盾を解決できぬまま今に至るも中所得国に留まっており、後からやって来たシンガポール、韓国、香港、台湾が「アジア四小龍」として成長した。

(3)「中所得国のわな」の10大特徴をかつてメディアが国内の著名専門家50人から聴取した意見を基に列記すると次のようになる。すなわち、[1]経済成長の低下あるいは停滞、[2]民主の混乱、[3]貧富の格差、[4]“腐敗(汚職)”の多発、[5]過度の都市化、[6]社会公共サービスの不足、[7]就職の困難、[8]社会の動揺、[9]信仰の欠如、[10]金融体制のもろさである。これらの特徴は専門家たちが「中所得国のわな」に陥っている国を分析して総括したものであり、現実の問題を手本とする意義を持っている。そこで、中国の現在の状況を見ると、正に10大特徴のうちの大多数に直面している。過去30年以上にわたり、中国の経済は確実に長足の発展を遂げたが、その反面、貧富の格差が深刻であり、汚職も多発している。これ以外に、教育、就職、社会保障、医療衛生などの分野の矛盾もしだいに明確化して来ている。これら多くの問題は、どうすれば国民収入とGDPおよび財政収入とが同一歩調の増大を実現できるかが、「中所得国のわな」に陥るのを避ける鍵だと考えられている。

(4)中国の隣人である日本と韓国は「中所得国のわな」に陥ることなく乗り越えることに成功した。1968年、日本は西ドイツを超えてGDP総額が1000億米ドルに達し、経済規模では米国に次ぐ世界第2の経済大国となった。この年、日本の国民1人当たりGDPは世界第20位に過ぎなかった。しかし、その後10年も経たずに、日本の1人当たりGDPは急速な増大を続けた。その速度は欧米先進国を遥かに上回っただけでなく、社会の安定を基本的に保持し、平穏にいわゆる「中所得国のわな」を乗り越えた。韓国の1人当たりGDPは、1980年には1645米ドル、1983年には2074米ドルであったが、1995年に1万1469米ドルに到達し、1.1万米ドルの基準線を突破して高所得国の列に加わった。日本と韓国が「中所得国のわな」を乗り越えた時には、均しく一連の改革を実施した。彼らの成功は中国にとっても手本とする意義がある。

 上記【1】(3)にある「中所得国のわな」の10大特徴を改めて見て欲しい。記事の作者も「中国の現在の状況を見ると、正に10大特徴のうちの大多数に直面している」と述べているが、これは「大多数」ではなくて「全て」である。各項毎に現状を見ると以下の通り。

「新常態」は成長鈍化局面の言い換え

[1]中国が盛んに唱えている「“新常態(ニューノーマル)”」とは、高度経済成長を終えて成長鈍化の局面に入ったことをあたかも新たな戦略であるかのように言い換えたに過ぎない。
[2]共産党の専制が強化され、人権抑圧と言論統制はますます激しくなり、民主とは到底言い難い状況にある。
[3]貧富の格差はますます拡大している。
[4]“腐敗”は“反腐敗(汚職撲滅)”運動を推進してもとどまる所を知らずの状況である。
[5]全国の地方政府が無計画な都市化を行った結果が各地に“鬼城(ゴーストタウン)”を出現させている。
[6]民間のサービスは多少改善されたが、公共サービスは基本的に「親方五星紅旗」のままで旧態依然。
[7]新卒者の就職率は過去最悪の状況にあるだけでなく、急速な賃金上昇により経営が成り立たない企業が倒産したり、雇用を削減しているために失業者が増大している。
[8]国民による“群体制事件(集団抗議行動)”はすでに年間30万件に達しているとも言われているし、所得格差の不平等さを測る指標であるジニ係数も0.6を超えて「社会動乱がいつ起きてもおかしくない」状況にあると大学の研究報告は述べている。
[9]チベット族やウイグル族、中国政府非公認のキリスト教徒、さらには法輪功などの新興宗教は厳しい宗教弾圧を受けている。
[10]輸出の不振、輸入の増大、外資企業の撤退、外貨の流出、膨大な地方債務が債務不履行の危機、不動産市場の凋落、企業倒産の増大など。これらのどれを取っても中国の金融体制を揺るがす内容ばかりである。

 以上の内容から考えても、中国が「中所得国のわな」を乗り越えることは極めて困難であることは想像に難くない。楊継偉は5〜10年の間に5つの分野の対策を実施すれば「中所得国のわな」に陥ることを回避することが可能と考えているのだと思うが、上述の10項目を改善して、蓄積された矛盾を解決することは5〜10年という短いスパンでは到底不可能であろう。集団抗議行動を惹起する主要因の一つであるPM2.5に代表される環境汚染を解決するだけでも数十年を要するのだから。

 “未富先老”という言葉があるが、これは「先進国になる前に高齢化社会に入る」という意味である。「先進国」とは「高所得国」と読み替えてもよいと思うが、中国は高所得国になる前に高齢化社会に入ることは間違いのない事実である。“未富先老”も中国にとっては「中所得国のわな」に陥る大きな要因といってもよいだろう。楼継偉が提起した「中所得国のわな」に陥るのを回避するための5分野の対策は、いずれも5〜10年の期間で対応できずに、中途半端で時間切れとなる可能性が高い。こうして見ると、中国が「中所得国のわな」に陥る可能性は、楼継偉が述べる50%以上よりももっと深刻で、100%に近いように思えてならないが、我々は高みの見物をするしかない。

このコラムについて
世界鑑測 北村豊の「中国・キタムラリポート」

日中両国が本当の意味で交流するには、両国民が相互理解を深めることが先決である。ところが、日本のメディアの中国に関する報道は、「陰陽」の「陽」ばかりが強調され、「陰」がほとんど報道されない。真の中国を理解するために、「褒めるべきは褒め、批判すべきは批判す」という視点に立って、中国国内の実態をリポートする。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20150501/280647/?ST=top
 

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コメント
 
01. 2015年5月08日 19:03:30 : cqEg4RIJwo
これを回避する切り札としてAIIBを思いついたとしても可笑しくはない。

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