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パート主婦「130万円の壁」がある限り、女性活躍推進も空疎な掛け声
http://diamond.jp/articles/-/70901
2015年5月7日 早川幸子 [フリーライター] ダイヤモンド・オンライン
デフレ脱却・経済再生の掛け声のもと、国が推し進める経済政策「アベノミクス」。成長戦略のひとつに掲げているのが潜在的な労働力の活用で、最大の働き手として期待されているのが女性たちだ。
現在、働く女性の6割が、第一子の妊娠・出産を機に仕事を辞めている。
こうした女性を労働市場に戻すために、国は待機児童の解消、多様な働き方の支援策を打ちたて、2020年までに25〜44歳の女性の就業率を73%に、女性管理職を30%に引き上げることをめざしている。
社会保障面では、育児休業給付の引き上げ、子育て期間中の社会保険料免除などが実施されたが、相変わらず根本的な見直しが進まないものもある。
それが、パート主婦への社会保険の適用拡大だ。
■労働時間や年収を調整し扶養の範囲に抑える女性たち
国民皆保険の日本では、誰もがなんらかの健康保険に加入することが義務付けられている。専業主婦をしていたり、パートで働いたりしている女性は、扶養家族として夫の健康保険から給付を受けるのが一般的だ。
大学卒業後、中小企業に就職し、結婚して出産を機に退職したA子さんを例に、一般的な女性の健康保険の加入歴を考えてみよう。
健康保険の加入先は、職業によって、おもに自営業は国民健康保険、会社員は勤務先の健康保険、公務員は共済組合などがある。
在学中は親の健康保険の扶養に入っていたA子さんだが、就職後は勤務先の健康保険に、自ら保険料を負担する「被保険者」として加入した。
会社員の健康保険は、全国健康保険協会(協会けんぽ)と組合管掌健康保険(組合健保)の2つがあるが、中小企業に勤めるA子さんは前者の協会けんぽ。会社員の健康保険には、病気やケガをしたときの療養の給付に加えて、自営業者の国民健康保険にはない傷病手当金や出産手当金があり、病気や出産で仕事を休んでもその間の収入が保障される。
入社5年目に、A子さんは同僚のB男さんと社内結婚。最初は共働きをしていたが、はじめての子どもの出産を機に仕事を辞め、夫の扶養に入ることに。当初は子育てに専念していたが、子どもが幼稚園に入った頃からパートで働いて、家計を助けるようになった。
会社員の健康保険、公務員の共済組合には、加入者の配偶者や子ども、親など3親等以内の親族なら、保険料の負担をしないで、その保険を利用できる「被扶養者」という制度がある。
親族なら誰でも被扶養者になれるわけではないが、同居している場合は、年収は130万円未満で、加入者の年収の半分未満なら扶養家族と認められる。いわゆる社会保険の130万円の壁と呼ばれるものだ。
そのため、A子さんは扶養の範囲を超えないように、パート収入が120万円程度になるように働き方を調整し、保険料の負担なしで夫が加入する健康保険から給付を受けている。
だが、夫が自営業者だった場合は、そうはいかない。国民健康保険には被扶養者という制度はなく、利用する人すべてに保険料がかかってくるからだ。
■あってよかった制度が離婚すると高いハードルに
国民健康保険は、世帯の収入に応じた「所得割」をベースに、家族の人数によって負担する「均等割」などを組み合わせて保険料が決まる。
所得割は、世帯全員の収入を合算したものに、一定の保険料率をかけて計算する。妻にも収入があれば、当然、保険料計算に反映される。
均等割は、ひとりにつき年間3万円などと決まっており、たとえ収入のない専業主婦でも、子どもでも、保険料負担の対象になる。国民健康保険は世帯主にまとめて請求されるので、手続き上は夫が払うが、実質的には妻や子どもにも保険料がかかっている。
つまり、保険料の負担なしで健康保険を利用できるのは、会社員や公務員の妻の特権とも言えるのだ。
