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生活保護のリアル〜私たちの明日は? みわよしこ
なぜ母子家庭の収入は支援を受けても増えないのか
ひとり親家庭の貧困率は50%を越えている。特に母子家庭には、母親自身の収入が手当・養育費等を含めても平均223万円(就労収入に限れば181万円)という深刻な貧困がある。
背景には数多くの要因が複合的に存在しており、個々人それぞれの事情もある。ともあれ、就労と就労継続を容易にすること、さらに充分な収入の得られる職業に就きやすくすることの重要性は、誰もが認めるところだろう。
シングルマザーたちを支え、前進を助ける制度の現状は、どうなっているのだろうか?
「就労」が推進されれば
母子家庭の貧困は解決する?
Photo:milatas-Fotolia.com
「今、母子家庭に対する公的支援の中で、最も強調されているのは就労支援です」
「しんぐるまざあず・ふぉーらむ」理事長・赤石千衣子さん(前回参照)は言う。
「2003年の母子家庭支援改革までは、経済支援である児童扶養手当に重点が置かれていました。しかし2003年以後は、支援が就労支援・生活支援・養育費支援・経済支援(児童扶養手当)へと変わってきました。その中で、就労支援のプログラムは一見たくさん用意されているのですが、問題が山積です」(赤石さん)
たとえば、2003年より開始された「母子家庭等自立支援給付金事業」(当初より父子家庭にも適用されていたが、2014年より父子家庭も対象として改称)を見てみよう。
&eemsp;この制度は、雇用保険制度における教育訓練給付の指定教育訓練講座など、就業に結びつく可能性の高い講座を受講した場合、受講料の20%(上限10万円)を助成する制度だ。
「通常は雇用保険の枠で行われる助成なのですが、雇用保険に加入していないシングルマザー・シングルファザーも利用できて教育訓練を受けられるという意義があります。でも、助成は後払いなんです。教育訓練費用を最初に負担できるだけの資金のある人、または親の援助があるなど、恵まれた人ほど利用しやすい制度です」(赤石さん)
しかも助成比率は20%。50万円の講座なら、40万円で受講できることになるのだが、私は「たった20%?」と思ってしまう。
「それに、就労支援より前に必要なことが、たくさんあります。たとえば、シングルマザーたちが『自己受容できる』とか。自己評価が低いことも少なくないので、『自己評価を高める』とか。最もベースになるものは、自己受容なんです。それができていないようだと、就労支援は難しいと思います」(赤石さん)
自己を受容し、自己評価を高めることは、誰にとっても容易なことではない。
「それに日本では、『正しい家族』という思い込み、『家族宗教』のようなものが根強いですからね。シングルマザーは、そこから外れているわけですから」(赤石さん)
赤石さんが、「今のところ、最も効果が上がっているのでは」と考えている支援制度は、「高等職業訓練促進給付金等事業」だ。実施するかどうかは各都道府県に任せられているが、看護師・保育士・介護福祉士などの資格を取得するために2年以上養成機関に通学するひとり親に対し、住民税非課税世帯の場合は1ヵ月あたり最大10万円が最長2年間にわたって給付される。
「なぜ効果が上がりやすいのかというと、やや力のある人たちが対象だからです。預貯金があって養成機関の学費が払えたり、保育園に通う子どもの送り迎えを手伝ってくれる親族が近隣にいたりする人たちでないと無理です。年齢も、40代以上だと厳しいですね」(赤石さん)
