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企業ランキングで見る日米の成長性の大きな差
http://diamond.jp/articles/-/70902
2015年5月7日 野口悠紀雄 [早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問] ダイヤモンド・オンライン
アメリカ経済を牽引しているのは新しい産業であると前回述べた。今回は、個別企業の観点から、この状況を見よう。
■IT関連先端企業がアメリカをリードする
図表1に示すのは、アメリカの時価総額トップ4社である。
原油価格低下によりエクソンモービルの時価総額が減少し、アップルが時価総額で全米1位(世界1位)の企業となった。
グーグル、マイクロソフト、エクソンモービルの時価総額がほぼ同程度で、アップルがその2倍程度になっている。
このように、アメリカ経済の時価総額リストでは、IT関係の企業がトップを占めることになった。これは、現代のアメリカ経済を象徴している。
売上高に対する税引き前利益の比率は、エクソンモービルでは13.1%であるのに、アップル、グーグル、マイクロソフトでは、その2倍以上になっている。このような高収益性が実現されているのは、これらの企業が先端的な技術や新しい製品を開発したからだ。
時価総額の利益に対する比率を見ると、エクソンモービルが7.2であるのに対して、アップル、グーグル、マイクロソフトでは、その2倍以上だ。とくにグーグルの値が高い。
この値は、将来利益がどれだけ成長するかを示している。値が高いのは、将来の利益が現在の利益に比べて増大すると予想されていることを意味する。したがって、エクソンは将来の利益が現在の利益より大きく伸びるとは考えられていないのに対して、グーグルの成長可能性は極めて高く評価されていることになる。アメリカの成長産業がエクソンのような伝統的企業ではなく、新しい技術や商品を開発した企業であることが、これから分かる。
アップルの売上高がエクソンモービルのほぼ半分しかないのに時価総額が2倍になるのは、売上高に対する利益の比率が高く、しかも利益が将来増加すると予想されているからである。
なお、アップル、グーグル、マイクロソフトのような企業の利益は、為替レートによってあまり影響されない。「ドル高でアメリカ経済が苦しくなる」という意見があるが、それはいまから30年前のプラザ合意のときのことだ。そのときには、アメリカの産業の中心は自動車産業であり、ドル高による日本車の輸入増加で苦しめられた。
いまのアメリカの産業構造は、このときとはまったく違うものになった。少なくとも、自国通貨の増価によって存立の危機に追い込まれるというようなことはない。アップルの場合には、後述のように海外で生産したものを輸入しているので、むしろドルが高くなるほうが有利である。
日本企業の特徴として、利益が為替レートに大きく左右されることがあげられる。円安になれば利益が増加するが、円高になれば企業の存立をも脅かされる事態に陥る。為替レートは、さまざまな要因で不安定に変化する。世界経済情勢の予測できない変化によっても変わる。こうした要因に利益が振り回されるのは、脆弱な構造だ。
また、シェールオイル革命によるエネルギーコストの低下が製造業のアメリカ回帰を促進しているという意見もある。しかし、上で見たIT関連の先端企業は、エネルギーコストにもあまり影響を受けない。
■価値のある先端的な企業のリストに日本企業は入ってこない
ところで、企業のサイズが大きくなればさまざまな指標が大きくなるのは、当然のことだ。そこで、この点を調整するために、売上高、利益、時価総額などを従業員1人当たりに直して見ることにしよう。
図表2は、英紙「フィナンシャル・タイムズ」による「グローバル500」(2014年版)のデータを用いて計算したものだ。
まず、従業員1人当たりの時価総額に着目しよう。
図表2には、1人当たり時価総額が400万ドルを超える企業をリストアップした。
この表に登場する企業の大部分は、石油関係企業(エクソンモービル、コノコフィリップス)を除くと、高度の科学技術をベースとした企業である。それらは、つぎの2つのグループに分けられる。
(1)IT関連の先端企業(アップル、マイクロソフト、グーグル、クアルコム、テンセント・ホールディングス、フェイスブック)
(2)IT以外の先端科学技術企業(ギリアドサイエンス、ブリストルマイヤーズ、アブビー)
これらの企業に共通するのは、従業員数が少ないことである。すべて10万人以下だ。
そして、エクソンモービル、コノコフィリップス、フェイスブックを除くと、売上高に対する純利益の比率が20%台というきわめて高い水準になっている。
純利益に対する時価総額の比率も高い。フェイスブックの値は、異常なほど高い。すでに述べたように、利益に対して時価総額が大きいのは、将来の成長が期待されていることの結果である(なお、図表2では、エクソンモービルの値もかなり高い)。
