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中国を筆頭とするアジアのインフラ需要は膨大とされるが……
AIIBは利益相反の塊!参加見送りは当然の判断だ
http://diamond.jp/articles/-/71166
2015年5月8日 安東泰志 [ニューホライズン キャピタル 取締役会長兼社長] ダイヤモンド・オンライン
中国が提唱するアジアインフラ投資銀行(AIIB)への出資の是非については、ここ1ヵ月ほど、内外で盛んに議論されているが、結論から言えば、この段階で参加表明する必要など全くなく、参加を見送っている政府の方針は正しい。今回は、筆者がそう考える理由について、これまでマスコミで余り取り上げられてこなかった利益相反の観点を中心に説明したい。
■中国はADBからの最大の借り入れ国だ 日本取り込みの背後にも利益相反が存在
中国は、国際通貨基金(IMF)やアジア開発銀行(ADB)において新興国が経済力の拡大に応じた発言権が確保されていないことを、AIIB設立の理由の一つに挙げている。しかし、ADBの融資のうち、実に4分の1以上は中国向けであり、中国とインドだけで半分を占めている。自分たちが最大の借り入れ国であるADBにおいて中国やインドなどの新興国が発言権を強めるなど、もとより利益相反も甚だしい要求であることは言うまでもない。
同じように、中国が圧倒的な議決権を保有すると見込まれているAIIBが中国国内のインフラ事業に融資する場合や、中国にとって政治的に重要な国のインフラ事業に融資をする場合にも、深刻な利益相反が発生する。
そもそも中国は、先進国の高い信用力に支えられたADBから低利で資金調達をしておきながら、AIIBでは自国を含むアジア諸国への融資を先導しようとしているわけで、完全ないいとこ取りだ。「利益相反、ここに極まれり」の感がある。
マスコミでは、「AIIBに出資するかどうか」ばかりが騒がれているが、そもそも、こうした国際機関の融資は、出資金で賄われるわけではない。その融資のほとんどは、一定以上の高い格付けを持った当該国際機関自身が債券を発行して調達されている。
たとえば、ADBは最上級のAAA格を保有しており、低利調達が可能であるからこそ、融資先にも低利の資金を提供できるのだ。なぜADBが高格付けを得ているかと言えば、その運営に透明性があり、長年の実績(トラックレコード)もあることで、健全な銀行経営ができる機関だと世界の投資家から広く認知されているからだ。
中国は、域外諸国の出資比率を25%以内にする方針と伝えられており、東京大学特任教授の河合正弘氏は、その場合の中国の出資比率は33.8%、インドは6.5%になると試算している(5月1日付日本経済新聞「経済教室」)。先述の通り、この2国はADBからの最大借り入れ国である。また、全体の75%がアジア諸国からの出資であり、運営にもその比率が反映されるとなると、結局のところ、AIIBとは「アジア諸国、特に中国とインドが、自らのインフラ整備のために、自ら資金調達を行う」という根源的な利益相反構造を持つ機関だということになる。
この利益相反構造が存在する限り、AIIBが高格付けを得ることは難しいと言わざるを得ない。中国がAIIBに日本を誘い込みたがっているのは、端的に言えば、この利益相反構造を薄め、少しでも高格付けを得て低利の資金調達を実現したいからに他ならない。日本が中国の利益相反取引の手助けをする必要など、全くない。
■中国に何かあったときに日本はAIIBに責任を持てるか
国際機関は継続的に増資を行っていくのが普通であり、これまでの国際機関では、その都度の経済力等に応じて多くの先進国が負担を分担してきた。仮にAIIBに日本が参加したとすると、参加時点では日本の出資比率は12%、中国は27.8%になると推定されている(5月1日付日本経済新聞「経済教室」)。つまり、既存の国際機関に比べると中国の出資比率が突出している。
しかし、今後永続的に中国はその負担を続けられるのだろうか。仮に何らかの事情で、そうできなくなった場合、「域外国25%」の枠で参加している欧州諸国と違って、「域内国」である日本は、中国の尻拭いをしなければならなくなるが、日本はそこまでAIIB、ひいては中国の将来を信頼できるのだろうか。逆に言えば、欧州諸国は「域外国」として、わずかな出資で済み、将来何かあったときの責任も軽くて済むからこそ安易に参加表明できるのであって、「域内国」日本は、欧米諸国とは違って、慎重な上にも慎重に、参加の是非を検討すべきなのだ。
それどころか、日本はAIIBが、将来、ADBの運営にとっての障害となる事態も想定して備えておかなければならない。なぜならば、これまでIMFやADBが厳格に審査し、管理してきたインフラ需要国の借り入れ上限額を意識せずにAIIBが野放図な融資を行うと、ADBが行っている既存融資の返済能力にも問題が出てくるからだ。
■「バスに乗り遅れ」論は間違いだ 日本企業の実利は極めて疑わしい
日本が、このような問題点を抱えるAIIBに現時点で参加するのは危険極まりないことは既に言うまでもない。しかし、経済界や政治家の一部からは、「バスに乗り遅れるな」という批判が続出しているようだ。
確かにADBの推計では、アジア域内では、2010年から2020年の間に約8兆ドルものインフラ整備需要があるとされている。このインフラ需要を日本企業がビジネスチャンスにすべきなのは言うまでもない。しかし、AIIBに参加することで、日本企業にどれだけの実利がもたらされるかについては、極めて疑わしい。
そもそも、8兆ドルのインフラ整備需要が本当にあるとして、そのうちどれだけが国際機関からの融資を受けるだろうか。本来、インフラの整備というものは、それが必要な国が予算措置をして実施し、税金や通行料などで資金回収すべき性格のものだ。そのベースがしっかりしたプロジェクトの場合は、民間金融機関が融資をすれば足りるのだ。また、審査がしっかりした国際機関であれば、当該国とのリスク分担を明確に求め、それができない場合は融資をしない。
したがって、アジアの膨大なインフラ整備需要に対し、現在見込まれているADBなどの国際金融機関からの融資はわずか2000億ドル程度しかないと言われている。となると、新たに設立されるAIIBがそれにどれだけ上乗せできるかと言えば、仮に巷間言われているように、審査を甘くしたとしても、極めて心許ないとしか言いようがない。
また、ADBの調達においてさえ、日本企業の落札率は1%程度しかないことからしても、AIIBに参加することで日本企業が目に見える実利を得ることは難しい。ましてや、AIIBは、もともと、中国経済が減速して行き場がなくなった中国の建設関連企業に仕事を与えるために構想されたとも言われており、日本企業が優遇されることなどあり得ない。「AIIBに参加しなければ8兆ドルのインフラ整備需要を取り逃がす」というような幻想は捨てたほうがよい。
一方で、日本には、中国企業等にはない「オンリーワン」の技術を保有する企業が多数存在するのだから、ADBやAIIBが関与しない膨大なインフラ整備需要を取り込んでいけばよいのだ。そして、ADBの運営をさらに透明化し、時にAIIBとの協調融資を行うなどの中でAIIBのレベルを上げていくことで、中国に協力していけば十分なのではないか。
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