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「モルヒネ注射」で痛みを忘れる中国経済
深刻な景気減速、テコ入れを図るもその場しのぎの延命措置
2015.5.5(火) 姫田 小夏
景気減速に危機感を持つ中国が、市場のテコ入れに乗り出している。最近では、預金準備率の引き下げや住宅ローンの規制緩和などの政策を打ち出した。だが、一部の国民からは「瀕死の患者(中国経済)にモルヒネを打っているに過ぎない」と冷めた声が上がっている。
今年3月初旬の「全国人民代表大会」(全人代)における政府活動報告では、2014年の経済成長率が7.4%だったことが明らかになった。24年ぶりの低い水準である。背景にあるのは、住宅市場の低迷、工業部門の生産過剰などだ。
2015年の国内総生産(GDP)の成長率については「7%前後」と発表した。中国は「ニューノーマル」という言葉を掲げ、経済を安定させる調整期に入ろうとしているが、見通しは明るくない。7%を大きく下回れば雇用不安が生じる可能性がある。
閉鎖が相次ぐ外資系企業の工場
ここ上海も物騒になってきた。地元住民によれば「盗みが増えた」というのだ。
もともと外地からの流入人口が多い上海では、窃盗行為は決して珍しい犯罪ではなかった。しかし、「最近はこれまで以上に身の危険を感じるようになった」(上海市在住の主婦)という。
市内の病院に勤務する医療事務の女性も被害者の1人だ。「寝ている間に、リビングルームに置いていたスマートフォンが盗まれた」と言う。別室にいた女性に危害はなく、「命を狙われなかっただけ不幸中の幸いだった」(同)。
仕事を失った外省出身者が食いつなぐために犯罪に手を染める。そんな兆しが表れているのかもしれない。
上海を中心とする長江デルタには多くの外資企業が進出した。駐在員に帯同してくる家族も増え、地元の雇用増に貢献した。高級飲食店のホール係、マッサージ師、ベビーシッター、お抱え運転手、中国語教室の講師や通訳などの活躍の場を生み、雇用された従業員は安定した生活を築くことができた。
しかし今、中国への進出を目指す外資企業は減少傾向にある。対中直接投資額のトップ5(香港を除く)はシンガポール、台湾、日本、韓国、米国だが、2014年、韓国を除いた4つの国・地域からの直接投資は前年を大きく割り込んだ。
中国経済の牽引役と言われた長江デルタでも、賃金高騰を理由に外資製造業の撤退が進んでいる。日系工場が集中する蘇州でも工場の閉鎖は少なくない。撤退に拍車がかかっているのか、「日本人街と言われる蘇州商業街では日本人をあまり見かけなくなった」と、現地の日本人経営者は話す。
日系工場は反日デモの標的にされながらも、地元社会からそれなりに歓迎されてきた。「法律に則った経営」をする日系工場は、労働者たちにとって「安定した職場」だったのである。日系工場の閉鎖は地元の労働者たちにとって大きな打撃となっている。
上海株が再燃しているが・・・
最近は、ある程度の教育を受けた「知識人」ならば誰もが「中国経済は楽観できない」と警戒するようになっている。習近平政権による汚職官僚の逮捕劇は国民の溜飲を下げたものの、それで満足してはいない。
筆者は、年金生活を送っているある上海人男性を訪問した。“知識人”であるこの男性は将来を悲観してこう語る。「汚職官僚を捕まえなければ国は終わるが、捕まえても国は終わる。汚職だけ叩いていても限界がある。中国の政治の機能不全は、突き詰めれば突き詰めるほど根深い問題で、もはや手が付けようがない」
その男性は、人民解放軍のナンバー2で今年3月に膀胱癌で死去した前中央軍事委員会副主席、徐才厚氏の話を始めた。徐氏は「重大な規律違反」として党籍が剥奪されていたが、なによりも国民が注目したのは徐氏の桁外れの不正な蓄財だった。2000平米の豪邸の地下の一室には人民元や外貨が詰め込まれていたという。男性は、「毛沢東時代には農民と軍人は金を持たなかったはずなのに、今ではこのざまだ」と苦々しげに話す。
経済成長の過程で生じた富の再分配のアンバランスは、結局、野放しのままだ。相続税導入の議論もあったが、「もともと土地は国有」という前提の前にいつの間にか立ち消えになった。
株式市場でも、痛い目を見るのはいつも一般市民である。
3月末、上海株式市場の総合指数が7年ぶりに高値を付けた。4月20日には、習近平国家主席がパキスタンを訪れ、「一帯一路」構想のモデル事業を打ち出した。港湾、エネルギー、インフラ、産業協力が核心事業に据えられ、新聞の株式市況欄では、中国石油、河北鋼鉄、中国北車、上海電気など15社を超える銘柄が紹介された。
一般投資家はこれに反応しているが、行き着く先は目に見えている。「乗り遅れるな」というあおり文句に乗せられて、虎の子を巻き上げられるいつものパターンである。再燃する株式市場だが、売り抜けられるのは一部の投資家だけだ。
「今が買い」と市場をあおる不動産業者
中国政府は相変わらず「景気はこれからよくなる」と国民に期待を抱かせようとしている。それは、まるで医師が瀕死の患者に「あなたは大丈夫。まだまだ未来があるのだから頑張って」と声をかけているようなものだ。そして、その場しのぎの延命措置を取る。
2014年は杭州の不動産下落を発端に、中国の70の大中型都市の新築住宅価格の上昇率が鈍化した。政府は景気減速への危機感から住宅ローン規制を緩和させ、頭金の比率を従来の6割から4割に下げる手を打った。
住宅購入のハードルが下がったことで息を吹き返したのが、上海市内の不動産業界だ。人通りの多い交差点に黒いスーツを着た若いセールスマンが立ち、中古物件を紹介するチラシを配っている。
そして、「これは」と思う客に声をかける。「政府は不動産の新政策を打ち出しました。今が買いです。これから上海の不動産はもっと値上がりします」。
そのチラシには、浦東の「公房」と呼ばれる中古物件の紹介もあった。「公房」とは日本の公営住宅に相当する開発物件である。見かけは同じ団地でも、メンテナンスを施さないので老朽化のスピードは日本よりも速い。そんな住宅につけられている値段は1平米当たり4万元という高値。日本円にしたら100平米で7600万円だ。
2014年の中国の経済成長率が芳しくなかったのは、住宅販売の不振に原因がある。冷え込んだ景気を下支えするには、住宅市場を活性化させるのが早道だ。とはいえ、古びたアパートに4万元とは「暴利」としか言いようがない。上海の不動産価格は富裕層のマネーゲームでさんざん吊り上げられ、本当に家を必要とする新婚夫婦や実需層には、こんなはた迷惑な高額物件しか残されていないのだ。
一連の政策はその場しのぎの対処療法
中国経済の歯車は完全に逆回転を始めてしまったようだ。“知識人”である前出の男性はこう語る。
「中国経済はすでに末期的で、手が付けられない状況だ。それでも、政府は『中国は世界第2位の経済体』『他の国の経済はもっとひどい』などと言って国民の目をあざむこうとする。今回の一連の政策も“モルヒネ投与”に過ぎない」
中央政府の新シルクロード構想にしても、中国経済救済の期待がかかるが、生産過剰や産業構造の転換といった大本の問題解決にはなっていない。それどころか「バブル再燃」につながりかねない危険性を秘めている。
中国が打ち出す景気回復策はどれも一過性の対処療法にすぎない。そのしわ寄せはまたしても一般市民に向かう。庶民が政治家の犠牲者になるという中国の歴史は再び繰り返されている。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/43673
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