ところで、図表2に示すグループには、日本企業は入っていない。日本には、ここで述べた意味での価値ある先端企業は存在しないのである。これこそが、日本の産業構造の基本的な問題だ。将来の成長を求めるのであれば、このグループに属するような企業が日本でも誕生しなければならない。
■低い利益で生産を行う中国に多い巨大企業
フィナンシャル・タイムズの「グローバル500」は、時価総額の大きな順に500の世界企業をリストアップしたものだ。この中には、1人当たり時価総額が大きい企業と、規模が大きいために時価総額が大きくなっている企業とがある。先に見たのは、前者である。
図表3には、後者のタイプの企業を示す。これは、フィナンシャル・タイムズのリストのうち、従業員数が30万人を超える企業をピックアップしたものである。
ここに登場する企業を見ると、つぎのような特徴がある。
第1に、中国の国有企業が多い。
第2に、それ以外では、古くからある伝統的な企業が多い。
ホンハイのように信じられないほどの大きさの製造業もある。これはEMSと呼ばれる企業だ(ホンハイの子会社であるフォックコンが、中国でアップル製品の組み立てを行なっている)。
注目すべきは、従業員1人当たり時価総額で見ると、図表3にあげた企業は、バークシャーハサウェイを除けば、100万ドル未満でしかないことだ。多くは、20万ドルから30万ドルである。これはアップルの10分の1未満である。
従業員1人当たり利益も低い。とくにテスコ以下の企業はそうであり、数千ドル未満だ。
ホンハイ(フォックスコン)は、低い利益で生産を行ない、アップルが高い利益率を実現するのを支えていることが分かる。
なお、日本企業では、トヨタ、日立がこのグループに入る。トヨタは、1人当たり利益でも時価総額でも、アップルの10分の1程度の水準である。日立の1人当たり利益は、アップルより2桁少ない。
日本のエクセレントカンパニーとは、新しい技術や製品を導入したのでなく、従来の技術に改善を加え、効率性を増し、そして大規模化した企業であることが分かる。あるいは、大規模化したが、時代の変化に対応してスリム化できない企業だと言ってもよい。
なお、企業ランキングには、ここで参照しているフィナンシャル・タイムズの「グローバル500」の他にいくつかのものがある。とくに、雑誌『フォーブス』や『フォーチュン』のランキングが有名だ。これらのランキングに出てくるのは、「巨大な企業」である。
■伝統的企業対先進的企業 全く異質のトヨタとアップル
同じ業種の中に、先にあげた2つのタイプの企業が併存する分野もある。
まず製造業について見よう(図表4)。
売上高で見ると、VWと並んでトヨタが最大だ。しかし、純利益や時価総額で見ると、アップルに逆転される。従業員1人当たりで見ると、利益でアップルはトヨタの15倍、時価総額で10倍だ。
つまり、同じく製造業と言っても、アップルとトヨタは異質の企業であることが分かる。
アップルが先端的な製造業であり、トヨタは伝統的な製造業なのだ。GE、VW、BMWもトヨタと同じく伝統的な製造業だ。そして、シスコシステムズは、その中間的な存在である。
小売業でも、似たような事態が観察される。図表5は、それを示す。
この表にある企業は、はっきりと2つのグループに分かれる。
第1は、ウォルマート、ホームデポ、ターゲットという伝統的企業だ。これらの企業の1人当たり時価総額は10万〜30万ドルだ。従業員員数は30万人を超える。ウォルマートにいたっては、従業員数が220万人だ。
第2のグループはアマゾンとイーベイだ。これらは、インターネット上の店舗だ。従業員はアマゾンでも11万人、イーベイは3万人台だ。1人当たり時価総額は第1グループのほぼ10倍になる。
■未来を開くのは量の拡大か、質の向上か?
すでに見たように、量的な巨大さでは、中国企業の台頭が目立つ。とくに国有企業がそうだ。こうした企業と量の面で競い合っても意味がない。先進国企業は、むしろ、こうした企業との適切な協働関係を構築すべきだ。
製造業の巨大企業ホンハイ(フォックスコン)に典型的に見られるように、これら巨大企業は、先進国の高収益企業を支えるのである。先進国の企業は、そうしたビジネスモデルに組み替えるべきだ。
これは、量の面で中国企業が現れた後の世界での、先進国企業にとって本質的な課題である。量の拡大を追求しても、未来は開けない。
それにもかかわらず、日本はいまだに合併して企業規模を大きくする方向を目指している。確かに、規模が大きくなれば、生き残りの確率は高くなるかもしれない。しかし、それによって未来が積極的に開かれるわけではない。日本は量的拡大でなく、質的向上と企業価値の向上を目指すべきだ。
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