だが、その特権も会社員・公務員の妻でなくなった瞬間に剥奪される。
もしもA子さんが、B男さんと離婚すると、被扶養者ではなくなるため、夫の勤務先の健康保険は利用できなくなる。
離婚後は自分で保険料を負担して、なんらかの健康保険に加入することになるが、パートタイマーなどの短時間労働者は、1日または1週間の労働時間と1ヵ月の労働日数が、正社員のおおむね4分の3以上にならないと会社の健康保険には加入できない。
パートで働く人の多くはこの要件を満たしていないため、A子さんのようなケースでは、離婚すると国民健康保険に加入するのが一般的だ。
前述したように、国民健康保険は加入者全員に保険料がかかる。離婚後に子どもと2人で暮らしていくことになった場合、年収が専業主婦時代と同じ120万円でも、その中から自分と子どもの保険料を負担しなければいけないのだ(ただし、所得に応じた減免制度はある)。
同じ年収120万円のパート労働者でも、夫しだいで、女性の健康保険の負担はこんなにも変わる。年収120万円で、自力で子どもを育てているシングルマザーと夫に養われている妻を比べたら、どちららが経済的に大変かは説明するまでもない。
しかも、国民健康保険の加入者は、病気や出産で仕事を休んでも、会社員のように傷病手当金や出産手当金をもらうことはできない。企業の利益のために貢献しているのに、会社の健康保険には入れてもらえず、自分の収入で生活する家族がいても、万一の生活保障すらない。
夫に養われている間は「あってよかった制度」も、ひとたび立場が変われば、「会社の健保に入りたくても入れないハードル」へと変貌する。
だが、こうした制度の矛盾をついて、女性たちをあちら側とこちら側に分断し、対立を煽っても意味がない。健康保険の被扶養者制度は、つまるところ企業の都合が優先されているからだ。
■働かないほうが有利な制度が女性の自立を妨げる
超高齢化が進む日本では、保険料を負担する社会保障の支え手の増加は待ったなしの課題。貧富の格差に歯止めをかけるためにも、国は被扶養者の範囲を縮小して、社会保険の適用拡大をめざしてきた。
しかし、社会保険料の事業主負担をせずに、安く使える労働力としてパート主婦を雇用してきた企業にとって、被扶養者の範囲縮小は都合が悪い。
健康保険をはじめとする社会保険料は労使折半で、原則的に労働者と事業主が半分ずつ負担するため、社会保険の適用が拡大されると企業の負担は増えてしまう。そのため、パート労働者を多く抱える外食産業や流通産業などを中心に、企業側は猛烈に反発してきた。
すったもんだの末に、2016年10月からパート労働者への社会保険の適用は拡大されることになったが、当初案よりも大幅に後退した内容でとりあえず決着した。
当面は、従業員501人以上の企業で働く労働者で、労働時間は週20時間以上、年収106万円以上、勤務期間1年以上見込みの人にのみに適用が拡大されることになり、根本的な矛盾を是正するには至らなかった。
保険料を負担せずに、健康保険が使えて、将来の年金がもらえれば、それにこしたことはない。だが、働かないほうが有利になる社会保険の仕組みを作ったことで、女性たちは年収基準を超えないように、労働時間や収入を抑制するようになった。制度が、女性の自由な働き方を阻害してきたことは否めない。
アベノミクスでは、経済成長の鍵を握る重要なテーマのひとつに「女性が輝く日本!」を掲げている。仕事と子育てを両立させるための保育所の整備、正就職支援も大切だが、働かないほうが有利な社会保障制度を続ける限り、被扶養者の壁を超えて働く女性を増やすのは難しいのではないだろうか。
パート主婦など短時間労働者の社会保険の適用拡大については、来年10月の施行から3年以内に検討し、必要な措置を講じることになっている。
本気で、女性に日本を担う人材になってほしいと期待するなら、早急に誰もが年収や能力に応じて保険料を負担する平等な社会保険への見直しが必要だ。
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