たとえば看護師養成の学校に通う場合は実習がある。実習から帰宅後も実習記録を作成し、提出する必要がある。指定の病院へ実習に行くのに、保育園の送りより前に家を出なければならないこともある。親本人が送りを行うことは不可能なので、親族など誰かの支援が必要だ。もちろん、最終的に国家試験に合格する必要もある。
「体力、気力、そして学力が必要でハードルは高いですが、日本の給付つき職業訓練の中では、最も期間が長いです。でも、資格取得まで頑張っても、就ける仕事は激務だったり、低収入の仕事だったりします。3年間頑張って看護師資格を取った人の中に、就職して1ヶ月で『やめたい』と言う方もいます。決してバラ色ではありませんが、それでも条件の良い方の支援でしょう」(赤石さん)
効果の見えない就労支援
「在宅就労支援」「母子家庭等就業・自立支援センター事業」
一方で、まったく効果がわからない就労支援もある。
「都道府県や中核市に置かれた、母子家庭等就業・自立支援センター事業はほぼ、母子寡婦福祉協議会という団体に委託されています。しかし、センターの多くが、人が来ないような場所にあったり、独自の求人開拓がされておらずハローワークの求人情報を紹介するだけであったりなど、ハローワークとどう違うのかもわからない状態で、機能不全に陥っています」(赤石さん)
さらに驚くのは、母子家庭向けの在宅就業支援事業である、と赤石さんは言う。この事業は、「在宅で子どもを見ながら仕事ができるように」という触れ込みで、シングルマザーに研修を行い手当を出し、パソコン入力やWebページ制作やテープ起こしなどをさせるというもので、「あんしん子ども基金」が250億円つぎ込まれた。訓練修了者にはひとり当たり274万円の経費がかけられた。
しかし、訓練を終了したシングルマザーたちの在宅就業の収入は、月あたり平均月5000円以下が59.4%。実施した厚労省自身も、
「平成21年度から実施した本事業については、その趣旨は有意義であったが、一部の事業者を除いて費用対効果が低い結果となり、このままの形での継続は妥当でない」
と認めている(「ひとり親家庭等の在宅就業支援事業評価検討会報告書」)。
それでも、検証が行われただけ「マシ」なのだ。
「在宅就業支援については検証が行われたのですが、ほかの就労支援施策については、検証も行われていません」(赤石さん)
なぜ、多額の資金を投入した事業が、シングルマザーの就労収入アップにつながらないのか?
「そもそも、戦後一貫して、日本のシングルマザーは8割以上が働いています。各国と比較しても、就労率はトップクラスで高いんです。それでも貧困率が高いのは、就労による収入が低いからです。女性の賃金が低い、特に子育て中の女性の賃金が低いという労働市場の構造的な問題です。『言い訳』『ポーズ』的な就労支援で収入が上がるわけはありません」(赤石さん)
DV被害者、中卒のシングルマザー…
彼女たちに効果的な支援とは?
では、どういう支援があれば良いのだろうか?
「DV被害を受けて夫と別れたあと、就職活動したものの、なかなか成功せず、精神疾患をお持ちで生活保護を利用しているシングルマザーの方がいます」(赤石さん)
その方は、ずっと家の中にいることが多いという。
「本人も、就労を望んでいます。家の中にいて何もできないでいる状態だと、よけいに『自分はダメだ』と思ってしまいます。でも、たとえばDV被害を受けて、子どもと逃げてきて、生活保護で生活して治療も受ける生活を数年続けてきた人の場合、最初の課題はフルタイムの就労ではなく、少しずつ活動したり短時間の仕事に就いたりすることだと思います」(赤石さん)
2015年4月から、各自治体で施行が開始された「生活困窮者自立支援制度」はどうなのだろうか?
