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連立政権が後に残す英国経済
目前に迫った総選挙、5年間の成績表は?
2015.5.4(月) Financial Times
(2015年4月29日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
20年後のロンドンの街並みを検証する展覧会、4月開催
英国の総選挙が5月7日に迫っている(写真はロンドン)〔AFPBB News〕
英国の連立政権は一体どんな状態の経済を後に残すのか。言うまでもなく、連立政権のメンバーは、自分たちは前政権から引き継いだ危機に見舞われた経済を救う仕事を立派にやったという考えに立って選挙を戦っている。現時点では、この訴えはそれほど奏功していないように見える。実際、通用すべきなのか。以下が成績表だ。
まず、全般的な経済動向を示す最も単純な尺度から始めよう。
英国経済の2014年第4四半期の1人当たり実質国内総生産(GDP)は、連立政権が発足した2010年第2四半期と比べて4.8%増加しており、2009年第3四半期の「グレートリセッション(大不況)」の底を6.2%上回っていた。
だが、2007年第1四半期の水準とほぼ変わらず、危機以前のピークを下回っていた。2014年第4四半期の1人当たり実質GDPは、1955〜2007年のトレンドが継続していた場合に達していた水準をほぼ16%下回っていた。景気回復でさえ、このギャップを埋めることはなかった。これで概ね、生活水準に対する失望感の説明がつく。
さらに、この巨大な不足分は危機以前の好況で説明することはできない。それどころか、英国経済は2007年に、長期トレンドに近い状態にあった。好況は1970年代初期、1970年代終盤、1980年代終盤の方がはるかに盛大だった。インフレの統計もほぼ同じ話を物語っている。
堅調な雇用動向と悲惨な生産性
英国経済は2007年に甚だしく持続不能な状態にあったという議論は、概ね、事後の正当化だ。住宅価格でさえ、持続不能なほど高かったわけではない。ほぼすべての人が見落としていたのは、世界危機に対する英国金融業界の脆さだった。
雇用動向は目覚ましいものだった。2015年2月には16〜65歳の人口の73%が就業しており、危機以前のピークを若干上回っていた。全体の失業率は5.6%だ。欧州連合(EU)統計局ユーロスタットによると、15〜74歳の英国労働者の27%が昨年、パートタイム雇用だった。そのどれほどが不完全雇用で、どれほどが自発的なパートタイム雇用を反映しているのかは、分からない。
だが、堅調な雇用動向は、労働者1人当たりの生産高と時間当たりの生産高の伸びの崩壊と表裏一体だ。2014年11月の英国経済の時間当たり生産高は、2008年2月より1.7%少なかった。
これほど長期的な停滞は、少なくとも19世紀以降は前例がないように見える。
本紙(英フィナンシャル・タイムズ)は最近、その原因の大半が専門サービス業にあることを明らかにした。
短期的には、停滞する生産性のおかげで、経済は全体の生産高の鈍い伸びと、それなりの雇用動向を組み合わせることができた。だが、長期的には生産性によって生活水準が決まる。前者が低迷すれば、後者も低迷するのだ。つまり、必要なのは、速い生産性の伸びと速い雇用の伸びだ。ここに必要な材料は、活発な需要だ。
では、次に経済の構造を見てみよう。昨年第4四半期に、製造業は危機以前のピークより4.9%縮小しており、サービス業は8.1%拡大していた。経常収支の赤字は昨年第4四半期にGDP比5.5%に拡大していた。赤字が拡大したのは、純額の投資収益がマイナス方向へ大きく振れたためだ。
だが、JPモルガンの指標で見た、2009年初頭から2015年3月にかけての実質為替レートの21%の上昇を考えると、財・サービスの貿易収支がさらに悪化する可能性もある。
口ほどにはひどくなかった財政引き締め
次に財政に目を向けよう。当初、政府はあたかも大きな課題は財政赤字であって、始まったばかりの景気回復を育む必要性ではないかのように話していた。ジョージ・オズボーン財務相は自身に、今年度までに構造的財政赤字をゼロにする目標を課した。
実際はどうだったか。英予算責任局によると、構造的赤字は今年度にGDP比2.1%となり、連立政権の発足1年目にあたる2010/11年度のGDP比3.9%から減少する見込みだ。 同様に、景気循環調整後の純借り入れは今年、GDP比3.7%になると予想されており、2010/11年度の6.5%から減少する。連立政権の財政引き締めは、口で言うほどひどくなかったわけだ。
労働党が約束していたものより早急な財政引き締めについて連立政権が訴えた主張は、英国がギリシャなどを襲っているような危機に見舞われるのを食い止める必要がある、というものだった。我々は今、英国のような立場にある国にとっては、これが大きく誇張されていたことを知っている。
財政目標を達成できなかったにもかかわらず、英国の公的債務の金利は驚くほどの低水準にとどまった。30年物と50年物の英国債の利回りは2.4%。一方、期限が同じ物価連動債の利回りはマイナス1%に近い。
一体なぜ必死になって無償貸付を避けるべきなのか。
むしろ必要なのは、成長を促す借り入れだろう。
要約すると、英国経済は、弱いとはいえ雇用を生み出す景気回復を謳歌してきたということだ。生産性の伸びは悲惨だった。国際通貨基金(IMF)によると、購買力平価ベースで見た英国の1人当たりGDPは2014年に米国の水準の72%で、ドイツの84%、フランスの74%さえをも下回っていた。
英国は2030年までに世界で最も豊かな経済大国になるかもしれないというオズボーン氏の主張は幻想だ。リスクはむしろ、英国がさらに後れを取ることだ。
そのうえ、経済の不均衡は将来の成長をより困難で、持続性の低いものにする。もし財政赤字が解消される一方で経常赤字が大きいままであれば、経済主体の資金過不足で、民間部門が大幅な資金不足にならないといけない。これは恐ろしい可能性だ。
各党の政綱を評価すると・・・
だが、それ以上に大きなポイントは、供給サイドの制約が今では需要のそれを上回っていることだ。公的部門のバランスシートを利用する意思がもっとあれば、この結果を避けられたかどうかは永遠に知りようがない。だが、次の議会での根本的な経済的必要性は、よりバランスが取れていて、よりダイナミックな経済を生み出せる政策とプログラムを見つけることだ。
これらが、各政党の政綱を評価する際に基準にしなければならない課題だ。そして、そのように評価すれば、各党の政綱が不十分なことが分かるはずだ。
By Martin Wolf
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/43695
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