「福祉的就労のような、最低賃金以下の雇用枠が拡がることの良し悪しは……なんとも判断しにくいところです。ただ、『出番がある』こと、就労の場で必要とされて活動できることは、自己評価につながります」(赤石さん)
就労することは、義務である以前に権利である。本来は、就労という社会参加の一形態を選択する自由が、誰にもある。
「まずは身体を慣らして、低空飛行から、ほんの少しだけ角度をつけて元気になっていただくようなことですよね。『しんぐるまざあず・ふぉーらむ』事務所でも、少しだけですが、1日2〜3時間程度のパートの仕事の機会を作っています。でも、毎日、交通費と報酬を出すのは無理です」(赤石さん)
そのような機会を用意するのは、本来なら、公共の役割ではないだろうか? 一NPOが、たとえば東京都内のすべてのシングルマザーに対応することは不可能だ。
「生活困窮者自立支援法の枠で、やってやれないことはないと思うんです。事業所に委託する形で。ただ、そういう事業所が出てくるかどうかは疑問です。費用対効果という面では、短期的にはマイナスになる可能性が高いですから」(赤石さん)
シングルマザー自身の収入機会が出来、収入が上がり、税収がもたらされ、あるいは「生活保護100%」から「生活保護80%」となるなど、金額でカウントされるものだけを「効果」と考えれば、間違いなく「マイナス」になるだろう。でも、効果がもたらされるのは本人に対してだけではない。
「シングルマザーには、子どもがいます。子どもにとって、社会で活動する大人、あるいは働く大人が周囲にいることは、非常に重要なことです。就労でなくとも、社会とのつながりを子どもが日常的に見聞きすることが大切なんです」(赤石さん)
さらにシングルマザーの場合は、学歴が低い人が多いという特徴もある。2011年の全国母子世帯等調査結果によれば、中学卒業の学歴のシングルマザーは全体の13.3%であり、この比率はふたり親世帯の母親の中卒率5%に比較してかなり高い。学歴が中卒であると、資格を取ることも難しい。結果として、中卒のシングルマザーの年間平均就労収入は、129万円という低い水準にとどまっている。
この層への支援をもっと厚くすべきではないのだろうか。
2015年度、初めて厚生労働省は、「ひとり親家庭高等学校卒業程度認定試験合格支援事業」に1.6億円を予算化した。高校を卒業していないシングルマザー・シングルファザーが、「高認」資格講座を受講して合格した場合、受講費の40%(上限は15万円)を助成する制度だ。しかし、予算がついても、自治体は4分の1を負担する必要がある。自治体が予算化しなければ、当事者は制度を利用することができない。さらに、「学び」の機会を奪われてきた人々が、「もう一度学びたい」という意欲を持つまでの支援も重要だ。やるべきことは、まだまだ多い。
「でも、この制度を周知させ、必要な人たちが利用できるようにしたいですね」(赤石さん)
「シングルマザーは努力不足」?
当事者代表であるはずの人物からの発言も
なぜ、せっかくの制度の数々が、「役に立っている」と評価するわけにいかない状況になっているのだろうか?
「シングルマザー当事者の声が弱いんです」(赤石さん)
私からは、赤石さんも「しんぐるまざあず・ふぉーらむ」も、充分に力と実績のある当事者・当事者団体に見える。しかし現在、社保審・児童部会「ひとり親家庭への支援施策の在り方に関する専門委員会」の専門委員には、「現在のシングルマザー当事者を代表する」と言えるメンバーは含まれていない。全国母子寡婦福祉団体協議会理事・海野恵美子氏が、唯一の「シングルマザー当事者」代表らしき存在だ。ところが当事者代表の立場であるはずの海野氏は、委員会の場でこのような発言をしている。
「今の方たちは自分で自立という考えも弱いし、意欲も弱いと思います。そういうところを、今は子どもさえ産めばいろいろな保護があり過ぎだと思います。甘えれば済むような時代にしてしまった。だから、自立もできなくなってしまったというのが現状だと思います」(「第4回児童部会ひとり親家庭への支援施策の在り方に関する専門委員会 議事録」より)
現在のシングルマザーは、努力不足。自己責任を強化すれば、自立できる。そういう論調だ。シングルマザーの8割以上は就労しているというのに?
赤石さんも、この専門委員会に「参加人」として参加している。委員が認めれば発言もできる立場である。
赤石さんによれば、児童扶養手当の削減も、総合的に見れば機能不全と言わざるをえない就労支援についても、これまでの母子家庭施策は、すべて全国母子寡婦福祉団体協議会の賛成を得て進められてきた。しかし、「現在の当事者」と言える人々を正式メンバーとしない議論から、現在の当事者に対して有効な施策が生まれることは期待できるだろうか? 「原理的に不可能」というべきではないだろうか? と私は思う。
次回は、大阪市で路上生活者に対する数多くの直接支援活動を展開する「ホームドア」と、代表・川口加奈氏の現在を紹介する。3月、「Googleインパクトチャレンジ」でグランプリに輝いた「ホームドア」は、次の一歩をどのように展開するのだろうか?
http://diamond.jp/articles/-/71127
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